フランは成長するのか?   作:天澤星三

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第三十四話 ~宴の始まり~

 

 

 遅れに遅れた宴会準備は魔理沙を隔離することでようやく完了した。

 

 辺りはもう薄暗くなり、涼しい夜風が奏でる風鈴の音はとても風情がある。更に神社の周りで鳴く虫や蛙達の鳴き声もあいまってそこはさながら夏の終わりのオーケストラ会場のようだ。

 そして風鈴の奏者は手が何本もあるらしい。未だ寝ているフランの頬を撫で、心地よい寝息を奏でている。

 それは少しでも演奏の仕方を間違えればたちどころに壊れてしまいそうな繊細な天使の楽器。

 しかしその楽器は繊細すぎたらしい。ついに奏者の集中力が切れ心地よい寝息が消えた。代わりに寝ぼけた音色が聞こえてくる。

 

「ん……にゃ……」

 

 そんな楽器の異変にいち早く気付いたのはすぐ傍に座っていた魔理沙だった。

 

「お、やっと起きたかフラン」

「ん……まり……さ?」

 

 フランが目を開けると、そこには自分の顔を覗き込む魔理沙がいた。

 何故魔理沙がフランの近くにいたのか。

 実は魔理沙は霊夢に命令されてフランの見張りをしていた。前のスイカバーの件でこっぴどく叱られた魔理沙は渋々その命令を受けてずっとフランの傍に座っていたのだ。

 魔理沙に下された命令はこうだ。

 天使の寝顔を眺めるためにサボるメイドを追い払うこと。メイドである咲夜がサボらなければ準備はかなり早くなるというもの。

 更には隙を突いて撮影しようとする、宴会の準備の邪魔になるパパラッチも追い払える。そして魔理沙の邪魔もない。これにより宴会の準備は滞りなく進められるようになった。

 しかし子供の寝顔になど興味のない魔理沙は不満タラタラだった。だからフランの寝顔にペンで悪戯をしようとしたのだが、そのたびに頭に刺さるナイフが数を増していく。だからので書くことを諦め、ずっと傍に座っていたのだ。

 フランが体を起こすと掛けられた毛布がずれ落ちて衣擦れの音がする。いつの間にかかけられていたそれがずり落ちていくのをフランは眠り眼で追う。

 

「ん?」

 

 周りがなんだか騒がしい。フランは周りを見渡すと、そこには信じられないような光景が広がっていた。

 神社の広間には長机が置かれ、その上には豪華な料理がずらりと並べられている。それは咲夜が調理した、フランの好みに合わせて作られた特製の料理だ。

 しかしフランが信じられないのはそんな事ではない。夏の風物詩の風鈴の音、秋の風物詩の虫の音、その音がかき消されそうなほどに周りにいる者たちが騒いでいたからだ。

 どうやらフランは眠りすぎたらしい。フランの起床を待ちきれなく、皆先に宴会を始めてしまっていたのだ。

 

「え?」

 

 主役であるフランを差し置いて皆酒を飲み、料理を食べながらがやがやと話をしている。しかも大分出来上がっているようで顔を赤くし、従者組みは上司への愚痴をタラタラとこぼしている。

 

「私はほんの少し目を閉じて瞑想していただけなんです……でも咲夜さんったら……咲夜さんったら! 私の頭にナイフを何本も何本も突き立てていたんですよ!? 信じられますか!? しかも私が目が覚めた時、目の前にいたんです。私の姿が映し出された鏡を持って、にこやかに「ライオン」って言うんですよ!?」

「瞑想か~あたいも前使ったなぁ~。拳骨が返ってきたけどさぁ。二発も同じところに打って鏡餅とかいうんだよ。まいっちまうよねぇ」

「幽々子様なんて自分が太ったのを私が作る料理のせいにするんですよ! 酷すぎますよ! 脂肪切断してやろうかと思いましたよ!」

「私は実験台にされかけた事があります。ゴハンにひそかに入れられた薬が激薬で髪の毛がうどんになった事が……師匠はうどん毛ってにこやかに笑ってました……」

 

 永琳の従者である鈴仙・優曇華院・因幡、兎の耳を頭に引っ付けた少女。どうやら永琳の指示で宴会の準備を手伝いに来たようだ。そしてそのまま居座っているのだろう。

 その愚痴の的になっている上司である年長組、四季と紫、幽々子に永琳は麻雀を始めてしまっている。

 

「また私の勝ちだな」

「さすがお上手です四季様」

「もう歯が立たないわねぇ」

「そうですね」

 

 四季が勝ったもののなにやら不満げだ。負けたら負けたで酔いに任せて説教でもすると踏んでいるのだろう。どうやらこれは接待麻雀らしい。わざと負けて四季の説教をさせまいとしている。

 永琳はあまり乗り気ではない。可愛そうな事に数あわせで無理やりいれられたのだ。

 これは恐らく紫と幽々子の策略だろうがどうやら四季にはお見通しだったようだ。

 

「八百長などやるんじゃない! 私はこういうのが最も嫌いなのだ!」

 

 不満を覚えた四季はこのままではいくまいとどなりちらす。それもそうだろう。その八百長やなんだと不正をしているものを裁く身なのだ。飲酒していることもあってその声は普段よりも大きい。

 

「はぁ……だから言ったじゃないですか。こういうことになると」

 

 紫と幽々子は観念したのか、俯いて肩を落としてシュンとしている。ここからまた長い説教がはじまるのかと。

 

「確かにこうなる事も分かる。お前達が私に遠慮しているのだな。それに気付かなかった私の配慮のなさがこのような事を引き起こした原因だったかもしれない」

 

 この言葉に紫と幽々子は光明を見たのかパッと顔を明るくし取り繕うように矢継ぎ早に言葉をつむぐ。

 

「そ、そうですとも四季様! 私達は無礼があってはいけないと思って……ね!? 幽々子!」

「そ、そうよぉ、全部四季様が悪いのよぉ」

「お馬鹿っ」

 

 四季は幽々子のその言葉に紫と幽々子を睨みつける。

 

「八意永琳、この二人をどう思う」

「フランさんの教師としてご指導願いたいと思います」

「教師?」

「ええ、ただし反面教師としてですが」

「悪影響を及ぼすだけだと思うがな」

「ごもっともです」

 

 ぬか喜びの後、肩をすくませる二人だがここで四季が新たな提案をする。

 

「おほぉん! このままでは私もお前達も楽しめない、というわけで一つ罰ゲームを決めようじゃないか!」

「罰ゲーム?」

(また変な事に……)

「何かしらぁ?面白そう」

「負けたものが衣服を脱ぐ! これでは負け放題できないだろう!」

 

 と普段の四季からは想像できないほど大声を上げて笑っている。酒はここまで人を変えてしまうようだ。

 

「ここは宴の席だ。負けたからといって説教などと無粋な事はしない。無礼講でいこうじゃないか」

「よろしいので?」

「ああ。本気でかかってくるがいい」

「なら全力で行くわよぉ」

「ふふ、いいわ、本気の麻雀……面白い、実に面白い」

「仕方がないわね……なら私も(隙間をつかって)いかせてもらうわ……全力で(いかさまを)!」

 

 等と勝手に熱くなっている。宴会で麻雀などどうかと思うがそれはそれで楽しそうだ。

 しかしそんな光景が楽しそうであればあるほどフランの怒りは大きくなっていく。

 少しは自重し主役が起きるまで食べ物に手をつけずに待っているのが普通だろうと、子供の思考回路のフランでもそう思う。

 今まで寝ていたとはいえ主役であるフランは蚊帳の外。これにはさすがのフランも堪忍袋の緒が切れるというもの。

 

 

「魔理沙!」

 

 とすぐ傍にいる魔理沙に行き場のない怒りの矛先を向けて睨みつける。

 

「主役は私っ……なの……に……」

 

 しかしフランが非難の的にしようとした魔理沙だが、その的である魔理沙の手には骨付きのチキンが握られていた。

 

「え、あ、ああ……いや……これはその」

 

 魔理沙は急いで手に持っていた骨付きチキンを後ろ手に隠すがもう遅い。怒りに震えていたフランは毛布を思いっきり握りそして

 

「ううう……不貞寝してやる!!」

 

 そう一言言ってまた毛布を被ってしまった。

 

 しかしずっとフランが起きるのを待ち、騒ぐことの出来なかった魔理沙はたまったものではない。

 

「おいおい! 起きろよフラン! 主役だろ!」

「やだっ!」

「やだっ! じゃねぇぜ! ほら、これでもくって機嫌直せよ」

 

 言って魔理沙は自分の手に持っていたチキンをフランのへの字に曲がった口にねじ込んだ。飴とは違い甘くはない。そして寝起きで肉など、胃がもたれて仕方ないだろう。

 

「んー! んー!」

「ほらほら、早く起きろ~胃にもたれるぞ~」

 

 魔理沙はフランの首に手を回して捕らえ、フランが肉を吐き出さないように手で口を塞いでいる。

 そして不意に風を切る音と共に魔理沙に向かって光る何かが飛んでくる。

 

「おわっ」

「妹様に何しくさりやがってるの!? 魔理沙!」

 

 丁度料理を持ってきていた咲夜がフランに意地悪する魔理沙を見つけて投げたナイフだった。しかしさすが魔理沙というべきか、紙一重でかわしている。

 

「お前こそどういうつもりだ! こんな場所でナイフなんて投げるんじゃねえぜ!」

「妹様への暴行許すまじ!」

「どうでもいいけどフラン首が絞まって窒息しそうよ?」

 

 レミリアはもう起きていたらしい。そしてやはりお嬢様でカリスマの持ち主だ。ユラユラと波打つワインが入ったグラスを手にしている姿はとても堂に入っている。

 

「どうでもいいけどレミリア、頭に何か刺さってるぜ?」

 

 優雅にワイングラスを持っているレミリアの額には先程咲夜が投げたナイフが突き刺さっていた。

 

「どっかの駄・目イドがこの狭い場所でナイフを投げるからよ」

「も、申し訳ありませんお嬢様!」

 

 どうでもいいがフランの首はいまだ魔理沙に掴まれている。しかも魔理沙が咲夜のナイフをそのまま、更にすばやく避けたせいでより一層絞まってしまっている。意識がもうないのかフランの足はブラブラと空中散歩だ。

 レミリアの頭に刺さったナイフを咲夜が抜き取る間に魔理沙は「落ちた」という名の不貞寝をしたフランを起こしにかかる。

 

「おいフラン! 起きろ!」

 

 魔理沙は何度かフランの頬をパンパンと軽く叩いてみるが起きる気配がない。それを見かねたパチュリーが残念そうに突っ込む。

 

「完全に落ちてるわね」

「お、落ちてるなんて悪い冗談はよせよ、これはただ不貞寝してるんだぜ?」

「自覚症状がある分まだましかしら」

「わ、私は落としてなんかないぜ、これは不貞寝だ、不貞寝」

「全く……宴会はいつ始まるのかしら」

 

 パチュリーは不満そうにジト目でフランをゆっくり寝かせる魔理沙を見る。

 

「よ、よし、じゃあキスをしてみよう。どっかの童話でキスで目覚めるってのを見た事がある」

「へ?」

「ほらフラン~目を覚まさないとキスしちゃうぜ~」

 

 と魔理沙は眠っているフランの唇に自分の唇を近づけようとする。両手をフランの顔の横に突いてゆっくりと着実にフランの唇にに近づいていく魔理沙。

 するとそこへ足音が近づいてくる。

 それは紅白の巫女服に身を包んだ霊夢だった。両手には料理が乗ったお皿を載せている。咲夜に続き、霊夢もまた料理を運んできていたようだ。

 

「魔理沙、冗談でもそういうことは止めてよね」

「あ? なんでだよ? 私はフランを起こそうと――」

「起こすのはいいんだけど……また別の人が眠っちゃいそうだから」

 

 霊夢は頭痛がしそうなほど顔をしかめ、ため息をつく。

 

「別の人?」

 

 霊夢は両手に料理を持っているので魔理沙の背後を顎でしゃくって示す。そこにはいつもジト目の目を見開き、口を大きく開けてプルプル震えながら絶句していたパチュリーがいた。

 

「というか気を失う……というか」

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

宴会

 

 

「さあ始まりましたフラン帰宅の宴!」

 

 気絶したフランをどうにか起こし、甘い物を与え、幾分か機嫌をもどしていよいよ宴会芸が始まった。司会進行をするのはどうやら魔理沙らしい。いつの間にか用意された舞台の中央に立ち、「ニトリ製」と書かれたマイクを手に声を張り上げている。

 

「変なネーミング」

 

 どうにか目覚めのキスを阻止したパチュリーも気を取り直し早速魔理沙にくって掛かる。

 

「こまけぇことはいいんだよ! さあ料理も酒も一杯用意した! お前のために用意したんだ! じゃんじゃん食えよフラン!」

「皆もう食べてたけどね~」

「料理作ったのはほぼ私だけどね~」

「あんたは邪魔しかしなかったしね~」

「フランを落としちゃうしね~」

「あたいったら最強ね~」

「うるせー! 今日はめでたい日なんだ! 盛り上がっていこうぜ!」

 

 未だ不満な表情を見せるフランを筆頭に咲夜、霊夢、レミリアが畳み掛けるように魔理沙を攻める。

 

「と、言うわけでこれから宴会芸を始めようと思う! 司会進行は幻想郷一の美少女でありながら魔法少女でもある非の打ち所がない憎い女の――」

「とっとと進めなよ微少女!」

「そんなのいらない! それに美少女で魔法少女は私なんだから!」

「ひっこめブスー!」

「いや~合いの手ありがとうございますっ! 合いの手をくれたてめぇらにマスタースパーク!」

「きゃー!」

「いやー!」

ぴちゅーん!

「え~まず初めはエントリーナンバー一番! 紅魔館のゲートキーバーによる太極……け……ん?……皆さんしばしお待ちを~」

 

 魔理沙はそう言って幕が下ろされている舞台裏にそそくさと入って行ってしまう。

 幕の裏に隠れて準備していた美鈴が何事かというような表情で魔理沙を出迎える。しかし魔理沙は美鈴以上に何事かという表情で美鈴を見つめている。

 

「お前本気か?」

「え? 何がです?」

「出し物だよ出し物! 太極拳なんかやった時にゃあお前、会場は静寂の嵐だぜ!」

「せ、静寂の嵐? え、えと……どういういみ……いや、しかし、私はこれしかなくってですね……」

 

 美鈴は魔理沙の戯言など考えるだけ無駄なのでそれについての思考を止め、今自分にはこれしか芸が無い事を申し訳なさそうに頭をかきながら、照れ笑いしながら魔理沙に告げる。

 

「私にいい考えがあるぜ」

 

 魔理沙は顔をにやつかせ美鈴にある芸を提案しようとする。

 

「いえ、結構です」

 

 美鈴は魔理沙の提案も聞かずに拒否する。それもそのはず、幻想郷のトラブルメーカーである魔理沙なんかの言う事を聞いていたら命がいくつあっても足りはしない。それはいつもありとあらゆる罠を張ってそそのかし、紅魔館へ進入される美鈴ならではの考えだ。 だがそんな事で引く魔理沙ではないからトラブルメーカーの異名を持つのだ。

 

「そうか。仕方ないな。絶対受けると思ってお前のためだけに用意したんだけどな」

「ふ、その手はくいませんよ。あなたに何度騙されてきたことか」

 

 美鈴は今までに何度か魔理沙に騙された事がある。昼間の霊夢とのスイカバー事件も然りだ。魔理沙の悪戯は少し度が過ぎている。 だから美鈴はいつも以上に頑なに魔理沙の提案を拒んでいるのだ。

 

「はは、いや、今日はフランの宴だからな。台無しにしちゃ不味いと思っただけなんだ。ただそれだけなんだ」

「そうですか。じゃあ私の太極拳を披露して会場をワッと盛り上げて見せましょう」

 

 今度は情けを持って罠をかけに来たらしい。フランの為と最もな大義名分を語り美鈴を罠に嵌めようというのだろう。

 しかしこれも昼間使った手。罠は使えば使うほど効果が薄くなる。それを明示するように美鈴はさらりと受け流す。

 

「そっ……か。分かった、じゃあアフターケアを考えておくぜ」

「失敗する前提ですか?」

「まあまあ、人生これからだ、次があるぜ?」

「ええ……え? えええええ!? 人生にかかわるんですか!? それに私また何もやってないんですけどぉ!? 何で失敗した事になっちゃってるんですか!? きっと成功しますって!」

「はぁ、そう……だな。まあ元気出せよ、な?」

「お前が元気出せよ! 司会者なら立派に芸人を送り出すのが仕事でしょう!」

「ああ、元気で暮らせよ。あの世でな」

「私死ぬんですか!? 失敗したら死ぬんですか!?」

「グッドラック」

「ぐっどらっくじゃねぇし!」

「ほら、せめてもの手向けだ」

「ちょ! 花言葉はどれもネガティブなヒヤシンスにマリーゴールド、ムスカリまで!? てかなんで持ってるんですか!?」

「よく知ってるな、このネガティブフラワーズの名を。大丈夫骨は拾ってやるぜ」

「な、なんでこんな事で死なないといけないんですか!」

「こんな事……だと?」

「へ?」

「大馬鹿野郎が!」

「ぐはぁ!?」

 

 魔理沙は思いっきり美鈴の顎に強烈なアッパーをお見舞いした。

 

「どんな些細な事でも全力でやる! それが芸人魂なんだよ! スポ魂なんだよ!!」

「ぐっ……ス、スポ魂?」

「偉人は言った。何故ベストを尽くさないのか、と」

「な、なるほど……」

 

 今度は肉体派の美鈴にスポ魂で罠を張りに来たらしい。そしてこれが功を奏したようだ。魔理沙による数多の罠の応酬により美鈴は罠に落ちた。

 

「魔理沙さん! ぜひ私にご教授下さい! あとメリケンサックで殴るのは勘弁して下さい」

「よろしい、耳をかすがよいぜ。あとメリケンサックは洒落だ」

「洒落になってないです……」

 

 

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