幻想氷留記-A Humanbeing Trips Opposite World- 作:プエラリア炉端
第1話・前編
「ざんねん ヒトキ は しんで しまった」
何度も見たゲームのコンティニュー画面を睨み付けて、氷秋(ヒトキ)はアバターを羨ましいな、と思った。
死んでもやり直しが、何回でも効く。
人間には無い二つ目三つ目の命を、奴らは持っている。
「・・・私も、やり直しできたらいいのに」
何気ない一言。誰も彼も、恐らく馬鹿にするだろうそれを、《あちら側》から聴いている奴がいた。
『その願、叶えてもいいわよ?』
「っ!?」
何があったか解らなかった。
部屋の至る所が綻び、破綻してぐにゃぐにゃと捻れていき、やがて真っ暗になった。
「・・・ここは」
どこだ、と口にしかけ、引っ込める。
ふわり、と良い香りがしたのである。
「・・・貴女に、《やり直す為の力》をあげるわ、ここを真っ直ぐ進みなさいな。
そこで、貴女の運を試したら?」
有無を言わせぬ、えもいわれぬ美しさに息が詰まる。
「・・・貴女は?」
辛うじて発したその問いに答える事なく、その女性はすっ、と空を撫でた。そこに《スキマ》が生まれる。
「・・・幻想郷は全てを受け入れる。それはそれは残酷な話ですわ・・・」
記憶はその後しばらくが抜け落ちていて、不明瞭なまま思い出せない。
が、一つだけ確かな事と言えば、
『私は《幻想郷》という異世界に来てしまった』
事だった・・・。
「・・・い、おい、起きろ~?」
木々の香りが鼻に優しい。
・・・なぜに木の匂いがしているんだ?
はっとして目を見開くと、私と同い年くらいだろうか、ゴスロリ風の服を来た金髪のとんがり帽子がこちらを覗き込んでいた。
「・・・ここは?」
「この辺じゃ見ない顔だなぁ。レイム!・・・はいないのか。
・・・ここは幻想郷だぜ!」
聞き慣れないワードが頭の中でパーリナイ。
「・・・まあ、お前も《外》から来たのかな?早めにあっちに帰った方がいいんだけどなぁ・・・」
と、何かの叫び声が森に響いた。
「何だ?・・・ちょっと待っててくれよ!」
と言って傍らの箒を手に取り跨がると、彼女は馴れた様子で軽やかに地を蹴った。
そして、風と一緒になって舞い上がった。
「・・・・・・!!」
驚きというより、感動が大きかった。
同い年くらいのゴスロリ少女が、目の前で箒で空を飛んだのだ。
魔法使いって本当にいるんだ・・・、という素朴かつ直球な感動で、声が出なかった。
だが、私はこの数秒後に後悔する事となった。
《空を飛ぶ》などこの世界では当たり前だという事を、私はその瞬間知る由もなかったのだった。
ドン、と爆発が起きて、先程の少女が向かった方からの音だと分かるなり、私は反対方向へ走って逃げた。
さすがにそんなのに巻き込まれたら、死んでしまう。
と、森の木の根っこに足をとられ、私は勢い余って盛大にコケた。
後頭部を別の根に強打して、意識が朦朧とする。
あ、私こんな無様に死ぬんだ・・・。
出来ればもっと、幸せなシチュエーションで死にたかった・・・。
そこで意識が途切れた。
《ざんねん ヒトキ は しんで しまった》
《こんてぃにゅー? いえす のー》
《ヒトキ は いきる みち を えらんだ》
「おい!」
はっとして目を見開くと、先程の少女が先程と同じ様に私を覗き込んでいた。
「大丈夫か?」
「まあなんとか。・・・そういえば君の名前は?」
え?と一瞬戸惑った様だが、快く教えてくれた。
「私は霧雨魔理沙!いずれ最強の魔法使いになる予定だから、覚えておいて損はないぜ」
「そっか。・・・私は氷秋」
「よろしくな、氷秋!」