リゼロ短編集   作:コーンスナック菓子

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スバルが異世界に召喚される前、コンビニに出かける直前の話です。
本来はもっと普通にコンビニに行ったと思いますが、書きたかったので。


『スーファミと後悔』

「ようやくクリアできたか」

 

 テレビ画面に流れていくスタッフロールを眺めながら、俺は呟いた。

 この一週間やり続けたゲーム。ラスボスがなかなか倒せず、掲示板にのっていた攻略法を頼りにやっとエンディングを迎えた。

 

 椅子の背もたれに寄りかかって背筋を伸ばすと体からバキバキと音が鳴る。

 今日はろくに何もせず、一日中ゲームをしていたためすっかり筋肉が固まっていたようだ。

 

「はぁ……風呂に入って体ほぐすか」

 

 ゲームがタイトル画面に戻ったのを見届け、一段落した俺は風呂に入るため部屋を出た。

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 階段を降り一階の廊下を歩いていると、リビングからテレビの音と話し声が聞こえたてきた。

 夕飯の後片付けが終わったのだろう。賢一と菜穂子がソファーで一緒に座っているのが戸のすりガラス越しにぼんやりと見えた。

 いつも仲の良い夫婦だとつくづく思う。

 それを横目に、俺は風呂に向かうために戸の横を通り過ぎようとした。

 

「……ばる、……かな?」

 

 しかし、その声に俺の足が止まる。

 話の内容はほとんど聞き取れなかったが、両親が自分のことを話していると直感でわかった。

 

 心臓の脈が速くなっていく。

 俺は前に進もうとしていた体を後ろに戻し、気付かれないように二人から見えない場所に立って耳をそばだてた。

 

 扉越しに聞こえてくる声は聞き取りづらく、自分の呼吸音がうるさい。

 両親が何を話しているのか。俺のことをどう思っているのか。

 後ろめたい気持ちが溢れ、不安と疑問がぐるぐると渦巻いて立っているのも辛くなる。

 

「あれは……の問題さ。学校なんざ行かなくても……だろ」

「そうだね。私に、なにかできればよか……けど」

 

 両親は俺のことを心配してくれている。なのに、俺は迷惑をかけてばかりだ。

 

 自分でも何かしなくてはいけないことは分かっている。だが、どうすればいいのか分からない。

 どんなに頑張っても父のようには上手くできなくて、学校に行くのも苦しい。問題に立ち向かうのが怖くて、楽な道に逃げてしまった。

 引きこもって努力しているポーズだけして、俺はどうするつもりなのか。何を望んでいるのか。それを考えることからも逃げてしまっている。

 

「まったくスバルには妬いちまうな。……にこんなに思われやがって」

「あら。私、貴方のことも思って……よ?」

「ほんと?」

「うん。明日の朝なに食べたい?」

「あれ? それって……なに食べたいか知りたくて思ってたってこと!?」

 

 両親の会話が次第に別の方向へと逸れていく。

 俺は話題の中心から解放されると緊張がとけ、溜まっていた息をゆっくりと吐き出した。

 

 聞かなければ良いのに他人の評価が気になり、諦めて開き直れば楽なのにみっともなくしがみついている。

 本当に、俺はどうしようもない馬鹿だ。

 

 乱れていた呼吸が落ち着く頃には、俺はすっかり疲れ果てていた。

 

 今日はもう風呂に入んなくていいや……。

 そう思い、俺は足音をひそめて両親に気づかれないうちに部屋に引き返そうとする。

 しかし、その望みは打ち砕かれ、背後で戸が開いた。

 

「あれ、昴?」

 

 リビングから出てきた母が俺の存在に気が付いてしまった。

 

 なんでこのタイミングで出てきたんだ。

 予想外の出来事に、俺はどうすれば良いのか分からず呆然と立ち尽くす。

 

「なんだ昴、いたのか。そんな寒いとこいないで、こっちにきて一緒に茶ぁ飲もうぜ!」

 

 リビングからひょっこり顔をのぞかせた父が、こっちに来いと手招きをした。

 俺が二人の会話を聞いていたことに気付いていてもおかしくないのに、普段と変わらない態度で両親は俺に接してくる。

 その様子に、気まずい空気になると勝手に思い込んでいた自意識過剰な自分が恥ずかしくて顔が熱くなった。

 

「…………コンビニ、行ってくる」

 

 様々な感情で心が荒れていて、きっと今喋れば嫌なことを言ってしまう。

 問題が自分にあるのだと分かっていても、このままでは関係ない苛立ちを二人にぶつけてしまいそうで怖くなった。

 俺は一刻も早くこの場から離れたくて、顔を隠しながら逃げるように玄関へ足早に向かう。

 

「気をつけて行けよ。なんならスナック菓子とエロ本買ってきてくれていいぜ」

 

「お父さん、夜にお菓子食べると太るのよ? そう言えばこの間見た猫すごい可愛かったな」

 

 突っ込みどころの多い会話。いつもは楽しい二人のやり取りにも、今は怒りが先に立ってしまう。

 そんな自分に苛立って、俺は玄関に放置していた携帯電話と財布をポケットに入れて、無言のまま扉を押し開けた。

 

 

 少し肌寒い風と満月一歩手前の月明かりに照らされた街。

 そんな静かな夜に、一抹の不安がよぎる。

 

 後ろ髪を引かれる思いに振り返れば、閉じていく扉の隙間から小さく手を振る母の姿が見えた。

 

「昴。気を付けて、いってらっしゃい」

 

 いつもと変わらない言葉。

 俺はそれに何も言わず、不安を振り払ってコンビニに向かって歩き出す。

 

 それが別れになると思わなかった。この問題はまた今度考えればいいと思っていた。

 

 『いってきます』

 

 そのたった六文字が言えなかったことを後悔することになるなんて、知らなかったんだ。

 

 

 

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