フランは成長するのか?   作:天澤星三

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第十六話 ~夏の昼下がり~

 パーティから帰った次の日から、新之助は暇を見つけてはフランを町へ連れ出していった。

 フランには目に映るもの全てが目新しいようで、あれは何だこれは何だと新之助を質問攻めにする。そんな新之助も面倒くさがるそぶりすら見せず聞かれたら丁寧に教えてやる。

 しかし聞いただけで満足するフランではない。聞かされれば何にでも興味を持ち、実行に移さないと気がすまないのだ。だからいても立ってもいられないといった、そんなフランの手を取り、新之助はやりたいことができるように手助けをしてやる。

 しかし世間知らずのフランの相手をする事は大変だ。

 映画館に入ると興味津々に周りを見渡し、ポップコーンを片手に見ていたが最後には眠ってしまい、背負って帰らなければならなくなるし、馬車から見えた銭湯では男湯の方へ入ってこようとするフランを慌てて止める羽目になる。風呂の中は中で女に囲まれて大変だった、とかで半泣きで飛び出してちょっとした事件になったり。

 カフェの前、ショーウィンドウに飾られてあった巨大パフェの模型をボーっと眺めてよだれをたらしながら「あれが食べたい」などと新之助にねだる。新之助は少し意地悪がしたくなり「どうしようかな」と言うとフランはそれ以上ねだる事はせず、肩を落としてとぼとぼと歩いて行こうとしてしまう。それを新之助が慌てて呼び止めると、頬を吊り上げて牙を見せながらにやつくのだから新之助は苦笑いをせざるをえない。

 その体のどこにそんな量が入るのかと思うくらいに巨大パフェをぺろりと平らげてしまう。新之助はフランにパフェを食べさせてもらうと言う夢は実現できなかったが、フランの頬についているクリームを丁寧に拭いてやるという使命をおおせつかったことだけで万々歳だった。。

 こうしてフランは、当初は地獄のようにつまらないと思っていた日とは正反対の、毎日が楽しく、ずっとここで暮らしてもいいと思ってしまうくらいに充実した日々を送っていた。

 

 

 

 

 大島酒蔵にて昼食を済ませ、だべっていいるとフランがとても喜びそうなフレーズが新之助の口から出てきた。

 

「夏祭り?!」

「そう、今日からなんだ。出店ならもう出てるよ」

 

 フランは身を乗り出すほどに驚き、目を輝かせて新之助に問い返す。

 

「ねぇねぇ新之助! 祭りで雲が食べれるって本当!?」

「雲?」

 

 フランはうんうんと頷きながら新之助の解答を待っている。

 雲とは空に浮かんであるあの雲だろうか。祭りで雲のようなものといえばあれしかない。

 

「ああ、わた飴のこと? 雲みたいに白くて柔らかくて甘いんだ」

「お、おお~……」

 

 フランは感嘆の声を上げてそれが本当だった事、そして空に浮かんでいるあの柔らかい雲を食べれると勘違いし感動している。

 

「じゃ、じゃあじゃあ! 血の塊はあるの!?」

「血の塊?」

「透明な血の中に林檎があってね、なめると甘いらしいんだぁっ」

「ああ……あるよ」(林檎飴か……)

「じゃあ人魚すくいは!?」

「え?」

「巨乳すくいは!?」

「ええ!?」

「胸の大きな人を吊り上げるって……違うの?」

(誰が言ったんだろ……)

 

 新之助はその間違いを全部丁寧に説明していった。金魚すくいや、ヨーヨーすくいのことを。その間フランはずっと目を点にして聞いていた。

 

「魔理沙……コロシテヤルッ……」

 

 フランは恥ずかしそうに頬を赤らめる。

 新之助は祭りには何があるかをそんなフランに教えてやった。見たとたんにフランがよだれをたらしてねだりそうな甘辛ソースがかかったハンバーグやフランクフルトにたこ焼き。それを食べながら活気溢れ人々の中心で上下左右に揺れるみこしを見る。その雰囲気に呑まれながら渇いた喉を潤すために飲むラムネは最高だと。

 フランの目が太陽のように輝いている。

 

「今夜連れて行ってあげるよ」

「やたー!」

「今から行ってもなんかあるかも知れないけど。誰かに頼んで連れていてもらう?」

 

 と今にも飛び出しそうなフランにそんな事を言う。するとフランは新之助にとってとても嬉しい事を言ってくれたのだ。

 

「新之助と行きたい!」

 

 笑顔でそんな事を言うフランに新之助はもう鼻の下を伸ばしデレデレだ。

 

「新之助! 大学いかなくていいのかい!?」

 

 その時、タイミング悪く新之助の祖母から怒鳴り声が大島酒蔵に響いた。

 

「あ、それじゃ行って来るね!」

 

 新之助は教科書が入ったバッグを肩にかける。とても笑顔で。

 

「いってらっしゃい」

「はやく帰ってきてね!」

 

 祖母とフラン、二人で新之助を見送る。

 

「さあて、洗濯物でもするかねぇ」

 

 そう言って祖母は大島酒蔵の中に入っていく。

 昼間は客があまり来ない為、呼子はやらなくていいと言われている。やれば皆がちやほやしてくれる、それが嬉しいのかフランは自ら進んでやっているのだが今は暇なようだ。

 フランは中に戻ってこの暇な一日何をしようかと、辺りを見渡す。たまにいる小さな遊び相手である子猫はいない。テレビがあるが昼間はフランが見たいような番組は無い。

 退屈ほど苦痛なものは無い。困り果ててふと視線を落とすと机の上に箱が置いてある。何か入っていたのだろうか。覗いてみればその箱は空になっていて、その箱の横には箱を開けるために使ったと思われるカッターが置いてあった。

 それがフランの目に留まる。

 フランはカッターを手に取りカカカとカッターの刃を出してみた。そこには鈍く光るフランの紅の瞳。

 フランの幼く白い牙がゆっくりと姿を現した。

 

 

 

「おや? 誰かここにあったカッターしらねぇか?」

 

 カッターをしまい忘れた大島酒蔵の従業員が辺りを見渡し、すぐ近くにいた従業員に問う。

 

「さあ? 知りませんよ? あ、フランちゃん知らな――」

 

 と、その従業員はフランを見て一瞬びくついた。フランは今気付いたようにその従業員の方を見ているが、その小さな手には従業員が探していたカッターが握られている。

 慣れたとはいえあたりを破壊しつくす悪魔と呼ばれている妖怪なのだ。そんなフランの手に握られているものが少しでも他人を傷つけることができるものであるならば、それは人の心にただならぬ恐怖心を生んでしまうのだ。

 

「ふ、フランちゃん!?」

「へ? あ……な、何もしてないよ!」

 

 カッターと従業員を交互に見たフランはそんな言葉とカッターを投げ捨て、すぐに隣の部屋に慌てて逃げ去ってしまった。

 それを見て従業員達は顔を見合わせ首をかしげるだけ。幸いなことにフランへの恐怖心はカッターと共に捨て去られたようだ。

 フランが逃げ込んだ部屋は最初この大島酒蔵に連れてこられた時に寝かされていた場所。

 

「はぁ……ばれてないよね……あんなことしたら怒られるかな?」

 

 隣の部屋から怪しげにひょっこりと顔を出すと従業員達はもういない。代わりに正面に階段が見える。前に祖母が足を踏み外した階段だ。

 そしてその上から前と同じように祖母が降りてきた。またしても目の前が見えないくらいにうずたかく積み上げた洗濯物を持って。

 フランはフラフラと部屋から出ると、階段の正面に立つ。そこは丁度前に祖母に頭突きされた場所。

 そこでフランはこりもせず、またしても念を送り出す。

 

「踏み外せ~……こけろ~……」

 

 相も変わらずのフラン。しかし新之助が見たら顔をだらしなく緩ませて微笑んでいるかもしれないその光景。

 今まで少しは世話になっただろう人物に呪いの言葉をを吐くとはいい根性だ。呪いの言葉を送るあたりあまりいい思い出はないのだろうか。

 然るべく、フランの念が伝わったのだろう、祖母はまたバランスを崩し階段から足を踏み外す。洗濯物を盛大に舞い上げて祖母は体制を崩した。

 

「おお!」

 

 それにフランは目を輝かせる。が、祖母の脚力は異常だ。前はフランの頭に頭突きをかますほどの距離まで跳躍した。

 無論、今回もまたその強力な脚力でフランへ向かって跳んできた。人を呪わば穴二つだ。

 

「きたな!」

 

 だがフランも馬鹿ではない。一度犯したミスを二度も犯すような愚か者では決して

 

ゴツンッ!

 

 フランは馬鹿だった。

 すごい音を立てて激突する祖母とフランの額。そしてそれを支点にして祖母は体勢を立て直し、スタッと床に両足をつけて着地する。

 あろうことか、フランは祖母の頭突きに対抗して頭を突き出したのだ。

 

「ふう。すまないねぇ。また助けてもらっちゃってぇ……あれ? ちっこいのどこ行った」

 

 フランは祖母の目の前から消えていた。きょろきょろしていると下の方でゴロゴロと転がるような音と、うなり声が聞こえてくる。

 祖母が視線をおろすと額を押さえて悶えながら床をゴロゴロと転げまわるフランがいた。

 フランは勝てると思ったのだろうが想像以上の激痛に悶絶している。

 馬鹿が付くほど可愛らしいとはこのことかもしれない。そして吸血鬼のフランに勝ってしまう祖母の頭は一体どうなっているのだろうか。

 

 

 

 

「大丈夫かい?」

「うぅ……いたい……」

 

 祖母が用意してくれた氷嚢を額に押し付けながらフランは涙声だ。いくら吸血鬼で傷はすぐ治るといっても痛覚はある。痛いものは痛いのだ。

 

「あはははは、全くおかしな子だよぉ」

 

 祖母は自ら当たってきたフランのその物言いに思わず笑ってしまう。

 

「このくそばばあ! いつもなんでこっちに跳んでくるのよ!!」

「まあまあ、これでも食べるかい?」

「食べるぅ」

 

 氷嚢と共に持ち出したアイスをフランに差し出すと機嫌の熱さはアイスにすぐに覚まされて消えてしまったようだ。その辺は昔から全く成長していない様子。それをフランは覚えてもいないのだろうが。

 

「あんた新之助と仲良くやってるねぇ」

「うん!」

 

 雲の形は見るたびに変わる。

 その珍しくも無いが飽きもしない空を眺めながら、祖母とフランはその廊下から足を下ろし、ぶらぶらさせている。

 

「新之助は好きかい?」

「大好き!」

 

 元気よく返事をするフランの声に応えるようにむくむくと膨みを増していく入道雲。

 

「そうかいそうかい。じゃあ、新之助と結婚してお嫁さんにでもなるかい?」

「け、結婚!? 私が!?」

 

 その入道雲のように祖母の期待も膨らんでいるのだろうか。

 

「ははは、冗談さぁ。あんたはちっこすぎるよぉ」

「ちっこくないよ! それに新之助は私にめろめろだもん!」

「それはそれで困るんだけどねぇ……」

 

 だが膨大な体積を誇る入道雲の中は透かすかで拍子抜け。それにフランも対抗心を燃やす。そんな燃やされた対抗心も祖母の対応にすぐに鎮火してしまう

 

「新之助にも早くお嫁さんをもらって欲しいもんだねぇ」

「ふ~ん」

 

 昼間の真上から降り注ぐ太陽は二人がいる廊下には届かない。木造のその廊下は全てを焦がすほどの夏の昼にはうってつけの避暑地だった。

 適当に返事をしたフランはアイスをぺろぺろ舐め、片手を突いて空を眺める。

 

「そういやぁ、もうすぐあんたが来て一ヶ月だねぇ。そろそろ帰るのかい?」

「……うん」

 

 楽しいときはすぐに過ぎてしまうもの。

 フランが着てからちょうど一ヶ月。この日が終わるとフランは幻想郷に帰ることが出来るのだ。誰に危害を加えることもなく……多少はあっただろうが霊夢の言った条件は満たしているだろう。胸を張って帰ることが出来るというものだ。

 しかし、大手を振って帰ることが出来るならフランの表情は曇ってはいない。

 

「なんだい、浮かない顔して。戻りたくないのかえ?」

「戻りたいよっ……戻りたい……けど……」

「けど? どうしたんだい? 何でもばあちゃんに言ってみな」

 

 祖母はしわくちゃの口元を吊り上げて柔らかく微笑む。その仕草はどこか新之助に似ていた。これも血のつながりなのだろうか。

 だからそんな祖母に、フランはここに来る前の紅魔館であった事、皆を嫌いだと、更に死ねなどと言った事を全て話したみた。

 

「なるほどねぇ」

「皆私の事嫌いになってたらどうしよう?」

 

 もう棒だけになったアイスの棒をくわえながらしょんぼりするフランは抱きしめたいほど可愛らしいがそこにいるのは新之助でなく祖母だけだ。

 祖母はフランのくわえている棒を引き抜いて自分の棒と一緒にアイスを包んでいた袋の中に入れてやる。

 

「ならここにおるとええ」

「え? いいの?」

「構うもんかい。ちびっ子は遠慮なんかしなくていいのさぁ」

「……うん!」

 

 フランは正直に嬉しかった。こんな楽しいところにいつまででも居てもいいと言われたのだ。ちびっこなんていわれても気にならないくらいにうれしかった。

 その可愛らしい笑顔に祖母も感化されたのかフランを掴み上げる。そして困惑するフランを膝に座らせてやった。更にフランの肩に肘を置くように後ろから手を回してフランの胸の前で手首をとってフランを軽く抱きしめる。

 フランは特に抵抗しないがまだ困惑気味だ。

 

「こうしてると昔を思い出すねぇ……」

 

 祖母はひとつため息をついて、そして懐かしそうにこんな事を言う。

 昔を思い出すとは新之助の小さい頃だろうか。それとも

 

「新之助もこんな風に座ってたの?」

「そうさぁ。あんたみたいにちっこい頃あたしの膝の上に乗っかってねぇ。自分の特等席だって言って離れないのさぁ。そこは父親譲りだねぇ」

「父親?」

「ああ、もういないがね。あたしの息子さ」

 

 その言葉にフランは首をかしげてしまう。

 祖母は二代に渡り膝の上で育ててきたのだろう。自分の息子である新之助の父親と新之助、その両方の小さい頃を見る、ということは吸血鬼だとどれくらいの年月を重ねなければならないのだろうか。

 吸血鬼のフランには気の遠くなる話だろう、ちょっと想像できない。

 フランはそんな想像もできない思考を放棄し少し前に聞いた事、フランがこの計画を聞いた時に新之助が言っていた事を思い出した。

 

「事故で死んだんでしょ?」

「……そんな事、誰から聞いたんだい」

 

 急に祖母の顔が険しくなる。

 

「新之助からだよ」

 

 フランは首をかしげて振り返るように祖母を見る。

 

「あの子が事故って言ったのかい……」

 

 フランが頷くと祖母の険しい顔がため息をつくと同時に残念そうな、もの悲しげな顔になっていく。そして二人を見下ろしている入道雲と祖母の目が合う。

 

「……ありゃあね。事故なんかじゃないのさ」

「え?」

「殺されたんだよ」

 

 そう言い捨てる祖母。フランは首が疲れてきたのか、祖母の胸に頭頂部を押し当て、真上をむいて見上げる。

 

「まじで?」

 

 傍から見れば少し間抜けな体制。そのまま文の真似をするので思わず祖母は頬が緩んでしまう。

 

「ああ、マジさ。おおマジさね」

「誰に殺されたの?」

「さぁてねぇ。誰だろうねぇ」

 

 フランに当てられたのか険しい表情がとれ、意地悪くひっひっひと笑っている。

 祖母は誰が殺したか知っているのだろう。それを教えてやらならいと、フランに意地悪をするような笑いを見せる。

 

「でもまぁ事故じゃぁないさぁ」

「ふ~ん。でも新之助は事故だって」

 

 新之助は事故だといった。信じるならば祖母よりも新之助だ。それが今のフランの優先順位だった。

 しかし祖母の表情は何一つ崩れない。

 

「あの子はそう言うだろうねぇ。そう思わないとやっていけないんだろうよ」

「どゆこと?」

「あの子はねぇ、殺した犯人はもう分かってるのさ」

「じゃあ仕返しに行かないと」

「んあっはっはっはっ、あんたあたしに似てるねぇ」

 

 フランの幼い顔からは想像できなかったからか、声を上げて笑いだした。

 だがフランはそのしわくちゃの顔でそんな事を言われれば当然、というような顔だ。

 

「なんだいその顔は」

 

 だから祖母は上を向いて不満そうな顔をしているフランの頬を掴み引っ張って意地悪をしてやるのだった。

 

「ふぃふぁい(いたい)」

 

 祖母の意地悪から放たれたフランは頬をさするとその頭の上からまた祖母の声が聞こえてくる。

 

「新之助が言うんだよ。僕はあきらめない、そんな事をしたって無駄だとわからせてやるんだってねぇ」

 

 フランはわけがわからなかった。犯人がわかっているなら仕返しにいけばいいだけの話なのに、と。そして祖母が言った新之助が言ったであろう言葉もフランには理解できなかった。その全貌を知らないフランには分かりえないことだ。

 だからフランはその思考もついに放棄してしまった。

 

「ふ~ん。新之助カッコイイね」

 

 などと適当な事を言って。

 

「そりゃああたしの孫だからねぇ!当たり前さね!」

 

 と胸を張って祖母は高笑いだ。どうでもいいがこの祖母よく笑う。

 

 

 

 もう夏も終わりなのだろう。日陰と言う事もあってかそんなに暑くはない。逆に少し寒いくらいだ。

 風が凪ぎ、青い空にはむくむくと膨れ上がった入道雲が二人を見下ろしている。

 そんな涼しい場所で、祖母から伝わってくる体温がフランの眠気を誘う。逆もまた然りだった。

 夏の終わりの昼下がり。涼しくも暖かなひとときはゆっくりと過ぎていった。

 

 

 

 

 

「じゃあ僕は用があるから先に帰るよ」

 

 午後の授業が終わり、新之助は肩にバッグを背負うと教室をすぐに出て行こうとする。

 しかし、それを学友達に止められる。

 今日は祭りの日。それに学生が食いつかないわけが無い。

 

「何だよ新之助ぇ! これから祭りいこうぜ!」

「また今度ね」

 

 新之助はそんな学友を丁寧に断り教室を後にしようとするが勘のいい学友の一言が新之助を呼び止める。

 

「もしかしてあの吸血鬼の子と行くんじゃない?」

「え!? 何でわかっ……」

「そ、そうなのか!?」

「私も行きたい! あの子とおしゃべりしてみたい!」

「俺も俺も! あの子めっちゃかわいいよな!」

 

 などと勝手に盛り上がりだす。

 

「だめだめ。フランちゃんびっくりしちゃうだろ?」

 

 そんな学友を片手で面倒くさそうに断りそんな事を言う。

 しかしそれは失敗だった。

 

「フランちゃんだって」

「そんなふうに呼んでるのか!うらやましいやつめ!」

「独り占めにするつもりね!許さないわ!」

「そうだそうだ!そんなことすると罰が当たるぞ!」

「と、とにかく急ぐから!」

 

 前にも増して突っかかってくる学友にもう手に負えないと見るや否や新之助は一目散に走り出した。フランと一緒に祭りに行きたくて仕方ないのだろう。

 

「ああ、またな! ひひひ」

「祭りであおうね! ふふふ」

 

 そんな事を言いながら笑っている。恐らく祭りで新之助たちを探すのだろう。

 フランはただでさえ目立つ。新之助はすぐに見つかってしまうに違いない。

 新之助は捕まえられた時のことを考えると憂鬱だった。フランに自分のことを何と吹き込まれるかわかったものではない。

 しかしその足取りは段々と軽くなり、そして顔は笑顔だった。

 楽しみだった。フランと一緒に祭りに行く事が。フランはあれが欲しいこれが欲しい、あれがやりたいこれがやりたいと新之助にねだるだろう。それを新之助が叶えてやるのだ。その時のフランの笑顔を考えただけで顔がほころぶというものだろう。

 嬉々として階段を駆け下りて大学の正門から出た所で新之助は足を止める。

 

「ん?」

 

 キラリと何かが光った気がしたのだ。

 続いて胸を何かが突き抜けるような衝撃。

 その衝撃でコトリと落ちる眼鏡。

 膝に力が入らずガクリと視界が落ちる。

 

「……え?」

 

 気がつけば新之助はうつぶせになって倒れていた。そして胸の辺りから湧き出る熱いもの。それは段々と体の外へ流れていく。それと反比例するように力が抜けていく。

 

「なんだ……これ……」

 

 誰かの悲鳴が聞こえた。続いて足音と、そこで新之助の視界は真っ暗になった。

 

「任務完了だ」

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