「じゃああたいはこいつを連れて行くよ」
笑いに笑われてキョトン顔を通り越して不満顔のフランを尻目に、小町は小島当主を縛っている縄を握る。
もちろんフランは連れて行かれることは無い。
「道中なんであんな事をしたか、たっぷりと聞いてやっからね! 覚悟しなよ!」
「馬鹿者! 速やかに連行せんか!」
上司の前で堂々とサボり宣言とはいい度胸だと当たり前のように四季から怒鳴り声が飛んでくる。
そんな渇に小町は「冗談ですよ」と笑いながら頭をぽりぽりと掻いている。それでも小町はゆっくりと小島当主の事情聴取をしながら天界へ連れて行くことだろう。
「その顔は分かっていない顔だな」
「だ、大丈夫ですよ! 速やかに連行します!」
「小町、前々からお前に――」
また長い四季による説教が始まるかと思われたその時。
「ならここで聞いていけばいいじゃない」
突如、そんな上品そうな女の声が病室に響くと、小町の頭の丁度上。空間が綺麗な曲線を描いて割れて、隙間が現れた。
それは隙間を操る妖怪、八雲紫の仕業だ。今までどこで聞いていたのか、小町と四季のやり取りにそんな提案を呟いた。
小町の頭上に空間を裂いて空いた隙間から出てきたのは紫ではなく、子供だった。ズボンをはいているので一見すると少年のようにも見えるがれっきとした少女だ。頭には小島当主と同じ触覚と緑色の髪。黒い羽を模した二又に分かれた黒いマントをまとった蛍の妖怪、リグル・ナイトバグだ。
「きゃん!」
頭上から紫の作り出した隙間を通りやって来た、というよりも落ちてきたリグルの足は的確に小町の頭を捉えていた。
可愛らしい声を上げてリグルの蹴りをもらって倒れこむ小町。
「あ、ご、ごめんなさい!」
リグルはフランも知っている。外で遊ぶようになってからすぐ出会うことになった妖怪だった。それは紅魔館の周りでよく妖精達と遊んでいたから。フランも何度か遊んだ事がある。
「リグル?」
その思いがけない身近な妖怪の登場にフランだけでなく、そこにいる皆が一様に困惑の表情を浮かべる。
幻想郷で謎めいた部分が多い紫がよもや触覚つながりというだけでわざわざリグルを連れて来た、ということは無いだろう。
それを示すように一番大きな驚きの声を上げたのは小島当主だ。
「リ、リグル!?」
「お久しぶりです。おじさま」
やはり知り合いらしい。しかも「おじさま」「リグル」と呼び合う仲。
それで幻想郷に住んでいる者もいくらか察しはついたようで若干呆れ顔だ。新之助だけが何が起こっているか理解できていないという表情。
しかし一人だけそのどちらにも当てはまらない表情をしているものがいた。それはフランだった。
リグルが先程言った言葉が原因だった。リグルは確かに「おじさま」と言った。その言葉にフランは眉をひそめてしまう。なぜリグルが来たのか等という疑問はもうフランの頭からは消えていた。代わりにあるものがフランの脳裏によぎる。
それは大昔にあった閉ざされた記憶。平和な吸血鬼の町であった悲惨な出来事。
フランはその言葉を隣にいる新之助にも聞こえないくらいの小さな声でボソボソと呟いて繰り返す。
繰り返す度、記憶の断片が脳裏をよぎっては消えていく。
「全く……お前はいつも状況をややこしくするな」
「あいつは愉快犯なのよ」
(だれもあたいの心配はしてくれないっと)
フランの異変に気付いた新之助がどうかしたのかとフランに尋ねるがフランは短く「別に……」とだけ言って顔を背けてしまう。背けた先にいた霊夢はフランの表情をばっちり捉えているが、今の事象と感情が上手く結びつかず首を傾げてしまう。更にそれに気付いた新之助がフランの表情を回りこんで確認しようとするが四季の声でそちらに注意がそがれてしまった。
「隠れてないで出て来い、八雲紫っ」
四季の視線の先には更に大きな空間が引き裂かれ、隙間ができていた。そこには上半身をというよりも肩から上を出し、隙間に腕を置いてリラックスしている金髪の女性、八雲紫の姿があった。それはまるで気持ちよさそうに風呂に入っている姿にも見えなくもない。
「当事者には全ての事情を知る権利があるわ。そうでしょう?」
「ふんっ」
四季はそのもっともらしい紫の口実を鼻で短く笑って飛ばす。
「ただこの状況を面白がっているだけだろう」
「どうかしら」
紫は扇子で表情を隠し、それ以上何も言いはしないが実際そうなのだろう。目は妖艶に細められ、扇子の裏では唇がつりあがっている。
一方、小島当主に丁寧にお辞儀をしたリグルはマントを揺らさずに振り返り、新之助に向き直る。
「どうもすみませんでした」
「え? あ、いや、えと……」
何が起こっているか分からない新之助にまた丁寧にお辞儀をする。
「リグル……すまん……もうお前に酒を送ってやる事はできなくなってしまった」
この言葉で新之助も納得がいったらしい。なぜ小島当主が自分に嫌がらせをしたのかが。
小島当主はリグルに酒を送っていたらしい。恐らく上手い酒を送るために酒蔵を大きくする予定が大島酒蔵ができた事で危うくなったのだろう。
「うん……隙間から全部聞いてた」
自分を慕ってくれる者に恥ずかしいところを見られたからか、その言葉で小島当主は顔をうつむかせ黙り込んで肩を落とす。
リグルはどこか残念そうに笑いながら小島当主を見つめている。
自分の為にこれほどのことをしてくれたことは嬉しいのだろうがその手段が手段なだけに素直に喜べないのだ。
この場でありがとうなどというほどリグルは愚かではない。しかしかける言葉も見つからない。
小町を蹴りつぶして登場したのもつかの間、二人は沈黙の海におぼれそうだ。
「それで?」
おぼれそうな二人に仕方なしと霊夢が助け舟をだす。
「あんたは何しにきたのよ?」
恐らくは紫が一方的に放り出し、その場にいる者の反応を見て楽しんでいるだけだろう。隙間から顔を出し、未だニヤついているいる紫の表情がそれを物語っている。
だからリグルは霊夢の問いに答える事ができない。リグル自身何かをしようとここへ来たわけではないのだから。
ただ、このまま黙っていると愉快犯である紫がまた何か面倒なことをしでかさないとも限らない。願わくばこのまま黙って幻想郷に帰って欲しい、と言うのが霊夢の願望だ。加えて紫を満足させて。
「こいつを何とか助けようって言うならそれは無理な話よ? それともここで暴れてみる?」
「いえ」
そんな霊夢の助け舟にリグルが乗船してくる。
「おじさまがしたことは霊夢さんにとって……人間にとって許される事ではありませんし……それに本当なら死刑のところを、こんな軽い刑で許してくれて、逆に感謝してるくらいです」
妖怪が人間を襲えば死刑、などとすれば幻想郷の妖怪はいなくなり、天界は混雑し小町はサボるにサボれず、それをストレス発散としていた四季のストレスが爆発してしまうことだろう。
だがそれを霊夢のような妖怪退治を生業としている者に見つかれば話は別だ。見つけ次第に封印し天界へ。しかしそれをせずに生かしておいてくれるのだからリグルは感謝してもしきれないだろう。
「お礼ならフランに言いなさい。私が決めた事じゃないしね」
この判決を下したのはフランだ。フランに決めろと言ったのは霊夢だが、やはりお礼を言うのならフランに言うべきだろう。
リグルは視線を移動させるが当のフランはそれに気付くと恥ずかしそうに顔を背けてしまう。
「ワシは……ワシは間違っていない……」
「ん?」
リグルがフランに感謝の言葉を投げかけるかどうかという狭い隙間。小島当主が震える声を挟み込んできた。
「この町に先に店を開いたのはワシだ! それなのに大島の奴らが酒蔵を開いた! しかもワシらよりも大きくなっていった! だから殺した! それの何が間違っているというのだ!?」
小島当主は後からできた大島酒蔵に客を持っていかれたことが気にくわなかった。だから新之助の両親を殺した。更には新之助さえも殺そうとした。それが小島当主の動機だった。
言い訳をする子供のような小島当主。滑稽で陳腐な理屈だがこんな理屈はそこら中に散らばっていて、それを火種として起こる喧嘩や戦争は未だ絶えないのだ。
「人間を殺した? だからなんだというのだ!? 妖怪が人間を殺して何が悪い!? 妖怪なんて殺し殺されが世の常だろうが!」
「なぁに子供みたいなこと言って――」
霊夢が子供の言い訳を始めた小島当主を叱りつけようと睨みつけたその視線の先に不可解な光景が見えた。。
先程、死刑の代わりに拳骨をかましたフランがリグルに向けて右掌を向けているのだ。
「じゃあ、この虫殺してみる?」
新之助の頼みで小島当主にとどめはささず、好きにしていいよと言われても殺そうとはしなかった。そのフランが今、自分の能力を行使しリグルを殺そうとしている。それに霊夢は状況がすぐには飲み込めなかったのだ。
フランは笑っている。それは冗談という明るい笑いではなく、暗く、怖気の走るような薄ら笑いだ。
紅の瞳は赤みを増して燃えているよう。
「この虫を殺したら新之助の感じた痛みが分かるでしょう? ねぇ?」
「そっ、それはっ……」
小島当主にとってリグルは大事なの妖怪なのだろう事がこれまでの会話から読み取れる。フランでもそれくらい分かる。だからフランはリグルを殺して新之助がどれだけ辛い思いをしてきたかを小島当主に重い知らせてやるというところだろう。
子供のような理屈には子供のフランの方が一枚上手らしい。
もちろんそんなフランの言葉に、小島当主は何も言えずにうなるだけ。リグルの命の心配もあるだろうがフランの冷たい笑みも恐ろしいものがある。片方の唇を吊り上げ、更に紅の目は先程よりいっそう赤く輝いているのだ。
小島当主は大事なことを忘れていた。この娘は高貴な吸血鬼である悪魔の妹だということを。
小島当主とフラン、両者の睨み合いが続く。睨み合いというよりも蛇に睨まれた蛙と蛇と言ったほうがしっくりくる。
それが期待はずれなのか、もしくはもっと面白くしてみようという愉快犯ならではの思想なのか、紫がセンスで口元を隠しながら小首を傾げる。と、また上空に隙間が現れた。
そこからでてきたのはリグルとよくつるんでいる氷妖精チルノと大妖精だった。落ちてくる場所は少し移動下にもかかわらず、またもや小町の頭上だ。
「きゃん!」
狙ってだろう、二人は交互に穴から落とされ、順番に小町の頭に落ちていく。
「絶対だめ!」
上手く小町を踏んづけながら着地したチルノは開口一番そう怒鳴った。
「また面倒なのが……」
「チルノちゃん!?」
「リグルを殺したらあたいがあんたをぶっ飛ばすからね!」
「ちょ、ちょっとチルノちゃん! 相手はあの紅魔館の妹さんなんだよ!? また殺されちゃうよ!?」
どうやらこの二人もこの先程の会話を聞いていたらしい。紫が小首を傾げたのは様子を見せていたチルノが煩わしかったからなのかもしれない。
「リグルはあたいの友達だもん! それにあたいは最強だもん!」
チルノはこの状況をよく理解してはいないだろうがフランがリグルを殺すということは理解しているらしい。そしてリグルはチルノや大妖精と友達だ。友達が殺されるのを黙ってみていられるほどチルノは馬鹿ではないらしい。
再び騒がしくなったその場を見て紫がまたクスクスと笑っている。完全な愉快犯だ。それを永琳と霊夢は呆れ顔で、四季に至っては睨んでいる。
キュッ
といつの間にかフランの右手がチルノに向かって握られていた。
ピチューン!
チルノは小さな氷の粒になってコトリと床に落ちたのだった。この間わずか九秒。
「だから言ったのに……」
「ああ、また……」
「ふ、フランちゃん!?」
そんな光景を見て大妖精とリグルは呆れている。
フランと遊んでいる時はいつもそうなってしまうのだ。冗談でチルノを氷に変えて遊んでいる。
しかし人間である新之助は驚かないわけにはいかなかった。フランの能力はあらゆるものを破壊する。だからチルノが氷になった時、死んでしまったと思ったのだろう。
「ああ、大丈夫よ新之助さん。すぐ元に戻るから」
「え? あ、そう……ですか……」
新之助の心配は霊夢のアシストですぐにとかれたが、フランの方を見ると心配そうに新之助の方を横目で見ている。幻想郷の冗談は人間には少々酷すぎる。だからそれで勘違いされ、もしも嫌われたら、という事を心配でもしていたのだろう。
「んで? どうすんのさ? その虫を殺すのか殺さないのか、それでまたこのちびっ子に殺されたい奴らが来てあたいを踏んづけるのか」
センスで口を隠してクスクスと笑っている紫とフランを交互に睨んで小町が抗議する。起き上がるのも面倒なのか、頬杖を着いて不満げだ。
「安心して、もういないわ」
「あそう……で? ちびっ子はその虫を殺すのかい? 殺さないのかい?」
その言葉にフランはプイッと顔を背けて口を尖らせる。そして「言ってみただけ」と一言だけ。
どうやら小島当主よりフランのほうが大人だったらしい。リグルを殺したところで何も変わらない。更にはチルノのようなリグルと友達の妖怪や妖精に付きまとわれるだけだ。
そしてそのそっぽを向いた視線の先には新之助の姿がある。わざとそちらを向いたのだろう、新之助はそんなフランを見て楽しそうに笑っている。しかしフランはそれには微笑み返さず口を尖らせたまま恥ずかしそうにうつむいてしまった。そんな仕草が可愛かったのだろう、新之助がまたフランの頭を撫でてやる。当然その手は振り払われはしない。
「そうかい。じゃああたいはこいつを連れてくよ」
もうフランに睨まれてぐぅの音もでない小島当主の縄を握って更にリグルも連れて行くと言い出す小町。リグルは当然戸惑った。天界に行く時は死ぬ時なのだ。
「ああ、大丈夫。天界に行く前に降ろしてあげっからさ。こいつとも話したいだろ?」
会話を楽しむなら二人より三人、三人より四人だ。
「ついでにそこの氷と妖精も乗ってきな。幻想郷通るし」
リグルと大妖精は仲良く「はい!」返事する。
「それとキックの分はきっちり返すからね」
「「え……」」
「冗談だよ」
小町達が窓の外に出るとそこには不思議なことに木造の、年季の入った船が宙に浮いていた。その船にそれぞれ乗り込んでいく。
「よぉし! 船がでるぞおお!」
外を見ればもう明るくなりかけている。
少し白み始めの空を小町の出発の合図と共に船がゆっくりと進んでいく。
「朝から元気ね……」
「後で拳骨、だな」
ひと段落着いたところで永琳は新之助にべッドで横になる事を促す。まだ完全に傷が癒えたわけではない。しかし吸血鬼化している今なら多少の無茶なら大丈夫な気もするが。
「さぁて後は朝までフランを見張って帰るってとこかしら~」
「御苦労だったな、霊夢」
一ヶ月間、しかし最後の詰めを見誤った霊夢。四季はそんな霊夢にねぎらいの言葉をかけてやる。
「ふん、あんたもこんな所まで御苦労な事ね」
ああいえばこういう巫女。最後の最後で醜態をさらした自分にそんな事言ってくれるなと、ねぎらいの言葉を受け流して憎まれ口のカウンターだ。
「なぁに、予想外に面白いものが見れたから私は満足だ」
四季はそのカウンターも難なくかわし、一件落着と終止符を打つようにうなずいた。
(暇人め)
霊夢はそんな事を思いながら、ん~っと体を伸ばす。夜明けまであと一時間というところだろうか。先程言った通り、その間ずっとフランを見張っているつもりらしい。
「せっかくの最後なんだから二人きりにしてあげたら?」
永琳が新之助とフランの方を見て気を利かせてやる。新之助は少し照れながらだが永琳に目で感謝の視線を送る。
「甘いわね。フランが暴れたりしたら危ないでしょ?」
「そんなことしないもん!」
「はいはい」
「何がはいはいかっ」と噛み付くフランを片手で制しながら霊夢はあくびを一つ。
このまま日が昇るのを見てからフランを幻想郷に帰して計画終了だ。しかし最後の最後くらい二人でゆっくりさせてやりたいと言うのが永琳の考えだ。そこで永琳が仕掛ける事にした。
「そういえば、小島酒蔵の当主は妖怪だったのよね?」
突如永琳が何かを思い出すように天井を見ながらそんな事を言う。
「ええ、そうよ。何よ、突然?」
「人里にずっといたのよね?」
「ええ、そうね」
「ずーっと、よね」
「そう……ね……」
霊夢は何かに気付いたらしい。段々霊夢の顔色が変わっていく。
永琳が何を言いたいか、そして霊夢に管理を任せている紫がそれに気付けばどうなるか。
「何処かのたいそうな神社のたいそうな巫女さんはずーっと気づかなかったのかしら?」
「それはっ、その……」
そしてとどめの一撃である。
妖怪から人里を守る役目である博麗神社の巫女、博麗霊夢は人里に潜んでいた妖怪にずっと気付いていなかった。その悪行にさえ気付きもせずに。
「なるほど」
と四季も意地悪く笑いながらそんな事を言う。
どうやら霊夢も年貢の納め時のようだ。だが最後に巫女らしからぬ悪あがきに出る。
「これは異変! 異変よ! そうよっ異変に違いないわ!」
無様な悪足掻きに永琳と四季、フランや新之助まで目を細め冷たい視線を送る。更に無駄な足掻きとばかりに霊夢の背後に隙間が現れる。
「私が気付かなかったのもあいつの能力が原因に違いないわ! そう、あいつの能力はありとあらゆるものから気配を――」
「ちょっと来なさい」
霊夢の背後から出てきた二本の腕が霊夢の脇をすり抜けてささやかな胸を鷲づかみ、更に隙間へ引きずり込もうとする。
「ひゃっ! ちょっ! 紫! あんたどこ掴んでるのよ!?」
「これから修行タイムよ。その腐った精神を鍛えなおしてあげる」
「いやああああぁぁぁぁぁ!」
霊夢の上半身が飲み込まれたところで四季が永琳の視線をじっと受けていることに気付く。
「おっとそうだった、私も一つ失念していた。八雲紫、先程の件でお前にすこし言いたい事がある」
芝居か本心かは分からないが先程の紫の愉快犯ぶりが目に余った事を口実にこの場から立ち去るつもりらしい。
四季は閻魔スマイルをもって霊夢の足を掴み、一緒に隙間へ向かう。恐らく四季の説教という災厄が霊夢と紫に降り注ぐに違いない。
しかし、そんな事、愉快犯である紫にはたまった事ではない。
「れ、霊夢! その御方を……け、蹴り飛ばしなさい!」
何を思ったのか紫はそんな事を抜かした。前に四季の説教でも受けたことがあるのだろうか。紫の慌てようからしてよっぽど堪えた様子。
今すぐ隙間を閉じたいだろう。しかし今隙間を閉じたら霊夢が真っ二つになってしまう。閉じることは出来ない。
紫の慌てっぷりに霊夢もニヤついている。
「ふんっ毒を食らわば皿まで! あんたも道連れよ。ざまぁ」
「修行を半分にしてあげる」
「……」
「あたっ、いたたた、いたいいたい! こら霊夢!」
「ごめんね四季! 悲しいけどこれって戦争なのよね!」
「貴様ら! 二人とも黒だ真っ黒だ! 覚悟すしろ!」
四季は隙間へ霊夢と共に自ら突っ込んでいった。
「全く、騒がしい連中ね」
「あはは……お見事です」
先程まで騒がしかった部屋には永琳とフランと新之助だけ。外からは小鳥のさえずりがちらほらと聞こえてくる。
「じゃあ私もそろそろ様子を見に行ってくるわ」
様子とは患者の様子でも見に行くのだろう。
永琳は軽く背伸びをし、すたすたと出口の方へ向かっていく。そして外に出て扉を閉める際、隙間から顔を出してフランの名前を呼んだ。
「フランさん」
「何?」
「がんばって」
永琳は妖艶に笑ってそんな事を言う。それにはフランは首をかしげる事しかできない。
「何を?」
「ふふ、冗談よ」
だがフランはその意味を知る由もないだろう。