48番目の逸般人   作:白鷺 葵

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【諸注意】
・クロスオーバー先のネタバレ注意。
・■■■■■×主人公。
・クロスオーバー要素がF/GOキャラを浸蝕している。

【主人公】
日向(ヒムカイ) 柚子(ユズ) 性別:女性 高校2年生:17歳
・『見えないものが見える』体質。“ヒトならざる者”と良好関係らしく、彼女に危害を加えようとした者たちがこぞって酷い目に合っている。
・14歳の時、とある老紳士が後見人となって外国へ留学。しかしながら、留学先に関する情報が一切不明。
・彼女と触れ合った魔術関係者はみんなおかしな言動をするようになる。具体例としては「魔法なんていらない」「世界のすべてが見える」。



ケース:日向柚子の場合
星の生まれる場所で


「ここは特別な場所なんだ。転生を繰り返した魂が最期に辿り着く場所であり、星が生まれる場所だよ」

 

「――星が、生まれる場所?」

 

「そう。ここで生まれ落ちた星たちは、新たな宇宙へと旅立っていくんだ。貴方は、ここで生まれ落ちたばかりの星なんだよ」

 

 

 桃色の帽子を被った少女の言葉に、自分は首を傾げる。ここがどこで何なのか、全く理解できていない。

 そんなとき、藪から棒に話しかけてきたのがこの少女である。そもそも、ここで目を覚ます前に自分が何をしていたのかの記憶も朧げだ。

 

 脳裏に浮かぶのは、夕焼け色の髪の少女。

 我が最大の怨敵にして、我が理解者。

 我が人生に色彩を与えた、鮮烈な輝きを宿した魂の持ち主だった。

 

 ――丁度、今、目の前にいる少女のような。

 

 

「――つまるところ、貴方は迷子だね。生まれたばかりの星は、自分がどこへ行けばいいのか分からないみたいだから」

 

「ここにいるキミは星ではないのか?」

 

「うん。私たちはね、ちょっとした道具を使ってここに出入りしているんだ。星以外は、特別な道具を所持していないと入れないんだよ。……まあ、私のことはいいんだ」

 

 

 少女は柔らかに微笑み、自分と同じ目線になるようにして屈む。

 

 

「貴方はどんな人生を歩んできたの? どんな未練を抱いているの?」

 

「未練……?」

 

「貴方が迷子になっている原因と深く関わっているんだ。だから、ここで全部吐き出すといいよ」

 

 

 自分は思わず目を瞬かせた。琥珀色の瞳は、ただ優しく細められている。

 

 ――この身にはもう、すべてを見通す千里眼はない。人生を終えて肉体が滅びる際に、すべてをなくしてしまった。

 

 

「標がないというのは、存外不便なものなのだな」

 

「標?」

 

「私には、世界の過去と未来が見えたんだ。……その力は失われてしまったがな」

 

 

 それを皮切りにして、自分は目を閉じる。

 朧げだった記憶が、ゆっくりと浮かび上がってきた。

 

 光景を1つ思い出す度、ぽつりぽつりと言葉が零れた。少女は何度も相槌を打って、自分の言葉を待ってくれる。その姿はまるで、最期の我儘に付き合ってくれた宿敵の姿を連想させた。

 

 後悔はない。自分はあんなにも、素晴らしい人生を生きたのだ。刹那に消えゆく流星の意味を正しく理解した。彼の宿敵が語った『自由』の道を駆け抜けたのである。最後の最期に、自分は“運命の相手”と出会えた。生きるために立ち上がった善き少女の在り方は、この命に指針を指示した。

 彼女と同じ場所に、自分もまた辿り着いたのだ。命とは、結末(おわり)の定まった物語ではない。命を燃やしながら、次世代の命を紡いでゆく物語だ。我が王が語った、浪漫に満ち溢れる『愛と希望の物語』。その言葉を、その意味を、あのとき自分は真の意味で()()()理解した。

 己がヒトならざるモノだったときから、怨敵は理解者だった。理解者でありながら――いいや、理解者であったからこそ、彼女は怨敵として立ち塞がった。自分が愛する“善き人々”と共にある明日を生きるため、人類に永遠の命を与えようとした自分の目の前に立ったのだ。人理を守護するためではなく、当たり前の命を生きるために。

 

 

「私は、私の人生に満足している。故に、未練なんてものはあり得ない。あり得るはずがないんだ」

 

 

 自分がそう言い切った瞬間、黙ってこちらの話に耳を傾けていた少女は突然泣き出した。琥珀色の瞳からは、とめどなく透明な雫が流れる。声を上げること無く、ただ静かに。

 

 瞳の奥には、一切の憐憫はない。ただ、嘗ての獣が歩んできた道と真っ直ぐに向き合っている。獣がヒトへと至り、斃されるまでの旅路に。

 旅路と言っても、実際は『筋金入りの超弩級な引きこもりが、勝手に怒り、勝手に憐れんだ挙句、馬鹿な計画を立てた』だけでしかない。

 

 けれど、目の前にいる少女は、獣の歩んだ道を否定しなかった。獣がヒトへと至った旅路を否定しなかった。

 そうして――生まれ落ちたヒトが、最期に辿り着いた命の終わりを、少女はただ素直に感嘆する。

 少女はただ素直に、真っ直ぐな言葉で、自分の歩んできた旅路を称賛した。

 

 

「貴方は、とても素敵な人生を歩んだんだね」

 

「――ああ。実に、素晴らしい命だった」

 

「楽しくて、幸せだったんだね」

 

「――ああ。楽しかったし、幸せだった」

 

 

 少女は柔らかに破顔した。

 

 

「よかったね。……本当に、よかった。おめでとう」

 

『よかったね。……本当に、よかった。おめでとう、■■■■■』

 

 

 少女が齎したのは、祝福の言葉だ。正しい意味で人間を理解し、世界の美しさを理解し、それを示した理解者と同じ境地に辿り着いた自分への。

 自分にとって運命と言えるような存在が、獣からヒトへと至った自分の人生を愛したが故に、涙を流してくれた時のように。

 

 

(……ああ、そうか)

 

 

 柔らかに笑った運命の相手。その面影が、目の前にいる少女と重なる。そうして――自分は()()()()()()()()

 

 

(だからキミは、私の一生を()()()くれたのか)

 

 

 彼女は崩れゆく神殿で、消えゆく残骸の一生を愛してくれた。世界はとても美しいものなのだと、その魂で示してくれた。『自由』とは何かを教えてくれた。

 惜しみなく与えられた『ソレ』に、自分は応えたかった。自分も同じものを返したかった。自分もまた、彼女の人生を愛したかった。称賛したかった。祝福してやりたかったのだ。

 刹那のような一生。全力で駆け抜けて、命を燃やし尽くしたこと事態には後悔していない。己が最期を迎えるまで、我が運命は確かに、この脆弱な命を双瞼に映してくれた。

 

 去りゆく自分に許された権利は、去りゆくが故に許されない願いを孕んでいた。

 この少女の旅路を、この少女の人生を、自分は見届けてやれないのだ。見送ってやれないのだ。――何も、伝えられないのだ。

 

 

「……ありがとう。キミのおかげで、私は未練を思い出せた」

 

「未練を持ったままだと、この先へはいけないみたいだよ?」

 

「問題ない。()()に聞いてもらえるのならば、私はすぐに旅立てる」

 

「私でいいの?」

 

「他でもない()()でなければ、ダメなんだ。……キミが覚えていてくれるなら、私の未練はなくなる」

 

 

 嘗ては王として君臨していた獣が、只の人間に対して希う――関係者が見たら目を剥いて悲鳴を上げそうな光景である。でも、今の自分は、それを恥ずべき事だとは思わなかった。

 

 ああ、世界が見える。命の行く旅路が見える。

 星が生まれる場所、死者が進む長い旅路、転生を司る魔窟。

 喪失は無意味ではなく、別離は無駄ではない。ちゃんと繋がっている。

 

 

「千里眼なんて、大したことはなかったんだ。そんなチャチなものでは、見えないものが多すぎた。いいや、そもそも千里眼なんて()らなかった。……今ならば、真の意味で、世界が見える」

 

「うん」

 

「我が王がお考えになられていたことも、フラウロスが葛藤していた理由も、魔神柱たちがどのような意思の元で『自由』の道を選び取ったのかも、マシュ・キリエライトが永遠を否定した理由も、我が運命が何を思って私の前に立ちはだかったのかも、我が運命がこれから辿るであろう旅路も……すべてが見えるんだ」

 

「うん」

 

「私は意思を獲得した。『自由』の意味を知った。生の歓びを知った。我が運命から祝福され、()()()()喜びを知った。――時間が足りないとは分かってはいたけれど、願ったのだ。『私も同じように、我が運命を――彼女を祝福し、()()()やりたかった』と」

 

「……うん」

 

「私のような“筋金入りの偏屈な引きこもり”には、綺麗な言葉など出てこなかったよ。我が運命が私に与えた福音には届かないが、どうしても伝えたい言葉があった。……聞いてくれるか?」

 

「……うん」

 

 

 溢れだした衝動に身を任せて、自分は少女を抱きしめた。

 少女は琥珀色の瞳を大きく見開いたが、抵抗することなく腕に収まる。

 

 

「――ありがとう、私を()()()くれて。この世界に生まれ落ちてくれて、私と出会ってくれて、我が運命となってくれて」

 

「…………うん」

 

「私が善き旅を送れたのは、キミのおかげだ。だからどうか、キミも――善き旅を」

 

「――……うん……!」

 

 

 涙で濡れた少女は、けれども、晴れやかに笑った。

 

 嘗て王の使い魔――人理補填式として起動していた頃、数多の宝玉を目にしたことがあった。けれど、少女の双瞼は、今まで見てきたどの宝玉よりも美しい。

 いつか、その宝玉は()()自分に向けられる日が来るのだろう。過去も未来も、この少女は――()()()()は自分を映し続けてくれるのだ。

 

 

(嗚呼。それは、なんて幸福なのだろう――)

 

 

 星の生まれる満天の宇宙。自分を縛りつける楔が壊れるような音がした。ふわり、と、身体が浮き上がる。

 この感覚には覚えがあった。『自由』を得た自分が、真っ先に感じたものだった。これなら、自分はどこへでも行ける。

 同時に、自分には『向かうべき場所』が見えていた。そこへ至るためにどうすればいいのかも見えていた。――だからもう、何の憂いもない。

 

 

()()()()、ユズ。キミを愛している」

 

 

 ――そうして、星は宇宙(そら)へと旅立った。

 

 

◆◆◆

 

 

 極東の島国、日本。この国のとある町に、1人の少女――日向(ヒムカイ)柚子(ユズ)は住んでいました。

 彼女には“精霊”と呼ばれる存在が見えていました。道端に落ちている石ころや木の枝に、“精霊”が潜んでいることを知っていました。

 

 座り込んで“精霊”と話し込む柚葉の姿は、普通の人々からは奇異に見えました。何せ、普通の人には“精霊”の姿が見えません。彼女が「何もない空間に話しかけている」ようにしか見えないのです。

 周囲の人々は柚子のことを不気味がり、柚子のことを無視したり、『ウソツキ』だの『異常者』と罵りました。時には手を挙げることもありました。けれど、他者が彼女を害そうとすると、彼らはみんな酷い目にあいました。

 ある人は自宅が火事になり、財産の一切合切を失いました。またある人は、真上から降り注いだ大量のいがぐりによって傷だらけになりました。またある人は、強風で飛んで来た女性用下着を拾ったことが原因で下着泥棒と間違えられ、社会的信用を失いました。またある人は――挙げればキリがありません。

 

 結果、柚子は余計に人々から避けられるようになりました。……最も、柚子には“精霊”という友人兼理解者がいたため、一切気にも留めませんでしたが。

 

 そんなある日のことです。

 1人の老紳士が、日向家を訪ねてきました。

 

 

『キミは精霊が好きかい?』

 

『ええ、大好きよ!』

 

『もっと精霊と仲良くしたいかい?』

 

『勿論よ!』

 

 

 柚子の目には、老紳士の肩に集う無数の“精霊”の姿が見えていました。数多の“精霊”たちと仲良くなっている老紳士を目の当たりにした柚子は、彼が校長を務める学校へ通うことを決意したのです。

 

 老紳士が校長を務める学校は、この世界とは違う世界に存在していました。

 柚子は老紳士に連れられて世界を渡り、異世界の寮で生活することになりました。

 学校の寮へ向かう道すがら、老紳士は柚子へ語ります。

 

 

『私の学校を出た者の多くは国の要職に就いている。だけど、私が■■を教えているのはそんなことのためではない』

 

 

 老紳士はそう言って、真剣な眼差しで柚子を見つめます。

 彼の言葉を、柚子は生涯忘れることはないでしょう。

 

 

『私がキミに伝えたいのはすべて。この世界にあるものすべて。最後にはそれが、キミの意思だけで自由に動くようになる』

 

 

 

 

 

 そうして、柚子が魔法学校を卒業してから3年後。

 

 留学から帰って来た柚子は人理保証機関フィニス・カルデアへ呼び出され、数々の偶然から“人類最後のマスター”となったのです。

 

 

 




クロスオーバー先:『マジカルバケーション』(GBA)



ユズ
属性:音⇒闇⇒光
称号:伝説の魔人
仲良くなった精霊:119体
マジバケ本編開始時:14歳



・元人王。満足した生を送った結果、一発で星へ至る。
・迷子になっていた自分を送り出してくれたのは、3年前の我が運命だった。


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