リゼロ短編集 作:コーンスナック菓子
いちおう『スーファミと後悔』の続きですが、読まなくても通じると思います。
アニメで学生が冬服だったことやスバルの格好から、スバルが行方不明になったのは十月頃だと勝手に設定しました。
スバルの両親にはまた出番があるようなので、その日が待ち遠しいです。
夜遅く、賢一は目を覚ました。
最近は睡眠薬を飲んでも途中で目が覚めてしまう。
もう一度眠りたい。
だが、一度目がさめたら眠ることはできないと、賢一は繰り返される経験から知っていた。
横を向けば、月明かりに照らされて菜穂子の顔が薄ぼんやりと見える。
菜穂子の瘦せこけた頬と、涙で赤くただれた目じり。
菜穂子はあの日から、毎日を泣くように過ごしている。
賢一が慰めても、安心させようとしても、菜穂子の涙は流れてしまう。
菜穂子はしだいに食欲がなくなって、大好きだったマヨネーズもあまり食べられなくなった。
弱っていく妻を、見ていることしかできていない。
そんな菜穂子の姿を見ているのが辛くなり、賢一は妻に気づかれないようにベットからそっと起き上がると、上着を着て外に出た。
十二月の夜風は凍るように冷たく、賢一の体温を容赦なく奪う。
夜も遅い時間だというのに、イルミネーションで彩られた街は賑やかで、ひとり歩く賢一をよけい孤独にさせた。
呼び込みをする店員。肩を組んで歩くカップル。酔っ払ったサラリーマン。友達とはしゃぐ学生。手をつないで歩く親子。
楽しげな人々を横目に、賢一は誰かを探して街をさまよい歩いた。
歩き疲れ、賢一は街の外れにある公園にやってきた。
錆びたすべり台と使用禁止の看板が掲げられたブランコ、それから古いベンチがある小さな公園。
ここは昔、スバルとよく遊んだ思い出の場所だった。
誰もいない静かな公園。その冷たいベンチに賢一は腰かけて、ポケットから携帯電話を取り出す。
待ち受け画面は、凶悪な顔で笑う幼いスバルの写真。
この写真を見るたび辛くなり、何度も待ち受け画面を変えようとしたが、結局そうすることはできていない。
賢一は携帯画面を眺め、何度も閉じたり開いたりを繰り返す。
開閉するたび、携帯の黒画面に一瞬うつる賢一の姿。
髪には白髪が混じり、顔はやつれ、目の下には濃いクマができている。
表情は暗く、押せば倒れてしまいそうな弱々しい姿だと思った。
いったい、なぜこうなったのか。
冷たい風に体の感覚が鈍った賢一は、自分が暑いのか寒いのかもわからず、ただ痛みを感じながらぼんやりと空を眺める。
澄んだ夜空に広がる満天の星。
星空を見上げながら賢一は無意識にとある星団を探し、見つけた。
ーープレアデス星団。和名『すばる』
『すばる』はこんなにも簡単に見つかるのに、本当に見つけたい『スバル』は見つからない。
賢一がスバルを最後に見たのはコンビニに向かった後ろ姿だった。
そのスバルの辛そうな後ろ姿を、賢一は「気を付けて行けよ」と見送った。
帰ってくると思っていた。問題は時間をかけてゆっくり解決できると思っていた。
だが、スバルは帰ってこなかった。
一緒に行けばよかったと、引きとめればよかったと、賢一は何度も何度も後悔した。
スバルのことを考えるたび、賢一の心臓は賢一を責めるかのように痛む。
それでも賢一はスバルのことを考え続ける。
スバルのためにも、泣いている菜穂子のためにも、諦めることなどできないのだから。
ーースバルが行方不明になって長い月日が経過した。
かつて笑い声が絶えなかった夫婦は、あの日以来、心から笑えていない。
彼らは見つからない星を今日も探す。
居場所も知らず、帰らないことも知らず、生きているとただ信じて。
これからも失われた星を、探し続けるだろう。