千字しかありません
次はタイトルが変わるので、共鳴する波濤はここまでです。
「なぁ……」
彼は振り向く。妙に作り笑いをしていた。
「あんた、いい加減手の内くらい見せたらどうだ? そのわけわからない力、少なくとも俺は見たことも聞いたこともないぜ?」
彼の目に鋭さが宿る。しばらくはその言葉を起点に返しを探しているようだったが、後もう二枚で食べきってしまうガムを一枚口に含み、軟らかくなったのを感触で理解すると、ガム風船を膨らましながら背を向けた。
(見せる気ゼロかよ……)
「答えはあの先だ」
「えっ……?」
答えも返ってこず、諦めた瞬間に状況が変異する。
ビュオォォォォォォォォッッッ!!
……なんだろうか。彼の指差す方向にとても大きな灰色の翼が立ち上った。煙ではない。見ればわかるが、ところどころで上がっている炎の煙とは比較しても別の色だ。さらにあれは上空に立ち上っているというより――まるで空に二本の灰色い牙が突き刺さっているように見える。
「始まったな……どうする? お前や連れの赤髪はここまででもいい。もしかしたら、死ぬかもしれないぞ?」
「……な、何が始まったんだ?」
聞く耳もなく、その黒い牙に向けて走り出す。彼は、もう帰れ、と背中で言っている。答えてもくれないということは、多分そういうことなのだろう、とソウジは思慮した。
「ソウジぃー!!」
建物を伝って近くに来たルリカが地面に着地する。血相を変えていた。特に事態を重く考えるのが彼女だが、これほど青ざめた様子はソウジも初めてである。
「ソウジ、早く逃げようよ!」
「……ッ」
逃げる。その選択肢は確かにある。だが、ソリッダーとして雇われ仕事を完遂せずに報酬を受け取ることができるか。
「クッソォ!」
啖呵は切られた。逃げるという選択肢はなくなってしまう。地面を蹴ると、強い風が吹きすさぶ。引き返せとでもいうのか。少し気を抜けば吹き飛んでいってしまう。我ながらとんでもないことを依頼主に断言してしまったな。ソウジは後から少し後悔する。
「依頼主が死んじまうのは俺達の仕事として不成立……へっ、言っちまったもんなぁ」
「ちょっとぉ! ヤバイってあの風、嫌な予感がするよぉ!」
「ルリカァ!!」
前に出ながらソウジが叫ぶ。
「お前はもういい、おとなしく帰れ」
「えっ……」
ドンッ。押されてルリカがバランスを崩す。と同時に二人へ突風が吹き荒れた。当然だが、バランスを崩しているルリカは身体ごと風に運ばれていく。
「ソ、ソウ――」
離れていく、離れていく。身体が宙に浮いて、どんどんと遠ざかるソウジの顔はなぜか笑っていた。まるで最愛の者に対して語りかけているように。そしてルリカも変だった。誰も死んでいないのに、涙が自然と湧き上がってくる。消えていく、消えていく。
――ソウジはルリカの視界から小さい点になって消えた。
ソウジ……。
いよいよ物語は最終段階へ。