48番目の逸般人   作:白鷺 葵

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【諸注意】
・クロスオーバー先のネタバレ注意。
・2部に関するネタバレ注意。
・2部に関するネタバレ注意。
・2部に関するネタバレ注意。
・クロスオーバー先の事件⇒FGO第1部⇒FGO第2部真っ最中
・アヴィケブロン×ぐだ子/ぐだ子×アヴィケブロン前提
・キャラクター崩壊注意。

【主人公】
安場(あんば) 星羅(せいら) 性別:女性 第1部開始⇒19歳、第2部開始⇒21歳
・17歳の頃に行方不明になっていた。何か目的があって、再び何処かへ旅に出ていた模様。
・19歳になって一時的に帰国した際、カルデアのスカウトにあう。
・同時期、彼女の周辺で同級生が2名ほど行方不明になっている。行方不明者の名前は天野亜真理、葵伊織。


ケース:安場星羅の場合
琥珀石のきらめき


 私の大親友アマリへ。

 

 

 いつになっても、アル・ワースへ戻って復興の手伝いをすることができなくて本当にごめん。また暫く帰れそうにないみたい。

 本当ならもっと早く連絡したかったんだけど、状況が切羽詰りすぎて大変なことになっていたんだ。

 

 人理焼却で人類の歴史が焼き尽くされた事件は解決し、残党である魔神柱の討伐もひと段落。新所長就任によるドサクサに紛れて退役し、アル・ワースでアマリたちと合流ようかなと計画していたら、今度は人理が凍結されてしまったの。おかげで地球の歴史は白紙化され、白い大地が残るのみ。

 思い出の場所も、家族も、みんな全部消えてしまった。私たちの大切な場所を取り戻すために、私は今、他の世界を滅ぼす旅路をしています。……エクスクロスに在籍しているときは、私がこんなことをする羽目になるだなんて予測できなかったなぁ。大義はあれど人を踏み躙る戦いは、正直キツイから。

 私が滅ぼした世界に生きていた種族・ヤガのみんなは、悪い奴らじゃなかったんだ。優しい子だっていたし、子どもを愛する親だっていた。皇帝の圧政に苦しんでて、義憤を抱いていた。私たちが倒したド腐れドダイトスもどきなんかより、ずっと善良な命たちだったんだよ。――世界を滅ぼした私が言う言葉ではないけれど。

 

 でも、だからといって、私が彼らの為に死ぬことを選ぶのは無理だった。

 

 私が死んだら、私が守ってきたものがすべて無駄になってしまうから。私の旅路が、すべて無意味にされてしまうから。

 人理焼却を否定した旅路だけじゃない。アル・ワースで過ごした日々ごと、全部踏み躙られてしまうから。

 

 正義とか悪とか、そんな単純な話じゃなくなった。今回の構図は正義対正義。どちらの主張も正しくて、けれどどちらの主張も等しく、悪辣さや間違いを孕んでいる。脆弱な世界は滅びるのが常で、でも優しさを失った世界に未来はない。それはあの旅路が証明している。

 「何故お前が生き残ったのだ」という理不尽な悪意に押しつぶされかけて、でも、みんなと一緒に歩いてきた旅路がそれを押しのけてくれた。だって、私たちが今まで積み重ねてきた日々を、赤の他人から悪だと断じられる謂れはないもの。

 私が出会って見てきた世界、感じてきた想い、それらを廃棄処分されるべきゴミだとか、淘汰されるべきものだとか言われたくなかった。私の旅路を、私自身が肯定する。だって、クリプターの掲げる世界はおかしいって、私の魂が叫んでいるから。

 

 “異星の神が、自分が生存するために望んだ世界のカタチ”――それが、私が滅ぼして回っている世界だ。

 

 嘗て魔獣エンデがアル・ワースを運営する際、“知的生命体が生み出す感情を食べるため”に人間たちやアル・ワースの世界情勢、および世界そのものを好き放題にいじり回していたのと同じ要領だと思う。そのために、異星の神は死にかけていた人間に取引を持ち掛けた。『生かす代わりに、異星の神が望む世界を創り出せ』って。

 死にたくない一心で協力している人、協力する過程で目的を見つけたから邁進している人、自分の目的の為に異星の神を使おうと考えたから取引に乗った人……クリプターの行動指針も、おそらく一枚岩じゃない。汎人類史が倒れ次第、自分たちで淘汰合戦をしそうな気配があるから。そこは悪党の連合軍と変わらないね。

 最も、その手段として「地球の歴史そのものに干渉しよう」ってのは悪辣だと思う。エンデは自力で世界を餌場に整えたけど、私が敵対している奴らは「地球を根城にするために、地球の歴史を変えてしまえ」という、なんともズルいやり方だから。私たちの世界を横取りするのと同義だもの。そういう意味では、エンデより悪辣かな?

 

 ……エクスクロスのみんなが今の私を見たら、どうするのかな。

 

 正義のために、私を止めるのかな。

 それとも、私と一緒に戦ってくれるのかな。

 

 一緒に戦ってくれるんだったら、嬉しいんだけどな。みんなまで敵に回すことになったら目も当てられないよ。本当にどうしよう。私にも一緒に戦ってくれる心強い仲間がいるし、頼れる英霊だっているけど、あの面子に勝てるのかって言われたら、厳しいどころの話じゃないし。

 『サーヴァントは神秘の塊だから、神秘が付与した攻撃でなければダメージを与えられない』って話は前にしたよね? 多分そのとき、『ゼルガードやサイバスター、あるいは神秘を無視してぶち抜きそうなグレンラガンの類なら、ダメージを与えられる可能性がある』って話もしたと思う。

 あの破壊力を真正面から叩き込まれれば、流石のサーヴァントも一瞬でお陀仏だ。万物の天才たるレオナルド・ダ・ヴィンチちゃんに、それとなーく「ゼルガードの出力および最大威力の魔力数値を、サーヴァントが真正面から喰らったら」という話題を振ってみたら、私と同じ意見だった。

 

 ダ・ヴィンチちゃんからは『マスター。キミは一体何と戦うつもりなんだい?』ってドン引かれたよ。近くに居合わせたアヴィケブロンも『僕が喰らったら即刻蒸発して座に還るだろうね』って言ってた。

 

 以後、アヴィケブロンは暫く工房に籠って計算式を出すのに明け暮れてた。結局、現状ではどうしようもないという答えに辿り着いて落ち込んでいたけど。『キミの不安を解消したかった。僕では力不足のようだ』って萎れるアヴィケブロンを見てると、胸が痛くてさ。

 話題を逸らすために、ちょっとだけ、アル・ワースで使われていたロボットやゴーレムの話をしたんだ。そしたらすっごく興奮して、子どもみたいにワクワクしてたなあ。アヴィケブロンはゴーレムの研究をしてるから、アル・ワースのゴーレムに興味津々みたいだったよ。閑話休題。

 

 冷静に考えれば、()()()()()()()()()()()()大体のことが解決しそうな気配がする。

 

 私たちでは『異聞帯に乗り込んで空想樹を伐採する』ことで異星の神の力を削ぎ落しているけど、エクスクロスのみんなが揃ったら、異星の神の本体に直行して倒すこともできそう。直行が無理でも、空想樹をピンポイントで伐採することくらいはできそうだよね。……空想樹を伐採することは、生えている世界を滅ぼすことには変わりないんだけどさ。

 平行世界を作ることができて、それが独立して運営されていけるような体系が整っていれば、異聞帯と汎人類史の戦いは起きなかったんだと思う。でも、私たちの世界は、平行宇宙を許容できるような体系じゃない。魔術師の間では、そういうのを剪定事象と編纂事象って称するらしいんだ。

 簡単に言うと、『平行世界を許容すると、地球を含んだ銀河自体の寿命も縮む』という事態に陥るらしい。だから、どうしても平行世界の存在を許容できなくて、編纂事象から外れてしまうと世界が滅びるように作られているみたい。異聞帯は剪定事象を異星の神の力で無理矢理延命した世界なんだ。

 

 特に、私が所属する人理継続保証機関フィニス・カルデアは『編纂事象を滞りなく運営していく』ことを使命とした機関だからね。世界が滅びるようなこと――そのケースの1つである『この世界が剪定事象に陥る』案件は絶対に避けたい訳だ。……最も、私の動機は、これ以上私の大事なものを踏み躙られたくないだけなんだけど。

 平行世界を許容できないことを脆弱ととるのか、勝手に増え続けて地球の寿命を食い潰す平行世界が罪なのか……そこまではちょっと判別つきそうにないや。世界を書き換えるなんて所業、エンデやホープスクラスの上位生命体じゃないと厳しいもの。

 

 アマリが意識不明になった際は単騎でゼルガードを動かし、最後は()()()()()するくらいの嗜みが無きゃ、剪定事象を平行世界として許容できるような体系は作れそうにないよね。

 

 そういえば、イオリとホープスはどうなってる? 今日も愉快に騒がしく盛り上がってるの? アマリ以外のことで仲良くする姿なんて思い浮かばないから心配だな。

 もしかして導師セルリックも混ざってるのかな? 騒がしくない? 大丈夫? 血なまぐさいことになっていなければ幸いなんだけどね。

 

 あと、私の方は大丈夫だよ。アヴィケブロンが酷く拗ねたり、不器用すぎて奇行に走るようなこともあるけど、良好な関係を築いていると思う。お互いに悩んで遠回りしながら、恋愛って難しいなあって思ってるところ。

 エクスクロスにいたとき、「次の目標は恋愛をすること」って語り合ったことは昨日のことのように思い出せるよ。アマリは素敵な恋はできた? 多分、アマリと素敵な恋をしたいって考えている面子は確かに存在しているから、もう少し周りをよく見てごらんよ。

 私が知ってるだけで3人くらいいるよ。1人は人表記だと紛らわしいけど、あまり詳しく言うと特定みたくなって晒し者になっちゃいそうだから人表記にするよ。本人たちが決心したらちゃんと言うだろうから、無粋な真似はしたくないんだ。

 

 別に、アマリが我慢して待つ必要もないよ。好きな相手がいるなら、迷うことなくアピールすればいい。

 

 多分即釣れる。

 3人ほど候補がいる。

 すっごく近くにいる。

 

 誰かに関しては、本人の名誉があるので言わないでおくよ。本人からも全力で止められてるから。私の勘が正しければ、多分、アマリと一緒にこの手紙読んでるんじゃないかな?

 多分、3人ともアヴィケブロンと話が合いそう。アル・ワースの魔術体系とか、スーパーロボットに関する話を出せばアヴィケブロンは大喜びするからね。

 

 アヴィケブロンは叡智の探究者でもあるから、そっち方面でも波長は合うと思う。特に2名ほど。

 

 長々と話しましたが、今回はこれくらいで終わらせます。まだまた戦いは終わりませんが、私なりに頑張って戦い続けようと思ってる。私が生きた時間を、いつかアマリとイオリが帰って来るための場所を守るために、世界を滅ぼす旅を続けるんだ。――沢山の出会いと別れを繰り返して、きっと、すべてを終わらせます。

 多分、全てが終わった後も、碌でもない未来が待っていることは確かだ。魔術師には封印指定という専門用語があることは以前話したよね? 『特殊な才能を持つ人間はホルマリン漬けの標本にされ、魔術の研究に使われる』アレのこと。カルデアのみんなが頑張って解散してくれたからどうにかなってるけど、それもいつまで持つか分からない。

 全部終わって、後始末を終えて、そうしたらアル・ワースに向かうつもり。その暇がなかったとしても、いざとなったら、アル・ワースに逃げるための算段も立ててるんだ。そのときは何名か同行者を連れていくつもりだけど、大丈夫かな? アマリに紹介したい人が沢山いるんだ!

 

 どんな困難があろうとも、どんな敵が立ちはだかろうとも、私は絶対に諦めない。

 だって私は、私たちは――“希望の象徴”、エクスクロスなのだから。

 

 

 

   琥珀石の術士 セイラ・アンバー/安場(あんば) 星羅(せいら)より

 

 

 

***

 

 

 主を勝利へ導いた希望の翼へ

 

 

 名も知らぬ輩から突然の手紙ということで、非常に驚いていることだろう。申し訳ない。叡智の探究者としての興味と、僕のマスターからの好意で、筆を執ることを選んだ。

 

 キミのマスターたる天野亜真理――アマリ・アクアマリンから大体のあらましは聞いていることだろう。僕はソロモン・イブン・ガビーロール、あるいはアヴィケブロン。星羅のサーヴァント、使い魔として召喚された英霊の端末の1つだ。過去に実在し、死後に召喚された幽霊のような者と言えば早いのかもしれない。

 専門研究分野はゴーレム関連、特技は詩を紡ぐこと。アマリのいる世界からデータベースを引っ張り出せば、僕の詩がいくつか見つかるだろう。キミ程の叡智であれば、通訳なしでも

僕の詩の内容が如何なるものかを判断し、吟味できるはずだ。……まあ、詩人と言っても、その実、偏屈な臆病者に過ぎないがね。

 

 正の感情を甘美として喰らう者からすれば、僕の詩はおそらくセンブリ茶並みに苦々しいものだろう。或いは、焦げたダークマターと認識される可能性もある。生前の僕は、“今ここにあって現在進行形で腐っていく世界”を塗り替えてしまいたいと考えていたからね。

 今でもその理想は潰えていないし、此度の召喚と戦いで僕の理想が成されるか否かは分からない。……正直な話、十中八九、無理だと思う。生前と同じ感性を抱いたままの僕ならば、此度の召喚を失敗と考えていたに違いない。研究を進め、『次』に繋げるために尽力し、無関心を決め込んでいたことだろう。

 ここにいる僕という個体に関して言えば、僕は、今回の召喚を幸福だったと考えている。自分で言うのも何だが、僕は非常に偏屈な臆病者でね。生前は病弱で、特に皮膚病に悩まされた。外見に関する煩わしさを排除するため、素顔を隠して行動しているような男だ。

 

 キミのように上位生命体故の特殊能力もなければ、世界の為にらすぼすとやらをやってのけるような度胸もない。

 キミがドグマを使えば、僕のような貧弱な英霊なぞすぐに吹き飛ぶ。多分、キミのマスター1人でも事足りるだろう。

 

 そんな貧弱英霊が何故主に固執しているのか。……簡単なこと。キミがキミのマスターに惹かれてやまぬように、僕もまた、僕の主たる星羅に同じものを抱いている。

 

 特に、僕のマスターは数多の英霊を従える光そのものだ。善人だろうと悪人だろうと、気まぐれな神だろうと相互理解不能な獣だろうと、みな彼女に心を開いて力にならんとする。僕も、その中の1人に過ぎなかった。数多の中の1人、僅かでも気にかけて貰えれば儲けもの。

 彼女は光だ。誰にでも平等に降り注ぐ、温かな輝き。それ故に、誰もがその恩恵に預かろうと手を伸ばす。……僕の執着は、きっと他の人々と同じように、綺麗なものではなかったから。今だって、他の誰かにマスターが取られるのではないかと不安で不安で仕方がないからね。

 

 初めて彼女と友達になれたとき、嬉しくて3日3晩詩を書き続けていた。生前の身だったら、多分腱鞘炎と疲労で寝込んでいたと思う。

 

 自分が恋をしていると思い知ったとき、生前では他者の体験談や想像を綴っていた恋がどのようなものかを初めて理解した。

 まずは己の愚かさを謳い、次は素晴らしさを謳い、最後は愛を謳うようになった。愛は謳う度に火にくべるのを繰り返した。

 自分が星羅に相応しくないことは理解していた。他にも素晴らしい相手がいることも理解していた。――だから全部、なかったことにしようとした。

 

 ……まあ、こんな手紙を書いている時点で――いいや、アマリ宛の手紙を読んでいるであろうキミなら、顛末は理解できるはずだろう。現在、周辺の知りあいから“マスター大好き勢過激派”呼ばわりされている。理想の為の研究は、彼女の為の研究へと姿を変えて存在し続けていた。

 勿論、僕は別個体の僕が犯した罪と後悔を忘れていない。この罪と後悔は、永遠に僕の霊基に刻みつけられている。つまるところ、別世界や平行世界などで僕が召喚されても、僕が犯した主殺しの罪とその後悔を抱き続けたまま存在し続けるのだ。

 

 此度の召喚の記憶が、本体にどれ程残るか否かは分からない。正直忘れたくないし、他の僕にこれを明け渡してやりたいとも思えないからな。救われたことを霊基に刻む形で伝えたいが、この想いでは自分だけのものにしたいと考えている僕もいるんだ。

 キミのような上位生命体は、器さえ用意すれば記憶を引き継ぎ転生することは容易だと聞いた。どこかで羨ましいような気もするし、そんなものを心から望みたいとも思えない。……不思議なものだ。僕の世界に生きる魔術師であれば、みな進んで望みそうなことなのに。

 

 僕の世界には、根源に辿り着く手段として不老不死を選ぶ者もいた。最も、アル・ワースにおける根源が、僕らの世界の根源と同一か否かは分からないがね。同時に、僕らの世界の根源に辿り着くための手段として、魔術師がキミのマスターやキミの恋敵の存在を察知した場合、即刻封印指定する危険性がある。

 封印指定についての話は、星羅がアマリに書いた手紙に書いてある通りだ。……おそらく、元の世界に帰ってこない方が、キミのマスターの安全は保障されると思う。何せ、アル・ワースはキミの領域なのだろう? 迎撃するにも守りを固めるにも、アル・ワースは最大のフィールドになるだろうね。

 最も、マスターはアル・ワースを巻き込みたくないと考えるだろう。僕も、彼女が守ったものが魔術師たちに踏み荒らされていいとは思わない。万が一、僕らがそちらに争いを持ち込む原因となってしまったなら、全力ですべてを片付けるつもりでいる。

 

 ――安心してほしい。亡霊と言えど、規格外の端くれだ。人間を一ひねりする程の実力はあるさ。

 

 僕は戦闘面においてはゴーレムを作って嗾けるくらいしか能がないし、そもそも争い自体好きではない。だが、マスターを守るためとなれば話は別だ。

 他の英霊も僕と同じ、いや、下手すれば僕以上に凄いのがわんさかいる。中には溶岩を泳いで渡る輩もいるらしいから。

 

 さて、僕の専門がゴーレム召喚と使役にあることは、星羅から聞いていたと思う。今回筆を執ろうと思ったのは、アル・ワースで運用されているオート・ウォーロック――星羅が操縦していた特殊なディーンベルについての情報が欲しい。あと、エクスクロスにいた頃の彼女の話にも興味がある。

 彼女が今、どのような旅をしているのかは知っているだろう。正義対悪ではなく、正義対正義のぶつかり合いだ。勝とうが負けようが痛みは残り続ける。汎人類史、あるいは編纂事象の代表者として世界を滅ぼし続ける旅路を征く彼女のことを、キミたちがどう思っているかは知らない。

 ただ、時々、寂しそうな顔をするんだ。「この場に自分の機体さえあったら」と呟くこともあるし、僕の作ったゴーレムを見てディーンベルの話を聞かせてくれることもある。「造詣が非常に似ている」と。……特に、異聞帯を乗り越えたときが、辛そうな顔をしているんだ。

 

 故に、戦力増強と、マスターの笑顔が見たいので、大至急ディーンベルの情報を所望する。

 実物の機体は要らない。あくまでもデータでいい。ガワは自力で作る。作ってみせる。ゴーレムマスターの名に懸けて。

 

 もし目の前に『何でも願いが叶う杯』があるなら、僕はあくまでも助力を希望する。理想を成し遂げるのは、己の手でなければならないと考えているのでね。

 

 詩作ならすらすらと書けるのだが、手紙形式になると難しいものがあるな。

 とりあえず、今回はここまでにしておこう。――では、また機会があれば。

 

 

  しがない魔術師の英霊 ソロモン・イブン・ガビーロール/アヴィケブロン

 

 

 

 追伸

 

 キミもエンデと同じく、人の感情を食べると聞いた。人の感情は生の対話だけでなく、芸術作品にも色濃く反映される場合がある。

 僕の詩でよければ、味の判定をしてもらえないだろうか? 諸事情でマスターには見せられないなと思ったものだが。

 

 

 

 

 

 

「安いよ安いよ! 今が旬の果物、無花果だよ!」

 

 

 露天商の声に惹かれて店を除けば、大きな無花果が売られていた。果肉は瑞々しく、ほんのりと甘い香りが漂う。

 

 天野亜真理/アマリ・アクアマリンの脳裏に浮かんだのは、元の世界で新たなる戦いに身を投じている戦友、安場星羅/セイラ・アンバーの姿だった。

 元の世界で発生している事件はアル・ワースにも伝わっている。アル・ワースの連鎖崩壊を止めるためとはいえ、セイラを助けに行けないと言うのは非常に歯がゆい。

 厳しい戦いを続けるセイラであるが、彼女は戦いの中で揺るぎない絆を手に入れた。無花果は、彼女が愛する魔術師の英霊が生前に関わっていた所以あるものだ。

 

 嫉妬によって殺された魔術師の骸は、無花果の木の下に埋められる。その年に実をつけた無花果は実に美味だったそうだ。あまりにも美味だったことに疑問を抱いた人間たちは、興味本位で無花果の下を掘り起こす。――そこで、魔術師の遺体は発見された。魔術師を手にかけた男の罪と一緒に暴かれたのだ。

 世界を救いたい、世界を楽園に塗り替えたい――尊い理想と過激な手段は、生前に完成することはなかった。死後に完成しかけたことがあったものの、自分が間違っていたことを理解して手を止めた。そのときにはもう何もかもが遅くて、故に、その後悔は『次』へ持ち越しされる。『次』の結果は――。

 

 

「……すいません。この無花果をください」

 

「はい、まいどあり!」

 

 

 露天商から無花果を購入し、アマリは同行者たちの元へと戻った。合流地点ではホープスと葵伊織/イオリ・アイオライトが派手にいがみ合っている。

 しかし、2人はアマリを視界に収めた途端、いがみ合いをピタリと止めた。何事もなかったかのように満面の笑みを浮かべ、アマリを迎える。

 

 

「アマリさん」

 

「マスター。補給は終わりましたよ」

 

「ありがとう、2人とも。こっちも買い物終わりました」

 

「――あれ? 無花果?」

 

 

 イオリの問いに、アマリは頷く。

 

 

「露店で売られていたのを見つけたの。なんだか無性に食べたくなっちゃって。イオリくんとホープスの分もあるよ」

 

「わあ、ありがとうアマリさん!」

 

 

 アマリが差し出した無花果を、イオリは迷うことなく受け取った。近場の水道で果実を軽く洗い、豪快に一口。彼はぱあっと表情を輝かせ、即座に二口目に齧りついた。

 アマリもそれに続いて無花果を齧ろうとし――ホープスが無言のまま無花果を見つめていることに気づく。甘美な味わいを好むのだから、甘いものや果実系は好みそうなものなのに。

 

 

「食べないの? 具合悪い?」

 

「いいえ。ただ……」

 

「ただ?」

 

 

 ホープスは何やら言い淀む。彼はじっと無花果を凝視していたが、深々とため息をついた。

 

 

「暫くは、無花果は食べなくて充分です。……似たようなものなら、大量に味わいましたから……」

 

 

 酷く疲れ切った様子で、ホープスは息を吐いた。彼の視線は、アマリが食した無花果に向けられている。

 適度な弾力と瑞々しい果肉は、日の光に照らされてキラキラと輝いていた。一口齧れば、果汁が口一杯に広がる。

 

 ――うん、美味しい。アマリはひっそりと微笑んだ。

 

 ……ふと、アマリは思い返す。数日前、アマリはセイラからメッセージを貰っていた。そのとき、セイラ以外にもメッセージを送って来た人物がいたのだ。宛名はアマリではなく、ホープス。無花果の絵が描かれた封筒に書かれていた差出人名は、英語表記だった。

 英語は教団時代に使っていた魔術にもあったが、筆記体を判別するにはまだまだ時間がかかる。アマリが差出人の名前を確認するより先に、ホープスが封筒をしまってしまったため、誰が出してきたのかはさっぱり分からないままだったが。

 無花果で連想するのは、セイラが恋して愛した男性。詩作を得意とするカバリストで、ゴーレム召喚と使役に特化した魔術師。アマリたちがいた世界で、嘗て生きていた偉人の1人――ソロモン・イブン・ガビーロール/アヴィケブロン。

 

 元の世界はまだ直接コンタクトが取れる状況にない。異星の神の手先となった一部の人間たちのせいで、惑星の歴史は漂白され、事実上の崩壊を迎えた。

 崩壊の余波を防ぐため、アル・ワースは現在、漂白された世界とのリンクを切っている。再びリンクを結ぶには、あちら側がもう少し安定しなければ無理らしい。

 

 

(再び結び直されたなら、真っ先に助けに行くからね……!)

 

 

 その為に、自分は何ができるだろう。もう一度リンクを結び直すために、セイラだけに努力を強制するわけにはいかない。

 アマリにだって、きっと何かできることがあるはずなのだ。――エクスクロスとして戦い続けたときの心は、まだ失っていないのだから。

 

 




アマリルートのホープスにうっかり撃ち抜かれた結果、アヴィケブロン×ぐだ子と相乗効果を引き起こして大変な有様になりました。この世界線のぐだ子はゴーレム系統の魔術に特化していそうです。
スパロボとクロスオーバーした場合、親和性が高そうな面子が結構いますよね。アヴィケブロンとか、エジソンとか、テスラとか、バベッジとか、大穴でエミヤとか。地雷も多そうですけど。
因みにこの世界線、異聞帯の修復が進めばアマリたちが援軍として駆けつけてくれます。スパロボ補正があれば、クリプターと戦って空想樹伐採をしなくとも、直接異星の神をぶっ潰しに行けそう。便利。
多分、ここのぐだ子はメンタル最強だと思うんです。色々撃退してきましたからね。……色々とやべー奴らを。

FGO世界とスパロボXが同時進行でクロスオーバーしていた場合、汚いドダイトスVS異星の神VSエクスクロスというとんでも3つ巴が展開しそうですね。
ガンダム×FGOの手描きMADなら見かけたのですが、スパロボとクロスオーバーしているものは見かけなかったなあ……。
機会がありましたら、次はFGO2部攻略中に特殊な異聞帯として出現したスパロボX時空に迷い込んでも楽しそう。アヴィケブロンが興奮する図が頭から離れません。

後、アヴィケブロン×ぐだ子+ホープス×アマリ前提だとアヴィケブロンとホープスが意気投合してそうです。
ホープス「私のマスターが天使。守りたいあの笑顔」
アヴィケブロン「僕のマスターも天使。尊い」


【追記<2018/7/1>】
Pixivに、このお話をベースにした作品「【FGO×スパロボX】藪をつついた結果【アヴィぐだ+ホプアマ [pixiv] https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9808489を掲載しました。

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