フランは成長するのか?   作:天澤星三

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第四十二話 ~忘れ物~

 

 

 紅魔館の地下。フランに入れ知恵し、霊夢の所へけしかけた魔理沙は、ひんやり冷たい石造りの床が気に入ったのだろう。背中をぴたりと床につけ、昼寝をしていた。薄暗く、涼しい地下は昼寝にはうってつけだ。

 フランの心配もせずに昼寝とは、全く暢気なものだが、その表情は満足げな笑みが張り付いている。きっとフランがまた大きな一歩を踏み出した事に喜びを感じているのだろう。もしくはフランが霊夢に対し、どのように授けた作戦を仕掛けているか、想像して笑っているのかもしれない。魔理沙はどちらかと言うと後者が似合いそうだ。

 その魔理沙の、天井と平行になっている額に、垂直に忍び寄る影があった。

 

「ん?」

「あ」

 

 気付けば咲夜がしゃがみこみ、手にしたナイフを天に掲げて今にも振り下ろそうとしていた。振り下ろすよりも一瞬早く気付いた魔理沙は首を横にずらして避ける。レンガ製の床をナイフがえぐる金属音と同時に魔理沙は跳ね起きた。

 

「うぉおい! 何やってんだ咲夜!」

 

 昨日、魔理沙が霊夢の額に「脇」と書き、一人だけ落書きを返されないことを不服に思ったのだろうか。見れば咲夜の頬に書かれていたはずの「貧乳」と言う文字は綺麗に消されていた。少し赤くなっているので必死に消した事が伺える。

 

「だって、寝てたから」

「だからってお前! それはないだろ!」

 

 魔理沙は咲夜がナイフを弄んでいる手を指差して必死に抗議する。

 あんなものを額に突きつけられれば水で洗っても消えない文字が彫られることになる。それよりもレンガを削るほどの威力で突かれれば命はない。

 

「冗談よ」

「冗談よ、じゃないぜ……」

 

 魔理沙は床に寝転んだせいで付いた汚れを払いながら呆れ顔だ。咲夜はなにくわぬ顔で額に突きたてようとしたナイフをエプロンの中にしまいこむ。

 

「で? 何しに来たんだよ」

「何だっけ?」

「……お前さぁ」

「冗談よ」

 

 咲夜はナイフをしまいこんだポケットから入れ違いに何か取り出した。それを手に乗せて差し出してくる。それは魔理沙がよく見知っている物だった。

 

「ん?」

 

 魔理沙はそれを手にとって目の前にかざしてみる。少し傷がついて歪んではいるが間違いなく少し前、フランに渡したコインだった。

 

「あれ、これは私がフランに渡したコインじゃねぇか。どこにあったんだ?」

「それが……」

 

 咲夜は困ったように手を頬に当てて首を傾げる。

 

「居眠りしてる美鈴にナイフを突き立ててやろうと忍び寄ったんだけど、先にコインが美鈴に当たって起きちゃったのよ」

「ふ~ん……」

 

 魔理沙は手にあるコインを人差し指の先端に乗せてクルクルクルと器用に回して弄ぶ。

 どうやら霊夢の打ったコインが美鈴に当たったらしい。

 

「賽銭箱に入れる前に、霊夢にホームランでもされたかぁ?」

「ん?」

 

 魔理沙は咲夜に聞こえないくらいに小さく呟いて笑い、コインを上方に弾いてキャッチする。

 

「いや、美鈴は運がいいなとね」

 

 美鈴には幸運だったようだが、咲夜はそれを不服に持ち主である魔理沙に抗議でもしに着たのか。

 

「でも結局、刺しちゃったんだけどね」

「あ、そう……」

 

 そう言い終えると、咲夜がキョロキョロと辺りを見回し始める。壊れている壁やら天井を直すためにパチュリーにまた頼まないと、とでも考えているのだろうか。パチュリーの魔法にかかればすぐに修理が済む。だが違ったようだ。

 

「妹様は?」

 

 咲夜は抗議ではなく、フランを探していたようだ。見れば地下室への出入り口にお茶とお菓子が用意してある。静かになり、弾幕ゴッコが終わった事に気付いた咲夜が、一息つかせようと持ってきたのだろう。

 だがフランは弾幕ゴッコが終わった後、すぐに博麗神社に向かってしまって、もうここには居ない。

 魔理沙がその旨を伝えると咲夜は「そう」と一言言って驚くではなく、不思議そうな顔をしする。そして目を細めて少し睨むように魔理沙を見つめた。

 

「まさか、妹様をけしかけたんじゃないでしょうね?」

 

 魔理沙は咲夜の問いに両掌を天に向け、肩をすくめて鼻をならす。

 

「お前だって遅かれ早かれこうなるって分かってたはずだ。それが今だってだけだぜ」

 

 それに咲夜はやれやれとため息をついてしまう。

 咲夜も分かっていたのだ。いつかフランが人里へ行ってしまうであろう事を。しかし、それが昨日の今日だったものだから驚くではなく、不思議な表情をしてしまったのだ。

 

「あんたもせっかちね」

「なんだよ、褒めても罰はあたらねぇぜ?」

「あんたが図に乗るとろくな事がないのよ」

 

 魔理沙は軽く笑い箒を手に取る。

 

「さて、こんな物騒な所じゃ暢気に昼寝も出来ないから私は帰るぜ」

「妹様の心配くらいしたら? さっきだって怪しげに笑いながら寝てたし」

「人の寝顔観察なんて趣味悪いぜ?」

「見たいのは妹様の寝顔なんだけどね」

「どうせ起こしに行く時にじーっと見てんだろ?」

「当然でしょ?」

「そんな犯罪めいた事を自信満々に言われてもなぁ……」

 

 咲夜は紅魔館のメイド。住人を起こすのも仕事の内なのだろう。美鈴はともかくレミリアやフランを起こすのも仕事だ。その際、天使の寝顔をじっと見てしまうのも分からなくもない。

 それを役得だと悪びれもなく全肯定しているダメイド。魔理沙は指摘するの億劫だと、ため息をつく。何をどう注意しても寝顔観察は止めそうにないので、レミリアとフランには悪いが魔理沙は話題を元に戻すことにした。

 

「まあ……とにもかくにも、心配したって結果は変わらないだろ?」

「その軽さが腹立つのよねぇ」

「お前を腹立たせないために心配するフリでもしろってか?」

 

 魔理沙はニヤニヤしながら咲夜を見ている。

 咲夜には鬱陶しい魔理沙の視線、魔理沙には今にも飛び掛らんとする獣のような咲夜の視線が両者見て取れることだろう。その視線同士が合間見えた時、弾幕ゴッコの合図となる。

 

「胸糞悪い面をこれ以上拝みたくないって事よ」

「そうだな。お前のNiceバディがこれ以上小さくならない内に、おっと!」

 

 魔理沙は突如咲夜の手から放たれたナイフをさらりと避け、反撃すると思いきや猛スピードで地下室から逃げて行った。フランとやりあった後なのだ。弾幕ゴッコをするつもりはないらしい。

 

「全く、ゴキブリみたいなやつね……あら」

 

 ため息をつき、取り出したナイフをしまうと咲夜はある異変に気付く。

 魔理沙はあるものを盗んでいっていたようだ。

 

「お菓子が……無い」

 

 

 

 

博麗神社

 

 その頃、フランと霊夢はと言うと。

 

「こらフラン! じっとしてないと切れないでしょ!?」

 

 霊夢は寝巻きからいつもの巫女服に着替えていた。

 霊夢はフランを椅子に座らせ、その後ろに立ってなにやらしている。それはまるで今から散髪でもしようか、という位置取りだが、霊夢の手にははさみではなく包丁が握られている。

 

「だってくすぐったいんだもん……」

 

 霊夢とフランはまだ博麗神社に居た。フランはリングを付けられ、霊夢に押さえつけられている。フランの背中に付いている七色の羽。人里では当然目立つので切らなければならない。

 羽を切る際、はさみでは切れそうにないため霊夢は包丁を取り出したのだが、これがなかなか切れないらしい。霊夢が包丁の刃を羽に突き立てるが滑ってなかなか切ることが出来ない。痛みは無いようだが、その包丁の刃をすりすりと羽にこするので、振動が背中に伝わりビクビク動いてしまう。フランには少しくすぐったいようだ。

 そのたびに包丁の刃が狙った位置とずれるのでただでさえ切りにくい羽が更に切りにくくなってしまっていた。

 

「霊夢料理下手なんじゃないの?」

 

 あまりの切れなさとむず痒さに、ついにフランが不満の声を上げる。包丁の使い方が下手だから料理も下手だと思ったのだろう。フランがそう提言するのも身近にいる咲夜がその最たる例だからだ。そのナイフで侵入者も料理してしまうのだから霊夢と比べるのは酷というものだろう。

 

「あんたを弾幕で料理するのは得意なんだけどね」

「料理された私は美味しそう?」

「はぁ……大人しくしてればね」

 

 いけしゃあしゃあとそんな返しをしてくるフランに霊夢はため息をつき、少しでも大人しくして欲しいという願望を込めてそう言った。

 その後も霊夢がしばらくゴリゴリと羽を切ろうとしていたがのこぎりでもない包丁の刃はつるつるだ。切れ味もそれ程無い。

 

「にしても切れないわねぇ……のこぎりでも持ってくるかしらね……どこにあったっけ」

 

 霊夢は羽を掴んでいた手を離しさじを投げる。のこぎりのある場所を思い出そうとしばし黙考する。が、さっぱりでてこないようだ。

 

「こうなったら引っ張って皮ごとべりっと――」

「霊夢! 霊夢! これ何!?」

「ん?」

 

 フランが椅子に座ったまま、すぐ横にあった机の上にある箱を指差している。机の上はまだ片付けられていない皿やらコップやらが料理の残骸を乗せたまま。その中に一つ、木で出来た見慣れない箱が置いてあった。

 

「何かしら」

 

 霊夢は少しワクワクしながら蓋に手をかける。

 よもや金銭ではないだろうが、木箱に入れられるお中元の残暑見舞いや奉納などの贈答品を入れることが多い。それらは得てして値の貼るものが多いからだ。

 霊夢が箱を開けると中には手紙と紫の布で包まれた何かが入っていた。

 それを認めると霊夢はすこし眉をしかめてしまう。

 贈答品等に掛けられる布、いわゆる「ふくさ」と呼ばれる物だが、贈る花に意味を込める花言葉にもあるように、その色にも意味が込められることがある。

 そこにある紫の色には、祝いとは反対の、葬式などのあまり縁起のよくないことにつかわれる色だからだ。

 そしてそれは布で包まれた上から見ても分かるように、金銭などではなく、棒のように細く長い。フランも横から覗き見、霊夢が手に取った手紙に目を移す。

 

手紙の内容

 『もしもフランさんが来た場合これを使ってください。』

 

「永琳より?」

「これって?」

 

 とは紫の布で包まれた中身の事だろう。

 霊夢が布をスルスルと解いていくと中から刃渡り3cm程の刃物が出てきた。計画当初、フランの羽をサクっと切り離した刃物と同じ。手術用に使うメスというものだ。

 

「あんたの行動読まれてたみたいね」

 

 永琳もまさか昨日の今日で来るとは思わなかっただろうが、フランの単純な性格から見て、いつかくるだろうと踏んだのだろう。しかし普通の器具で切れないと分かる辺りフランの羽で何かしていた事は明白だ。

 そこまで考えていない霊夢はくすくすと、意地悪くフランのほうを見て笑って茶化している。

 

「永琳も伊藤なの?」

「あんたが単純なのよ。ほら椅子に座りなさい」

「……」

「何?」

「……エスパーって――」

「私は突っ込まないわよ?」

「えー」

 

 霊夢は椅子に座ったフランの羽をそのメスで切ってみると何の抵抗も無く羽が切れ落ちた。

 

「お」

 

 その切れ味がすばらし過ぎたせいで思わず声が漏れる霊夢。間髪入れずもう一方の羽にメスを入れる。

 

 ポトリ

 

 と、七色の羽が二枚、剪定している木の枝が落ちるように木製の床に舞い落ちた。

 

「ん?」

 

 その羽が落ちた音にフランが気付き、床を見る。羽が切れたことに気付かないフランが鈍いというわけではなく、それ程切れ味は良かったということだ。

 

「おお! 切れてる!」

 

 フランは椅子から飛び降り早速「人里へいこう!」などとはしゃいでいたが霊夢の反応がない。

 

「霊夢?」

 

 

 

 

 

「ごめんくださーい!」

 

 拝殿を迂回し、昨日宴会を開いていた会場に妖夢がやって来ていた。散らかしたまま帰ってしまったので後片付けに義理堅くやってきたのだろう。剣士である妖夢といえば妖夢らしいが。いくぶん中の様子がおかしい。

 呼んでも返事がなく、障子も閉められているのだが、中で物音がする。

 

「まさか……泥棒?」

 

 妖夢は刀に手をかけたままゆっくりと障子に隙間を作り、覗き見る。その妖夢の目の前には不思議な光景が広がっていた。

 

「……何やってるんですか?」

 

 霊夢がフランを追いかけまわしている。よく見ると霊夢の手にはメスが。それを振り回しながらフランをただ追い回しているのだ。フランはフランでひょいひょいと余裕で避けてはいるが顔は困惑気味だ。

 

「何かの遊びですか?」

「あ! 妖夢! 助けて!」

「え!?」

 

 フランが妖夢の方へ慌てて駆けよってくる。そしてその勢いのまま妖夢に抱きついた。

 

「ちょ、ちょっとフランさん!?」

 

 続けて霊夢がメスを振り回しながら妖夢に向かって突進してくる。しかし様子がおかしい。霊夢の目が何かに操られているような、常軌を逸しているように怪しい光を放っている。

 霊夢の振り回すメスが妖夢に届こうという刹那、妖夢はフランを抱えて横っ飛び、霊夢のメスをかわす。

 

「フランさん! 一体どういうことですかこれは!?」

「う~ん、なんかねぇ、羽を切り落としたらああなってた」

「切り落とした?」

「そう、あのカッターで」

 

 フランが霊夢の握っているメスを指差して言う。妖夢も改めてそのメスを視認する。

 

「あれはっ」

 

 と言う間もなく、霊夢が妖夢に再びメスで切りかってくる。妖夢は前の要領で横っ飛び、はすることはなく、身構えて刀に手をかける。

 次の瞬間、目にも留まらぬ速さで刀を抜いたかと思うと、キンッと短い金属音が響く。その音で瞬きをしたフランの目に、次に映った光景は抜刀する前の妖夢の姿だった。

 いわゆる居合い抜きというものだ。抜刀術の一種で鞘に収めた刀をすばやく抜いて相手を斬りつけ技術。

 霊夢の遅い振りでは当たる寸前に出しても余裕で切りつける事が出来るという高速の剣技。これを妖夢はフランを小脇に抱えたままやってのけた。

 全く、宴会芸でもそうだが神業としか思えない。

 しかも妖夢がその高速の剣技で斬ったのは霊夢ではなく、霊夢が握っていた小さなメスだった。メスは真っ二つに折れ、床にコロンと転がっている。

 

「あら、私どうしたのかしら」

「ふう……」

 

 霊夢の目は正気を取り戻し、我に返ったようだ。

 妖夢は一息ついてフランを下ろしてやると床に転がったメスの破片に歩み寄る。斬って折ったメスの破片をひょいっと拾い上げるとまわしたり裏返したりして調べ始めた。

 

「ん? 妖夢? いつ来たのよ?」

 

 霊夢はすっとぼけているという様子でもない。霊夢にはフランを切り刻もうとした記憶がないらしい。

 そんな霊夢に見える位置に妖夢がメスの破片を目の前に持ってくる。

 

「霊夢さん、これ妖刀ですよ」

「え? どういうこと?」

「ようとうって何?」

 

 霊夢は、ワクワクしながらそう言って自分の横に立つフランを見るとビクついて驚いた。

 

「フラン! あんたなんて格好してるのよ!」

 

 フランは体は切られていないものの服をずたずたに斬られ、目も当てられない格好になっていた。

 

「霊夢が斬ったんじゃん!」

「私が切ったのは羽だけよ、何言ってるの?」

「霊夢が何言ってるの! 散々斬りつけて!」

「まあまあ、これは図鑑で見たことあります。妖刀の一種であまりの切れ味に少し斬るとそれが楽しくて止まらなくなってしまう、という類のものですね。常々一度拝見して見たいと思っていたのですが……勢い余って壊してしまいました。もったいない……」

(図鑑って?)

(マニアね)

 

 と、霊夢の奇怪な行動の理由をつらつらと述べ始めた。

 

「これをどこで?」

「そこの箱に入ってたのよ。全く、妖刀を置いていくなんて……」

 

 不機嫌な霊夢とは正反対に、上機嫌な妖夢がその箱を持ち上げて木箱の裏や蓋の裏を見てみる。まるで宝の価値を調べる鑑定士よろしく、そして今までこんなに嬉しそうな妖夢は見たことがないというくらいに楽しそうな表情をしている。しかし所望する物がなかったのだろうか、少しうなって箱をコトリと机の上に戻す。

 

「どうやら箱は変えられているようですね。これは図鑑にも製作者の名前が書いてなくって未だ謎のままなんですよ」

「そ、そう……」

「あれがマニアっていうの?」

「しぃーっ黙りなさいっ」

 

 妖夢が箱の中にあった永琳からの手紙を見る。そして箱を裏返した要領で裏返してみるとそこにはまた文字が。

 

「これは」

「どうしたの? 作った人の名前でも見つかったのかしら?」

 

 霊夢は半ば呆れ気味でそんな事を言ったのだがそれは妖夢ではなく霊夢に関係のある事だったらしい。

 妖夢はその手紙を霊夢に手渡し、その手紙の内容を指で指す。それは霊夢が先程見た手紙の裏に書かれていたものだった。

 

手紙の裏

『追伸:これは妖刀なので斬り過ぎると危ないかもです。霊が取り付いているという噂もあります。返さなくていいので除霊、または供養をお願いします』

 

「永琳より……かっこ、笑、かっことじ」

 

 ビリビリッと手紙を真っ二つに破り、霊夢は適当にその辺に投げ捨てた。この散らかりようだ。少しゴミが増えても気にはならないだろう。

 

「ねぇ! 早く人里いこぉ!?」

 

 フランはもう待ちきれないらしい。足踏みをして落ち着かないフランだが、その格好はとても人前に出せる姿ではない。来る時もボロボロだったが霊夢が切りつけたせいで布がどうにかフランの体に捕まっているだけになっている。その布も落ち着きなく足踏みしている振動でどんどんずり落ちてきている。

 

「人里に連れて行くのですか?」

 

 妖夢が驚くのも無理はない。昨日の今日で人里に連れて行こうというのだから。

 

「成り行きでね……」

「はやくぅー!」

「その前に、あんた着替えの服とかあるの?」

「ない!」

「でしょうね」

「霊夢さん。ここにまた木箱が」

 

 妖夢が嬉しそうに木箱を持ち上げて霊夢の方へ運んでいく。きっとまた妖刀の類だと思っているのだろう。

 それは先程の木箱と見た目も作りも同じ事から恐らく永琳がおいていった物だと思われる。しかし先程のものより少し大きい。

 

「何だか開けたくないんだけど……」

「でも見つけてしまったからには開けないと、この後ずっと気になっちゃいますよ?」

「まあ、そうね」

 

 後悔するならやるだけやって後悔しろ。と誰かが言ったような気がする。

 じだんだしを踏んでいたフランは、なかなか人里にいけないことで不満げな顔をしているが中身も気になるらしい。せめてもの抵抗に二人の間に割って入り、不満げな顔で事の成り行きを見守ろうとする。

 そこで霊夢が箱を開けると中からは綺麗な柄の着物が出てきた。そしてまた手紙。

 

手紙の内容

『人里に行く場合、フランさんの服では目立つと思います。それにもしもフランさんの服が……になっていた場合困ると思うのでこれを置いて行きます。もしよければ使ってください』

 

「永琳より……かっこ、笑、かっことじ……」

「……確信犯ですね」

「これ着ていけばいいの?」

 

 霊夢は手紙の裏を見てみるが何も書いていない。妖夢もまた箱を念入りに調べていたがどこにもおかしい所はないようだ。

 

「ふぅ……まっ、いいんじゃない?」

「ですね」

 

 フランは箱から着物を取り出し、びらんと広げてみる。鮮やかな色合いの着物が広げられ、高級感漂う柄の着物がその全貌をあらわにする。人里にその格好で行けば逆に目立つような気もするほど。

 その着物のサイズは小さめでフランにはきっと合うだろう。

 

「うわ~、綺麗……」

「へ~、いいじゃないですか」

「全く……そんな大層な着物、どこで手に――」

 

 フランと妖夢が感動している中、霊夢だけがあるものに気がついた。それは霊夢だけがその着物の後ろから見ていたから。その着物の背中の部分に張り紙がしてあるのだ。それはフランが広げた事で見えるようになったのだが。

 その内容は見るまでもない。それは先程のこともあるが、その張り紙の外枠に子供の霊と思われる不気味で、青白い顔が覗いていたからだ。恐らくその着物の元の持ち主だろう。

 鼻から上を覗かせて霊夢を見つめている。そしてにやり、笑っている。

 

「きゃああああああああああ!」

 

 霊夢は悲鳴を上げながら、持っていた札をその着物に投げつけた。後に残ったものは背中部分がぽっかりと焼けて穴が開いた着物と、前髪が少し焦げたフランの不満そうな顔が覗くだけだった。

 

「霊夢の馬鹿ああああ! せっかくの着物どうするのよ!」

「うるさいわよ! トラウマよ! あんな顔見せられたらよるトイレに行けないじゃない!」

「分けがわかんないよ!」

 

 巫女でも霊が怖いのだろうか。という謎は置いておいて。

 結局、フランは霊夢が小さい頃に来ていた巫女服を来て人里に行く事になった。

 

「というわけで、悪いわね、留守番の上に掃除まで」

「いえいえ、そのつもりで来ましたから」

「行ってきまーす!」

「行ってらっしゃい」

 

 妖夢は子供を送り出す母親よろしく、ニコリと笑って手を振るフランと霊夢を送り出したのだった。

 

「さて……ふふふ、今の内にあのメスを詳しく調べてみましょう」

 

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