昼下がり、頭上からは太陽光がサンサンと降り注ぎ、水面や葉を輝かせる。
夏にたくさんの光を浴びた葉は、青々とした色素を失って赤く腫れ、やがてかさぶたのように硬くなって散ってしまうのだろう。
初秋、以前あった分厚い入道雲は薄くスライスされて鱗雲に。時折吹く風はかつての粘着性を失い、まとわり付く煩わしさは消えて失せた。触れるとやわらかに冷たく、日にさらされて熱を持った肌を程よく冷ましてくれることだろう。
余った風は、夏に置き去りにされた風鈴へ。一本の糸でしがみついている短冊を申し訳程度に揺らして鳴らし、心地よい音色を奏でている。
乾いた空気に響く鈴の音が、秋の訪れを告げているようだ。
ひとけのない、博麗神社のたたずまいがその音色にあいまって哀愁を漂わせている。
そんな秋の訪れを告げる鈴の音色を目覚ましに、一人の少女がうっすらと瞼を開く。目を細めたまましばし天井を眺めると、布団からのっそりと身を起こす。開け放たれている障子から来る風は寝起きには少し寒いくらいだろうか。そんな涼風のなか、少女は寝ぼけた眼をこすりながら、周りをぐるっと見回した。
口から出てきたのは言うまでもなくため息。辺りは嵐が過ぎ去ったような散らかりようだったからだ。昨日、皆が馬鹿騒ぎしたせいで酷い有様だった。それは神を祭る神社とは思えない程に。
その神主である、黒い髪に寝癖をたっぷり蓄えた少女、博麗霊夢はまた一つため息をついて立ち上がる。しばらくボーっと立ち尽くしたかと思うと、本人も気づかていなかったであろう、手に持っていた薄い毛布をポロリと落とす。
「ん……」
かすかな匂いを嗅ぎわけ、何かに気付いた犬のようにある方向を向いたまま静止した。と、数瞬の間もおかず、何かに導かれるように真っ直ぐ、しかしゆっくり歩いていく。やがて賽銭箱や鈴が設置されている場所へ通じる、拝殿の扉へ。その扉を開けて外を伺う。
「あ」
そこには鈴に繋がれた赤と白の紐で結われた太い綱を小さな手で掴み、今にもガランガランと鳴らそうと、振りかぶって止まっているフランがいた。賽銭箱にはいつもレミリアが使っていた日傘が立てかけられている。それをさしてここまでやってきたのだろう。
「やっほー、霊夢。今起きたの? ねぼすけさんだねっ」
霊夢は拝殿の扉をパタリと閉め、続けて頭痛がするように頭を押さえる。これは決して二日酔いなどではなく、夢でもないだろう事が、今までの二日酔いの経験と痛みではっきりと分かる。更にその頭痛に追い討ちをかけるようにガランガランと鈴の音が神社中に鳴り響いた。
霊夢の頭痛の種が加速度を増して増えていく。
その種を植えられまいと霊夢は必死に耳を手で覆うが、寝起きで、しかもすぐ傍で大音量の鈴の音を聞かされる霊夢はたまった物ではなかった。
「やかましい!」
霊夢はたまらずに拝殿の扉を蹴って開く。頭痛の種を芽が出る前に回収するため、怒鳴り散らして。
「呼び鈴だよ?」
「どこにそんな大層な呼び鈴があるのよ!」
「ここ」
どうやら神社にある神聖な鈴は、この悪魔にかかればただの呼び鈴に成り下がってしまうらしい。けろっと顔色一つ変えずに不思議そうな顔でフランはぬかした。きっと本気でそう思っているのだろう。純水無垢な悪魔に霊夢の頭痛はとどまることを知らずに頭の中で暴れだす。
「まあ……あながち間違いじゃないんだけど」
昼と言う事もあって拝殿は影になっており、石段はひんやりとしている。霊夢はまた一つため息をついて石段に腰掛けた。しかし先ほど起きたばかりの霊夢には地面からの照り返しがまだ眩しいらしい。目を細めてぼんやりと首を傾げるフランを見る。
「これは神様に呼びかけて、話や願いを聞いてもらうためのありがたいものなのよ。だからそんな使い方しちゃだめ」
普段の霊夢とは思えないくらいに優しい霊夢。本来あるべき姿の巫女よろしく、丁寧にフランに説明してやる。この光景を魔理沙なんかが見れば、雨が降るかもしれないから傘でも捜しに行こうぜ、などと茶化してくるだろう。
しかし、生憎フランには魔理沙のような捻くれた思考回路は持ち合わせていない。受け取った文句はそのままダイレクトにフランの頭に届く。霊夢の説明を黙って真剣に聞いていたフランは「ふぅん」と納得したように何度か頷く。するとどうしたことか急に表情が明るくなる。
「じゃあ私の願いも聞いてくれるかな?」
そのフランの目は期待によって満ち満ちている。
「やってみれば~……ふぁ」
「じゃあ」
やるなと言ってもやるんだろうと、霊夢は欠伸をしながらだるそうに手で口元を隠している。と、次の瞬間爆発でもあったかのような、耳を劈く衝撃が霊夢の鼓膜を襲う。
「神様ぁああ! 私、人里に行きたぁああい!」
フランの馬鹿でかい声と、力の限り鳴らされる鈴の音。気を抜いていた霊夢はたまらず目をむいて、小さな悲鳴を上げてしまう。まさか天に向かって大声を張り上げるなど思っていなかったのだ。霊夢の耳には無限の肺活量を持つ笛士が住み着いてしまった事だろう。
「聞いてますかああああああ!?」
フランの言葉が終わるか終わらないかの内に、霊夢の手が伸び紅白の紐で結った綱を鷲づかみにする。ガランガランと乱暴に鳴り響く鐘がゆっくりと静寂を取り戻していく。
「フラン……もう十分よ……」
「え!? 本当!?」
と小さな悪魔が嬉しそうに飛び跳ね、顔をほころばせる。空にいる神様にフランの願いが伝わったと勘違いしているのだろうが、一方の霊夢はというと頭が割れそうなほどの激痛に襲われている。綱を掴んでいない手は顔を覆い隠し、可哀想なくらいに背を丸めて苦しそうにうなってしまう。
「ねえねえ! 何て返ってきた!?」
そして然るべく、その返答を博麗の巫女である霊夢に尋ねてくる。その筋の巫女には分かるものもいるというが生憎霊夢にはそんな事分かるわけがない。しかし神の言葉が聞けると思っているフランは興味心身でワクワクしている。その顔はまるで天使のような笑顔なのだが霊夢にとっては悪魔の笑顔に他ならない。
「そんなの……返ってくるわけ――」
と、ここで霊夢の、眠ったまま止まっていた思考回路が動き出す。
霊夢としては一刻も早く、この天使のような笑顔でワクワクしている迷惑な悪魔に帰ってもらいたい。そして霊夢は巫女であり神意の伝達者でもある。この立場を上手く利用しない手はない。
霊夢は一瞬、フランにばれないようににやりと唇を吊り上げると、一度表情を無くし、更にその上から優しい巫女の表情を上塗りした。
「フラン、神様の言葉が返ってきたわ」
「本当!? やったー!」
霊夢は中腰になってフランの細い両肩をしっかりと掴む。そして優しい表情でフランにゆっくり微笑み、そして
「神様はこうおっしゃっているわ。今すぐここを去れと」
「えぇ……」
「さもなければわざわ――」
とここで突如、何かに打たれたような強い衝撃、更に後から来る言いようのない痛みが。頭上からくる、重量感と硬い感触。いろいろなものに襲われ、地面に両手をついてうなってしまう。
霊夢が。
「霊夢!? 大丈夫!?」
「ぐっ……」
信じられないことに、先程までフランが力の限り鳴らしても落ちなかった鈴が落ち、盛大に鈴の音を鳴らして霊夢の脳天に直撃した。
鈴は中が空洞になっているとはいえあの高さから落ちたのだ。痛いものは痛い。霊夢の頭痛は外からも内からもやってきていたようだ。
「霊夢!? しっかりしてよ! わざわってなに!?」
「災いが……」
「災いが?」
「降りかかる」
「……誰に?」
「私に……」
・・・
・・
・
「で? 何しに来たのよ」
霊夢は氷嚢を頭に載せて先程の石段にまた腰掛けていた。氷嚢を取りに行っている間フランを拝殿に待たせ、中に入らせなかったようだ。中に入れないところを見ると霊夢は本当に早くフランを帰らせたいらしい。
「人里に――」
「却下」
フランの願いは先程聞いた。それ以前にフランがそれ以外の目的でここに来るとは考えにくい。レミリアならともかく、フランがわざわざ霊夢の所に遊びに来るなどありえないからだ。
しかし昨日言い聞かせたはずの人里と幻想郷の分離。なのに昨日の今日でこの有様だ。霊夢はいろんな頭痛がして仕方がないだろう。
「……じゃあ結界壊すもん!」
そんな霊夢の即答にわずかにうなってそんな言葉を返すフラン。
「そんなことしたら天界行きよ」
即答に即答。
前に言ったようにフランが壊そうとしてもきっと紫が現れて送り返されるか殺されるかの二者択一だ。どちらに転んでも人里になど行けやしない。
「そ、それでもいいもん!!」
霊夢は頬杖を付いて頬をぐにゃっと歪ませてフランを見る。目は真剣、手は握られて拳を作っている。どうしても譲れないらしい。霊夢としてはとても面倒な状況だ。
しかし、さすがにそれをされると霊夢は少し困ってしまう。
フランに常識を学ばせ、せっかくいい具合に成長したフランを死地に追いやるのは気が引ける。ましてや人間と妖怪の仲をよくしようとしていた張本人がそんな事を出来るはずがない。
今度は鼻でため息をし、少し言い方を変えてフランをなだめるように口調を変える。
「あんた昨日納得したんじゃなかったの? 大体、人里に行ったって新之助さんは何も覚えていないのよ? 今更何をしに行くっていうのよ?」
昨日言った事を思い出させ更に現状の理解をさせる。相手はフランだ。現状を十分分かってない可能性もある。
だがフランはちゃんと分かっていたらしい。
「お別れを言いにいく」
「お別れ?」
その不可解な答えに霊夢は眉をしかめて、思わず聞き返してしまう。別れを言いに会いに行くとはこれいかに。
「うん。私ね、別れるときに殴り飛ばして気絶させちゃったから、ちゃんとしたお別れ言ってないんだ~」
「殴り飛ばしたって……あんたねぇ……」
そういえばフランは幻想郷へ帰ってくる前にちゃんとした別れを新之助としていなかった。拳が別れの言葉など、ロマンの欠片もない。
計画も上手く行き、いつでも会えるとふんでの行動だろう。そこでまさか記憶を消されるだなんて思っていなかったのだから仕方がないといえば仕方がないのだが。
フランの言葉に霊夢は呆れ顔で返す。その霊夢をフランも睨むように霊夢を見つめ返してくる。その視線は霊夢の細い目にある瞳を的確に突いている。
「だから、めじけをつけるんだよ!」
「?」
フランのその真剣さが空転する。
「あ……えと……えじめ? いじめ?」
「けじめ」
「そうそうそれそれ! げじげじをやっつけにいくの!」
霊夢が一言そう言ってやったにもかかわらず、フランは霊夢を指差し、そんな事を言う。霊夢は危うく噴出しそうになってしまうがこらえて話を続ける。
「あ、あんた分かって言ってんの?」
分かってはいないだろう。これはどこかで聞いて、小さい子供が背伸びをするように新しく聞いた言葉を使い、失敗するパターンのやつだ。つまりこれは魔理沙がフランに吹き込んだ台詞ということ。ただそれを知らない霊夢はフランの酷い発言をただのフランの言葉としてとってしまう。
「だからね! それで私はきっぱり諦める事が出来るの! と、思うの!」
と、一転して少しぎこちないが、自らきっぱり諦める宣言。
霊夢はてっきり「別れを言う」は建前で、人里で新之助の記憶を取り戻そうと、何かしでかそうなどと企んでいるのではないかと勘ぐっていた。しかしフランは諦める為に行くらしい。けじめをつけるために。
それに光明を見たのか霊夢はすっと顔を上げてフランを見る。
霊夢は考える。それで諦めてくれるならば一度くらい人里に連れて行ってやっても良いのではないかと。
「別れを言うだけで、それ以降は人里に行きたいなんて言わない?」
「うん!」
ここで人里へ連れて行けば、今後フランが人里に行きたいと神社にやってくることはないだろう。しかしここで断れば後々フランに付きまとわれる、というリスクを背負う事になる。人里へ連れて行かなければいけないという面倒ごとはあるが、それを除けばほぼ両者の利害が一致している。
「なるほど、それは私にとってもあんたにとっても好都合って分けね」
つまりこれは実に合理的で効率的な提案で
「うん!」
出来すぎている提案でもあった。
「魔理沙でしょ」
「うん!」
フランは魔理沙の作戦を聞いてワクワクを押さえきれずそのままでてきたのだろう。見ると服はボロボロのまま、誰がどう見ても弾幕ゴッコをしていた事は明白だ。更にフランをボロボロに出来るような相手は絞られてくる。ほぼ魔理沙で間違いないだろう。
フランはしまったとばかりに両手で口を塞ぐがもう遅い。霊夢は唇を片方上げてフランに負けず劣らずの犬歯がキラリと光る。
「ふっ」
「う、ううん、ちがうよ~……」
そこに降って湧いた、フランが考え付くはずもない合理的な提案。誰がどう見てもフランをけしかけた犯人は魔理沙しか居ない。
霊夢にとってそれは陳腐なクイズ以外の何者でもなかった。
「どうせ霊夢なんかちょろいぜ、とか言ってそそのかされたんでしょ」
霊夢はわざと魔理沙の口調を真似てそう言った。それが面白かったのかフランは噴出し、「似てる」と笑いながら霊夢に賛美と肯定の言葉を送ったのだった。
しかし霊夢知らぬところでコケにされていたのだ。心中穏やかではない。
「魔理沙、ぶちコロス」
「うん!」
「で? あんたはいつまでそこにいるつもり? ネタは割れたのよ。さっさと帰れ」
その提案は合理的ではあるが魔理沙が作った案だ。魔理沙だとばれなければ霊夢はフランを人里に連れて行ったかもしれない。だが霊夢はそれが気に入らなかったようだ。
「やだ! 行くって言うまで帰らない!」
「やれやれ……私がそんな面倒な事やってあげるわけないでしょ? それとも何? お布施でも持ってきてくれたのかしらぁ?」
「フフフ、じゃじゃーん!」
フランは幼稚な効果音をもってポケットから何かを取り出した。
「それって……あんたまさか……」
霊夢が見るとその先には銀色に輝く丸い円盤上の物体が。
「コイン一個!」
「……魔理沙にあげたやつじゃない」
よってこれも魔理沙の策略だということは明白だ。
霊夢は現金だ。だからお布施で霊夢の心を揺さぶれ、とでも魔理沙に言われたのか。
「うん! もう一度コンティニューしてこいって!」
「で? それをどう――」
霊夢が言い終わらないうちにコインが回転しながらフランの手を放れ、宙を舞う。
「コインを生贄に! 私を人里へしょ~かーん!」
フランが投げたコインはまっすぐ賽銭箱に向かって飛んでいく。誰がどう見てもコインは賽銭箱の中に入る軌道を描いて宙を舞っている。
だが、フランが投げたのはゲーム用コイン。霊夢にとって何の足しにもなりはしない。くわえて賽銭箱はおもちゃ箱ではないのだ。
霊夢はすぐそこに立てかけていた箒を掴む。更にメジャーリーガーさながらの豪快なスウィングで賽銭箱に入る直前でそのコインを打ち抜いた。
そうしてコインは風鈴のように小気味よい音を立て、空の彼方へ飛んでいったのだった。
「秋の訪れか、それとも……夏の終わりか」
と、霊夢はその音を楽しむように目を細めてぼそり。風鈴とコインの音を重ねたのだろう。
「どっちも同じだよ!」
秋の空に響くその音は夏の終わりを告げていた。
「そう、あれは私が五歳の頃、マイケルが私をスカウトに――」
「意味不明! 私のコインに何するのよ!」
「あんたは私のお賽銭箱様に何しようとしたのよ? あれはおもちゃ箱じゃないのよ?」
箒で自分の肩をポンポンと軽く叩くと、もう片方の掌を天に向けて呆れたように言い放つ。
「ううっ、ひどい……ひどいよっ……ひっぐぅっ……」
「はあ……もう、泣かないでよね。たかがおもちゃのコインくらいで」
「あれは……あれは私のお母様が残した大事なコインなのに……」
「え?」
「大事な……大事な形見だったのに! 死ぬ間際にこれが私だと思って大事に持っていなさいって! いつかまた……絶対会えるからって!」
「フラン……」
「だから今までずっと大切に持ってたの! 霊夢は私のお母様を奪ったんだよ!」
「ちょっとフラ――」
「なのにっ……なのに霊夢は!」
「あんたねぇ」
「ちょっとまって次めくるから」
フランは指をペロッと舐めて魔理沙にもらったであろう、作戦が書かれているノートのページをめくる。
「すこしは隠す努力しろ」
「はっ、つい夢中になって」
「と言うわけでじゃあね、とこしえに」
霊夢が拝殿の中に入って扉を閉めようとする。
「け、結界こわすよ!」
「どうせ紫が来て終わるでしょ。そしてあんたは天界へ~南無阿弥陀仏、嫌なら止めなさい。じゃ」
フランに向けて合唱すると鋭い目つきとすばやい行動で中へ入っていく。
フランの立てたストッパーも効果を見せず扉が完全に閉まってしまいそうになった時。
「それ! その人!」
「……何? まだ何かあるの?」
霊夢はどこかの家政婦のように扉の隙間から片目でフランを覗き見る。だがこれは魔理沙がフランに仕組んだ、とっておきの作戦だった。
「霊夢は人間と妖怪が何で仲良く出来ないのって、疑問に思ってたんだよね!」
「うげっ……どうしてそれを」
フランの予想外の攻撃に奇声を上げて扉を開く霊夢。
「その紫って人が皆に言ってたって魔理沙が言ってた!」
紫は皆に言うなと口止めした。それは霊夢が皆に知られて恥ずかしいと感じることだから。霊夢と一番長い付き合いだろう紫が言うのだ。霊夢からしたらかなりの恥ずかしさに違いない。
「あいつぅ……余計な事をっ……」
普段、あまり妖怪と関わろうとせず、クールな関係を保っている霊夢が実は皆と仲良くしたかった、などツンデレもいいところだ。それを言いふらされれば普通穴に入りたい気持ちになるだろうが、生憎霊夢は穴に隠れるよりもかかされた恥分をしっかり返したい性分だ。
「実は私もそう思って――」
「そう……そういうこと……」
それは付き合いの長い魔理沙も分かっていること。
「霊夢? ……あ、あのね」
とフランが霊夢に何か言おうとしたところを霊夢の手に制された。
「わかった……もういい……もういいわ、連れてってあげる」
「本当!?」
「ええ……」
「ヤッホー!」
一言霊夢が言うと、顔面を手で押さえて隠しながらぶつぶつと何やらつぶやいている。
「……ぶち壊して……ば……いのよ……」
「ぶち壊す?」
「はっ、私としたことが……」
どうやら魔理沙の作戦は功を奏したらしい。
紫は敵、という共通の意識を霊夢に植え付けフランに協力させる。霊夢は妖怪にツンツンしてはいるが本当は優しい自称ツンのツンデレだ。ツンの牙城を破壊すれば後はたやすい。
魔理沙はそこにつけこみ、それを純粋無垢なフランの口から公表することで真実味と紫への辛味を与えた。たとえ魔理沙の作戦だとばれていても、フランの人里入りを了承せざるをえない仕上がりとなっていた。
霊夢は一つ咳払いをし、フランの目の前に腰に手を当てて仁王立ちする。そしてこれから説教でもするのか、というくらいに目一杯胸を張る。
「いい? お別れを言ったらもう二度と人里に行きたいなんて言わないこと! それが条件よ!」
「うん!」
「それとリングは付けて羽は切る!」
テキパキと指示をする霊夢にフランは満面の笑みを持って元気よく、手をピンと一直線に伸ばして「はーい!」と返事をする。
「それじゃあとりあえず中に入りなさい」
霊夢は扉をフランが入れるくらいに広く開けると、フランは嬉々として飛び込んでいった。
「私も着替えるか……」
霊夢は欠伸をしながら一言言って扉を閉めたのだった。