市原仁奈の寵愛法   作:maron5650

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2.やりたいこと、できること

「うおー、すげー! キグルミがいっぱいでごぜーます!」

 

店内のキグルミコーナーを見つけるや否や、仁奈は全速力で走り出した。

 

仁奈が私の家に来て、一週間ほどが経過した。

傷が治るまではきらりに仁奈の身体を見せてはいけない。

だから、しばらくの間は私が積極的に面倒を見なければならない……と、思っていたのだが。

子供の再生力とは恐ろしいもので、あれだけあった無数の傷は、ものの数日で完治してしまった。

身体が真っ白に戻ってしまえば、仁奈も私以外との風呂や着替えを拒否する理由は無く。

きらりの子供の扱いが、やはり上手なことも相まって。

仁奈はすっかり、年相応の元気さを取り戻していた。

 

「仁奈ちゃん!? 危ないよぉ!?」

 

きらりが両目を不等号にして仁奈を追いかける。

 

一週間の月日は以上のようなプラスを生み出したと同時に、現実的な問題点を浮き彫りにした。

仁奈の着る衣服の問題だ。

仁奈は極力、元々着ていたウサギのキグルミ以外を着たがらなかった。

仮にキグルミ以外を着せるとしても、箪笥の中にはきらりが買ってきた私のパジャマと。

後は私が前にふざけて一筆したためたダボダボのTシャツしか選択肢が無かった。

余談だが、このTシャツは何故かグッズ化され、何故か売れに売れた。世の中何がウケるか分からない。

 

「きらりおねーさん、早く来てくだせー!

キグルミしかねーですよ!」

 

一方仁奈は目をキラキラと輝かせ、大きく手を振り、軽くジャンプまでしてきらりを呼んでいる。

 

とまあ以上の理由により、今後の生活において、仁奈の衣服が複数必要であると判断。

仁奈の希望を汲み取り、こうして店へと足を運んだのである。

キグルミを売っている店なんて、通販くらいしか無いのではないかと思ったが。

流石、風車に単身突撃する狂った男の名を冠した何でもショップ。キグルミまで完全網羅だ。

 

キグルミが所狭しと並んでいるコーナーの中に、3人も入るのは窮屈そうだ。

微笑ましい二人のやり取りを眺めつつ、仁奈がキグルミを選び終わるまでの暇潰しを考える。

安直に店内を見て回ることにすることにし、きらりにその旨をメールで告げた。

 

ジョークグッズ、筋トレ器具、スマホの周辺機器。

まるで関連性のないものが雑多に並んでいる細い道を、ゆっくりと歩く。

1つのフロアを、半周ほどしただろうか。

ふと目に留まるものがあって、私の足は自然とその動きを止めた。

 

仮装コーナー。

その一角に、鮮やかな白と黒。

パッケージには、タキシード姿に男装した綺麗な女性の写真が貼り付けられていた。

 

「……。」

 

つま先立ちし、それを1つ手に取る。

一番小さいSサイズ。

しかしそれでも当然、139センチは対象外で。

分かっていたことだけれど、少しだけ肩を落とした。

 

別に、明確な出来事があったわけじゃない。

可愛い衣装が嫌いなわけでもない。

ただ、自分では手の届かないものだから。

だから少し、憧れる。

それだけの話だ。

 

「……そう、それだけ。」

 

それだけのことに、今もまだ、悩まされる。

いい加減、諦めてしまえばいいのに。

人には向き不向きがあって、私に綺麗は向かない。

だから、その憧れは捨てる。

それだけ。ただ、それだけ。

 

そう言い聞かせる度に、それだけが積もっていく。

 

ぼうっと立ち尽くしていると、携帯に着信。

ポケットの振動で、私は我に返る。

もう選び終わったのだろうか。

そう思って通知を見ると、しかしメールの送り主はプロデューサーだった。

 

『件名:市原仁奈の件について

内容:こちらで作れる書類は作ったんだが、よく考えれば今夏休みだ。事務員が居ない。

暇な時にでも市原を連れて事務所に来てくれ。』

 

「アホか。」

 

思ったことをそのまま送りつけてやろうとして、続きがあることに気付く。

 

『追伸

記載されていた彼女の情報を載せておく。』

 

その文章の後に、仁奈に関するデータが羅列されていた。

丁度いい。身長が分かれば、わざわざ試着しなくて済むだろう。

彼を罵倒するのはその後だ。

データを読み進め、身長の箇所を探す。

 

「……え?」

 

しかし。

身長の項目まで行き着く前に、スクロールする指が止まる。

 

「年齢……9歳、って、」

 

市原仁奈の年齢は、9歳。

それは、今までの認識とあまりにかけ離れていた。

 

初対面のとき、私は何と推測した?

「小学1.2年か、あるいは幼稚園の年長」だ。

つまり、今年で5~7歳だと。

仁奈の言動は、私にそう思わせた。

それが、9歳?

 

言ってしまえば、たった2年の差だ。

しかし子供は2年あれば、驚くほど成長する。

成長する、はずだ。

少なくとも、キグルミを着て外出し。

あの不完全な敬語で話し。

誰かと離れることを極端に恐れることは。

そばに居てくれだなんて、震える声で言うようなことは。

無くなっている、はずなのだ。

 

居たか?

私があの子の年齢のときに。

あの子のように行動する、同い年の人間は。

1人でも、存在していたか?

 

まさか。

医者に言われた言葉を思い出す。

私は、身体に現れた。

でもあの子は、肉体的には年相応に成長している。

では、あの子は。

 

「精神、に……?」

 

そんな馬鹿な。考え過ぎだ。

周りより少し遅いだけだ。

そう自分を説得しようとする度に、脳裏に鮮明に蘇る。

初めて会った日の、仁奈の身体。

 

否定できない。

私には、否定できない。

それが正しいという確証はないけれど。

間違っていると言えるだけの確証も、無い。

 

携帯を握りしめていると、再び振動。

送り主は、きらり。

彼女らしく星やハートが散りばめられた文面を要約すると、買い物が終わったから出口で待っているらしい。

 

きっと、仁奈に見せられる顔をしていないから。

頬を叩き、頭を切り替えようとする。

 

 

 

 

 

ぺちぺちと情けない音が出たのが腹立たしくて、深呼吸に切り替えた。

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