48番目の逸般人   作:白鷺 葵

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【諸注意】
・クロスオーバー先はペルソナ最新作。
・クロスオーバー先の重大なネタバレ注意(重要)
・クロスオーバー先の重大なネタバレ注意(重要)
・クロスオーバー先の重大なネタバレ注意(重要)
・何かありましたら連絡ください。このお話を削除します。
・時間軸のすり合わせのため、FGO開始時が2016年、クロスオーバー先の発生時期が2014年となっている。
・FGOキャラクターがクロスオーバー先の作品に巻き込まれている。


【主人公】
来栖(くるす)絢斗(けんと) 大学1年生・年齢:18歳
・東京の某大学に通っている。法律関係の勉強をしており、夢は弁護士。
・双子の弟がいる。名前は来栖(くるす)(あきら)で、冤罪事件に巻き込まれていた過去があるようだ。
・暁の冤罪事件が理由で、一時期東京に避難していたことがある。暁は秀尽高校、絢斗は七姉妹学園高校。
・好きなものはピカレスクロマン、愛読書は『巌窟王』。


ケース:来栖絢斗の場合
これは、未来を盗り返す物語


 喫茶店の店内にはコーヒー豆とカレーの香りが漂っている。どちらも、この喫茶店の名物だ。来栖(くるす)絢斗(けんと)の大好きな香り。

 来栖兄弟が東京の大学に進学して移行、高校時代とまではいかずとも、頻繁に顔を合わせるようになった。だが、これから暫くは、この香りともお別れだろう。

 

 

「そういえば、絢斗は来週から長期のアルバイトに行くんだっけ?」

 

「うん。変な人たちからしつこく勧誘されてね」

 

 

 弟――暁の問いに対し、絢斗は苦笑した。それを聞いた仲間たちが目を丸くする。

 

 

「長期アルバイトって、どこで?」

 

「外国の雪山。えーと、確か……『人理継続保証機関フィニス・カルデア』とかいうところ」

 

「……じ、人理、なんだって?」

 

「何やら胡散臭い団体だな。大丈夫か?」

 

 

 金髪の青年が眉間に皺を寄せて首を傾げた。黒髪の青年は訝し気に眉を顰める。

 2人の反応は当然のことであり、絢斗が勧誘されたときの反応と一緒だからである。

 

 それを聞いた眼鏡の少女が唸った。

 

 

「フィニス・カルデア……」

 

「知ってるの?」

 

「星の動きを観察する天文台で、とある国の標高6000メートルの雪山にあるそうだ。ただ、オカルト方面ではキナ臭い噂が絶えない」

 

「ああ、確かにちょっとオカルティックなところがあったよ。『世界を救うために、人類の未来を守るために、キミの力が必要だ』とか」

 

「うっわ……」

 

「明らかにカルト教団の誘い文句じゃない……!」

 

 

 それを耳にした途端、仲間たちの表情が一気に曇る。気持ちは分からなくない。分からなくはない、が。

 

 

「スカウトしてきた人が、鬼気迫る形相で、大泣きしながら頭下げてきたんだ。困っている人を放置するわけにはいかないでしょ?」

 

「し、しかしなぁ……!」

 

「それに、『世界と人類の未来を守る』って、僕たち風に言い換えれば『世界と人類の未来を()り返す』ってことになるよね?」

 

「な、成程……!」

 

 

 自分たちの流儀風に言い換えれば、仲間たちは目から鱗と言わんばかりに息を飲んだ。

 

 

「ってことは、海外進出ってことか!? すっげぇ、すっげえよ!!」

 

「いや、進出というよりは派遣だろう。どちらにしても、俺たちの仲間が海外の組織に協力するということには変わりないだろうが」

 

「スケールが大きくなってきたな!」

 

「それ以前のこと忘れてない? そもそも、怪盗団はもう解散したでしょ」

 

「でもでも!」

 

 

 途端に、彼らの瞳が爛々と輝き始める。先程までの疑心暗鬼は嘘のようだ。

 

 

「フフ、流石は兄弟」

 

「当然だろ兄弟。道理は通すため、正義は貫くためにあるんだ」

 

 

 誇らし気に胸を張る絢斗を見た暁もまた、満足げに頷き返す。嘗て、道理と正義を貫いたために辛酸を嘗めさせられ、それでも屈することなくすべてを成し遂げた双子の片割れ――揺るがぬ正義感と、甘すぎる程のお人好しだ。半身である絢斗の考えを理解してくれたらしい。

 絢斗は暁ではない。でも、暁や仲間たちに恥じぬ人間でありたいと、心の底から願っている。自分が信じる正しい道を、真っ直ぐ進んで行ける人間――高校生だった頃とは違い、最近は色々と自由に身動きできなくなってきたこともあった。

 でも、諦めるつもりはない。それが、奇跡みたいな1年間で得た絆だ。消して途切れることのない、無限の未来そのものだ。あの日、暁たち怪盗団一味が『聖杯』という悪神から取り戻した『オタカラ』なのだから。

 

 兄弟同士でハイタッチをしたとき、椅子に座っていた黒猫が「あ」と間抜けな声を出す。蒼い瞳は驚愕に見開かれていた。

 

 

「なあ、ワガハイ大変なことに気づいたんだが」

 

「どうした?」

 

「絢斗の言葉を更に深読みすると、『ワガハイたち怪盗団が()り返した『世界』を狙っている大悪党が現れた』ということにならないか?」

 

 

 一瞬、喫茶店内は沈黙に包まれた。

 仲間たちの顔が鬼気迫るものへと変貌する。おそらく、絢斗も同じような顔をしていることだろう。

 

 

『ペルソナ使いの大半は、怪異と戦い続ける運命にあるんだよ』

 

 

 ひょんなことで共闘した年下の先輩が語っていた言葉を思い出す。

 

 つまり、今回の長期アルバイトは、絢斗の“次なる戦いの舞台”である可能性が高い。しかも、嘗ての仲間たち――怪盗団たちの中で、その切符を手にしているのは来栖絢斗ただ1人なのだ。

 怪盗団として活動していた頃は、仲間たち同士の連携でどうにか乗り切って来た。だが、今回絢斗が向かう先は、見知った人々など1人もいない海外の雪山である。日本人がいるかどうかも心配なレベルだ。

 だが、その程度の障害で足を止めるような性格ではない。自分の道は自分で決める。仲間たちもそれぞれの道を自由に往くのだ。彼らの仲間として、無様な選択はできない。あの日勝ち取った未来を奪われる可能性があると言うなら、尚更だ。

 

 

「……今回限りは、絢斗に任せるしかないよな。絢斗だけなんだろ? その、ふぃーなんちゃらの勧誘条件にぴったりだったの」

 

「フィニス・カルデアだよ」

 

「そうそう、それ! 世界を救った怪盗団の力を、ふぃーなんちゃらで見せつけて来いよ! ガツンとやれ、カウント!」

 

「だからフィニス・カルデアだってば、スカル。……ジョーカー」

 

 

 嘗てのコードネームを口にすれば、弟は厳かに頷き返した。

 

 

「ああ。俺たちもできるだけサポートする。頼むぞ、カウント」

 

「――お任せを。まずは予告状から始めようか」

 

 

◇◇◇

 

 

「カルデアの人々はいい人たちですよね」

 

「いきなりどうしたんだい? 絢斗くん」

 

「僕の周囲には碌な大人がいなかったんです。だから、最初にドクターを見たときは身構えてしまいました。奴らの同類なのかと」

 

 

 「でも、全然違うようで安心しました」と絢斗が笑えば、ドクターロマンは眉間に皺を寄せた。

 何か言いたげに視線を彷徨わせていたロマンであったが、意を決したように問いかける。

 

 

「……ちなみに、どんな大人がいたんだい?」

 

「外面のいい暴力糞レイ〇ー教師、若者の芽を摘む成金盗作芸術家、超弩級の金の亡者、弟に冤罪を着せた独裁政治家――」

 

「なにそのクズの吹き溜まり!? キミはどうしてそんな連中と出会い続けてきたんだよぅ!? この世すべての不運でも背負ってるの!?」

 

「そんな大人たちを更生させる戦いをしていたら、聖杯という名の悪神を消滅させるに至っただけです」

 

「ねえ本当に何してるの!? 本当に何してたの!? ボクの聞き間違いでなければ、今とんでもないパワーワードが出てきたように思うぞぅ!?」

 

 

 魔術師一同の中で感性が普通であるドクターロマンには、少々重荷だったかもしれない。詳細を語って聞かせたら頭を抱えて体を震わせていた。「大人が子どもを守らなきゃいけないのに」等と呟くロマンの肌は真っ青通り越して真っ白だ。可哀そうなことをした。

 それでも大人に不信感を抱かなかったのは、暁の無罪を勝ち取るために奔走していた大人たちの姿を見たからだ。特に、暁の担当検事である新島冴が頑張っていたのが大きい。彼女もまた、誰かの為の正義を貫くために歩み続けている……そのはずだったのに。

 人理焼却を成し遂げた連中のことを赦すつもりはない。無残に踏みにじられたのは、未来だけではないのだ。悪神から()り戻した超弩級のオタカラを、横から掻っ攫われてぶち壊された。――嗚呼、黙っていられるはずがあろうか!!

 

 

(許さない。許してはおけない。――復讐を! 黒幕から、すべてを()り返す!!)

 

 

 絢斗の決意に反応するかのように、ペルソナが揺らめいた。

 この場一帯を焼き払いそうな勢いである。勿論、暴発させるつもりはないが。

 息を整え平静を保ち、絢斗はロマンに向き直った。

 

 

「怪盗団最後の生き残りとして、僕は黒幕からすべてを()り返す。ドクターロマン、これからも力を貸してください。お願いします」

 

「……分かった。キミの期待に応えられるような、立派な大人を張れるように頑張るよ……」

 

 

 ――彼の返事が歯切れが悪かったことが、絢斗は何故だか気がかりだった。

 

 

 

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***

 

 

 ――ああ、この瞬間を待っていた。

 

 

「お初にお目にかかります、魔術王ソロモン。僕は怪盗団メンバーの1人“カウント”と申します。以後お見知りおきを」

 

 

 怪盗団に所属する怪盗の1人・カウントは恭しく頭を下げた。どこからともなく吹いた風が、紺色のマントを静かに揺らす。

 

 

「貴方の部下である魔神柱さま一同にお渡しした予告状、ご覧いただけましたか?」

 

「ああ、あの下らぬ文か。誇大妄想甚だしい愚か者の遠吠えなど――」

 

「――成程。一応、目を通していただけたようですね。何よりです」

 

 

 ソロモンの罵詈雑言を切り捨てるが如く、カウントは奴の言葉を遮る。

 

 

「嘗て、我々怪盗団は悪神から世界を()りかえしました。命を懸けて手にした、かけがえのないオタカラです。――それを、横から掻っ攫われて踏みにじられた。当事者の1人である僕が、黙っていられるはずがありましょうか!」

 

「ほう? ならばどうするつもりだ?」

 

「予告状に記載した通りですよ、魔術王ソロモン」

 

 

 カウントは懐から1枚の紙を取り出した。

 怪盗団のマーク――シルクハットと仮面が描かれたそれを指し示す。

 

 

「貴方が奪い取った世界の未来を――兄弟や怪盗団の仲間たちと、民衆をひっくるめた人類を()り戻しに参りました。……いずれ、熨斗つけて返していただきます」

 

 

 

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***

 

 

 監獄塔と呼ばれる場所の風景に、酷く既視感を抱く。嘗て自分が囚われた『ベルベットルーム』の牢獄を連想してしまったからかもしれない。ジョーカーの導きがなければ、きっとカウントは囚われたままだったであろう。

 ジョーカーもまた、監獄と縁深い人間であった。正当な正義を貫いたと言うのに、冤罪によってすべてを奪われてしまった。彼は1人、牢獄の中で戦い続けていたのだ。逃げること無く、カウントや怪盗団の仲間たちを信じて。

 

 

「お前は恐れないのか」

 

 

 カウントを先導していたアヴェンジャーが問いかけてきた。監獄だけでなく、彼の存在にも既視感を覚えるのは何故だろう。

 

 

「似たような場所なら、既に経験済みですので」

 

「…………成程。仮初のマスターは、随分と奇特な人生を歩んできたと見える」

 

「気を使わなくとも大丈夫ですよ。脱獄上等、欲望はそのまま希望へ転換です」

 

 

 そうこうしているうちに、試練の間と呼ばれる部屋の前に辿り着いたようだ。アヴェンジャーは扉を開ける。待っていたのは数多の亡霊たちと、ファントム・ジ・オペラのシャドウサーヴァントであった。

 彼らを斃さねば、カウントは監獄塔から出られない。見知ったサーヴァントを殺すことに罪悪感がないわけではないが、帰りたいという決意を貫くためには必要不可欠なことであった。歯噛みしながらも、カウントはため息をつく。

 対して、アヴェンジャーは愉快そうに笑っていた。小手調べだと語る彼に、カウントも頷いて戦闘態勢を整えた。間髪入れず亡霊たちが飛び出して来る。アヴェンジャーは高笑いしながら亡霊たちに攻撃を仕掛けた。

 

 

「クハハハハハハ!」

 

「一端引いてください、アヴェンジャー」

 

 

 形成はこちらが上だが、油断大敵である。嫌な予感は的中したようだ。アヴェンジャーが距離を取り直したのと入れ違いで亡霊が強力な攻撃を繰り出した。

 あのまま攻撃一本に絞っていたら、不意打ちを叩きこまれていただろう。カウントは内心ほっとした後、自分の仮面に手をかける。

 

 召喚するのはカウントの相棒だ。長らく共に戦ってきたペルソナで、神をも罰した悪魔の王の片割れを成す反逆の徒。

 

 

「――モンテクリスト」

 

 

 仮面をはぎ取った刹那、青い光が爆ぜる。豪奢な外套を身に纏ったモンテクリストが監獄塔に降臨した途端、この空間自体が酷く脈打った。

 監獄塔はこのペルソナと所以があった。その影響なのか、些か興奮しているように思う。呼応するが如く、死霊たちがざわめき始めた。

 ここで止まるつもりはないので、カウントは躊躇うことなく力を振るった。黒い光が亡霊たちを消滅させていく。どうやら弱点だったらしい。

 

 不意に、視線を感じて振り返る。そこには、大きく目を見開いてカウントを凝視するアヴェンジャーがいた。まるで信じられないものを目の当たりにしたと言わんばかりに、彼の表情は戦慄いている。

 

 

「アヴェンジャー、敵が来ます!」

 

「――残酷なことだ」

 

 

 アヴェンジャーは帽子を深く被り直すと、その勢いのまま敵に攻撃を仕掛ける。

 彼の横顔が複雑そうに歪んでいたように見えたのは、きっと気のせいではないのだろう。

 

 

 

 剛毅 アヴェンジャー  RANK UP!

 

 

◆◆◆

 

 

「ああもう……! なんで、どうしてこんな目に合わなきゃいけないのよぉぉ……!」

 

 

 オルガマリー・アニムスフィアは頭を抱えて蹲っていた。文字通りの恐慌状態と言えるだろう。何もそれは、彼女に限ったことではない。この場にいる人々みんながそうだ。

 赤い雨が降り注ぐ。巨大生物の骨が、檻のように天を覆っていた。交差する檻の間から僅かに伺える空も赤く濁っている。天には巨大な『神』が鎮座していた。

 世界が突如塗り替えられただけならまだマシだったかもしれない。なんと、そこにいたはずの人間が突如溶けだし、この世界から文字通り『消失』するのだ。

 

 魔術師同士のゴタゴタで、極東の島国を訪問する羽目になったときから嫌な予感しかしなかった。つい最近当主となったばかりのオルガマリーをこき下ろすため、他家の魔術師たちが暗躍していることは知っている。どいつもこいつもロクな奴がいない。

 下手すれば、アニムスフィア家が必死に守ってきたものを根こそぎ奪われてしまうかもしれない状況だ。相手がどんな権謀術策を張り巡らせていたとしても、オルガマリーにはそれを断る権利はない。歯噛みをしながら、辛酸を舐めながら、必死に頑張っていたのだ。

 

 

「う、うわああああ!」

 

「やだ、やだ……! 助け――」

 

 

 オルガマリーが震えている間に、自分の目の前でまた人が消えた。まるで、()()()()()()()()()()()()かのように。

 居場所は称賛、あるいは肯定とも言えるだろう。それを奪われていく図は、オルガマリーの現在――そして、辿り着く末路のように思えてしまう。

 

 

(私も、彼らのように――)

 

 

 考えるだけで、身体から体温が奪われていくような感覚に見舞われた。心なしか、自分がへたり込んでいる場所が黒く淀んできたように思う。

 

 

(嫌……! 私、まだ、誰にも認めてもらえてないのに……! 誰にも褒めてもらってないのに――!!)

 

 

 オルガマリーが震えている間に、また人が目の前で消えた。消失は平等に発生する。普通の一般人であっても、おそらくは魔術師であっても、この超現象を覆す手立てはない。

 そもそも、なんで極東の島国に『神』という超存在が軽々しく現界しているのだろう。極東は未開の地で魔境であるとは専らの噂だけど、ここまで酷いだなんて思わなかった。

 最早、オルガマリーの“アニムスフィア家当主の誇り”なんて吹き飛ぶ寸前だ。この場にいない人物の名を叫び散らさないという意味では、ギリギリ踏み止まっている状態である。

 

 だが、それも限界であった。

 一番信頼できる人物の名を叫ぼうとオルガマリーが口を開きかけたとき――

 

 

『……絶対、絶対に……』

 

 

 どこかからか、声が聞こえた。反射的に顔を上げれば、ビルに備え付けられた巨大な液晶画面に何かが映し出されている。

 

 何かのマーク。オルガマリーにはそれが何を意味しているかなんて理解できない。

 けれども、オルガマリーは、それから目を逸らすことができなかった。

 

 

『――世界を奪い取る!』

 

 

 その言葉が響いた途端、人々はざわめき始めた。至る所から『怪盗団』というワードが零れ落ちる。

 

 

(そういえば、つい最近まで、『日本には変わった怪盗団が出没している』なんて噂があったような――)

 

「――やっちまえ、怪盗団!」

 

 

 不意に、青年の叫び声が響き渡った。人々のざわめきを切り裂いて、青年は拳を振り上げて叫ぶ。

 彼の表情は至極真面目で、魔術による洗脳はおろか、精神が病んでいるようには見えない。

 けれど、人々は青年を見て距離を取り始めた。民衆には、彼が気狂いに見えるらしい。

 

 奇異の眼差しに晒されながらも、それでも青年は叫ぶのだ。必死になって訴える。誰に何を言われようとも、青年は怪盗団を信じているのだと。

 

 

「今までアイツらが、なんで体張って来たと思ってるんだ! いい加減、目ェ覚ませよ! いつまで逃げてるつもりなんだよ!」

 

 

 この場が水を打ったように静まり返る。その沈黙に、青年は悔しそうに歯噛みし――次の瞬間、まばらながらも声が響いた。

 「怪盗団、頑張れ」――誰かが零したエールが、振り上げた拳が、小さな一言が、あっという間に伝染していく。水の波紋が波及するように。

 

 

『“人の心を盗む『怪盗』がいる”って、信じますか?』

 

『私の故郷で今、凄く有名なんです。なんでも、悪い奴らを次々と改心させていくダークヒーローだって!』

 

 

 馬鹿みたいな話だと思っていた。荒唐無稽な話だと思っていた。そんな奴らがいるのなら、今すぐ、アニムスフィア家からすべてを奪おうとする薄汚い連中たちを成敗してくれと思っていた。

 

 こんな状態の世界を救うため、この世界に囚われた民衆を救うため、『神』と呼ばれる強大な敵に抗い、命を懸けて戦う人々がいる――。そんな彼らを、民衆たちは見捨てなかった。そんな彼らだからこそ、民衆たちは彼らを支持している。頑張れ、と、激励しているのだ。

 悲しいがな、完全部外者状態のオルガマリーには、怪盗団を指示する民衆たちのような清い理由で怪盗団を応援することはできない。でも、怪盗団を指示することで、こんな悪夢を抜け出すことができるのなら、何だってしてやる。

 虫のいい話ではある。けれど今この瞬間は、オルガマリーにとっての救世主(しるべ)はレフ・ライノールではなかった。偶然この国で居合わせた、この国を根城にして活躍する赤の他人たち――怪盗団と呼ばれるダークヒーローたちであった。

 

 

「お願い、怪盗団! 私を――私たちを、人類を救って!」

 

 

 オルガマリーが祈ったときだった。突如、ビルの屋上に青い光が2つ立ち上る。鎖が切れるような音が響き渡り、大きな力が弾けた。

 砕け散った何かの破片が、流星群のように降り注ぐ。朝焼けの光に紛れて消えていったのは、一体何だったのだろう。

 

 その答えはすぐに分かった。天に降臨した『神』と対峙するが如く、黒い翼を持つ何かが降臨する。その姿を例えるならば、悪魔――あるいは大魔王と称した方が相応しい。

 『神』は容赦なく断罪を下す。しかし、魔王にはそんなもの一切通じない。文字通り「圧倒的」と言えるだろう。それを見た民衆たちが表情を輝かせた。

 外面は最悪。けれども、これ以上最高の救世主は存在しない。オルガマリーは自然と立ち上がり、拳を握り締めていた。口元が緩み、段々と弧を描き始める。

 

 嗚呼――心が踊る。

 

 

『成程。神が悪さするんなら、悪魔の王で退治してやるって訳か……!』

 

『“悪さするなら、たとえ神様ですらも更生させる”! 今世紀最大の世直しですよ、ジョーカー』

 

『ハハハ、違いない! ――さあ、これで決める。行くぞ、カウント!』

 

 

 ざざざ、と、テレビ画面に映し出されていたマークが歪んだ。ほんの一瞬、人影が写る。

 

 右側にいる黒服の青年は顔が見えない。けれど、左側にいる貴族風の衣装を身に纏った青年の姿を、オルガマリーははっきりと見ることができた。

 黒い髪に青い瞳。晴れ渡った空を思わせるような双瞼は、一切の揺らぎがない。他者から何を言われようが、彼は決して屈することはないだろう。

 

 2人の少年は銃口を『神』に向ける。『神』の命乞いも無視して、少年たちは引き金を引いた。魔王の持つ銃から撃ちだされた弾丸が、『神』の脳天を真正面からぶち抜く。『神』は暫し沈黙したが、何とも安っぽい台詞を残して消滅した。

 間髪入れず、世界が光に包まれ始めた。オルガマリーは思わず目を手で覆う。光が晴れたとき、そこは何の変哲もない都市であった。多くの人々でごった返し、道路にも多くの車両が行き来する――どこにでもある平和な光景。

 先程まで広がっていた世紀末など夢だったのかと疑いたくなるくらいだ。オルガマリーが首を傾げたとき、先程まで怪盗団を応援していた青年と紳士の姿が目に入った。彼らはずっと、とあるビルを見上げながら笑っている。怪盗団の話題で盛り上がっているらしい。

 

 

「……そうよね。怪盗団は居るのよね……」

 

 

 正義を貫いた彼らの姿は、偶然1度見ただけのオルガマリーにも鮮明に刻まれた。

 自分もあんな風に、立ち上がることができるだろうか。他者に何を言われても、自分の正義を貫けるような人間に。

 

 アニムスフィア家を、カルデアを守れるような当主になりたい――それが、オルガマリーの正義だ。あの怪盗団のおかげで、性悪な臆病者の小娘と揶揄された自分にも“揺らがない柱”が出来上がったように思う。

 

 

「彼らが世界を救ったのだもの。私だって負けていられないわ」

 

 

 オルガマリーは微笑んだ。レフの前以外で微笑んだのも、心がこんなにも軽やかなのも、随分久しぶりのように思う。

 清々しい気分だった。自分を縛りつけていた楔を打ち壊し、牢獄から解き放たれたかのように。

 

 

 

***

 

 

 熱い。痛い。苦しい。

 

 無限の苦しみに飲み込まれながらも、オルガマリーは歯を食いしばる。自分の半身は既にカルデアスに飲み込まれており、マスター候補生・来栖絢斗/怪盗団の一味・カウントと、彼のペルソナによってどうにか現状維持を成している状態だ。だが、このまま彼らの手に掴っていたら、彼らもカルデアスに飲み込まれてしまうだろう。

 どうすればいい? どうすれば、オルガマリー・アニムスフィアは正義を貫けるだろう。現状、この異変を解決できる存在は、来栖絢斗/カウントしかいないのだ。このまま彼を道連れにすることは痛手以外の何物でもない。悔しい話だが、この危機を脱するカギは来栖絢斗/カウントだけなのだ。

 死ぬのは怖い。誰にも認めてもらえていないのに、褒めてもらってすらいないのに。こんなのは嫌だと叫ぶ己を叱咤する。脳裏に思い浮かべたのは、嘗て東京で目の当たりにした怪盗団の活躍だ。正しいことのために、命を懸けて立ち上がり、『神』すら構成させた少年の姿だ。

 

 彼らだったら、こんなときどうするだろう? 自分の利ではなく、誰かの為の正義を貫いた彼らだったら。

 今、必死になってオルガマリーを助けようとする絢斗/カウントならば。

 

 

(……今、私の為すべき、正しいこと、は――)

 

 

 痛みを堪える。歯を食いしばる。

 カルデア所長として、無様な姿は曝せない。

 

 

「来栖絢斗……カウント。手を、離しなさい……!」

 

「嫌です! 所長を見捨てることはできません!」

 

「離せと言っていることが分からないの!?」

 

 

 命を懸けて、オルガマリーは叫ぶ。屹然とした姿を保ちながら。

 嘗て彼らが命を燃やしたときのように。

 

 

「貴方はカルデアの、人類最後のマスターなのよ! 人類の未来を救えるのは、最早貴方だけなの! カルデアの所長として、貴方を失うわけにはいかないのよ!!」

 

「所長……!」

 

「いい!? 所長としての、最期の命令(オーダー)よ……『何が何でも、人理修復を成し遂げなさい』! でなければ、人類の未来はないわ……!」

 

 

 叫んでいる間にも、オルガマリーの身体はカルデアスに沈んでいく。最早体の3分の2が飲み込まれていた。

 所長としての頼みごとは終わった。後は、オルガマリー個人の願いを告げなくては。

 

 

「……お願い、怪盗団……! 『人類を救って』……!」

 

「!」

 

「報酬は、人類の未来……! 拒否権は、ないわよ……!」

 

 

 オルガマリーは不敵に笑うと、躊躇いなく絢斗/カウントの手を振り払った。楔を失った身体は、あっという間にカルデアスの中へと沈み込んでいく。

 

 大丈夫だ。希望は確かにここにある。心配する必要はない。

 彼ならば、託されたものを受け取ってくれるだろう。

 

 

「私、貴方たちを信じているわ――」

 

 

 すべてを言い終わるよりも先に、オルガマリーの身体はカルデアスの中に沈む。

 間髪入れず、オルガマリーの意識も闇に包まれ――そのまま断線した。

 

 




クロスオーバー先:『ペルソナ5』

来栖(くるす) 絢斗(けんと)
知識:知恵の泉
度胸:ライオンハート
器用さ:超魔術
優しさ:地母神
魅力:魔性の男
アルカナ:審判
コードネーム:カウント(伯爵)
武器:仕込み杖、拳銃
<所持ペルソナ>
・モンテクリスト
・◇◇◇◇◇(モンテクリストとアルセーヌが融合したペルソナ)
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