フランは成長するのか?   作:天澤星三

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第七話 回想編 ~死闘~

「どうしたのおじさま?」

 

 予想以上に驚き、そして成長したなと一向に褒めてくれないダリス。

 

「何か言ってよっ」

 

 いくらなんでも驚きすぎだと、フランはしかめっ面で抗議する。

 ダリスはフランのその抗議で小さく弾かれたようにビクリ。現実に引き戻され、すぐさま聞き返す。

 

「あ、ああ……その羽は?」

「ふふーん、綺麗でしょ? スコシ前に生えてきたんだぁ~。ちょっと変な形だけど」

 

 と自信満々に無い胸を張って言うフラン。だがこれはダリスにとって、そして吸血鬼にとって非常にまずい事態になる火種に他ならなかった。

 ダリスは現状を確かめるため、まず片膝をつく。

 フランは褒めてもらえると思ったのかダリスの方に向き直り満面の笑みをダリスに向ける。しかしダリスの表情はそんなフランのささやかな願望を叶えるにはあまりにも険しすぎた。

 ダリスはフランの細い両肩に手を掛け、目を見る。これはまじめな話だという雰囲気を作り出すためだ。普段がこんな様子だから冗談で流されてしまうかもしれない。それだけ現状は時間がないということだ。

 

「おじさま?」

 

 流石にフランもその雰囲気を察したのか、少し困惑気味だ。

 ダリスは気後れ気味のフランにゆっくり、しかし力強く話す。

 

「フラン、これを……この羽を教会の人間の誰かに見られたか?」

「う、うん……おじさま」

「違うっ、俺以外だっ」

 

 あせるダリスは語尾が強くならないように努めているがどうしても、事態が事態なだけに怒鳴るようになってしまう。

 そんな真剣なダリスに少し怯えつつもフランは答える。

 

「おじさまの弟子が……見てたかも……でも驚いてどっか行っちゃった。なんで?」

「弟子?……あいつかっ……なんてことだ……」

 

 とダリスは独り言のようにぶつぶつと喋っている。ダリスは軽く首を振ってフランのいう弟子の姿を探すが見当たらない。

 フランが弟子だと思っていた少年。実はダリスが吸血鬼側に不等な契約を結ばないように派遣された、教会が送り込んだ監査役だった。ダリスは軍人で交渉にはあまりむかない。公平を欠く条約を結んだり、話を進めたりしないようにするために送り込まれたのだ。

 その監査役にフランの羽を見られたことで事態は急速に悪化することになる。

 ダリスはフランに話すため、俯いていたせいで、目にかかってた前髪をなで上げるように額に手を当てる。

 

「……他の吸血鬼に誰にも見せるなとは言われなかったのか!?」

 

 焦って怒鳴ってしまうダリスに、フランは恐る恐る頷くことしか出来ずにいる。

 

「吸血鬼の間で伝説は継承されていないというのか……」

 

 小さく呟いてダリスはレミリアを見上げる。レミリアも何の事かよく分からないといったふうに首をかしげている。

 

「おじさ――」

「見られたのはいつだ」

「……今日、おじさまが来て……すぐ」

「なっ……くそっ、なんで気づかなかったんだ!」

 

 と自問自答するダリス。羽はとても小さい。しかもその羽はフランが意図して黙って隠していたのだ。気付くはずがなかった。

 

「お、おじ……さ」

 

 フランは訳が分からずもうどうしたらいいのか分からなかった。もうダリスのことを呼ぶ事もままならないほどに。分かることは恐らく羽を褒めてもらえないということだけだ。

 ダリスの様子は尋常ではない。

 

「すぐ追いかけなければ!」

 

 事態を把握したダリスは急いで立ち上がり、すぐさまこの城を出て行こうとする。

 

「ど、どうしてっ? 今日はずっといるってっ――」

 

 現状を把握できないフランは目の前の現実だけを見て判断するしかない。だから素直にダリスが何処かに行ってしまうことを何とかして止めようとする。だがフランの儚い願望はダリスの一言で打ち砕かれた。

 

「フラン!」

 

 ダリスは自分を止めようと身を乗り出すフランの肩を掴み止め、真剣な表情でフランを見つめる。

 

「すぐ戻る、と言いたいがもし私が戻らない場合、いや……」

 

 更にそんなフランに追い討ちをかけるようにダリスが信じられない言葉を吐く。一人称を俺から私に変えて。

 

「教会が攻めてきた場合に備えて」

 

 これにはさすがのフランも目を丸くする。

 フランの両親はハンターに殺されている。そのような事が起きないようにと連れてこられた平和協定を結んでいるこの町に教会が攻めてくるなどありえないからだ。

 

「おじさま? 何言って」

 

 それはありえないとフランでも若干笑ってしまうくらいに漠然とした事。しかしそれは平和協定の表面だけしか知らないフランの考え。

 

「聞くんだ! このままではお前は殺される! いや……それよりも恐ろしい実験体にされるかもしれない! もし教会が攻めてきたら姉さんと共に逃げなさい! 分かったな!?」

 

 ダリスは問答無用で、フランに有無を言わさない。それはフランにとって理解しがたい事ばかりだ。

 それに殺される、実験体にされるとは一体何なのか。

 教会と吸血鬼の内情を知らないフランにはダリスの険しい表情以外に危機感を持てる理由が無かった。

 

「なんで――」

「なんでもだ!」

 

 いつまでも危機感をもてないフランに苛立ちを覚えるダリス。いつまでも聞き分けの無い子を叱りつける様に怒鳴り散らす。

 聞き分けのない子はかわいそうに、ビクリと体をすくませて小さく悲鳴を上げた。

 ダリスはゆっくり説明してやりたいがそんな時間もなく、更に説明せずにフランを納得させる事が難しい。それがもどかしかった。

 しかしどんな理由であれこんな小さな子供を怒鳴り散らしていいはずがない。

 

「す、すまない……」

 

 だからびくつくフランを見て我に返ったのか、ダリスはまた額に手を当て、罰が悪そうに短く謝罪する。

 

「とにかくここは危険かもしれない。いつでも逃げられる準備をしておくんだ」

「う、うん……」

 

 フランは頷く。いや頷かされたという方が正しいだろう。それ以外の選択肢を選ぶ事はフランには出来なかった。

 

「じゃあ俺は行く」

 

 ダリスは立ち上がると踵を返しそそくさと町の外へ向かう。

 

「おじさま!」

「ん?」

 

 フランがそんなダリスを呼び止める。ダリスが戻らない場合、などと言うからこのまま一生会えなくなるかもしれないと感じたのだろう。

 ダリスは振り返らず首だけを傾け、肩越しにフランを見る。

 フランは兎のぬいぐるみをきつく抱きしめていた。しかし俯いてダリスは見てはいない。

 

「おじさまは……すぐ帰ってくるよね……?」

 

 またダリスに会いたいという一途な思い。最初の強烈な抱擁も然り、行き過ぎたセクハラ発言も然り、フランは本当にダリスが好きなのだろう。

 だがフランの顔に笑みはない。恐らくダリスの返答に希望がもてないからだ。

 実際、ダリスは何かを考えるように黙りこくったまま。

 ぬいぐるみの形が徐々に歪んでいく。形が変形してもどらなくなってしまう程に。それは俯いたフランのよく見えない表情を映し出した鏡のよう。

 その様を見てダリスは一度目を瞑り小さなため息と共にゆっくりと振り返る。

 それに気付き、フランも恐る恐る顔を上げる。

 

「ああ。すぐ帰ってくる。だから心配するな」

 

 しばらくの沈黙の後発せられたその返事はダリスも顔に笑みを浮かべていった。それにフランの曇った顔はすぐに晴れた。

 

「約束だよ!?」

「ああ、約束だ」

 

 ダリスは白い歯を見せて笑いながらフランの不安を解消してやる。ダリスは嬉しそうなフランとしばし見つめ合う、とすぐに踵を返して歩き出す。そして一言。

 

「じゃあ、またな」

 

 手を振るダリスにに元気よく返事を返すフラン。

 

「うん!」

 

 ダリスは軽く顔を上げると上から見下ろしていたレミリアと視線がかち合った。その表情には先程フランに送った笑みはない。

 

「フランを頼む」

 

 口には出してはいないがレミリアにそう懇願しているような目。更に表情は険しく、厳しい。

 フランはフランで行ってしまうダリスを寂しそうな表情で見つめている。兎のぬいぐるみを抱きしめ外灯の明かりを受けながらダリスの姿が見えなくなるまでずっと立ち尽くしていたのだった。

 

 

 

 二日後の早朝、その町は吸血鬼の集団狩りにあった。

 

 ハンター達は怪しげな術を使い吸血鬼達を殺しに殺した。泣いて叫んで許しを請おうが容赦なく、胸には銀の杭を打ち込まれていく。

 

 朝という事もあり、戦いの最中運悪く日向に出てしまったが最後、激しい苦痛にもだえながらハンターに殺されていく吸血鬼。

 

 家という家には火が放たれ、中にいては火あぶり、外に出れば日光の餌食。

 

 パチパチと物が焼ける音。気付けば辺り一面が焼け野原。

 

 まさに戦争だった。いや、戦争と呼べるものなのかどうかも怪しい一方的な蹂躙。平和協定を結んでいた事もあり吸血鬼は何の対策もしていなかった。

 

 そんな吸血鬼の町はたやすくハンター達の手に落ちていった。

 

 唯一火の被害を受けなかったのは石造りの、レミリアとフランがいる孤児院でもある城だけだった。

 

 その城にはハンター達が攻め入るしかなく日光や火の被害もないので対等に戦えるのだが、数の上で圧倒的不利にあった。孤児院という事もあり大人は少なく、結果は目に見えている。女子供も容赦なく殺されていく。

 

 そんな中、フランとレミリアは城の一室に篭っていた。家具の物陰に隠れ入って来たハンターを殺し窓から投げ捨てる、という事を繰り返していた。

 

 どのくらい時間が経っただろうか。もう日が暮れて今なら外に出ても日を浴びる心配もない。逃げるなら今だ。

 しかしレミリアとフランは未だに城に閉じこもっていた。

 

「フラン! もうこれ以上ここにいるのは危険よ! 早く逃げるわよ!」

 

 たった今ハンターを紅の槍で突き殺したレミリアがもう限界だとばかりに叫ぶ。

 

「だめだよ! おじさまが戻るまで私待ってる!」

 

 フランは白い兎を抱きしめながら叫び返す。

 二人が逃げずにいるのはこれが原因だった。

 約束したのだ。ダリスは戻ると約束してくれたのだ。だからフランはずっと待っていた。レミリアはそんなフランを放っておく事ができず、城に篭っていたのだ。

 今は城の別の場所で立て篭っているこの町の長に目が向いている。そのためフラン達のいる場所はまだ比較的安全と言えた。

 しかしもう限界だった。うすうすとハンター達に感づかれているのだ。長がやられてしまったのか、昼間とは違い部屋に入ってくるハンターの数が増えてきている。

 一人、二人と入ったところでレミリアは負けはしないだろう。だが三人、四人と増えていけばいずれやられてしまう。

 そしてレミリアの体力も尽き始めてきている。だからその前に逃げなければならない。そのリミットが迫ってきていたのだ。

 

「ダリスは教会側の人間よ! 殺しに来ることはあっても助けに来ることはないわ!」

 

 肩で息をしながらレミリアはハンターを窓から落とし、後がないこともあって語尾を強くしてフランを怒鳴る。

 

「そんなことない!」

「聞き分けなさいフラン! このままじゃ私達も――」

 

 その会話の途中でレミリアは後ろに気配を感じた。

 レミリアは急いで後ろを振り返る。今の状況で吸血鬼の増援が来るとは考えにくい。

 

「くっ」

 

 ハンターだった。

 部屋の入り口に教会の服を着てフードをすっぽりかぶっているハンターが一人。

 子供二人と甘く見たのか幸いな事に仲間を呼ぶ気配はない。

 一歩ハンターの足が部屋に踏み入れられるとほぼ同時、金属が擦れ合い響く音がレミリア達の部屋に反響する。ハンターの腰に備え付けられた銀の剣が引き抜かれたのだ。

 ハンターは数歩進んだあと身を低くする。そして踏み込んだ。

 

「フランっ、下がってなさいっ」

「う、うん……」

 

 ハンターとフランの間に立つレミリア。手には紅の槍を持って。対するは剣を振りかざし、襲い掛かってくるハンター。

 かなり広い部類にあたる部屋。ハンターとはまだかなりの距離がある。接近してわざわざ危ない橋を渡る必要もない。レミリアは手に持っている槍を思いっきり投げつける。

 だが槍はレミリアの思惑を外れてハンターの横をすり抜けていく。

 それが以外だったのかハンターは警戒して足を止めて構える。レミリアは続いて手に槍を出現させてまたそれを投げつける。が、槍はハンターの横をすり抜けて行くだけ。

 体力の限界だった。槍投げは繊細なコントロールを必要とする。レミリアの腕も軽く痙攣していた。

 もう槍投げは使えないだろうと思われたその時。

 

「おねぇちゃん! これ!」

 

 フランがレミリアに何かを投げ渡す。レミリアはそれを片手で受け取ると眉 をしかめてしまう。

 

「ふ、フリ○ク?」

 

 レミリアはそれをいぶかしげに見つめた後フランをチラリ。

 

「集中力が増すんだって! おじさまにもらったの!」

「そう……」

 

 フランは真剣だ。フリス○が本当に効くと思っているのだろう。

 

「でも、おじさまはもうこないわよ?」

「くるよ、絶対助けに来てくれる」

 

 そう言い切るフランの表情は曇りない笑顔だ。その手にはしっかりと兎のぬいぐるみが抱かれている。

 フランの心情をさりげなく確かめてみたレミリアだがその意思は揺ぎ無いようだ。それを見てレミリア舌を打ちたかっただろうがフランの笑顔がそれをため息に変える。

 

「……わかったわ。ならそのぬいぐるみを大事に抱えておきなさい!」

「うん! おねえちゃん! きたよ!」

 

 レミリアは一粒食べる。それは目が覚めるような味だった。そしてすぐさま向かってくるハンターに思いっきり槍を投げつけた。

 槍はまっすぐハンターに、今までよりも格段に速いスピードでハンターに向かっていく。先程とは違い、その軌跡の延長上にハンターを捉えている。

 

 ドカッ!

 

 今までにない勢いでハンターに向かっていった槍は思いっきり上方に進路を変えて跳んでいった。更に天井を盛大に突き破り、ぽっかりと大きな穴を開けて。

 そこには夜空が。その夜空には大きな満月が赤色に染まって怪しく光を放っている。

 その光景を呆然と眺めるレミリアとハンター。二人は開いた口が塞がらない。唯一、フランだけは何やら目新しいものを見て興奮してるといった様に目を輝かせている。

 

「こ、こうなったら、接近戦よ!」

 

 レミリアは気を取り直し、今度は少し短めの槍を出現させる。気を取り直したハンターも距離をつめてくる。

 フランに近づけさせるわけにはいかない。レミリアも打って出る。

 二人の距離がみるみるうちに縮まってついに互いが互いの間に入り込む。

 先手はハンターの剣。だがレミリアはハンターの初撃をかわし思いっきり槍を突く。しかし剣を降った手を軸に上手く体をひねり、レミリアの突きをかわすハンター。そしてハンターは剣を振りかざす。避けられたレミリアは今無防備状態だ。

 だがレミリアも何の考えも無しに突っ込むほど馬鹿ではない。レミリアの弾幕が保険でセットされていた。

 それに気付いたハンターは一歩引き、剣をヒュンヒュンと二回ほどすばやく振り抜くとレミリアの弾幕を斬り落とした。

 

「んなっ」

 

 その鮮やかな芸当に一瞬、目を奪われるレミリア。その隙をついてハンターがレミリアとの距離をつめる。

 

ヒュンッ

 

 横一閃。ハンターの剣がレミリアの体を二つに切り裂いた。様に見えた。レミリアの体は二つには切れていなかった。だが上半身はない。いや、上半身が見えないほどに思いっきり身を低くしていたのだ。ハンターとの体格差はかなりある。その体格差で更に思いっきり身を低くされたら振られた剣は空を斬るしかない。

 レミリアは身を低く、しかし頭は上を向いて紅の瞳は標的を逃さない。

ハンターはよほどの自信があったのだろう。大きな自信を込めて放った剣は空を切った。自信がなくなったハンターの体はとても脆い。 

 もちろんその隙を逃すレミリアではない。レミリアは片手で床を叩き、跳ね上がるように体を起こす。槍の切先はハンターの胸に定められて。

 

「くっ」

「終わりよ」

 

 ハンターの服が無重力になったように膨らんだ。ハンターがすばやく身を引いたのだ。

 しかしもう間に合わない。引いたハンターを逃すまいとレミリアがしっかり着いていっている。

 仕留めた。

 レミリアがそう確信した瞬間だった。

 

「えっ!?」

 

 レミリアはまるで妖術にでもかかったかのようにピタリと動きを止めてしまう。

 レミリア同様、もちろんその隙を逃すハンターではない。体勢を整え、空を切った剣を自分の懐にもぐりこませるようにねじ込み、一気に突き出した。

 

「ぐっ」

 

 レミリアの右肩を鈍い音と共にハンターの剣が貫いた。その勢いでレミリアの小さな体が宙を舞う。 

 しかしそれで終わりではない。ハンターの兵法なのだろう。レミリアを襲ったその剣は勢いを殺さず、そのまま床に突き立てられた。レミリアは息が思わず漏れてしまうほど強く、全身を床に叩きつけられる。吸血鬼の弱点、心臓がある胸をあらわにして。

 

「おねぇちゃん!」

 

 フランが叫ぶ。その叫び声はあまりの光景に声が裏返ってしまっている。

 レミリアは肩を剣で貫かれ、更に床に突き刺された事で身動きが取れない。あまつさえ床に叩きつけられた衝撃で呼吸困難を起こし喋る事さえ叶わなかった。

 ハンターはレミリアのまだ動く左腕を制し、もう片方の手で腰に常備されている銀の杭を抜き出して振りかざす。

 吸血鬼の弱点、心臓に打ち込み、止めを刺すつもりだ。

 

「やめてえええええ!」

 

 フランは気がつくと弾幕をハンターに放っていた。ハンターは杭を振り上げた所で予期しなかった弾幕に吹っ飛ばされる。

 

「うわあああああ!」

 

 両親がハンターに殺された時、その場にフランはいなかった。だから自分のよく見知っている吸血鬼が今にも殺されようとしている場面に遭遇したのはこれが初めてだったのだ。

 あまりの衝撃的光景にフランは一歩も動けず固まってしまう、ような子供ではない。勇気を振り絞る。

 体に、心に鞭を打つように叫びながらハンターに迫る。その途中にあったレミリアの肩を貫いている剣をすり抜けざまに抜き取った。

 その際床に倒れ身動きが取れなかったレミリアが剣を抜き取られる時の痛みと共に何が起こっているのか状況を把握する。

 

「ふ、ふらっ……やめなさ――」

 

 すぐに止めろとフランを制止させようと叫ぶが上手く声が出ない。

フランにとっても危険な行為。危ないからやめろという事なのだろうがその警告は少し遅かった。

 フランの持っている剣は見事にハンターの腹部を貫いていた。ハンターはフランに突っ込まれた勢いで壁に激突しずるずるとずり落ちていく。

 

「はぁはぁはぁ……」

「フラン! はなれて!」

 

 フランはハンターの腹に抱きつくような形で一緒に倒れこんでいた。その状態からだとフランの心臓を背中から杭で刺されるかもしれない。

 だが幸いな事に銀の杭はハンターの手を離れころころと床を転がっている。

 

「フラン!」

 

 しつこいくらいにハンターから離れる事を促すレミリア。

 

「大丈夫だよ……もう杭を握れもしな……」

 

 ふと顔を上げてハンターを見る。壁に打ち付けられた衝撃でフードは取れその顔があらわになっていた。顎には無精ひげを蓄え、それから上はよく見たことのある鼻と目。その目にはうつむいた時にいつも引っかかっていた前髪が。

 

「ふぇ?」

 

 だからフランはそんな間の抜けた声を出してしまう。レミリアは歯を食いしばり目を瞑る。

 そのフランの表情をみていられなかったのだ。

 

「おじ……さ……ま?」

 

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