48番目の逸般人   作:白鷺 葵

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【諸注意】
・クロスオーバー先の重大なネタバレ注意(重要)
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【主人公】
星乃(ほしの) (はじめ)
性別:男性 年齢:10代後半
・夢は“春風吹く楽園で、自由に空を飛んで、沢山美味しいものを食べて、いっぱいお昼寝をして、沢山の友達を作る”こと。


ケース:星乃元の場合
「僕は、キミと手を繋ぐために生まれてきた」


 “あの子”たちと一緒に遊ぶ、タノシイユメを見たかった。

 四方八方から炸裂する光が、“あの子”たちを跡形無く吹き飛ばした。

 

 “あの子”たちとカケッコをしたかった。

 飛び跳ねただけで、みんな潰れて動かなくなってしまった。

 

 “あの子”たちが笑っていたから、こちらも沢山マンメンノエガオを浮かべてみた。

 身体から伸びた棘たちが、周囲にいた“あの子”たちを串刺しにした。

 

 

 “あの子”の真似をして、トモダチノワを使ってみた。

 “あの子”は「痛い」と声を上げて泣いた。

 

 “あの子”が他の子にやっているように、キラキラ輝くハートを投げてきた。

 それを受け止めた自分は、「痛い」と声をあげて泣いた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思い知らされた。

 

 

(もしも、願いが叶うのなら――)

 

 

 あの日の夢はもう見れない。楽園にはもう帰れない。「星を滅せよ」と望まれた(じぶん)は、星を生み出しながら消えていく。

 いつか見た悪夢のように、苦しい終わりなどではない。悲しい終わりなどではない。目の前に広がる“次の時代”が、自分を導いてくれるから。

 

 蹂躙することしかできない自分はここで終わる。

 “次”の目覚めを迎えたとき、この命は、至るべき“楽園”へと辿り着けるだろう。

 

 きっとこの手は、誰かと手を繋ぐことができるようになっているはずだ。

 手渡された心を受け止め、同じものを返せるようになっているはずだ。

 出会った誰かと心を通わせて、友達になることだってできるはずだ。

 

 蹂躙するだけの権能など要らない。壊し尽くすことしかできない力なんか要らない。

 鋭利な棘も、伸縮自在な身体も、星すら砕く光線も、そんなものは無用の長物だ。

 

 地を駆ける足が欲しい。

 誰かと温もりを分かち合うための身体が欲しい。

 誰かと通わせるための心が欲しい。

 誰も傷つけない笑顔が欲しい。

 

 ――友達と繋ぐための手が欲しい。

 

 

(――“あの子”みたいになりたいなあ)

 

 

 自由に空を飛び、沢山ご飯を食べ、のんきに昼寝もする。幸せな夢を見ながら、沢山の友達に囲まれて、愉快な日々を過ごすのだ。――穏やかな春風が吹く、星の楽園で。

 夢を描く最中でも、真っ白な光が世界を覆い尽くしていく。古き命が燃え尽きて、新しい命が産声を上げるための煌めきだ。さながらそれは超新星、あるいはビックバン。

 やっと、自分の望みが叶う。()()()生まれ落ちることができる。望んだ未来を手にすることができるのだ。終わりを迎える恐怖は無く、溢れんばかりの希望だけがあった。

 

 こちらを見上げる空色へ視線を合わせる。“あの子”はじっとこちらを見上げていた。

 キラキラ輝くハートが投げつけられる。――その光はもう、自分を傷つけることはない。

 

 この幸いを、何と言えばいいのか。

 

 最後の最後に齎された奇跡。

 最初で最後の友達。

 それを噛みしめながら――破神は混沌を超え、ついに星誕する。

 

 

『 マ タ ネ 』

 

 

 生まれて来てくれてありがとう。出会ってくれてありがとう。友達になってくれてありがとう。

 今度はちゃんと生まれてくるから。もしまた出会うことが出来たら、そのときは――

 

 

 

 

 

「ねえ(はじめ)くん。元くんの夢って何?」

 

 

 ロマニ・アーキマンの問いかけに、星乃(ほしの)(はじめ)は目を瞬かせた。晴れ渡った蒼穹を思わせる無垢な瞳は、質問者であるロマニをはっきり映し出している。

 

 星乃元は、カルデアに召集される以前は“ごく普通の一般人”だった。魔術など一切知らずに生きてきた。魔術師たちからすれば、彼の人のような人物は『異端中の異端』である。戦力としてみなされないのは当然だ。――それ故に、彼は運良く生き残り、人類最後のマスターとして戦線へと赴いている。

 こんな極限状態に放り込まれても、この少年は普段通りの態度を崩さなかった。愚直なまでにひたむきで、どこまでも前向きで、どんな相手にも手を差し伸べることができる優しい青年。彼の在り方は、真っ暗闇に瞬く星のようだった。自分を含んだカルデアの人間たちに、希望の標を灯すように。

 

 ロマニには隠し事がある。なさねばならないと思っていることがある。その目的のためには、人類最後のマスターが不可欠だった。

 星乃元が力尽きてしまわぬよう、サポートする必要があった。――それが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 今回の会話も、元の精神衛生をきちんと整えるための話題である。何せ彼は、常々極限状態に置かれているから。

 

 

「僕の夢?」

 

「うん。大人になったらやりたいこととか、なりたい職業とか、そういうの」

 

 

 元は食べる手を止め、考え込むようにして視線を伏せる。

 眼差しはハンバーグに向けられてはいるが、蒼穹が見ているものは別にあるのだろう。

 

 

「へえ。なかなか面白そうな話題じゃないか」

 

「私も気になります。差し支えなければ、先輩の夢を聞かせていただけないでしょうか?」

 

 

 一緒に食事をとっていたマシュとレオナルドも、興味深そうに会話に加わってきた。

 元は暫し沈黙していたが、ふっと口元を緩ませる。――まるで、子どもみたいだ。

 

 

「“春風吹く楽園で、自由に空を飛んで、沢山美味しいものを食べて、いっぱいお昼寝をして、沢山の友達を作る”ことかな」

 

 

 あまりにも、平々凡々な望みだった。

 どこにでもある、ありふれた願いだった。

 彼のような若者ならば、容易に叶いそうな夢だった。

 

 だけど、元の瞳はどこまでも透き通っていた。

 

 誰もが呆れ果てるような幼稚な願いを、誰もが簡単に叶えられるような望みを、平凡を通り越して当然の権利である夢を、まるで尊いもののように語るから。それだけを必死に願って、そのために血を吐くような苦痛を乗り越えて、「やっとその夢を見る権利を手にした」と言わんばかりに笑うから。

 ロマニは思わず目を見開いた。息を飲んで、彼の瞳を覗き見た。蒼穹の奥底に、嘗ての“誰か”の願いを見出した。『普通の人のように生きてみたかった』――他者から望まれるままに振る舞うことしか許されなかった舞台装置が、何の力も持たぬ人間に憧れて、勝者の権利を行使したときのことを思い出した。

 

 

「そんな簡単なことでよかったのかい?」

 

「僕にとっては、どうしても叶えたい夢だったんだ。喉から手が出る程に欲しかった」

 

 

 拍子抜けしたレオナルドの問いに、元は微笑みながら頷く。

 

 

「地を駆ける足が欲しい。誰かと温もりを分かち合うための身体が欲しい。誰かと通わせるための心が欲しい。誰も傷つけない笑顔が欲しい。――友達と繋ぐための手が欲しい」

 

 

 その瞳を、ロマニは知っていた。その言葉に込められた思いを、ロマニは理解できていた。だから、言葉が紡げない。

 人間が持っている“当たり前”を、嘗てのロマニは持っていなかったから。――そして、嘗ての元も、その権利すら持っていなかったのだろう。

 

 

「平和な世界で友達と一緒に笑っていられたら、僕はそれだけでよかったんだよ」

 

 

 元はそう言って笑った。満面の笑顔だった。

 彼は、()()()()()()()()()()()()()()()をすべて手に入れたのだ。

 ロマニは反射的に口を開いたが、弱々しい吐息が漏れるだけ。

 

 

「ここは極寒の地だし、生物学上、僕は自由に空を飛ぶことは不可能だった。現状、美味しいものをたくさん食べることも、ゆっくりお昼寝することも難しい」

 

「元くん……」

 

「でも、沢山の仲間ができた。マシュも、ダ・ヴィンチちゃんも、ドクターも、僕にとっては大切な仲間だよ」

 

 

 ありがとう、と、元は笑う。「自分に尊いものをくれてありがとう」と、惜しみなく賛辞の言葉をくれる。

 

 羨ましくないと言えば、それは嘘だ。ずるいと詰りたくなる気持ちもないわけじゃない。――だけどそれ以上に、嬉しかった。元の願いが叶えられ、彼は望みを勝ち取ったことが。

 ロマニは永遠にそれを手にすることはできなかった。けれど、自分が掴めなかった未来を生きるであろう元の姿を想像すると、「ロマニの分まで生きてほしい」と素直に願える。

 

 

(……礼を言うのはボクの方だよ、元くん)

 

 

 星を見た。とてもきれいな星を見た。

 眩く輝く恒星のような少年の姿に、目を細める。

 今、確かにロマニは標を得たのだ。

 

 何のために世界を救うのか。何のために生きるのか。

 

 どうしようもない定めの中で、空っぽだった器の中に注がれたものがある。

 煌めき星に、嘗ての舞台装置が見た『夢』の残骸を見出した。

 

 

(ボクのように汚くてズルイ大人が、キミに残せるものは何だろう)

 

「――ねえ、ドクター。ドクターは、どんな夢を見ていたの?」

 

 

 蒼穹は、はっきりとロマニを見つめていた。

 彼の眼差しは、聖杯を手にした『誰か』が思いを馳せる姿と、非常によく似通っていた。

 

 

「……元くん。ボクは――」

 

 

 だから、だろう。

 

 堰を切ったように言葉が溢れたのは。

 自分のことを覚えていて欲しいと願ったのは。

 

 

「――普通の人と同じように、自由に生きてみたかったんだ」

 

 

 

***

 

 

 

「何故だ」

 

 

 魔術王――正確には()()()()()()()使()()()()()()が吼える。

 

 

「あれ程までの権能を持ちながら、何故、脆弱な命などに至ろうと考えた!?」

 

「――そんなの、決まってる」

 

 

 彼の者の問いは、星乃元という青年にとっての愚問でしかない。

 

 現に今、元は揺らいでいなかった。

 魔術王の発する気を真正面に受けても、自分の望みを失っていなかった。

 躊躇うことなく、元は魔術王へと手を伸ばす。

 

 

「ともに手を繋ぎ、生きるためだ!!」

 

 

 元は言った。誰かと手を繋ぎ、心を通わせ、一緒に生きるために、すべての権能を手放したのだと。

 魔術王にとっては、取るに足らない些末なものだ。悲劇しか生み出さない、無意味で無価値なモノ。

 

 だけど、星乃元――あるいは、ロマニ・アーキマンが欲した願い。

 

 

「星をも砕く権能も、蹂躙することしかできない力も要らない。……僕は、『僕の大事な人たち』と繋ぐための手が欲しかった!」

 

 

 無力で何も持たない手こそ、嘗ての破神が求めたものだった。混沌を超え、星誕した命が何よりも欲したモノだった。

 星誕者は星見台を“楽園”と定め、そこの守護者として立っている。彼が憧れた“誰か”がそうだったように。

 「力を貸してくれる職員や英霊たちがついているから」と、満面の笑みを浮かべながら。

 

 魔術王は、元のことを「唾棄すべき怨敵」とみなしている。何が何でも、自分が打ち砕かねばならぬ存在だとみなしている。

 けれど、彼には悲しい慢心があった。嘗ての権能を捨て去った星乃元という命を、脆弱な存在だと()()していたのだ。

 

 ロマニ・アーキマンは知っている。彼と同じ夢を見ながら、その夢を早々に諦めた――諦めざるを得なかったロマニだからこそ知っている。

 

 その夢を叶えるために魂を宿し、己の意志で星の戦士に挑んだ命を知っている。『すべてを滅せよ』と望まれて生まれ、『滅せねば』という意志を抱き、魂を獲得した果てに、『友達が欲しい』と願い、最後は星を産み落として消えた命を知っている。幸せそうに微笑みながら、星誕した命を知っている。

 蹂躙するしか知らなかった命は、長い長い旅路の果てに心を得て、星見台に降り立った。そのきせきに秘められた価値を、いずれ魔術王は知るだろう。そうして、星乃元は至るのだ。嘗て己を導いた“誰か”と同じように、魔術王に人間という標を示す。――それはまるで、爛々と輝く灯火の星。

 

 

(キミと手を繋ぐことができて、本当に良かった。……あの日、あの場所で出会った48番目のマスターがキミで良かった)

 

 

 脳裏に浮かんだのは、初めて元がカルデアにやってきた日のこと。

 

 ロマニお気に入りのサボり場は、後に星乃元の部屋として割り振られた。オルガマリーの講義中に寝落ちしてしまった彼は、怒髪天になった彼女に追い出されるような形で自室待機を言い渡されたのだ。短い時間であったが、団欒の時間を過ごしたことは今でも覚えている。

 数々の偶然を運命にしてみせたのは、数多の権能を有していた『破神』ではない。彼の魂が星誕した、星乃元というちっぽけな人間だった。他者と繋ぐために得た、あまりにも脆弱で無力な手だった。彼の望みは――あの日、ソロモンが望んだ願いも――間違ってはいなかった。

 

 モニター越しで見守って来た旅路は、もうすぐ終わる。自分の運命も、ずっと前から分かっていた。

 未練がないと言えば嘘になるけど。怖くないかと言われれば、そりゃあ怖いと答えるけれど。

 彼らが勇気を奮い立たせて立ち向かったのだ。――ロマニも、逃げるわけにはいかない。

 

 

(もし許されるなら、ボクも、キミを『友達』と呼んでいいだろうか――?)

 

 

 星を見た。とてもきれいな星を見た。

 眩く輝く恒星のような少年の姿に、目を細める。

 自分が至れない未来に瞬く標が、目の前にあった。

 

 




クロスオーバー先:『星のカービィ スターアライズ』



あの日から、どれ程の時間が経過したのだろうか。
数多の星羅を超え、次の時代が訪れ、◆◆はついに己の望んだ命として星誕(せいたん)する。
春風とは程遠い極寒の地――そこを『守るべき“楽園”』と見出した彼は、この星でできた友達と一緒に、世界の危機へ立ち向かう。

自由に空を飛び回ることはできないし、美味しいご飯を好きなだけ食べれるような状況でもないし、ゆっくりお昼寝をする余裕もない。
だけど、ここには確かに、嘗ての◆◆が見た『夢』があった。いつかの“誰か”見た夢とは程遠いけれど、確かにそこにあったのだ。

友と生きる、その夢が――!!
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