フランは成長するのか?   作:天澤星三

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第二十一話 ~決着~

紅魔館

 

 紅魔館では先程たしなめられた咲夜が未だレミリアの傍でそわそわしている。レミリアが一口紅茶をすする度に上の空で条件反射のように紅茶を注いでいるのだ。おかげでレミリアのティーカップの中身はいつも満杯でなくなることが無い。

 上の空でこぼさずに紅茶を告げる咲夜もさすがだが、この嫌がらせにも近い行為にレミリアの内に秘める色々な物が限界だ。

 

「咲夜、もうお腹一杯よ」

 

 とレミリアは一杯の胃袋とティーカップをもって限界を告げる。

 

「え、あっ」

 

 咲夜は肩をすくませながらレミリアの一言に気付き、あわててティーポットの注ぎ口をナフキンで受けながら引き上げる。

 

「も、申し訳ありませんっ……」

 

 レミリアは片肘を突いて頬杖を突き、咲夜を横目で疑いの目でじとりと睨み付ける。

 咲夜は慌てて取り繕うように背筋を伸ばし、一瞬で表情をすまし顔に変えて仮面をつけて覆い隠す。が、相手が悪かった。レミリアの視線は薄っぺらな仮面を否応無しにすり抜けてくる。

 フランは人間に危害を加える運命だ、とレミリアが言った言葉が咲夜の頭から放れないのだ。

 たとえ結果が分かっていようと、その事実が明らかになるその時まで、何が起き、どう転ぶかは分からない。だからもしかしたら違う結果になるかもしれない、または自分が行けばどうにかなるのではないか、などと淡い期待を抱いて。

 そんな考えが咲夜の頭を巡って回り、普段のメイド然とした仕事が出来ないでいたのだ。

 そんな想いを全て見透かしたレミリアはため息を一つ。

 そのため息で自分がレミリアにどう思われているか理解した咲夜は潔く意味の無い仮面を外す。更に自分の考えを見透かしているのならとばかりにレミリアに尋ねる。

 

「あのひとつ質問が……」

 

 レミリアはその質問にかわいらしく首をかしげる。口元が笑っているのでおそらくわざとだろう。

 

「お嬢様は妹様が人に危害を加えるとおっしゃられましたが……」

「その先を知りたい、と?」

 

 咲夜はコクリと頷いた。

 危害を加える運命とレミリアは言ったがその後はどうなるのか。

 メイドだからか、先のことを事前に知り、レミリアやフランの為に出来ることを準備しておきたいということなのだろうか。それともレミリアの言う運命は間違いで何も心配することなくただ単にフランの帰りを待っていればいいだけなのか。

 レミリアなら分かるはずだ。しかし返ってきた答えはなんとも肩透かしをされたような言葉だった。

 

「分からないわ」

 

 レミリアは無表情になり、窓の外に顔を向けて一言そう言った。

 分からない、とは一体どういうことなのか。先程まで自信満々に語っていた運命という言葉を、そんな無責任な一言で済ますレミリアに怪訝そうな顔をして「分からない?」と聞き返す。

 

「ええ、何にも見えないの」

 

 以前無表情で窓の外を眺めたままレミリアは答える。

 その言葉に咲夜は気分を害する表情をするどころか光明を見たかのように表情を明るくした。

 大方レミリアの運命を操る能力は紛い物で、先程言った言葉は狂言だとでも思っているのだろう。レミリアは主に対してそんな失礼な態度を取るメイドを背後に感じて、人間とは何とも愚かな生き物なのだろう、という言葉をため息に変えて吐き出した。

 そしてそんな咲夜の妄想の中にある希望の光をかき消すようにレミリアは自分の能力を説明してやる。

 

「いい? よく聞きなさい、このダメイド」

「だ、ダメイド!?」

「人の人生には初めに一本の道が用意されているものなの。その道の先にはまた何本かの分かれ道が用意されているわ。それは小さな選択肢から大きな選択肢まで、いろいろよ。気の向くまま赴くままにあなたの頬をビンタするかしないか、この紅茶を限界が過ぎても呑むか飲まないか、あなたがフランを助けに行くか行かないか」

 

 レミリアの睨むような視線が咲夜を串刺しにする。それに顔を背けることもできず、咲夜は罰が悪そうに口をすぼめ、冷や汗を垂らすことしか出来ない。

 

「その枝分かれした道はどこかに合流している事もあるしとんでもないところへ通じている事もあるわ。その枝分かれした道を選んでいくことでその人の人生が決まっていく。その人が歩んで行く軌跡やその先の道を私達は運命と呼ぶわね。私はその用意されている道の一つに誘導する事ができるのよ」

「は、はあ……では見えないと言う事は一体どういう――」

 

 いつもは時間を止めても自分は動けるのだが、今は逆に自分の時間を止められてしまったかのようにその口が固まった。いや、口は動いているが声がでていないだけだ。

 咲夜はあることに気づいたのだ。

 

「そう」

 

 あることに気づいた咲夜にレミリアも気づき、肯定する。

 そのレミリアの一言が咲夜の頭の中で思考が空転させた。もしそうだとしたら先程言ったレミリアの言葉はやはり嘘になるからだ。更にはフランを幻想郷から強奪して逃げるどころの話ではなくなってしまう。

 

「道が途切れるとは人生の終わり。つまり」

 

 いまだ言葉をつむぐレミリアは咲夜の目にはもう映らない。

 

「死を意味する」

 

 レミリアがそう言い切るや否や咲夜の目が見開かれ更に薄暗い廊下が真昼のように明るくなる。

 咲夜の手にいつの間にか握られていた銀色の懐中時計が白く光っているのだ。

 そして咲夜の口が開かれる。眉毛を吊り上げ眉間にしわを刻んで。

 

「お嬢様、私は何か勘違いをしていたようです」

 

 咲夜の目にはもう迷いが無い。あの時と同じ、霊夢や町民を傷つけようとした時と同じだ。

 

「そうね、その通りだと思うわ」

 

 レミリアはレミリアで真っ直ぐに咲夜を見据えている。

 その通りだとはどれを示すのか。咲夜がレミリアの覚悟を思い違えていた事だろうか。

 レミリアの言ったように天界に行く事になれば強奪し幻想郷を離れる。それは嫌だがフランのためなら仕方ない。咲夜はそう思っていた。それがレミリアのフランへの愛の形だと信じて。

 しかし、もしその前にフランが死ねばどうなるか。

 

「私は妹様を連れて幻想郷を去ります」

 

 どうしようもなかったとさじを投げ、高価な墓石を建てて花を添える。そうすれば幻想郷にとどまることが出来るのだ。

 

「そして金輪際お嬢様とは縁を――」

「咲夜……その先を言うとあなたはつらい運命をたどる事になるわよ?」

「それでも構いません!!」

 

 レミリアの忠告にも全く耳を貸さず即答だ。咲夜の時計の光がさらに強くなる。これ以上何を言っても無駄だとばかりに。

 咲夜はもう覚悟を決めている。

 

「私は嫌よ」

 

 咲夜の強い覚悟が揺らいだ。

 そんな一言で、口をついて出たような、単純な願望を言葉にしたそんな一言で。混じりけの無いその幼い言葉が普段のレミリアとのギャップもあいまって咲夜の心に響いてしまったのだ。あまつさえ咲夜にいて欲しいと願う、ささやかな願いを込めて。

 咲夜の持っている懐中時計の光が徐々に小さくなっていく。

 レミリアの発する言葉はどれも忠誠を誓わざるをえないようなカリスマ性溢れる言葉。

 だが同じことを何度もやればその耐性がつくと言うもの。それはいつも身近にいて従順に従うメイドである咲夜でも例外ではない。

 

「いつもそうですね……」

 

 レミリアはうつむいて呟くように静かに語りかける咲夜の言葉に、今度は他意なく首をかしげる。

 

「いつもそう……どんな言葉を使えば相手を上手く言いくるめられるか……本当に熟知されていらっしゃる……本当に」

 

 その言葉の裏に秘められた思いとは何か。自らを言いくるめられた事に対して賞賛しているのだろうか。

 レミリアにはそれがあきらめの意を示す言葉にでも思えたのだろう。

 しかし次の瞬間咲夜の口からレミリアにとって信じられない言葉が発せられる。

 

「なら……そんなに嫌なら無理やりにでもやめさせたらどうですか?」

 

 静かに放たれた咲夜の言葉は一線を越えたもの。

 咲夜の言葉は賞賛したのではなかった。そんな言葉で自分を言いくるめようとするレミリアに対し、甘く見るなと、過小評価するなという思いの裏側を表すものだった。

 

「お嬢様にはそのすばらしい能力があるのですから!」

 

 まるで女優にでもなったかのようにうつむいた姿勢から頭を上げ、それと同時に両手を広げて発せられたその言葉は従者として、人として、決して言ってはいけない言葉。

 それはどんな言葉でももう自分を言いくるめる事ができないという強い意志の表れに他ならない。

 更には言いくるめる事ができないなら力ずくで、自分の能力でどうにかしてみろと言う挑戦状でもあるのだろう。

 そんな咲夜に対しレミリアは怒りに任せて力ずくで咲夜を服従させるだろうか、以前のように咲夜の頬をひっぱたくのだろうか、それともまたカリスマ性溢れる言葉で言いくるめるか。

 そのレミリアが取った行動は一瞬にして咲夜の薄っぺらな不適な笑みをはがさせた。

 

「っ!?」

 

 月の光に照らされて青白く光るレミリアの頬に、一筋の光る筋が浮かび上がったのだ。レミリアの桃色の唇、そのすぐ傍をすり抜けて。それはどんな相手をも言いくるめることができる強力な言葉。しかもそれは咲夜が嫌う交渉術などましてはすばらしい能力でもない。

 レミリアの内から出た純粋な言葉だった。しかしそれは純水のように無味ではなく少ししょっぱい。

 咲夜すまなさそうに顔をうつむけ、続けてレミリアに一礼する。

 更に今まで周りを真昼のように照らしていた時計の光は消えた。

 同時に咲夜もその場から姿を消した。

 辺りが静かになる。

 残ったものは月の光とそれに照らされて輝くティーカップに並々と注がれた紅茶、そして頬に涙で輝く軌跡を描いたレミリアだけだった。

 やがてレミリアの目から流れ落ちた涙が、端整な形をしている顎にたどり着いた。たどり着いた涙は床に落ち、その静寂を破るだけだ。

 しかるべくその静寂が破られた。しかしそれは床に落ちたからではなくそれをこぼすまいとその下に差し出されたナフキンに落ちた音によって。

 

「ナフキンが紅茶で汚れてしまったので……取り替えて参りました」

 

 咲夜は片膝をつき椅子に座っているレミリアの頬を拭う。

 

「……そう」

 

 レミリアはどこか安心したように目を細め、優しく咲夜を見つめ、なされるがままに頬を拭わせる。

 

「この運命も……お嬢様の能力で?」

「そんなの見もしなかったわ」

 

 どこか怒ったように、そして無表情な顔でそんな事を言う咲夜にレミリアは優しい笑顔でそう言った。

 操作できることをあえてしなかった、見えるのにあえて見なかった。それは咲夜を信じているという証拠以外の何者でもない。それが自分の思い通りに操るための言葉ではないのなら、メイドである咲夜には最高の褒め言葉になることだろう。

 しかし咲夜の胸の中にはまだ疑念が渦巻いている。フランが死ぬかもしれないというのに見て見ぬフリをするレミリアに。

 

「お嬢様……私はもう、何を信じて……どうすべきなのかわかりませんっ」

 

ポンッ

 

 とそんな悲痛な声を放つ咲夜の頭の上に手を置いて、レミリアはまるで子供をあやすように頭をなでてやる。

 

「あなたは、あの子の能力を知っているわよね?」

「は、はい……知ってます。ありとあらゆる物を破壊する能力……ですよね」

 

 突然の脈絡の無い言葉に、目を点にしてレミリアを見上げている咲夜は慌ててその問いに答える。

 

「私は思うのよ。道が途切れているのはあの子が自分の決められている運命を壊しているからじゃないかって。それはもちろん自分だけじゃなくあの子のすぐ近くにいる新之助という男やその周りも運命も巻き込んで」

「運命をぶち壊すってやつですか……?」

 

 そこで咲夜は久々に笑顔を現し、呆れたように言い放つ。

 

「なんだか青臭い言葉ですね」

 

 だからレミリアは笑って言い返してやる。

 

「あなたはそんな青臭い言葉が好きなんでしょう?」

「嫌いでは……ないですね」

 

 

 

 

小島酒蔵

 

 

 夏祭りの夜、打ち上げられる花火が弾けて周りを揺らす。

 それに紛れて爆発音が鳴り響く。

 フランの頭に突きつけられた銀の弾丸の入った銃が火を噴いたのだ。しかしフランの頭は吹き飛んでなどいなかった。逆に小島当主の手が黒く焼け焦げている。

 

「なっ……なぜっ!?」

「馬鹿なヤツ……」

 

 どうやら咲夜は行かなくて正解だったらしい。フランのまだ残っている腕の拳がキュッと握られていた。

 それは紛れも無く、フランのありとあらゆる物を破壊する能力。

 

「まさかっ……腕を吹っ飛ばしたからっ……!」

 

 フランは腕が吹っ飛ばされたことによってリングが切り離され封印が解けていたのだ。

 フランは怪しい笑みを浮かべてゆっくりと立ち上がる。

 

「覚悟はできてる……よね?」

「ま、待ってくれ!」

 

 今更何を待てと言うのだろうか。

 フランはもう止まらない。止まるはずがない。

 残っている手には不気味に歪んだ時計の針のような剣が握られている。

 

「レーヴァテイン」

「す、スペルカード無しで出すなんてルール違反ではないのか!?」

「そんなルール破壊してやる」

 

 フランの片腕が振り上げられる。その手に握られる不気味な剣にエネルギーが込められていく。それに吸い寄せられるかのようにフランのサイドテールがふわふわとゆれ身に纏う衣服までもばさばさと音を立てて揺れている。

 集まるエネルギーの光に照らされながらフランの唇が鋭い牙が見えるほどに吊り上げられていく。まさに悪魔の笑みだ。

 そそれもそのはずだ。スカーレットデビルといわれるレミリア=スカーレットの妹、フランドール=スカーレットなのだから。

 

「あんたは何回コンティニューできる?」

「やめろおおおおおお!」

 

 振りかざされた剣が一気に振り下ろされ、その剣先から出る赤い光で小島当主がなぎ払われる。

 

「がはぁ!」

 

 小島当主は壁に叩きつけられ、一発だけでぼろぼろになっている。本来ならば肉片など残らず飛び散っているだろう。そうならないのはフランが手加減しているからだ。

 

「まだ、気をうしなわないでよね? 今のは新之助の分、そしてこれは新之助の両親の分!」

 

 手加減はこのためだった。続けて小島当主に赤い光がなぎ払われる。

 破壊音と小島当主のうめき声が辺りに響き渡り、花火と合わせて祭りの夜空が賑わう。

 

「これはババアの分!」

「ぐぁっ」

「そしてこれは私の怒りだああああああ!」

 

 そしてまた振りかざされた剣には今までよりも更に強力なエネルギーを溜め込んでいる。

 

「もう……やめっ」

「死ねええええええええええ!」

 

 フランの剣から放たれたエネルギーは派手に小島酒蔵を破壊しながら小島当主を襲った。

 

「はぁはぁはぁ……」

 

 やりきってご満悦なのかフランは息を切らせながら不気味に笑う。

 

「あら? とどめは刺さないの?」

 

 そこで後ろから声をかけられた。それは青と赤のツートンカラーという珍妙な服装をしている八意永琳だった。恐らく新之助を追って来たのだろう。

 小島当主は生きていた。フランは最後の一撃を寸前で逸らしていたのだ。

 

「新之助が殺すなって言った……だから殺さないだけ」

 

 永琳を見もせずに呟くように言う。

 

「……そう」

 

 フランは不満タラタラで不気味な笑みも消している。それに永琳は少し意外そうな顔をして微笑んだ。更にフランの頭に手を載せてなでてやった。

 フランがそれを恥ずかしそうに押しのけるか否かといった時、店につながる扉を蹴破って何者かが飛び込んできた。

 そのものは黒髪に赤い大きなリボンをつけ、体は紅白の巫女装束に包まれている。側頭部に祭りにでも行っていたのであろう後ともいえる、ひょっとこの仮面が張り付いている。

 

「そこまでよ!」

 

 博麗霊夢だった。騒ぎを聞きつけてやってきたのだろうか。その手にはスペルカードが握られている。

 まさか暴れているフランを取り押さえにきたのだろうか。フランは慌てて永琳の後ろへ逃げて隠れる。

 しかしそんなフランの不安をよそに霊夢はその横を走り抜けていく。

 

「これは私の怒りよ!!」

 

 どうやら狙いは小島当主だったらしい。

 

「霊符・夢想封印!」

 

ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

 

「……」

「……」

「あの時はよくも邪魔してくれたわね。あんたは地獄行きよ」

 

 あの時とは会議の時だろう。

 霊夢はそう言いながらせっかくフランが寸止めして、半殺しにしていた小島当主を瀕死にして縄で縛り上げた。

 フランはこの人物こそ常識を学ばせないといけないのではないかと考えるがはっと気付いたように永琳に振り返る。

 

「そうだ永琳! 新之助が銃で撃たれて!」

「え? また?」

「お願い! 新之助を助けて!」

 

 永琳の服を鷲掴みにし必死に懇願するフランだが永琳の顔は困惑気味だ。

 

「と言ってもねぇ……この様子じゃぁ手の打ちようが……」

「そ、そんな!」

 

 心臓を打たれて床に倒れている新之助を見下ろしながら言う。いくら永琳でも心臓を打たれては手の打ちようが無いのだろう。学校の前で狙撃されて生きていたのだって運がいいだけだったのだろう。

 しかしそんな事フランは知った事ではない。何もせずに諦めるなんて絶対にしたくないはずだ。

 

「医者なんでしょ!? 何でもいいから新之助を生き返らせてよ!!!」

 

 それはいくらなんでも無理な相談だ、と永琳はさじを投げる以外に無い。だがそれでもフランは涙ながらに叫びながら訴える。

 その悲痛な叫びに永琳は目を丸くしている。それは人間にそこまで入れ込むフランの気持ちに対してか。それほど妖怪が人間に対して一途な想いを向けることができるのかと。最初、紅魔館で嫌がって暴れていたフランとは別人だ。

 永琳はしゃがみこんでハンカチを出してフランの涙を拭ってやる。

 

「ゴメンナサイねフランさん。何か誤解を生むような事を言ったようね」

「ふぇ?」

 

 永琳はそんな間抜けな声を出すフランに信じられないことを言う。

 

「新之助さんは生きているわよ」

 

 フランは目を丸くして永琳の顔を見つめる。それは仏のように優しい笑顔。母性に溢れ安心できる包容力のある表情だ。嘘をついているとは思えない。

 フランは慌てて新之助の方を見るが新之助は動かない。

 

「あなた新之助さんを噛んだ事があるでしょう?」

「へっ……え……えと……」

 

 フランは未だ小島当主を踏んづけて遊んでいる霊夢をちらりと見る。

 

「大丈夫、誰にも言わないわよ。でもこんな状況で隠しても仕方ないと思うけど?」

 

 フランはそれに気付いたように恥ずかしそうに頷く。

 

「ふふ、最初は驚いたわよ。診療所に新之助さんが担ぎこまれてきたんだもの。その時は弾丸に心臓を貫かれてて」

 

 手の施しようが無かったが吸血鬼化していたおかげで新之助は助かったのだった。だからこんなに早く歩きまわれるようになっていたと言う事だ。

 

「だから今も生きていると思うわよ?」

 

 手の施しようが無いと言ったのは施す必要が無かっただけだった。

 フランは新之助の命を自分のせいで落としてしまったと思っていたが違っていたようだ。それどころかフランが新之助を救ったと言ってもいいだろう。

 その永琳の言葉でフランの紅の瞳が次第に涙で覆われていく。

 フランは両膝を付いて新之助を抱き寄せる。

 

「よかった……本当に……よかった……」

 

 そして今度は自分が新之助を引き寄せて強く抱きしめてやるのだった。

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