フランは成長するのか?   作:天澤星三

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第二十四話 ~死神とフラン~

 

(あんな格好して……はしたない。ちょっと注意を)

 

 もちろん霊夢と永琳も起きていた。新之助の声で起きないような愚鈍な二人ではない。

 

(まあまあ、もう少し見てましょう)

(てかいつの間に私の頭を枕代わりにしてくれちゃってるのかしら?)

(あなただって私の凝り固まった肩を枕代わりにしてるじゃない。結構痛いのよ?)

(そんなでかい胸してるからでしょ)

(あなたにはこの辛さは分からないわよ)

(分かりたくもないっての)

 

 などと小さな声で言い争いをしている二人を尻目に新之助は未だきょとんとして、何故抱きしめられているかわからないフランを開放してやる。

 開放されたフランは新之助の真意を確かめようと顔を上げると更に不可解な表情だった。

 

「何で泣いてるの?」

「え?」

 

 新之助はおそるおそる頬に手を当てる。その手が涙で濡れると、すぐになんでもないと言いながら腕で涙をこすりとる。

 涙をぬぐい、良くなった視界でフランを見れば、夏の終わりの夜には寒そうな格好で新之助の体に馬乗りになっていた。新之助の布団にもぐりこんで寝ていたフランを抱きしめるために引っ張り出してしまったのだ。

 だから新之助は布団の上に放り出されていた、元々フランに掛けられていただろう毛布を手に取る。その下からは小島当主の放った弾丸によって穴だらけになった服が出てきた。

 見るとフランの着ている下着にもちらほら穴が開いている。

 新之助は少し複雑な表情でそれを見つめてフランを毛布で優しく包んでやる。

 

「ありがと」

 

 フランはニコリと天使スマイルでお礼を言う。それに合わせて新之助も微笑む。

 しかし馬乗りになっているフランの手が弾丸を受けた新之助の胸に当たると表情が少しだけ歪み、口からはうめき声が漏れ出した。吸血鬼化しているとはいえ、完治はしていないのだろう。

 

「あ、ごめんなさい……」

「あ、ああ……いや、大丈夫だよ。それに僕が助かったのはフランちゃんが噛んでくれたおかげなんだし。逆にありがとうって言わないとね」

 

 もうお礼を言われて動揺し、人里に来た時のようにつんけんするフランではない。素直に受け入れて満面の笑みを見せてうなずいた。フランはくれると言われれば自分の欲しくないもの以外は何の躊躇もなくもらう素直な娘なのだから。

 それはそれが本来のあり方かのように無理がない笑顔。そんなお礼をもらえれば言った方もそれほどの言った甲斐があるというものだ。

 

「それで、ちょっと聞きたいんだけど、僕が気を失った後どうなったのかな?」

 

 フランは天井を仰ぎ見て小島酒蔵であった事を思い出そうとするフラン。そのしぐさも計算しているかのように可愛らしい。新之助が病み上がりだというのにだらしなく顔を緩める程。病は気から、これですこしは怪我も治るかもしれない。別の病気は絶賛進行中だろうが。

 しかしまだ幼いフランにはその説明は少し難しかったようだ。

 

「私が小島当主をぶっ飛ばしたっ」

 

 愛くるしい思考の仕草と言動のギャップを持ってフランはニカッと笑うが、その全てを端折って結果だけを言ったフランの説明に新之助は緩ませた表情を苦笑いに変えるしかない。

 それで見ていられなくなったのだろう。霊夢が永琳の制止を振り切ってでしゃばってきた。

 

「はいは~い、そこまでよ。フラン、あんたはそこから降りなさい。そんなはしたない格好して全く」

「え~」

「え~じゃないわよ。あんたにはまだ1000年早いわ」

 

 その霊夢の言葉にフランは首をかしげる。

 

「早いって何が早いの?」

「だからあんたが」

 

 そこまで言って霊夢が言葉を止める。

 

「あんたが……その……」

 

 霊夢の顔が見る見るうちに真っ赤に染まっていく。

 

「全く仕方がないわね。」

 

 と、ここで見かねた永琳が助け舟を出してやる事にしたらしい。医学に秀でた永琳なら比喩を交えて柔らかく説明してくれるだろう。と霊夢はそう思っていたのだが、どうやら違うらしい。

 

「フランさん、いい? よく聞いて。墓穴を掘るというのは今の霊夢さんみたいな事をいうのよ?」

「そっち!?」

「え? 他に何があるの?」

「だから! フランと新之助さんが……」

 

 それを見て永琳はニヤニヤ、新之助は苦笑いを、フランは首をかしげている。そして霊夢の顔は真っ赤に熟れた林檎のようだ。

 

「と、とにかくフラン! 降りて服を着なさい!」

 

 墓穴を二つ掘った霊夢は頭と尻を隠せてちょうど良いのか、隠したい想いを押し込めてフランにベッドから降りろと指示を飛ばす。

「え~……だってボロボロになっちゃったんだもん」

 

 吸血鬼とはいえやはりフランも女の子。新之助の前であんなぼろは着たくないらしい。

 フランは毛布の下にあったぼろぼろの服をジト目で見つめて言う。

 

「大島酒蔵の人たちが持ってきてくれた代えの服があるから、それを着なさい」

 

 霊夢はため息交じりに長椅子に置かれた紙袋を示唆し、もう片方の手で顔を押さえて着替える事を促す。見ると霊夢が座っていた長椅子の横に紙袋が置いてある。フランが寝ている間に従業員が気をきかせて持ってきてくれたらしい。

 

「本当!?」

 

 フランはパッと表情を明るくし、ベッドから飛び降りて中から服を取り出す。「一人で着れる?」などと茶々を入れる永琳を睨みつけながらフランは服をよたよたと着始める。

 そんな光景を口惜しそうに見つめていたところを霊夢に睨まれる新之助。霊夢が着替えるフランのカーテンとなって新之助の前に立ちはだかる。

 

「私が説明するわ」

 

 最初からいるわけではなかったのでほとんど文に聞いた事なのだが、霊夢は知っている事を、小島酒蔵であった騒ぎを説明してやる。その説明を新之助は真剣に黙って聞いていた。

 そこで着替えを終えたフランが最後の仕上げに永琳にサイドテールをくくり上げてもらう。最初自分が座って寝ていた椅子に飛び乗る。

 

「お待たせ!」

「あ、フランちゃんもう腕は大丈夫?」

 

 霊夢から聞いたフランの腕の事を心配して聞く新之助。それに「全然平気!」と白い牙を見せて笑うフラン。

 

「そっか、フランちゃんはすごいな」

「吸血鬼なら普通だよ。あ」

 

 椅子に腰掛けたフランが何か言い考えが浮かんだ様に気付いたように嬉しそうに声を上げる。

 

「そうだ!このまま新之助も吸血鬼になっちゃえばいいんだよ!」

 

 このまま放っておけば新之助は吸血鬼になれるだろう。そうなればフランは大好きな人とずっと一緒に過ごすことができる。それこそ永久と言えるような膨大な時間を共有することが出来るのだ。

 

「あはは、それはいいね……でも……太陽と一生お別れはなんだか寂しいなぁ」

「だったら私が新之助の太陽になって」

 

 と、そこでフランは言葉を切って固まってしまう。あまり乗り気でない新之助に自分が太陽になる事でその問題を解決しようと、レミリアに教えてもらった文言を並べ立てようとした。

 その時、フランの脳裏に何かが浮かんだのだ。新之助に銃を向けた時、大事な人を自分の手で殺してしまうかもしれないという時に感じた不思議な、そして妙に懐かしい感じ。

 

「どうかした?」

 

 しかし突然黙り込んでしまったフランを心配した新之助に、今まで考えていたものが頭の中から追い出されていく。それにフランはなんでもないと首を振り、更にそれをごまかすように「そうだ!」と叫ぶ。

 

「あいつ新之助の両親も殺したって言ってた!」

 

 フランは小島当主を殺さなかった。それは新之助に殺さないで欲しいと、その身を挺してまでかばうほどに懇願されたから。しかしそのせいで新之助は撃たれフランも殺されかけた。だからだろうか、フランは顔を目一杯に近づけ、新之助を睨みつける。

 

「あ、ああ……そうだね」

 

 その視線に新之助は少し体を仰け反らせてしまう。それほどにフランは怒っている。よほど止められたことが悔しかったのだろうか。

 

「全く、許せないわよね。今からもう少しお灸を据えておく?」

 

 小島当主を半殺しにした霊夢がにやりと笑って長いすの横に未だ透明になって縄で縛られている小島当主のほうをちらりと見る。

 

「じょ、冗談は辞めてくださいよ、霊夢さん……」

「でもあのくらいの妖怪ならたくさん封印してきたけど?」

「それじゃあダメなんです。また繰り返してしまうから……僕はそんな事したくないんですよ」

 

 どこかで聞いたようなそんな言葉。誰かが誰かを殺せばその仲間がまたその誰かを殺しに来るという無限地獄。いや、それは誰かがいなくなれば終わる地獄だ。またはその途中で誰かが復讐をやめれば終わる事。その辛い役を新之助は買って出た。しかしそこに待っているものは憎しみと絶望のスパイラルだ。

 新之助もさぞ思い悩んだだろう。昔あった遠い国で起きた悲劇のヴァンパイアハンターのように。

 

「だから……フランちゃんもごめんね。不完全燃焼だったかな?」

 

 未だに怒って新之助を睨むフランにすまなさそうに顔を向ける。

 

「ちがうよ! 私が怒ってるのはそんな事じゃないもん!」

「え?」

「両親は事故で死んだって新之助は私に言った!」

 

 フランの口から出てきた言葉は新之助も霊夢も予想できなかったのだろう。口をぽっかりとあけてフランを見ている。更に新之助が思い悩んでいた事、それをそんな事で片付けてしまうフラン。

 

「新之助の嘘つき!」

 

 フランはプイッとそっぽを向いてしまう。口を尖らせ頬を膨らませシリアスな内容の事など今まで聞いていなかったかのようなそのしぐさ。

 フランは不完全燃焼だから怒っていたわけではない。それは新之助に嘘をつかれてただ怒るという単純明快な事だったのだ。新之助の裏の事情などそんな事、にして。

 

「ぷっ」

 

 と不意に新之助が噴出してしまう。続けて霊夢も噴出して笑ってしまう。フランがそんな事を言うものだからそんな重要な事で悩んでいる自分が馬鹿らしくなったのだろう。そしてそんな自分勝手なフランに霊夢は笑うしかなかったのだろう。

 そんな二人にフランの顔は鳩が豆鉄砲を食らったかのようだ。

 

「な、何がおかしいのよ!」

「あんたねぇ、もうちょっと新之助さんのことも考えてあげなさいよ」

 

 霊夢は新之助を気遣いながらも未だにケタケタと笑っている。

 

「さすがはフランちゃんだ。今まで悩んでたことが馬鹿らしく思えてくるよ」

「どゆこと?」

 

 未だ鳩から進化できないフランに霊夢が笑いながら、そしてじれったそうにフランの頭に叩くように手を置く。

 

「もうっあんたが好きで好きでたまらないってことよ!」

「いたい……」

 

 そんな不平をもらすフランの頭をワシャワシャとかき回してやる霊夢。

 もう夜が明けそうで徐々に騒がしさが増してくるだろう時間。なのにこの病室はやけに騒がしい。そんな光景を永琳も楽しそうに見つめている。

 しかしそんな和やかな雰囲気も長くは続かないらしい。開け放たれた窓からこの世で、そして今この瞬間で一番見たくないものが現れてしまったのだから。

 その何者かの雰囲気に霊夢が気付き続いて永琳、フランと、そして人間である新之助さえがその気配に気付く。

 窓の枠に白装束の足袋に赤い草履を履いた足が掛かる。少し癖のある髪の毛を二つに結った女。その女の手には大きな大きな鎌が握られていた。

 

「皆さん、どうもこんばんわ」

 

 この夜に不気味に光る鎌と怪しい笑みを浮かべたその女の名は小野塚小町。死んで魂になった亡霊を迷う事のないようにあの世へいざなう死神だ。

 

「待たせたね」

 

 窓からゆっくりと、しかし堂々とした振る舞いで侵入してくるその姿は、さすがは死神と言ったところだろうか。

 死がついていても神。どこか神秘的で触れる事ができないような雰囲気をかもし出している。フランも新之助も口をぽかんと開けてその神々しい光景を見つめたまま動けない。

 そんな一瞬の内に病室にいる者を魅了した死神を霊夢は窓の外へ蹴り飛ばした。

 

「あだっ」

 

 霊夢の不意打ちキックで窓から転げ落ちる小町。霊夢は静かに窓を閉めてカーテンを閉めた。

 

「ふう、蹴りだしてやったわ」

「何がふう、だい」

 

 小町はいつの間にか霊夢の後ろに立って蹴られたところをさすっている。恐らく小町の能力、距離を操る程度の能力でこの病室までの距離を縮めてやってきたのだろう。

 

「あんた達はいつの間にか人の後ろに沸く趣味でもあるの?」

「なんだぃ人をゴキブリみたいに」

「そうね、あんたはサボテンだったわね」

「そのサボテンさんにはお引取り願いたいところだけど?」

 

 いつもサボってあちらこちらでサボの付く仇名を付けられて親しまれている小町。その小町がここにやってきた理由は一つしかない。

 

「それがそういうわけにもいかないんだよねぇ。怖いお方が睨んでるもんでね」

 

 フランも新之助も今まで小町を見たことがなかったのだろう。顔を見合わせる。それもそのはずだ。死神など見るとすればそれは死ぬ時だけだからだ。

 いまだ状況を飲み込めていない二人を見つけて、小町は怪しくニヤリと笑う。

 

「あんたがフランドール=スカーレットだね。あたいは小野塚小町」

「……何か用?」

 

 その怪しい笑顔にフランは警戒心を抱かずに入られない。短く言って小町をにらみつける。

 

「この鎌を見て何か気付かないかい?」

「……稲刈り?」

「そうそう、これをこうやってざくっさくっ……とったどおおおお! って違う!」

「つまんない」

「なっ……子供の癖に冷めてるねぇ」

 

 手痛い反応を受けた小町が視線を逸らすとそこには新之助が。

 

「おや、おかしいねぇ。あんたは寿命が尽きかけていて目をつけてたはず」

「え?」

 

 小町は新之助を目を細めてじーっと見つめている。

 

「どうせまたサボったんでしょ」

「あはは、でも増えてるからいいや」

 

 新之助は何かを感じ取ったのか、はっと表情をこわばらせる。

 寿命が増えているという言葉。そしてフランが稲刈りと言ったあの大きな鎌。

 

「もしかしてあなたは死神様!?」

「おやぁ? あんた人間にしては察しがいいねぇ。そうさ、あたいはその死神様さぁ。そしてフランドール=スカーレット!」

「へっ?」

 

 小町はそう言って指差すその指はフランの目の前に突きつけられる。死神、つまり天界と通じる者。それが今フランの目の前にいるということはつまりそういうことだ。

 フランはその死の宣告の前振りとも言えるその言葉にびくりと体をすくませた。

 ついに来る時が来たらしい。契約を破ったフランに罰が下る時が。

 小町は指差した手を広げてフランに掌を差し出す。そしてニコリ。

 

「行こうか、天界」

 

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