リゼロ短編集   作:コーンスナック菓子

8 / 9
※流血注意。

カサネルルートのスバルとエミリアの話です。
始めはスバル目線。後はエミリア目線。
5章以降、ガバガバ設定です。


『あなたがいない世界』

『手に届かんもんまで欲しがるやなんて、ナツキくんは強欲やなぁ』

 

『弱いくせに。勝手に背負って期待させてバッカみたい。……押しつぶされても知らにゃいからネ』

 

『言いたいことは言え、ね。それ、兄弟にだけは言われたくねぇよ』

 

『スバル殿、なぜ妻を私に任せてくださらなかったのですか……っ!』

 

『道化よ。貴様のその腐った欲望は、いずれこの国を腐敗させる毒となろう』

 

 

 

 

「ーーーー」

 

 窓の外が明るくなり、スバルは目を開けた。

 

 

 数ヶ月前に起こったプリステラの魔女教事件。

 それはエミリア陣営の働きにより無事解決した。

 

 誰もが狼狽える中、迅速に状況を判断し、的確な指示をとばしたスバル。

 その指示に従い、圧倒的な力で大罪司教から人々を守ったラインハルト。

 

 それにより強欲を倒し、憤怒を拘束した。

 

 誰一人犠牲を出さずこの前代未聞の大事件を解決した功績は、多くの人々から称賛られた。

 そして、その功績はエミリアの名声を高めた。

 

 

「ぁ、あー」

 

 

 幾度も繰り返し、掴み取ったルート。

 守りたいものを守るためスバルが導き出した最善の道。

 誰かが悲しむことになっても、スバルはこの生き方を変える気はない。

 誰かの命を取りこぼすくらいなら、この無意味な命を捨ててやり直す。

 

 レムのように誰かを失うのは、もう嫌だ。

 

 命があれば、可能性が生まれる。

 命さえあれば、未来はひらける。

 スバルが何度も死ぬことになっても、誰が悲しむことになっても、生きていればハッピーエンドを迎えることができる。

 

『ーーだって、スバルくんはレムの英雄なんです』

 

 逃げる道は、あの日に閉ざした。

 諦めることは決してない。

 

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 

「スバル、どこにいるの!?」

 

 崩壊する屋敷の中、エミリアはまるで迷子の子供のようにスバルを求めて叫んだ。

 

 なぜ屋敷が崩れているのか、なにがおきているのか、部屋に閉じこもっていたエミリアにはわからない。

 どうすればいいのかもわからない。

 なにもわからなくて、エミリアはスバルを探して走り回る。

 

 

 

「……スバル!」

 

 開けた扉の向こうに探し求めていた人物を見つけ、エミリアはスバルのもとへと駆け寄った。

 

「スバル、スバル? 大丈夫?」

 

 床に座っているスバルを何度か揺すると、スバルはエミリアの存在にようやく気付き、顔を上げた。

 

「エミリア? どうして、ここに……」

 

 エミリアは、スバルがこちらを見てくれたことに安堵した。

 

 しかし、どこか様子がおかしい。

 顔を上げたスバルは、ぼんやりとした表情をしている。

 

 エミリアは不思議に思いスバルをよく見ると、彼の手が血で赤く染まっていることに気が付いた。

 

「大変! スバル、怪我してるじゃない!」

 

 エミリアは急いでスバルの手をとって、治療する。

 幸いスバルの手は擦り傷程度だったため、すぐに治療は終わった。

 

「よかった、たいした怪我じゃなくて。他には怪我してない?」

 

 治療が終わり、エミリアがスバルの手についたら血を拭き取ろうと思った。

 だが、スバルはそれを避けるように手を引っ込める。

 

「スバル?」

 

「俺の血じゃないんだ。俺の血じゃ、ないんだよ……」

 

 スバルの声は暗く沈んでいる。

 それがどこか泣きそうに見えて、エミリアはスバルを優しく抱き寄せた。

 

「大丈夫よスバル。大丈夫」

 

 スバルが自分を落ち着かせてくれるときのことを思い出し、エミリアはスバルの背中を優しく叩く。

 

「大丈夫。私がいるわ」

 

「……」

 

 次第にスバルの体から力が抜け、エミリアに体を預けてくる。

 

 スバルのチクチクする髪を触っていると、スバルに膝枕をしてあげたときことを思い出した。

 唯一、エミリアがスバルに何かをしてあげられたと思っている記憶だ。

 

 子供のように泣きじゃくっていたスバル。

 あれからたくさんのことが変わった。

 だけどこうして寄りかかってくれるスバルに、今もスバルはスバルのままなのだと思って嬉しかった。

 

 

 ーー彼に寄りかかったままでいいの? 頼りっきりでいいの?

 

 ーー過去に、自分に向き合わなくていいの?

 

 

 突然、ざわざわと不安がこみ上げる。

 しかし無意識のうちにエミリアの心はかたく閉じて、その疑問が見えないように蓋をした。

 

 彼女の瞳には、スバルしか映らない。

 

 

 

 

 

 

「……ありがと、エミリアたん」

 

 スバルはしばらく寄り添ったあと、体を起こしてエミリアから離れた。

 

「もう平気なの?」

 

「ああ、次を頑張る力をもらったよ」

 

 この時間が終わってしまったことは少し名残惜しいが、スバルの顔にいつもの笑顔が戻ったのを見て安心した。

 

 だが同時に、大きな音がして屋敷が揺れた。

 忘れていたが、屋敷は今も壊れているのだろう。

 

「ここにいると危ないな。エミリアたんのお肌に傷なんてついたら大問題、それこそ世界の損失だよ」

 

「もう、スバルったら大袈裟なんだから……」

 

 スバルのズレた心配が可笑しくて嬉しくてエミリアはクスクスと笑う。

 

 しかし部屋を出ようとしたとき、違和感を感じてエミリアが振り返ると、隣にいると思っていたスバルが部屋の中で立ち止まっていることに気が付いた。

 

「スバル?」

 

 どうかしたのだろうか。

 エミリアが首をかしげると、スバルは申し訳なさそうに笑う。

 

「ごめんエミリア。先に行っててくれるか?」

 

 スバルのお願いなら、どんな願いでも聞きたい。

 だけど私を先に行かせて、スバルはどうするのだろうか。

 

「う、うん。いいけど……スバルは?」

 

「俺は、やらなくちゃいけないことがあるから」

 

 やりたいこと。それがなにかは分からない。

 でもなんだかスバルの側を離れたくない気がして、エミリアは頷くことにためらってしまう。

 

「頼むエミリア。すぐにいくから」

 

 スバルの二度目のお願い。

 エミリアには断ることなどできなかった。

 

「うん……分かった。先、行ってるね? 無茶しないでね?」

 

「ありがとうエミリアたん。エミリアたんも転ばないように前見て走るんだよ?」

 

「ん、気をつけます」

 

 エミリアは自分の感情を押し殺し、スバルを置いて外へと向かう。

 

 我儘を言ってスバルに嫌われたくなかった。

 だから、スバルに言われた通りにした。

 見えないふりを、してしまった。

 

 

 

 

 

 

 ーーーー。

 

 スバルといた部屋からだいぶ離れたとき、エミリアは“音”が聞こえた気がして立ち止まった。

 

 地面は揺れていて、あちこちから音はしている。

 だが、その音だけは、はっきりと耳に残った。

 

 柔らかくて重い、湿った何かが倒れた音。

 

 再熱する不安に、エミリアは来た道をゆっくりと引き返す。

 様々な不安が混ざり合って、エミリアは立ち止まったり戻ったり進んだりを繰り返しながら部屋の前にたどり着いた。

 

「…………スバル?」

 

 嫌われちゃうだろうか? 失望されるだろうか?

 そう思うと、とても怖い。

 

 それでも嫌な予感に動かされ、エミリアは恐る恐る部屋の中を覗く。

 

 一瞬、部屋の中には誰もいないように見えた。

 しかし、エミリアが目線を下に落とすと、床にうつ伏せでうずくまるように倒れているスバルを見つけた。

 

 エミリアは驚いて急いでスバルのもとに駆け寄り、スバルの体を揺すって呼びかける。

 だが、どんなに呼びかけても返事は返ってこない。

 

「スバル、眠ってるの……?」

 

 そこで、ふと自分の手が濡れていることに気がつく。

 ヌメリとした感触。

 不思議に思い、手のひらを見るとその液体は赤かった。

 

「……ぁ」

 

 大量の赤。

 それはエミリアが目を逸らしていたもの。

 

 気がついてしまった。

 

 ナイフがスバルの喉を貫いていることに。

 そこから赤い液体が溢れ、地面を赤く染めあげていることに。

 

「え? え……?」

 

 思考が追いつかない。

 傷口を塞ごうと、エミリアが慌ててナイフを引き抜けば、何かを切った感触がした。

 飛び出るように吹き出た液体が、エミリアの顔を汚していく。

 

「ひ……あぁ……!」

 

 受け入れたくない現実。

 傷を治すことも忘れ、エミリアはどうすればいいのか分からず子供のように泣きじゃくる。

 縋るようにスバルを見ても、暗く何もうつさない瞳と目が合うだけだった。

 

「……やぁ……いやぁ……」

 

 濁った目が、溢れ出る血が、エミリアがどんなに拒絶しようとしてもスバルの死を伝えてくる。

 まるで現実からの逃避を許さないかのように、エミリアの理解に染み込んでいく。

 

「いやあぁぁぁっ!!」

 

 エミリアの最後の抗いの叫びと共に、足下の床が抜けて落ちた。

 

 屋敷が崩れていく。世界が壊れていく。

 その崩壊は止まらない。

 

 

 

 * * * * * * * *

 

 

 

 瓦礫の山に子守唄が響き渡る。

 動かないスバルを膝にのせ、エミリアは歌う。

 

 誰の声も、今のエミリアには届かない。

 

 涙の跡が残る瞳でエミリアは空を眺める。

 せっかくスバルに歌い方を教わったのに、今日は上手に歌えない。

 声がかすれてしまって綺麗に音が出ない。

 それが、とても悲しい。

 

「ねぇ、スバル……」

 

 冷たい体。

 

「どうして、こうなっちゃったのかな?」

 

 スバルはなにも言わない。

 

「なにがいけなかったのかな?」

 

 誰も答えてくれない。

 

「私……どうしたらよかったのかな?」

 

 返事が返ってこないことは、もう分かっている。

 それでも問い続けずにはいられなかった。

 

「なにもできないの……。スバルが教えてくれないと、どうすればいいか分からないの……」

 

 今までスバルの言う通りにやってきたつもりだった。

 スバルの近くにいたいときも、我慢して勉強してきた。

 

 スバルが大好きだった。スバルに嫌われたくなかった。

 ずっと側にいてほしかった。

 なのに、どうして。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 なんで、スバルは死んじゃったのだろう。

 どうして、私は捨てられちゃったのだろう。

 

「お願い。一回だけ、あと一回だけでいいから。お願いスバル、教えて……」

 

 私の心はスバルで満ちていた。

 私の世界はスバルでできていた。

 

 だから、わからない。

 わからないよ。

 

「私、これからどう生きればいいのかな…………っ」

 

 あなたがいない。

 そんな世界なんてーー

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。