フランは成長するのか?   作:天澤星三

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第十九話 ~フラン強襲~

 

 満月に近い月が照らす夜、ドドンドドンと太鼓の音が町に鳴り響く。

 祭りの行われている場所は遠くから見てもその上空が真昼と思えるくらいに明るい。

 その明るい空に背を向けて、祭りのせいで人通りの無くなった道をゆっくりと歩いていく少女がいた。紅の瞳を怪しく光らせて、色素の薄いサイドテールをゆらゆらと揺らしながら。

 祭りということもあり、人々の表情は笑顔で満ち溢れているだろう。だというのにうつむきがちに歩く。更に小さな両手には二丁の銃が握られている。

 その表情はうつむいて読み取る事ができない。しかし、しばらくするとその表情が月夜の下に晒される事となる。それは小島酒蔵と書いてある看板を掲げた店を見上げたからだ。

 幼い体に顔立ち。しかしその年齢はゆうに五百を超える少女、フランドール=スカーレットだった。

 フランの表情は笑顔だった。しかしそれは祭りという陽気なイベントからくるものではなく、狂気で満ちたもの。紅の瞳は真紅に輝き、狂気に満ちてあふれ出している。見たもの全てを狂わせんとばかりにギラギラ光を放っていた。

 一瞬の衝撃音の後、何かが倒れて幾度かはねる音がそんな夜の街に響く。閉じられた小島酒蔵の戸をフランが蹴り破る音だ。

 戸は真っ二つに折れて店の中へ吹っ飛ばされていた。

 さすがは人間の十倍以上の力を誇る吸血鬼だ。幼女の蹴りでも威力は大人並みだ。

 その音に店の中にいた従業員がそれに気付く。

 

「だれでぃ!」

 

 複数の従業員が入り口の方へやってくる。その従業員の手には皆が皆、すでに木刀やらナイフといった凶器が握っている。

 しかしそんなのお構い無しにといった具合にフランが一歩二歩と入り口から入ってくる。

 

「お、おめぇは……」

 

 その光景に小島酒蔵の従業員は目を丸くして驚いている。それは人里で常識を学び中のフランがやってきたことに対してはもちろんだがどこか、困惑気味で宛が外れたような表情。

 おそらく小島酒蔵は新之助が狙撃された事を知っていてその仕返しに大島酒蔵の従業員が乗り込んでくると踏んでいたのだろう。

 しかし実際に復讐にやってきたのは狂気に駆られ、二丁の銃を両手に握り締めたフランだった。

 フランは歩みを止めず小さな歩みで従業員達に近づいていく。その顔には薄ら笑いを浮かべて。

 その姿に従業員達は恐怖したに違いない。自分たちの体とは大きく異なる特徴を持つ人物が両手に二丁の銃を握り締めて不気味に笑っているのだから。しかもありとあらゆるものを破壊するという不思議な能力も持っているのだ。

 しかし、今は能力は封じられている。体も小さく、どこからどう見ても子供だ。

 そこへ太古とは違う、大きく大気を揺らすほどの音が小島酒蔵の建物を揺らす。小島酒蔵だけではない強烈な爆音が町中に鳴り響いた。それは祭りで打ち上げられる花火の音。

 それを機に従業員の一人が叫ぶ。

 

「やっちまえええ!」

 

 開戦だ。

 従業員達が一斉にフランに向かって襲い掛かる。

 フランの両方の唇がつりあがる。真っ白に光る二本の鋭い牙を見せて。

 フランの手に握られている銃口が従業員に向けられた。

 

「ぐぅっ」

 

 一発の銃声とそれに続くうめき声と共に一人の従業員が倒れる。しかし他の従業員達の勢いは止まらない。

 

「怯むな! 相手はガキ一人だ!」

 

 一気に距離をつめ、従業員の一人がフランに襲いかかろうとする。フランはそれをひらりとかわしざまに一発、更にその横から木刀を振り下ろそうとする従業員を見もせずに一発。

 フランの顔に生暖かい赤いものが跳ねてかかる。うめき声を上げて倒れていく従業員でできた道を風のような速さですり抜けて店の中の方へ進撃していく。

 しかしまだまだ従業員はいるようだ。大勢の従業員が騒ぎを聞きつけて中の方から次々にでてくる。

 

「囲め!」

 

 退路の入り口である後ろも、目的地である前も従業員達によってふさがれてしまった。そしてそのフランを取り囲むように輪になる従業員達。

 十数名の従業員達によって囲まれ、絶体絶命のフランだがその顔には未だ薄ら笑いを浮かべている。

 不意に身をかがめたと思うとフランが跳躍しその身が宙に舞う。それは従業員の頭上を跳び越えるようなものではない。その場で少しジャンプしただけ。

 しかしそれによって周りを囲む十数名の従業員が全員うめき声を上げて倒れていく。周りで見ていた従業員達も目を疑う光景だ。

 そしてそれは能力などではないことは従業員達にもわかる。倒れている従業員分の銃声が聞こえたのだ。

 フランは軽く跳躍すると同時に体を回転させ、全ての従業員がその紅の瞳に映るその一瞬をついて銃弾を撃ち込んだのだ。

 倒れてうめく従業員を見てフランはまた怪しく笑う。

 

「うふっ……あははっ、楽しいっ楽しいよぉおお!!」

 

 そう叫ぶとキャハハと狂ったように笑い出す。大昔に起きた、吸血鬼の町の時のように。

 従業員達もそんな狂ったフランに怖気づいたのか逃げ出すものもいる。

 

「ねぇ……何で逃げるの? 遊んでよ……もっと遊んでよぉ!」

 

 返り血を浴びたフランの顔は悪魔そのもの。フランは逃げ出す従業員達も逃がそうとはしなかった。次々にうめき声を上げてうつぶせに倒れていく。

 そんな中、カチリッ、と乾いた音が。それはフランの銃が弾切れを起こした音。

 

「弾切れだ!」

 

 フランはマガジンを外し床にポトリと落とす。

 それをチャンスと見たのか従業員の一人がそう叫ぶ。しかし従業員の数ももう少ない。

 その内の二人が手にナイフを持ってフランの後ろと前から襲い掛かった。

 フランはのんきに予備の弾創を二つ取り出す。しかし、もう遅かった。二人の従業員はフランのすぐそばだ。弾を入れ替えている時間はない。

 フランは諦めたのか、二つのマガジンを前と後ろに軽く放り投げた。ちょうど従業員の眼前に来るように。

 従業員の進撃を止めようと思ったのだろうが軽く放り投げられたそれらをよけれないほど二人は愚鈍ではなかった。二人ともサラリとかわしてフランを襲おうとしたそのとき。

 

「ぐっ!?」

「がはっ」

 

 気づけば従業員二人はフランの両隣で仲良くおねんね状態だ。

 フランは投げたマガジンを空中で、空になった銃でキャッチしたのだ。更に半分ほど入ったマガジンで従業員の側頭部を強打することで完全に装填した。しかも二丁同時に。軽く宙を舞って反転することで。

 

「リロード完了」

 

 フランは笑みを浮かべて一言。それはまさに攻防一体の神技だった。

 そんな神技を見せられては従業員達は逃げるしかない。しかしそんな従業員をは次々にフランに捕まっていった。

 

 

 

 

 小島酒蔵の奥では小島当主とその側近がのんびりと酒を飲みながら花火を見ていた。

 

「何やら店のほうが騒がしいですね」

「ふん、大方大島酒蔵の奴らが復讐に着たんだろう」

 

 余裕しゃくしゃくで酒を一口飲む小島当主の顔はフランとはまた違う悪魔の笑みを浮かべていた。

 

「では警察を呼びましょうか?」

「まだ早い。存分に痛めつけてからだ」

「そうですか。しかしうまくいきましたね」

「ああ、これで大島酒蔵も終わりだろう」

 

 最初から従業員達の手に凶器が握られていたのはそういう訳だった。

 小島酒蔵の思惑は復讐に来た大島酒蔵の従業員を返り討ちにし、その従業員達を全員警察に突き出すことだ。

 そして捕まった大島酒蔵が一方的に勘違いし恨みを持っていた小島酒蔵を襲ったという事で片付けられるだろう。

 これで大島酒蔵はつぶれ小島酒蔵の思惑通り言うわけだ。

 しかしその思惑は外れる事になる。

 

「ん?」

 

 ズルズルズルと何やら引きずる音が聞こえる。小島当主がそちらを見ると扉が開く。

 

「おお、終わっ――」

 

 終了の合図と勘違いした小島当主の目の前には小島酒蔵の従業員の体が。

 

「ぐはっ!」

「な、何やつ!」

 

 その入り口には二丁の銃を持ち、顔に返り血をたっぷり浴びたフランが立っていた。

 

「当主……すいやせん……」

 

 投げられた従業員にここまで案内させたのだろう。小島当主に乗りかかっている従業員は住まなさそうに謝罪する。

 しかし小島当主はそれを蹴り飛ばす。

 

「役に立たん奴らだ! おい! あれをもってこい!!」

「は、はい!!」

 

 そう言って何やら側近に奥へ取りに行かせる小島当主。

 

「終わりよ」

「くっ!」

 

 フランは小島当主に銃口を向ける。それと同時に小島当主も胸から出した銃をフランに向ける。

 二つの銃口が二人に向けられる。しかし小島当主は体制を整えることが出来ず、座り込んだまま。

 

「お前がここの当主ね」

 

 そう言うフランの表情は未だ薄ら笑いが張り付いている。

 

「ま、まて、なぜお前がわしを襲う!?」

「お前は新之助を殺した……だからお前を殺す」

「くっ……い、いいのか!? わ、わ、わしを撃ったらお前は幽閉されるんだぞ!?」

 

 その言葉でフランの薄ら笑いは消えて無表情になる。

 霊夢は言った。人に危害を加えると天界で一生暮らす事になると。

 フランは怒りで我を忘れ、狂気に駆られるままに、その衝動を抑える事ができずに小島酒蔵の従業員達に危害を加えた。もう天界で暮らす事は確定している。

 だからそんな事はもう知った事ではないのだ。

 

「もういいんだよ……そんなこと……これが私の運命なんだから」

「そ、そんなっ」

 

 フランはその自分の言葉に思案する。

 

(運命……か……ねぇさまも知ってたのかな……)

 

 運命と言えばレミリアもこうなることを分かっていると言うこと。

 フランはもう天界で暮らす運命にある。だからか、自暴自棄になり全て悪い方へ考えてしまっていた。

 

(来てくれないってことは……やっぱり私のこと嫌いになっちゃったのかな……)

 

 いつも困った時は助けてくれた実の姉のレミリアはフランの所へは来てくれない。それはあの時大嫌いと言ってしまったからなのか、と。

 

「と、とりあえず落ち着け! わしを撃てばお前の処分がもっと悪くなるぞ!」

 

 そんな光景を興味津々に眺めるものが。

 

「あやや、面白いことになってますねぇ、これはいいネタです。おや」

 

 小島酒蔵の垣根から覗いているのは射命丸文だ。記者である文はフランの後をつけていたのだ。記者にとってこれほど興味をそそる現場に遭遇することははそうそうないだろう。

 その文が何かに気付いた。

 

「そんな事、知ったこっちゃな――」

「フランちゃん!」

 

 フランと小島当主の間に割って入った者はフランと小島当主が死んだと思っていた人物、大島新之助だった。

 二人とも幽霊を見るような目で新之助を見る。走ってきたのか、息を切らし肩で息をしている新之助がそこにはいた。

 

「フランちゃん! だめだ! そんなことしたら君は一生幽閉されてしまう!」

 

 両の手を広げて小島当主をかばう新之助。

 

「新之助……いき……て……」

 

 フランは新之助が生きていたことが素直に嬉しかったのだろう。紅の瞳からは狂気は消えうせ逆に大粒の涙が溢れ出してきた。

 

「よかった……ぐすっ……本当に……」

 

 そこまで言って、フランは黙り込んでしまう。そして表情が見えないほどにうつむいてしまう。

 

「フランちゃん?」

「もう……もう遅いんだよ新之助ぇ……」

 

 そのフランの声はかすれている。

 

「え?」

「私……もう人を……もう遅いんだよっ」

 

 新之助も見てきただろう。フランが行った暴挙を。それによって新之助が現れたところでもう何も変わらない。全てが遅かったのだ。

 

「そんなこと……」

「新之助も見たでしょう!? 私はもうっ……閻魔のところで一生幽閉される運命なんだよ!」

 

 フランは銃を構え直し、かすれ声でそう叫ぶ。

 新之助はここに来るまでに多数の負傷者を見たはずだ。もうフランの運命は決まっていることも分かっている。

 驚いたことにフランの顔にはまた狂気が戻っていた。大粒の涙が真紅の瞳をギラギラと揺らしている。そしてその口元はまたつりあがり、不気味な笑みがもどってしまった。

 

「どいてよ! こいつを殺してやらなきゃ気がすまない! 新之助を撃ったのもこいつなんだから!」

「ひぃ!」

 

 そう言いながら笑うフランの手に持たれた銃はまっすぐ小島当主に向けられている。

 しかしその狙いを新之助が体を入れて邪魔をする。

 

「落ち着いて」

 

 そう言うと新之助は一歩フランに近づく。

 

「こ、こないで! どいてよ!」

 

 フランは近づいてきた新之助に弾かれるようにびくついて後ずさりする。

 

「どかないよ。小島さんも撃たせはしない」

 

 新之助は怯みはしない。また一歩近づく。

 

「何で!? 何でよ!!? 何でそんな奴助けるのよ! こいつは新之助を殺そうとした! 死んで当然なんだ!」

「やめるんだ、フランちゃん」

 

 フランには理解できなかった。新之助を撃ったのはほぼ小島当主の仕業で決まりだ。なのに何故それを止めるのか。あまつさえフランは人を撃って天界行きが確定している。それは新之助も分かっているはずだ。

 ならば小島当主を撃ったところでその処遇が変わる事もない。それに小島当主を撃つということは新之助にとっても復讐でき、喜ばしい事ではないのか。

 フランは考える。その狂気に満ち溢れた頭で。

 そうしてその頭で導き出された答えは最悪だった。

 

「……わかった」

 

 そう言うフランの銃口はまっすぐに新之助に向けられる。加えて先程まで小島当主に睨み付けられていた視線はその前に立ちはだかる新之助に突き刺さっていた。

 それが答えだった。

 新之助はその光景に信じられないといったように目を丸くし歩みを止める。

 

「お、お前も……お前もそいつの……な、な、なか、仲間だったんだな!?」

 

 フランはそんな事あって欲しくないと願いながら、恐る恐るといった様子で叫び散らす。そのフランの体は震えている。

 恐らくそうであった時のことが怖くてたまらないのだろう。目からはぼろぼろと涙がこぼれ落ち、不気味な笑みはわなわなと震えて今にもはがれ落ちそうだ。

 

「フランちゃん? 何言ってるの?」

 

 そう言って新之助はフランを落ち着かせようと微笑みかける。

 

「最初から私を……閻魔のところへ連れて行くつもりだったんだ! そいつと共謀して!」

 

 そして悪いことにフランの狂気が、フランを落ち着かせようと微笑む新之助の顔を悪魔の笑みに変える。それがフランの導き出した答えを確信に変えてしまった。

 それは同時にこの計画に加担した幻想郷の住民も皆、自分を天界に連れて行くための口実だと勘違いして。

 

「聞いてフランちゃん」

「うるさいうるさいうるさい! お前もそいつも皆っ……皆殺してやる!」

「僕は」

 

 新之助はまた一歩フランに歩み寄ろうとしたその時

 

「死ねえええええええええ!」

 

 フランの紅の瞳孔が見開かれる。

 人差し指に力が込められる。

 

 その時、フランの脳裏にある風景が浮かんだ。

 

 白いシャツに広がっていく赤いしみ。

 

 だらしなくはやされた無精ひげ。

 

 ぼさぼさの髪が掛かる見慣れた目。

 

 そして苦痛に歪めた表情で必死に笑みを見せる表情。

 

 ここで引き金は引かれた。

 弾は新之助のほほをかすめてとんでいった。床には新之助の頬から垂れた血がポトリポトリと滴り落ちる。

 

「う、ぐっ……」

 

 軽い目眩を覚えたフランはもう片方の銃を持った手で頭を押さえつけ何やらもだえている。

 

(なに……これ……誰よあんた!)

 

 新之助がまた一歩近づく。

 フランがそれに気付き、びくつくように標準を新之助の頭に合わせ直す。

 

「こ、これは警告なんだから! 次は当てるからね!」

 

 新之助はまた一歩近づく。その言葉で確信を得たのか先程までよりも力強く。

 

「本当に当てるからね!」

 

 新之助はもう止まらない。二歩三歩とフランへ迫る。

 

「こないでよおおおお!」

 

 数発の銃弾が飛んでいくが新之助にはもうかすりもしなかった。

 

「うぅ……」

 

 そして、新之助の胸にフランの持っている銃口が当たる。

 

「フランちゃん、これで外れないよ」

「くっ……」

 

 フランは引き金を引くことができない。それは外しようがないから。

 新之助は新之助でフランを、どこか安心できるような意地悪な笑顔で見下ろしている。

 そんな余裕な新之助にフランは睨み返すことしかできなかった。しかしその涙で潤んだ紅の瞳からは禍々しい狂気は消え失せ、後に残ったものはあどけない少女のようなそれだ。

 新之助はまた一歩近づく。新之助の胸に当てられた銃は抵抗なく引き下がる。

 フランはあきらめたように腕をだらんと垂らし、続けて両の手からガタリと銃が落ちる。

 

「新之助は意地悪だよね……」

「可愛いと意地悪したくなるってやつかな」

「精神年齢ひくすぎるよっ……ばかっ」

「そうかも」 

 

 可愛らしく上目遣いで睨みつけるフランを新之助は優しく抱きしめてやる。フランの体はこのまま強く抱きしめたらどこまで腕が食い込んでいくのか分からないくらいに柔らかい。

 

「僕は、君を助けたいんだ」

「……私……撃っちゃったよ? 人を……いっぱい……」

 

 フランは震えている。

 

「大丈夫……僕がなんとかするから」

 

 何とかとは何なのだろうか。それはフランを安心させるためについた嘘でしかない。もう新之助にはどうする事もできないだろう。霊夢に頼んで町民に頼めば誰かしら味方してくれる者もいるはずだ。

 しかし被害をこうむった当の小島当主がそれを許さないだろう。

 新之助は震えるフランを見る。この小さな体で自分の為にここまでやってくれた小さな吸血鬼の娘を。

 何とか打開する方法は無いものか。これではあまりにフランが気の毒だ。

 大島酒蔵のために復讐をしてくれたフラン。しかし新之助は生きていてそれはする必要のなかった復讐。そのせいで天界にて一生暮らす事になる。

 傍から見れば詐欺にかかった不幸な少女にも見えなくも無い。

 

「わだじ……いぎだぐない……閻魔様のどごろになんか……いぎだぐないよぉ」

 

 そう言って新之助の胸で声をあげてむせび泣くフラン。

 一度は天界に行くこと受け入れた。しかしフランは新之助の優しさで狂気が消え失せ、また自分はここに留まりたいと思ってしまった。

 だから新之助に素直にそう訴える。

 だがそれはもうどうする事もできない。

 このままいくとレミリアがフランを強奪し咲夜も一緒についてくることになるだろうが。

 それでもこの先が苦難に満ちていることは確かだ。

 

「わかった。なんとかする……なんとかするから」

 

 だから泣かないでというように新之助がフランを強く抱きしめる。

 抱きしめるとは不思議な安心感を与えるのだろう。フランの震えが段々小さくなっていく。

 

「絶対に閻魔になんかに渡したりはしないから、僕の命に代えても」

 

 先程まで新之助の胸に顔を当ててないていたフランがそんな優しく微笑む新之助の顔を見上げて問う。

 

「新之助は……なんでそこまで……?」

 

 女の子は分かりきった質問をしたがる傾向にあるのか。フランも恐らくは分かりきっているであろう。

 それが恥ずかしくなったのかフランは顔をまたうつむかせる。

 しかし一度もそれを聞いた事がない。だから実際に言って欲しいのだろう。

 新之助は顔を赤くしそんなフランの頭を見つめる。

 

 そして

 

「僕は……君が――」

 

 うつむいているフランの横を何かが倒れていく。それを目で追うフランの目には見知った顔が映っていた。それは一瞬だったが長い時間ゆっくりと目に映っていたそれ。

 次にフランが見たものは床にうつぶせになって倒れている新之助だった。

 

 

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