ゆっくり見ていってください。
変体短剣、グルカナイフが光る。その小さな刃が狙ったのは、ヒーローの喉元だった。彼は数人に囲まれている。その内の一人すら倒すことに苦労を感じるのは恐らく、千葉の精鋭が相手だからである。しかし、負ける要素は全くない。グルカナイフがメインの攻撃態勢だが、いざとなれば能力もある。
(相手は15人……)
こうして冷静に近くの人数を数える余裕すらある。仕掛けたのはまず相手の方だった。女性ヒーローの持った日本刀によるリーチが長い突き攻撃。一撃でも喰らえば戦闘不能は確実だ。横腹を狙うその攻撃を、彼は右足を後退させながら左へ身体を動かし、無駄のない避けを見せて一気に間合いを詰める。
ズバッ。驚くほど簡単にかっさばける。事態にヒーロー三人が動き始めた。
(体勢が崩れたのを利用しようとしたか……千葉らしい)
例え一人の犠牲も無駄にしない整然とされた動き。まるで機械だ。仲間がさっき死んだというのにケロッとしている。三人が取り出したのは、ハンドガンやらアサルトライフルやら、そして、ミニバルカン。
「冗談きついな……」
矢先、躊躇いもなく一点放火を浴びる。がしかし、素早くサイドへ身体を転がす。素早くグルカナイフを曇り空に向けて投げ、腰のダストイーグルを引き抜いた。
「邪魔だぁぁ!!」
ダダンッと二発。流石、自動拳銃は強い。一人の頭と肩に上手く命中する。残りはアサルトとミニバルカン持ちの二人。倒れた一人など気にせず弾丸の嵐が彼に向かって横殴りに降り注ぐ。そこで一息つくわけにはいかず、回り込むようにして二人の横へ場所をとる。ミニバルカン持ちは武器が重いのか動きが鈍い。そこをつくようにダストイーグルで照準を合わせ、引き金を引いた。バッと弾ける音を立てて倒れるミニバルカン持ちの男。
(あと一人……!)
前に前進し、もう少しというところでアサルトライフルが火を吹く。しかし、的がわずかにずれた。ダストイーグルをアサルトの銃口に全力でぶつけ、固定された照準を逸らしたのだ。そして、その刹那。先ほど投げたグルカナイフが――彼の手に持ち手がきれいに掌へ納まった。
「ふんっ!」
ドスリッ。腹から少し斜め上、そこに刃先が刺さる。倒れる音はほとんどしなかった。
「……ふぅ」
やっと一息ついたような気がする。と――。
「ッ!」
その時、全ての時間が遅く感じた。不意に向いた方向から飛んでくるのは音もなく発射されたスナイパーライフルの弾丸。そして、それを撃ち落とすかのように横から入るハンドガンの弾らしき鉛の塊。時間の束縛が解除されたのはスナイパーライフル弾丸がひしゃげて地面に転がった時だった。
「ちっ……」
遠くにいる。建物の上から青い髪が靡いているのがハッキリと見えるので、それほど距離はないようだ。
「よぉ、依頼主さん」
どうやら、スナイパーライフルの弾を相殺したのはこいつか。
「何をしに来た……」
依頼主の彼は、冷たい一言である。ソウジは顔を合わせると微動だにしない様子で、
「こっちはけっこう捜索が難航していてな、手伝いに来たんだ」
と、現状報告だけを滑らかな口調で口走る。予想以上によく働いているな。誉め言葉なんてめったに出ない彼だが、何か考えてやることにする。しかし、やはりどこか無愛想な言い分だ。
「それで、残業代を支払えとでも言いたいのか?」
「そんなわけないだろ? 依頼主が死んだんじゃ、俺達の仕事は不成立なんだよ」
向こうでスナイパーライフルが落下する。建物の上に立つ赤いロングヘアーはソウジといた女性のものらしい。ソウジが身振り手振りをすると、その女性は座り込む。
さて、数は大方11人。流石に力量も見定めたようだ。隠れていたヒーローが次々と顔を出す。建物から見える銃口も何丁か増えたようだ。
「俺達も協力した方が良いですかい?」
「……いや、お前達は下がっていい。一気に殲滅してやる」
「はぁ……その口振りがどこから出てくるやら。まぁ、良いですけどね」
向こう側の建物にいる赤いロングヘアーに、下がれ、の合図を出すと納得いかないような表情を見せる。そんなことも気にせず、ソウジはなるべく彼から距離をおいた。
すると。
ゴッ!! 彼を囲むように地面が小さなクレーターを生む。ソウジが目を見開いたときには、既に彼の身体が宙を舞っていた。
「まずは一人……」
近くの自動小銃持ちの敵ヒーローに向かって、全体重を乗せながら踏みつける。彼の重さとは比例していないようだった。まるで大きな鉄球が降ったように、整備された地面にヒビを作る。
続けて三人が飛び込む。彼は倒したヒーローが持つ自動小銃を軽く持ち、発砲。
「ぐあっ……」
「っお……!」
一人外したようだ。だが、そんなことはどうでもよかった。見ればもう全員迫っているじゃないか。
「面倒だ……」
硬いアスファルトをまるですなかけキックのように削りながら蹴り飛ばす。するとどうだろうか。たちまちアスファルトが捲りあがり、衝撃波がヒーロー達を巻き込む。大迫力の割には、それほど威力があったわけではないようだ。空中に身体を持っていかれたヒーローの何人かは意識をハッキリとしているまま受身を取り、着地しつつ走り出してくる。
彼の足も勢いよくアスファルトを崩しながら駆け出す。重く速い動きで一人のヒーローを拳で捕らえた。
「そろそろ時間だ……懺悔は済んだか?」
「ひっ……」
微かに悲鳴を上げる男性ヒーロー。地面に歪な音を出して叩きつけられると、腹に彼の拳が直撃する。そして、奇妙な現象が起きた。バラバラに散乱していたヒーロー達が突然顔を地面に打ち付ける。
「「「「が、グオァァァァァァっっっっっ!!!!」」」」
その光景にソウジは度肝を抜いた。見えない何かに潰され、一瞬で勝負は決す。
(こいつ……)
ナイフの立ち回り。高い格闘技術。敵に回せばソウジなんて相手にならないだろう。それだけではない。全く見たこともない能力使っている。確か、発見されている能力は、爆炎、迅雷、砂塵、疾風、水氷のみだったはずだ。指導者はもっと特別な能力を保有しているようだが、その中にもこんな能力はない。ますます彼の謎が深まるばかりだ。
依頼主って誰なんでしょう……。
まぁ、次で伏線を回収するのでわかってしまうと思います。