フランは成長するのか?   作:天澤星三

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第九話 回想偏 ~七色の悪魔~

現在 紅魔館

 

 

「今思えばダリスはフランの力を解放させようとしてたんでしょうね」

 

 話し疲れたのか、レミリアは軽くため息をつく。

 

「どうしてそう思われるのですか?」

 

 見ればレミリアのカップが空になっている。咲夜はそれ程話に熱中していたようだ。

 咲夜はすぐに紅茶を注いでレミリアに差し出し、先を促す。

 

「私が生まれるずっと前に記録された人間達の書物に、七色の災いのことが書かれてるってパチェに聞いたの。吸血鬼と吸血鬼ハンター、禁断の愛、愛するものの手によって殺されたハンター。大事な人を失った七色の羽の吸血鬼は力を解放し一瞬にして人間を滅ぼした」

 

 それは先程レミリアが話した物語と類似している。

 

「何か似ていますね」

「ダリスは私を殺してフランの力を解放しようとしたのかもしれないわ。自分の死でフランの力を解放してしまった形になってしまったけどね」

 

 その史実を元に、七色の吸血鬼が愛する者、つまり唯一の姉であるレミリアを殺せば激昂したフランが全てをぶち壊してくれると推測したのだろう。それでダリスとレミリアは死ぬだろうがフランは助かる。

 レミリアにはいい迷惑だがフランを想う気持ちはダリスのほうが強かったのかもしれない。

 

「もしくは」

 

 と、レミリアは紅茶の注がれたカップに手を掛け、持ち上げようとして止める。

 

「最初から自分が死ぬつもりだったのかもしれない」

 

 紅茶を流し込む代わりに開いた口から出てきたのはそんな言葉。

 史実通り。フランをけしかけるためにレミリアの肩を貫き、そしてとどめまでさそうという演出。

 

「……だから妹様の気持ちを聞いて安心したのですね」

 

 そこに最後のダリスの言葉。フランの熱い想いがダリスの計画の成功を示していた。

 

「そうね」

 

 レミリアはよく頭の回るメイドだと感心したように咲夜を見て微笑んだ。

 そしてすぐに視線を前に戻と「そういえば」と切り出した。

 

「フランの羽を教会の人間に見せないようにって、何故吸血鬼たちはフランに警告しなかったと思う?」

「それは妹様がサプライズで隠していたのでは?」

「いいえ、フランは自慢するように皆に嬉しそうに話してたわ」

「そ、そうですか……」

 

 ダリスはフランと長以外の吸血鬼からは敬遠されていた。吸血鬼に言ったところで誰もダリスにばらしたりはしないだろうと思っていたのだろう。

 

「では何故?」

「簡単なことよ」

 

 レミリアの声は何故か得意げだ。

 

「たまたま七色の羽を持った吸血鬼が現れた時に、たまたま災いが起こっただけ。あの羽はたまに突然変異でできるの。町にはいなかったけど私は他に何人か見たことがあるわ」

「つまり人間と吸血鬼での価値観の違いですか?」

「そう、人間達だって昔は、指が六本生えた子供を神の子とはやし立てたでしょう。でも今は突然変異としか思わない。それと同じことよ。人間達にとってフランの羽は不吉の象徴だったらしいの」

「だからハンター達はお嬢様達を襲ったのですね」

 

 フランの羽は史実通り不吉の象徴。災厄の目は摘まなければならない。だからハンター達は吸血鬼の町を襲った。それが咲夜の見解だった。

 

「それは安易過ぎないかしら?」

 

 しかし、そんな咲夜の見解をレミリアがひっくり返す。

 

「フランの羽を見ただけでいきなり襲ってくるなんてありえないわ。見せかけだけど平和協定も結んでいたしね」

 

 そう言えば、と咲夜は思い出す。

 

「ではなぜ?」

「私達は人間を襲わない代わりに人の血液を定期的にもらっていた。でも人間達にとっても血液は重要なもの」

「それに不服だったから襲ったと?」

「そうね。そういう不満は前からあった。だから私達は不満が起こらないように、昔から吸血鬼の間だけで伝えられていた術や歴史を教えたの」

「長生きですからね」

「そう、そして人間達は術を研究して自ら使えるほどにまでなっていた」

「それがどういう?」

「わからない? 私達に恐怖と不満を持っている人間達が私達と同等の力を持つなら」

 

 人間を上回る身体能力を持ち妙な術を操る吸血鬼に人間達は数で対抗していた。その人間達が吸血鬼と同じ力を持つなら。

 

「まさか……」

「そう、皮肉にも私達が平穏に暮らすために差し出した知識を使って私達に戦争を仕掛けたの」

 

 しかし、それが不満だからと、不公平だからといって手に剣や槍を取り、吸血鬼を襲えば同じ人間から見ても、その人間達の傲慢だと、同じ人間として最低だと、周りから賛同を得られず、逆にその戦争を起こした人間は迫害に合うだろう。血も涙も無い人間だと。

 

 だから

 

「フランの、七色の羽という大義名分を掲げて」

 

 理由が欲しかったのだ。

 それは何でもよかった。吸血鬼が人間を少しでも傷つければそれだけで戦争は起こっただろう。だからダリスは最小の人数で吸血鬼の町に向かい、吸血鬼達もそれを知っていてあえてダリス達に近寄ろうとはしなかった。

 フランを除いて。

 唯一近づいたフランの、その不吉の象徴と称される羽というささいなことが理由だった。戦争の理由などいつも小さな出来事なのだ。

 

「そんな……」

「人間達はしめたと思ったでしょうね。その状況を打開するうってつけの大義名分をみつけたんだから。それが無かったらただの人間の傲慢とされるだけ。……全く、人間という生き物は今も昔も変わらないのね」

「……」

 

 咲夜は同じ人間として耳が痛かった。いつも綺麗に伸びている背筋を丸めてシュンとしている。

 

「まあでも、ダリスみたいな人間もいる」

 

 咲夜へせめてもの情けか、レミリアは他愛なく笑う。

 

「もちろん、あなたのような人間もね」

「お、お嬢様ぁぁああ!」

 

 咲夜は泣きながらまたレミリアに抱きついた。

 

(うぜぇ……)

 

 そしていつものようにまた咲夜を引き剥がす。

 咲夜は涙を拭う。そしてわくわくしながら目を輝かせ咲夜は問う。

 

「そ、それでその後お嬢様達はどうしたのですか?」

「そうね……、私が瓦礫の中から這い出るとハンター達の悲鳴が聞こえたわ」

「それはまさか……」

 

史実通りだとすれば、ハンターの悲鳴はフランの行動に繋がる。

 

「そう……フランは強かったわ。町にいたハンターたちを次々殺していった。ハンターは恐ろしかったでしょうね。手を握るだけでハンターの体をつぶせるんだから」

「おぉ……」

「そこで人間達は怒り狂ったフランに私達の技術を使って魔法陣を作り隕石を放ったの」

「それが噂に聞く例の破壊したってやつですね?」

「ええ、今でも忘れないわ。高く手を掲げて……そして握るの」

「そ、それで?」

 

 レミリアの片方の唇が釣りあがる。真っ白な牙が見えるほどに。

 

「笑うのよ、怖気の走るような笑みだった」

「あ……う」

 

 レミリアは咲夜をみてまた笑う。この二人は結構いいコンビかもしれない。

 

「隕石が破壊された事でハンター達は我先にと逃げ惑ったけど、結局全員フランに殺されちゃったわ。その時のフランの表情は今でも忘れない……」

 

 

 

 

回想 吸血鬼の町

 

 

 狂ったフランはハンター達を全て殺した。

 ハンターの血を浴びて全身を赤く染めたフランは紅く染まった月を仰ぎ、ゲラゲラと笑っていた。背中の羽が血と月の光で鈍く光る。

 その光景をレミリアはずっと見ていた。

 呆然として、動く事もできなかった。

 レミリアをそうさせたのは他の何者でもない恐怖。実の姉のレミリアでさえ恐怖で動けなかった。

 フランの横顔、月に照らされるそれはまるでこの世のものとは思えない、悪魔そのもの。その悪魔が目を見開いて、口を裂けんばかりに吊り上げ笑うのだ。それを見て恐怖を感じないものは、その悪魔を駆逐する事ができる神しかいないだろう。

 しかしレミリアもずっとその場で呆然としてるわけにも行かない。もし狂ったフランが人間の住む町等に行けばとんでもない事になる。 

 フランがそんな事をすれば人間は大挙して押し寄せフランを襲うだろう。それはもう世界中の人間を敵に回す事になる。

 いくらフランが強いとはいえ体力の限界がある。それにフランはそんな事は願ってはいないはずだ。ただ一人純粋に人間と吸血鬼の平和を望んでいたのだから。

 

「くっ……フランっ」

 

 レミリアはフランを止めようと、満身創痍の体に鞭をうって一歩一歩フランに近づいていく。

 しかしレミリアはなかなか進む事ができない。満身創痍の体でもこれはおかしい。瓦礫の下敷きになった時にどこか怪我したのか。

 ふと自分の足を見る。

 それは恐怖だろうか、警告なのだろうか、フランの方へ行くなという、身の危険を察知したレミリアの本能が、そうさせているのだろうか。

 

(こ、この私が震えているというの!?)

 

 何にせよレミリアはそんな自分が情けなく、恥ずかしく思った。

 位の高い貴族の娘。堂々たる態度をとり、恐れるものなど何もない。そう自負していたレミリアのプライドはガラス細工のように崩れさってしまっていることだろう。

 しかし、プライドを捨てたとしても貴族としての意地がある。だからレミリアはその震える足に思いっきり拳を入れた。

 

「とまれ……とまれ! とまれ!」

 

 そう叫びながら。何度も何度も殴りつける。

 そしてどちらの痛みでだろうか。足の震えがとまった。

 

「よし……フラン……今い――」

 

 震えの止まった足から顔を上げ、前を向く。フランを救うために、その一歩を踏み出すために。

 と、そこにはいつの間にか薄ら笑いを浮かべるフランがいた。顔には人間のものと思われる返り血をべっとりと貼り付けて。

 

「……う……あ……ふら」

 

 レミリアは思わず一歩下がってしまう。そして一瞬、自分の事を思い出して着てくれたのではないかと、ほんの一瞬だけそう思ってしまった。引きつった笑みを浮かべながら「フラン」と呼ぼうとする。

 しかしフランはレミリアの喉に手を伸ばす。そして思いっきり鷲づかみにして乱暴に持ち上げた。

 

「ぐっ!?」

「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

 更にフランはそんな奇声を上げて笑い散らす。

 

「ふら……んっ、やめ……!」

 

 レミリアは何とか振りほどこうとするも、その小さな体の何処にそんな力があるのかと感じられるほどにフランの腕はびくともしない。

 息絶え絶えにふと視線を落とすと、フランはダリスからもらったぬいぐるみをまだ握っていた。

 その視線を追うようにフランも右手に持っているぬいぐるみをみる。

 しかしそれはハンターの血で真っ赤に染められた、白い箇所などかけらも見ることができなくなったぬいぐるみだった。

 フランは今までこんなものを持っていたのかと首かしげる。そして

 

ぱぁあん!

 

 ぬいぐるみが赤と白の綿を振り乱し爆発した。白と赤で染められた雪のようにその綿はゆっくりと降り注ぐ。

 ポトリ、ポトリと降り注ぐその紅白の雪が落ちるたび絶望の色が濃くなっていく。

 レミリアはもう何をしても無駄だと悟った。

 フランはもう完全に壊れてしまっていた。

 理性を失い、ただ破壊する事でしかその衝動は満たされる事はない、と。

 あいた片方の掌をゆっくりと握り締めるフラン。

 

「ふら……」

 

 終わった。

レミリアは覚悟を決めて目を閉じる。その時、いつの間にかなみなみ溜まっていた涙が溢れてこぼれた。大粒の涙が頬を伝う。

 レミリアは後悔する。フランを連れて無理やりにでも逃げればよかったと。あの時、ダリスを殺し、そのままフランに知られないよう、窓から落とせばよかったと。

 そして狂ってしまった実の妹であるフランを止める事ができなかったふがいない自分。姉という立場でありながら、妹を止めることもできずに力尽きようとする自分の無力が悲しかった。

 頬を伝った涙がフランの腕に落ちる。

 

「ぐっ」

 

 うめき声が聞こえる。それはレミリアのものではない。

 先ほど握ろうとしていた手で頭を押さえ、もう片方の手は未だレミリアの首を鷲づかみにしているフランのものだった。

 破壊の行使がとまる

 レミリアは涙を流しながらその涙でかすむ光景を、目を細めて垣間見る。 そこには未だ薄ら笑いを続けるフランが依然として変わらない光景が見て取れた。

 しかしひとつだけ違うことがあった。間違い探しでも一目で分かるようなその光景。

 フランは血の涙をながしていた

 それはまるでこれ以上殺したくないと、レミリアに訴えかけているようだった。

 しかし自分では制御することができず、どうすることもできず、そんな自分を止めて欲しいとレミリアに懇願しているようだった。

 

「うぅぅううがああああ」

 

 何かと葛藤するかのようにフランはうめき声を上げる。

 レミリアのクビを絞めていた手も少し緩められる。

 

「わかったわ……止めて……欲しいのね?……なら私がとめて――」

 

 フランの体に一瞬、鈍い音と共に衝撃が走る。

フランの胸に、今はなき、城の天井をぶち抜いて飛んでいった紅の槍が突き刺さった。

 

「あげたわ……」

 

 

 

 

現在 紅魔館

 

 

「まあそんな感じね」

 

 レミリアはここが話の終わりと紅茶をすする。

 

「つまりフリ○ク最強ということですね」

「そういうことよ」

「……そうですか。妹様もお辛いですね」

「そうでもないわ」

「え?」

「あの子の目が覚めた時は全部忘れていた。ダリスのことも」

 

 あまりの衝撃的な出来事だから記憶喪失を引き起こしたのだろうか。

 

「そう……ですか。それをお嬢様は教えてあげたのですか?」

「……ふふ、どう思う?」

 

 とレミリアは頬杖を付いて目を細めて妖艶に笑う。

 

「え、と……その……愚問でした……」

 

 と急いで頭を下げる咲夜。

 

「咲夜」

「はい!?」

 

 咲夜は急いで頭を上げて返事をする。

 

「今日は私はここで寝るわ。ねむい……」

 

 話し疲れてしまったのか、そのまま机にうつぶせになってしまう。

 

「え、しかしこんなところでお休みになると風邪を」

「貴方は私の何なのかしら?」

 

 顔をうつぶせにしたまま自分と咲夜の関係を明示し命令を暗示する。

 すぐに理解した咲夜は一瞬と惑ったもののすぐに返事をする。

 

「……畏まりました、お嬢様」

 

 メイドは主に従順でなくてはいけない。

 

「おやすみ……」

「お休みなさいませ、お嬢様」

 

 そう言っていつの間にか手に持った毛布をかける。

 

「私は、貴方のメイド、メイドはお嬢様の意見に反抗せず黙ってそれに従うのみ……これが従順な巨乳メイドです」

 

 

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