さぁ、ついに盛り上がり度も急上昇します。
「その必要はない」
ドグッ、パッ、ガシャ、グシャッッ!! それは大きな力だった。領内の整ったアスファルトが、一瞬にして瓦礫、血だまりと化す。ルリカはそれを見ながら、唖然とするばかりだ。しかし、ソウジは驚きすらしていないようだった。
おぞましい力を二人は彼から感じる。一口に説明するのは難しいだろう。だが、確実に言える事は、この小さな日本を破壊するぐらい造作もない。――ということ。
「自分が出した依頼に同行するとは聞いていたが、ずいぶんと合流に時間がかかったじゃねぇか。
「今、リョータは疾風使いと共に処刑台を脱走した。なにやら知らないが、その情報が出回って主力が帰ってきている。確かに二手で探せば効率は良いが、主力と鉢合わせになればそこまでだ。そうまでして依頼に命を捨てることはするな」
「へぇ……あんた、少しそれは俺達嘗めてんじゃない? ……なんてな、あんたの言うことは聞いておく。見つけたら回収して、あんたに渡せばいいんだろ?」
男は、答えに悩んでいるようだった。ソウジは長い返答待ちに首を傾げ、目を鋭くして凝視する。
「いや、お前達はリョータを回収してすぐさまこのバカ溜まりから抜けろ。後始末は俺にやらせてもらう。依頼報酬は俺の友人に頼んだから安心していい」
「ヘイヘイ、わかった。それじゃあお互い死なないようにな、いくぞルリカ」
「……あ、う、うん」
最後まで表情を変えないとは、まるで鉄の仮面を被ったような御仁だ。去り際にソウジは一目振り返る。すでに背中を向けていた。だが、なぜだろう。確かに容姿は依頼主なのだが、その歩く姿は、規則正しいロボットのように重く見えた。
※
マユミとリョータは、アヤを探す。大声を出すことはできなかった。主力に発見されれば、例え悪あがきをしようとも今のマユミとリョータには歯が立たない。
一触即発。早急に見つけたいが、一歩間違えて地雷を踏めば今までの工程が水の泡になる。
「アヤ……どこにいるの?」
「落ち着けマユミ、お前が思うにそのアヤがいそうな場所はどこだ?」
冷静なたしなめだが、時間に余裕がないのか、リョータは探す動きを止めないまま語りかけている。マユミも同じだった。一切の気許しもせず、ただ視覚と頭と足だけを同時にフルで稼動させていた。
落ち着いて、もし、私がアヤだったら。友達のことを最初に思うアヤだったら、どういうふうに爆薬庫を爆破していくか。数分、答えを導き出した。
「多分、さっきいた教会の近く」
念入りに辺りを確認した後、二人は走りながら話を続ける。
「そこには一番大きい爆薬庫がある。私の行動に支障が出ないよう、最後に破壊しようとしたんだよ。それで帰投した主力と出くわしたんだと思う……」
「なるほど……よし、つまりこのまんま元来た道を引き返していけばいいんだな?」
抑えめな声にマユミは深く頷いた。――そこにいなかったらどうすればいい。歯を強く食いしばりながらリョータは一言、言葉を付け足すのを忘れたような気がした。が、それ以上に、彼は焦りに焦っていた。
そして、教会が目前にせまった時。
「ハッ……マユミ、隠れろ!」
「えっ、きゃあ!」
突然、リョータの周りを探す目に良くないものが映ったようだ。マユミを抱えるようにして路地に入り込むリョータ。外から見えないように素早く壁へマユミを寄せ、リョータは隠す形で覆い被さった。
何か聞こえる。
「いなくなっちまった……あれが処刑台脱獄者じゃないだろうな」
「そうかぁ? 持ち場に戻ろうとしてた連中じゃねぇか?」
「う~ん……とにかくもう少し探すぞ? 逃したことがバレたらえみる様にその場で極刑喰らっちまう」
そこまでやたらデカイ声で話し、小会議らしき言葉を何度か交わして足音が遠ざかっていく。不意から現れたヒーローは路地にいる二人に気づかず通り過ぎたようだ。
「ふぃ~あぶねぇあぶねぇ。間一髪だったなっ……!」
温かい吐息を振り返ると同時に感じる。マユミとの距離は近かった。もう少しすれば鼻と鼻がくっついてしまいそうなくらい。それでいてしっかりと彼女の顔を見ることができた。真っ白い肌。赤い目。少しだけ口を開き、ただずっと仄かなリンゴの頬で瞳を潤ませている。
「あぁっ……わ、悪かった! いきなり身体を引っ張ったりして……」
「う……ん…………かった」
かなりの小声で何かを言った気がした。もちろんリョータにはこの距離でも聞こえない。ただ、『ん?』と、擬音をだして眉を動かす。
「あっ……な、なんでもない」
「そうか……それより、ちょうど教会近くだぜ? ここら辺にいるんじゃないか?」
壁から大通りの様子を覗く。部隊らしき整然と並んだ列が見える。その先頭を歩く顔があった。
(あいつ……)
ギリッと、歯に力が入る。姫咲えみる。悠々と日傘を差して歩く様は、まさに王者の貫禄を露わにしていた。その身長こそ普通の11歳だが、リョータは彼女に一度あの関所でギタギタに叩き潰されている。それでも手加減されていた。あの状況でリョータを一撃で倒すぐらい容易いはず。
「少しの間ここにいるか……?」
「……」
マユミの声は、歯のカチカチとする震え、出すことさえできなかった。決してえみるが怖かったわけではない。どちらかといえば、震えるほどの怒り。瞳に映ったからだ。あのえみるがいる前で膝をついているのは……。
思考が行動を最優先させる。今ならえみるに気づかれずに近づける。足で地面を蹴った。疾風がその細い体から出しているものとは思えないロケットスタートを繰り出す。
「マユミ!!」
マユミが立ち止まっていられるわけがなかった。だってあれは……。
クスッと、不意に振り返るえみるの顔が、いたずらをしたあとのように鼻で笑う。マユミの異変はその次の瞬間だった。
「っ!!?」
黒い翼のようなものがえみるから浮き出すや否や、まるで世界を喰らうように黒という黒が建物や空を蝕み、ついにはマユミ一人になってしまった。そんな彼女に数秒後、ベキッ――と。
「っあ……」
腹に激痛が走る。吹き飛んでいるのだろうか。わからない方向に身体が移動していく。その後、すぐに頭部で同じような衝撃が伝った。恐怖が湧き上がっていく。何が起きているのか。ただ、確実に先ほど消えたように見えた建物にぶつかったことだけはなんとなくわかる。
(私の視覚がイカれているの?)
聞いたことがあった。えみると対峙した男が無残にも何もできなかったという。その男は、えみるのわざと空振った攻撃に乗じてそこへ音に反応し、錯乱したようにその抉れたくぼみに攻撃していた。これがえみるの持つ力。光と闇という反射する光を凝縮、遮断することができる能力だ。つまり、マユミは今視覚を完全に奪われている。
ドンッ!! すぐに後ろでアスファルトの破片が背中にパラパラとぶつかる。
「ひっ……」
もし、あの対峙した男と同じなら、何も見えないと思ってマユミを弄んでいるのか。小さく悲鳴を上げながらも、マユミは冷静に考える。確かに視覚を奪われたのは厳しい。何か手はないか。
「マユミ、絶対に目を瞑るなよぉ!!?」
「えっ?」
突然、辺りが明るくなる。太陽よりも青白い光はアルミニウムが燃焼して発光する光。閃光手榴弾だ。リョータは恐らくえみるの特性を知っていたのだろう。すぐに把握できたマユミは、その光を中心に明るくなっていく世界にホッと胸を撫で下ろす。
すぐ近くにリョータが庇うようにして立つ。えみると部隊は予想より遥かに遠くで佇んでいた。そして、縛り上げられたアヤもそこにいる。
「……ありがとう、リョータ」
「……」
添える言葉は返ってこない。マユミは察す。とても返事の言葉を述べている余裕などなかった。ただ、マユミが犯した失態をどう取り戻すか、その一身である。えみるはニコニコと笑っていた。無邪気に。純粋に。視界からその顔が何度も揺れた。
形相に変化が訪れたのは、差していた日傘をまるでショットガンように構えたときだった。
「あらあら……」
ギラッと、目に闇が宿った。
「逃げようとか考えてんじゃネェだろうな、オイ!」
声の質がガラリと変わる。無限大のない威圧感を肌身に感じた。一言で言おう。
――あれは、敵に回しちゃいけない。
そう思っていた時には、二人の心臓は彼女に鷲掴みにされるようにドクリと動き、一歩も動けなくなる。恐怖心にも似たその痺れる感覚は、まさに蛇に睨まれたカエルだった。
えみる様、裏人格が……。
ついにでましたね、光と闇。
裏設定でお気づきかと思いますが、核の能力研究プロジェクトを凍結まで追い込んだ凶悪な能力です。
今回では、光を遮断して相手には真っ暗闇を見せるという方法を使っていましたが、光を集めてビーム状に発することも可能な能力です。
さぁ、この先二人はどう乗り切るのか?
続きはまた次の更新で
ではまた……。