フランは成長するのか?   作:天澤星三

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第五話 ~夏の夜のレミリアと咲夜~

 昼間の暑さは何処へやら。心地よい風が闇に染め上げられた草木を撫でて揺らす。

 そんな夏の夜、空には遮蔽物となる雲がひとつもない。そんな漆黒で、高い夜空を縦横無尽に流れる天の川に無数の星が目一杯に散らばっている。天の川に映り込む、少し欠けた月が紅魔館を照らし、明るい紫色に染め上げた。

 綺麗に並んでいる紅魔館の窓のひとつ、開け放たれているその窓に月の光が差し込んでいる。

 外は月の光で明るいが紅魔館の中は暗い。その為、窓に面する廊下から見るそれは、まるで月のスポットライトを受けているよう。

 月のスポットライトにはテーブルと椅子が一組。更につまらなそうに月に照らされた景色を眺める少女が一人照らし出されている。幼い顔立ちに紅の瞳、背には大きな羽を有する。レミリア=スカーレットだった。 

 その背後の暗闇からコツリ、コツリ、と足音を立ててティーセットを持ってやってくるのはこの紅魔館のメイド十六夜咲夜だ。

 

「お嬢様、お茶をお持ちしました」

「ありがとう」

 

 コトリ、と静かにおかれたティーカップに月の光が反射してレミリアの瞳を照らす。

咲夜は馴れた手つきでティーカップに紅茶を入れてレミリアに差し出した。

 紅茶が注がれたティーカップを手に持ち口に運ぶレミリア。その様子はとても上品であり、その子供のような容姿とのギャップに、いつもなら恍惚の表情をする咲夜だが、今の表情は月の光に照らされていないせいか何処か曇っている。

 しかしレミリアはそんな事など気にはせず、一口飲むとまた窓の外の景色をつまらなそうな表情で眺めている。

 

「月が綺麗ですね」

 

 主がつまらなそうにしていればそれをどうにかするのもメイドの仕事。しかし帰ってきたのはただ一言だけ。

 

「そうね」

 

 だから咲夜も何とか間を持たせようと話しかけ続ける。

 

「妹様がいなくなって静かになりましたね」

「そうね」

「少し寂しいですね」

「そうね」

 

 そんな咲夜の努力も空しく、返ってくるのはレミリアの気の抜けた返事のみ。これでは間が持たない。

 普段ならばこんな事はないのだが、というよりもレミリアが自発的に話しかけてくることが多い。

 しかしこうなってしまったのは、フランが今回の計画でこの紅魔館を一時的にとはいえ離れてしまったから。だからレミリアは寂しくてたまらずボーっと考え込んでしまっていた。という事だけが原因ではないだろう。

 というのも前の会議で頬をひっぱたかれた咲夜とひっぱたいた本人のレミリアの関係が少しギクシャクしていたのだ。

 そしてあまり我慢強くない咲夜のストレスがついに爆発してしまう。

 

「お、お嬢様!」

「何?」

 

 ボーっと外を眺めたままで振り向きもしないレミリア。そんなレミリアの反応に咲夜は心にグングニルをくらわされたかのような表情。これは 精神的に辛いものがある。しかし負けじとばかり咲夜は話を続ける。

 

「怒っているなら怒っていると、そうおっしゃって下さい! ク、クビだというのならクビにしてくれても構いません! その覚悟はできています!」

「別に怒ってないわ」

 

 依然として窓の外を見ながら咲夜のほうは見向きもしない。

 

「嘘です!」

「嘘?」

 

 そこでようやく、ゆっくりと咲夜のほうをやっと見れるくらいに顔を動かして横目で見る。月の光が少し顔にかかって照らされているせいで何処か怒っているように見える。

 

「だ、だって最近何を話しかけても……いつも生返事で」

「そう……ね」

「やっぱり……」

「あなたが私のことをそんなちっぽけな存在だと思っていた、という事になら怒ってあげてもいいわ」

 

 と妖艶に笑うレミリア。

 

「え? あ、あうぅ……」

 

 笑う時にちらりと見えたその吸血鬼の牙に、何処か安心してしまった咲夜は目を泳がせる事しかできない。ずっと怒っていただろうと思っていたレミリアのその思いがけない応対だったからだ。あとは唸ることしか出来ず俯いてしまう。

 

「あうぅ……ね」

 

 とレミリアが返した咲夜の真似にさっきまでとは打って変わってもう恍惚の表情だ。

 

「私は嬉しいです……ずっと怒っていると思って……」

 

 とハンカチーフでうれし涙を拭いながら鼻水をすするという芝居がかった表現で嬉しさを表す。

 

「……怒っていたわ」

 

 そんな咲夜にレミリアはため息をつきながら笑い、意地悪な一言。

 

「え」

 

 パサリとハンカチーフを落としてしまう咲夜。

 

「あの時はね」

 

 そう言い捨てて軽く笑うレミリアの表情は悪意に満ち溢れていた。しかしその笑はやはりとても妖艶で、もちろんだまされた咲夜は恍惚の表情である。

 

(ああ、何という小悪魔な天使の笑顔……いただきます)

「私もあの時は頭に血が上っていて……でも私の為にやってくれたんでしょ?」

「お嬢様……」

 

 照れ隠しのためなのか、それともただの仕草なのかまた顔を戻し景色を眺める。

 

「ありがとう」

「お嬢様ー!」

 

 ニコリと微笑むレミリアに咲夜は思わず抱きついてしまう。

 

「お嬢様、一生付いていきますううう!」

(うぜぇ……)

 

 抱きつきながら泣き叫ぶ咲夜を静かに引き離すレミリア。咲夜は涙を手で拭いながら心に残った疑問をぶつける。

 

「では……何故ずっとボーっとしてらしたのですか? やはり妹様の事を?」

「……そうね」

「お嬢様と妹様は仲がよろしいですもんね。姉妹愛というヤツですか?」

「姉妹……愛?」

 

 そう言うと腑に落ちないといった表情になり顔を曇らせるレミリア。

 

「違うのですか?」

「そう……ね……」

 

 レミリアは何か考えるように背もたれに体重を預け、尚且つ組んだ片方の足で椅子を傾けてゆらゆらと揺らしている。咲夜はもしもレミリアが後ろにずっこけた時の為に腰にぶら下げていた時計を握る。

 

「怒るわよ?」

 

 そんな心配は無用だと、突然目を開けたレミリアがそんな咲夜を一喝する。咲夜はパッと手を離したようだが遅かったようだ。

 

「も、申し訳ありません!」

 

 フフッとレミリアが笑った気がした。そして体勢を戻し、また頬杖を付く。

 

「そう……そうね。これは謝罪よ」

 

 と、突然思いついたようにレミリアが呟くように咲夜に語りかける。

 

「え、あの……どういうことでしょうか?」

「あの子があんなふうになったのは私のせいなんだから」

「え、ええ? えええ!?」

 

 わけが分からず目を泳がせる咲夜を楽しそうに見るレミリア。

 ひょっとしたらレミリアはSなのかもしれない。レミリアの言うあんなふう、とは見境なく人を襲い、気に入らないことがあれば暴れだし手に負えなくなるという、いわゆる情緒不安定だという事象についてだろう。

 

「ちょうどいいわ。暇だし。あなたに昔話をしてあげる。心して聞きなさい」

「は、はい!」

 

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