フランは成長するのか?   作:天澤星三

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第三十六話 ~宴会芸 EX~

 

 

 古より、鬼とは恐怖、悪の象徴であり、また鬼才、鬼神、鬼嫁など様々な強さの象徴としても使われている。

 鬼の形相と比喩されるように世にも恐ろしく、しわが隆起し、でこぼことした顔、頭には二本の角に根元には巻き毛の髪が生え、更にその屈強な体には虎の毛皮を巻いている、というのが相場である。

 しかし博霊神社にやってきた鬼は様相が違う。湾曲してはいるが長く、立派な二本の角。髪は艶やかなエメラルドに染まったロングのストレート。体には虎柄ではなく藍色の衣服を纏い、その衣服で包み込まれた体はお世辞にも屈強とは言えない華奢な体つきだ。更に鬼の形相という表現とは程遠い聡明な顔立ちをしている。鬼というよりも女神の方がしっくりくる。

 この少女、上白沢慧音は歴史を操る能力を持つ。その正体は人間であり獣でもある半人半獣という類の妖怪だ。しかし普段は持ち前の知識を生かし子供達を前に金棒ではなく、教鞭を手に取っている変わった妖怪だ。

 

「来たわね」

 

 と、不意に寝ているはずの霊夢の声が聞こえる。

 霊夢にいましたが落書きをしたレミリアや魔理沙がびくついて霊夢を見ると寝ぼけ眼と小さく口が開かれていることが確認できる。 月明かりで照らされた霊夢の横顔はとても妖艶で、更に寝起きの細められた目と長いまつ毛がそれに拍車をかける。ゆっくりと起き上がる様もまた女神のようだ。

 落書きがなければ。

 

「霊夢!? 起きてたのか!?」

「慧音の妖気を感じたのよ」

 

 と、一つあくびをし、涙を滲ませながら面倒くさそうに答える。

 

「へ、へ~、寝ていても気付くなんて霊夢は天才だな」

 

 また魔理沙の安いよいしょが飛び出してきたので霊夢は更に面倒くさそうにいう。

 

「だいたい、上級巫女は寝ていてもいなくても周りで何が起きているかくらい、瞬時に分かるものなのよ」

「そ、そうか……そう……だよな、ぷっ……くくっ、やっぱ上級……ふふっ、巫女だもんな」

 

 言えば言うほど泥沼にはまっていく霊夢。これだけの落書きを盛大に浴びてよくそれだけの文句が言えるものである。しかし霊夢自身、気付いてはいないのではまっているのは魔理沙とその周りだ。笑いというつぼにみるみるうちにはまっていく。魔理沙の限界が来るのもそう遠くはない。

 魔理沙は思わず近くにいた小町の胸という避難場所に飛び込んだ。

 

「ま、魔理沙!?」

「私はどうしたらいい!? どうしたらいいんだ! 小町!」

「し、知らないよ……」

 

 魔理沙は小町の胸で泣いた。ただしそれは笑いながら。そしてその後ろではパチュリーが絶句しているのは言うまでもない。

 

「霊夢、あたいの脇にキスをしなよ! って言ってみなさいよ」

 

 と笑いを押さえきれない魔理沙に追い討ちをかけるように咲夜がそんなことを言う。魔理沙とは違い咲夜は冷静だ。しかしまじめな顔でそんなことを言うので魔理沙は限界を突破して小町の胸に盛大に息を吐き出して大笑いしてしまう。

 

「はぁ?何で私がそんなこと、それにこの神聖な脇を触らせるわけないでしょ」

 

 自分の脇に相当な自信を持っているのだろう。他称脇巫女は自信満々にそう言い放ちあまつさえ腕を上げて脇を見せ付ける始末だ。おでこに「脇」と落書きされた顔で。

 だが咲夜はそれを狙っていた。ニヤリと一つ忍んで笑う。

 

「はっ! あなたの脇にキスなんかしたいと思う人なんていると思っているの!?」

「む」

 

 その自信満々に脇を見せ付ける霊夢の逆を突いて攻め入る咲夜。

 

「そんなの、こちらから願い下げだって言ってるのよ! おーっほっほっほっほ!」

「ひ、一人くらいいるはずよ!」

「そんな物好きいたら見てみた――」

 

 咲夜は何かにスカートの裾を引っ張られる。これから更に霊夢を思いっきりなじってやろうと思っていた咲夜はうざったそうにその主を見る。

 咲夜は無視したかったのだがそれは出来なかった。なぜなら他ならぬ咲夜の主であるレミリアだったからだ。

 

「咲夜! 咲夜! どっちの脇にキスをすればいいの!? 脇!? それともおでこ!?」

「ぶふっ……やめろレミリア!」

「いたわね……意外と身近に」

「おぜう……」

「あややー! 霊夢さんの寝起きの顔かっこ笑いももらっちゃいますね!」

 

 文はそう言って楽しそうに霊夢の落書きされた顔をカシャカシャと容赦なく撮る。流石は記者というところか、ネタにいちいち反応してはいられないのだろう。霊夢の顔の落書きに表情を少しも変えずに写真をとる。

 

「それにしても満月の夜になると頭にそんなものが生えてくるのね」

 

 霊夢が立ち上がり、軽く背伸びをしながら慧音にそんなことを言う。そんな物とは恐らく慧音の頭についている湾曲した角のことだろう。

 

「ああ、妖力があふれ出してきて押さえきれなくなってどうしてもな。それより霊夢」

「ん?」

「お前も満月の夜になるとそんなものを顔につけるのか?」

「そんなものって、何?」

「ほら、鏡」

 

 慧音は腰に手を当て、ため息をつく。そしてもう片方の手には慧音の手鏡が霊夢に向けられている。そこに映し出されたものは顔に書かれた落書きと、その落書きで汚れたキャンバスが怒りで歪んでいく様だった。

 

「神聖なる巫女がだらしがないと思わないか?」

 

 慧音が教師なら霊夢は生徒だろう。身だしなみを整えろと生徒を説教する。

 

「……どこの……だれかしらねぇ、一人は親切丁寧に名前を書いて下さっているみたいだけど……ね」

「こ、粉バナナっ……」

「後はだれかしらねぇ」

 

 名前を書いてしまったレミリアはもうどうしようもない。

 他の当事者である魔理沙は小町の胸で笑いではなく恐怖でプルプルと震え、咲夜はそっぽを向いて目を瞑って澄まし顔だ。これでは霊夢はレミリア以外の犯人を捜すことは出来ないだろう。

 

「あらそう。まあいいわ、名乗り出ないならこちらから出向くまでよ」

 

 霊夢は切り離されている袖から何か札のようなものをごそごそと探り、取り出した。

 

そして

 

『帰符・人を呪わば穴一つ』

 

 と一言、まるで呪文のように言い、ゆっくりと怪しい笑みを浮かべる、と同時にそのスペルカードで顔を撫でる。すると不思議なことに撫でると同時に霊夢の顔から落書きがスーッと消えていく。

 更にはレミリア、咲夜の顔に異変が起こる。

 

「へ!?」

「あら?」

 

 人を呪わば穴一つ。

 つまり呪った本人だけが地獄という名の穴に落ちろ、という霊夢らしい呪い返しのスペルカードだった。したがって霊夢の顔にかかれた、「レミリア命」・「脇」・「貧乳」という文字がその書いた本人の顔に返されたのだ。

 レミリアは自分の顔に「レミリア命」という文字が浮かび上がっている。これではまるでナルシストだ。

 更にそんなレミリアにフランが追い討ちをかける。

 

「ぷっ、おねぇさまって自分大好きなんだね」

「……」

 

 天使の笑顔で悪魔のような一言を言うフランは諸説ある二つ名の一つ、その通りの鬼畜娘だった。

 そして霊夢の頬にあろう事か「貧乳」と書いたメイドはというと。

 

「何よ、何なの!? 私の顔に何か付いてるっての!?」

「え、ええ……まあ」

「どこ見てんのよ!」

 

 霊夢に逆ギレしていた。

 

「あれ? 魔理沙。額に脇って書かれてないな」

 

 魔理沙の手にはわら人形が。

 

「ふふ、私はこれ持っているからな。アリスにもらったんだぜ」

「へぇ、でもそれって誰かに呪いを移すやつだろ? 一体誰……に」

 

 小町が後ろを振り向くと呪いを移された対象が霊夢にアイアンクローされていた。

 

「ぬ、濡れ衣です……」

「犯人は皆そういうのよ、美鈴」

「霊夢、霊夢! 美鈴じゃないよ永眠だよ!」

「痛いです……心が」

 

 泣きっ面に蜂とはまさにこのことである。

 

「いや~本当は咲夜の宴会芸回避のためだったんだが、まさかこんな所で役に立つとはなぁ。助かったぜ」

「鬼だ」

 

 パチュリー、フラン以外の紅魔館の住人は頭にこぶを作られ、霊夢に説教されている。咲夜はこぶも説教も免れたが、それが一番きいたようだ。

 

「ねえねえ! これって本物!? 本物の角!?」

 

 霊夢の説教で暇をもてあました好奇心旺盛なフランは珍客が来たという事で興味津々だ。慧音の近くに歩み寄りちょっかいをかけていた。

 

「ん? ああ、そうだ。本物だよ」

「うわ~かっこいいな~」

 

 慧音は少し戸惑いつつも見た目は子供のフランだ。子供とはいつも接しているため慣れている事もありいつも子供にそうするように声音を柔らかくしフランの問いに答えてやる。

 フランはフランで目を輝かせて慧音の湾曲した角に釘付けだ。

 

「君が例のフランドール・スカーレットだね。こんばんは」

 

 そして調子を変えずにフランに優しくそう言って微笑んだ。

 

「ねえねえ! 角! 角! 角さわっていい!?」

 

 が、フランはその一切を無視し、一人で勝手にワクワク、うずうずしてはしゃいでいる。

 

「……」

「ねえってば!」

 

 フランは待ちきれないのか、落ち着きがないように足踏みをしながら更に催促する。だから慧音は頭を下げてやる事にした。その慧音の表情は笑顔だがその笑顔に表情はない。

 

「どうぞ!」

 

ゴッ

 

 という鈍い音を立ててフランの頭に慧音の頭が直撃する。

 慧音は礼儀を重んじ、その一番基本で一番大切な挨拶をしないものには気の済むまで説教してやらなければ気がすまない性格だ。しかもその説教の方法がくどく、説教されたものは眠気とも戦わないといけなくなってしまう。

 更に満月の夜は持っている知識を全て知る事が出来る。歴史を綴る者の力になるため、紙に書き出しているのだが、体力を消耗し逆にストレスを溜め込んでしまう。そのため気が立っているのか先程のように説教という前段階をすっ飛ばし、短絡的な行動に出てしまう。

 フランのように頭を抑えて苦痛にもだえているこの現状がその証だ。説教するにしろ頭突きをするにしろ、説教された者にとってはたまらなく頭の痛い話だ。

 しかし人里の新之助の祖母といい、幻想郷といい、フランは頭突きされている。頭突きされる才能でもあるのかもしれない。そんな才能など何の役にも立ちはしないしフランは欲しくないだろうが。

 

「いきなり何すんのよ! 痛いじゃない!」

 

 期待を慧音への怒りに変えたフランの子供脳。その脳のせいで当然フランは慧音に食ってかかる。頭を抑え目に蓄えた涙を少しだけこぼしながら怒りの視線を慧音に向ける。

 生憎、慧音は寺子屋の教師だ。子供の不服不満は日常茶飯事でそんなフランの言葉をいちいちストレスに変換する脳は持ち合わせていない。フランの睨むな視線にも慣れっこで全く動じる事はない。

 あまつさえ慧音は説教を始める始末だ。

 

「挨拶されたらちゃんと挨拶を返す! 挨拶は人のコミュニケーションの入り口であって更に自分の第一印象を左右する大事な儀式だ! その最初の段階をすっとばして私の角を触ろうなんておかしいと思わないのか!?」

 

 子供をしかりつけるような口調で一息に言ってのける慧音。

 

「う~……わけわかんないよ! ばかっ!」

 

 フランの子供脳もまたそんな慧音の長ったらしい文句を変換する機能は持ち合わせていなかったらしい。フランは考える事を放棄しそんなことを言う。

 教師を捕まえて馬鹿とは慧音の存在意義全否定に相当する失礼極まりない言い分だがフランはまだ自称大人の子供だ。それを聞いた教師である慧音は鼻でふっと苦笑しその表情が少しずつ教師のそれに変わっていく。

 

「よし、なら君にも分かるようにもっと詳しく説明をしてやろう。そもそも挨拶というものは――」

 

 慧音は屈みこみ、涙で滲んだフランの目と同じ位置に目線を移動させた。慧音は自分の説教ベストポジションに付いた。しかし

 

「はいはい、そこまでよ~」

 

 このまま説教を続けさせたら朝まで続けかねない。すかさず霊夢のストッパーが慧音とフランの間に挟まれる。

 

「あんたはここに挨拶の大切さでも説きに来たの?」

 

 落書きした三人にきつい説教し終えた霊夢が慧音の方へ歩いて来てパンパンと手を鳴らす。

 

「挨拶は大事だ」

「そうね。でも今日はそんな事しにきたわけじゃないでしょう?」

「ふむ……まあ、そうなんだが」

 

 相当不満なのだろう、数瞬間を空けて更にそんなことを言う。あまつさえ慧音は口惜しそうに不満の顔を霊夢に向ける。

 

 だが霊夢が言ったように歴史を綴るという大切な仕事をほうり出した挙句、挨拶の大切さを説く為に博麗神社に来たのではないだろう。

 

「仕方がない。フランドール、これからは挨拶をちゃんとするように……あれ、フランドール?」

 

 だから説教を諦め、最後にフランに何か言おうとしたのか、フランがいたところに視線を向けるがそこにはもう影も形も無かった。

「べー!」

 

 フランは霊夢の説教を免れ、悪びれる風もなく酒を飲みなおしていた魔理沙の後ろに逃げて隠れていた。更にアッカンベーを慧音に向けてやっている。全く子供らしい挙動に魔理沙も苦笑いだ。

 

「くっ」

「あ~、それで早速なんだけど」

「……ああ、大体の事は理解してる。後は私が上手くやっておく」

「そうしてくれると助かるわ」

 

 と霊夢と慧音のそんなやり取り。

 

「何かするの?」

「さぁなぁ~、酒がうめぇぜ」

 

 それを見てフランは宴会芸でも始めるのかと思ったのだろう、司会をしていた魔理沙に聞いてみるが知らない様子。

 

「ふ~ん」

 

 フランは魔理沙の首に絡みながら体重を預け、体をユラユラと揺さぶって遊んでいる。

 

「なんだ、話してないのか?」

「話したら暴れまわるかも知れないでしょ?」

 

 慧音はフランを一瞥し霊夢へ視線を向ける。首を傾げて眉をしかめて。

 フランに話したら暴れまわるような事。それは一体何なのだろうか。そのやり取りはフランにも聞こえている。フランがされて暴れだす事。フランは自分の子供脳をフル回転させ何をされたら考える。そして

 

「まさかっ!」

「どうしたフラン、酒飲むかぁ?」

「おねぇ様が殺される!?」

「フラン……私は喜ばないとダメかしら?」

 

 そんな馬鹿をやっているフランたちを尻目に霊夢は慧音と何やらひそひそと話し合っている。

 

「じゃあ何で呼んだんだ?」

「呼んだわけじゃなく勝手に来たのっ。魔理沙の策略よ」

「それを止める事も出来ただろ」

「そうだけど……あの子には見て欲しいと思ったから。あんたも教師なら分かるでしょ」

 

 霊夢は何やら意味深に慧音を見つめる。更にこれからする事にあまり気が乗らないのか険しい表情を垣間見せる。慧音もそんな霊夢に苦笑し、軽く頷いて「わかった」と一言だけ。

 慧音が言う、「呼んだ」とは恐らくフランの事。フランは本来ならば博麗神社に来ることはなかった。それを魔理沙が急に企画した宴会のせいでたまたま博麗神社に来ただけ。しかも霊夢も渋々だがあまり抵抗することなく宴会に同意した。

 これはつまりこれはフランに何か関係がある事なのだ。そしてこれから行われることはフランに見て欲しく、それは教師でもある慧音になら理解できることのようだ。

 

「さて」

 

 と、ここで霊夢がそこにいる皆にこえるくらいの声で一言。皆酒を飲みなおしたり馬鹿なことをやってはいるが何故慧音が博麗神社に来たのか気になっている。だから皆すぐに霊夢の方に向き直り黙する。

 

「よく見ておきなさい、特にフラン」

 

 そこで霊夢のそんな言葉。フランを名指しで、更によくみて見ておけ、とは一体何なのか。フランを始め、他の皆には全く分けの分からない事だろう。ただし霊夢その一言でフランに注目しなかった者がいた。それは全体写真を撮った後の不可解な行動をしていた者と一致していた事は偶然ではないだろう。

 

「え?」

 

 と、霊夢に名指しされたフランが少し間を空けて返事をした。と、ほぼ同時、不意に慧音の体がスーッと満月の夜空に向かって上昇していく。それにつられてまるで慧音の体に糸が付いているかのように周りの者の視線が上がり、続けて首が傾いて皆その姿を追う。

 フランと満月を直線で結んだ丁度間、そこで慧音の上昇は止まった。フランから見ると慧音は満月の中にいる兎のように見えているだろう。しかし月に入り込んでいるのは耳ではなく角を生やした慧音だ。

 月の光は太陽のように強くはない。その為満月の逆光で慧音の表情が完全に隠れてしまう、ということはなかった。だからそんな慧音の表情を見ることが出来たのだが、それは目をつぶり全身の力を抜いたような静かな表情。眠っているでもなく、かといって目をつぶって思いにふけっている表情でもない。

 なんと表現したらよいか分からない不思議な表情。

 上昇を止めた慧音はまるで誰かに操られているように体を回転させる。

 その方角、それはフランがこの一ヶ月間暮らした場所。とてもお世話になったフランが好いている新之助が住んでいる人里のある方角だ。

 慧音は続いて両手を広げて更に胸を突き出すように体を反らす。顔はほぼ天を仰ぎ見るように傾けられていてまるで天界にいる神に何かを祈っているようだ。

 月に照らされる慧音の姿はとても神秘的で皆の視線を釘付けだ。更には口にもまた釘を打ち付けられたのか、誰も喋る事が出来ない。あの好奇心旺盛なフランでさえ瞬き一つせず、小さく開けた口もそのまま固まり閉じる事もできず、一心不乱に慧音を見つめている。

 やがて月明かりに照らされてエメラルド色に輝く慧音の髪が少しずつゆらり、ゆらりと揺れ始める。続いてピリピリと空気が震え始めると視界が歪み、慧音の体が歪んで見え始める。

 慧音の妖気が高まり、大気を揺らして起こる現象だ。妖気が高まり息が詰まりそうになる。

 更に慧音の髪が次第に速く、小刻みに揺れるようになる。着ている衣服もバサバサと音を立ててゆれ始めた。

 と、次の瞬間

 

ドッ!

 

 音のない、大きな衝撃が空気を通して皆の体を打つ。と間髪おかず大きく鈍い地鳴りのような音と地震のような揺れが起こる。更に信じられないことに夜とは思えないほどに辺り一面が白い光に包まれている。

 しかもその光源は人里だ。その光があまりにも強すぎるため博麗神社まで白い光に包まれそうになっているのだ。

 人里は白い光に包まれてどこに何があるのか見えなくなってしまっている。更にその光は天高く柱のように伸び、夜空を突き刺し、暗い空を白く染めてしまっている。

 これが宴会芸というのならば恐らく最大規模の催し物だが何事にも限度がある。規模が大き過ぎて皆呆然とし、驚きはするが盛り上がりはしない。皆一様に目を細め、自らの手でその眩しすぎる光を遮る者もいる。

 更に何が起こっているかも説明されていない。これでは盛り上がれというほうが無理な話だ。

 目を輝かせるように角を見ていたフランでさえ、強すぎる光で身を焼かれる事は無いが直視することができない。直視したらその紅の瞳さえ、真っ白に染められてしまいそうだからだ。

 その大規模な催し物はそう長くは続かなかった。

 数分後、やがて地鳴りが止まり、強い光も消え、博麗神社の周りは依然と同じように元の夜空に戻っていった。催し物の幕を下ろすように慧音もゆっくりと降りてくる。

 

「お、終わったの?」

 

 あまりの出来事に霊夢でさえ少し及び腰だ。

 慧音は霊夢と皆の方をゆっくり振り返る。

 

「つつがなく」

 

 そしてニコッと笑い、そう一言。

 その慧音の一言はフランにとって悲劇の始まりの合図となる。

 

 

 

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