ごめんなさい。
広大な千葉の土地。あれほど整備された建物は、起こったパニックとソリッダーや黒きアイオリアの能力、そしてユージの豪快な力で虫食いのような荒れ果て様だ。あっちでは大きなクレーターができ、すぐそばではゲートが大破して関所が丸見えの状態になっている。だが、建国者である姫咲えみるは、キョトンとした表情を浮かべていた。その顔に偽りはない。かといって、自分の領土がこれほどに荒れ果ててしまったことについて唖然とした気持ちでいるわけでもない。
ユージ。確かリョータの所属国家は、神奈川だったはず。ユージはリョータを気にかけていた。だとすると、彼も神奈川所属のヒーローなのだろうか。それにしては、聞いたことも見たこともない顔つきだ。えみるの首が深く横に傾げる。
「あなた……誰ですか?」
ユージはもう一度名乗ることなく、こちらに歩み寄ってくる。異様な気配が漂い始めたのは、その瞬間だ。何かが変わった。彼の持つ存在感もそうだが、変化はだんだんと殺気としてユージの眼前を貫く。
やがて、ユージの動きに早さが加わる。
「アイオリアさん、気をつけたほうがいいですよ?」
「指導者さん、どうしたの?」
――アイオリアの目の前で黄色い残像が腹を殴った。
「グッ」
そして、下がった首をユージの肘鉄が捉える。ゴッ。と同時に、ドゴッ!! バックステップを踏むえみるは、もう少しで瓦礫の残骸をまともに浴びるところだった。もうほとんどヒビが入っているアスファルトが、肘鉄を中心に半径二メートルほどぶち壊される。そこに立っていられたのはユージのみ。アイオリアの姿はない。だがユージはこう言う。
「死んだフリとは……俺の立場はまるで熊、か」
アイオリアは当然にその言葉どおりユージに姿を見せる。自分を覆う瓦礫を吹き飛ばして。
「あなた……良いじゃない。私を楽しませてくれるの?」
「楽しませる気はないが、お前にはここで倒れてもらう。何がなんでも、な」
無を変えることのないユージだが、アイオリアの能力発動にいくらかの動揺を隠せなかった。光の球体。太陽からの屈折のせいで、好調に先ほどより大きいものが手早く出来上がったようだ。
「まいりましたねぇ。これはえみるも危ないかもです」
日傘をクルクルと回しながら暇を潰す余裕そうなえみるの発言は確かものだ。あれが地と触れ合った時には、この辺り一帯おおよそにして都市の半分は吹き飛ぶだろう。ユージはその球体を見上げる。
「ならいいよ。私も適当にあなたを壊して楽しむからっ、さぁ!!」
言葉など待ってくれなかった。アイオリアの片手から光の球体がユージ目掛けて放り投げられる。ここでかわせばいいが、倒れているリョータを放置できない。それにこの至近距離だ。ここからリョータを抱えて脱出は不可能。
「アハハハハハハッッ!!」
木霊す笑い声。絶望を嘲笑うかのようだ。
「アハ? ……は?」
驚愕するほどだった。異変が起きる。泡は割れる以外に形を変化させない。そのように、この光球体も少し刺激を加えれば大爆発を起こすだけ。だが、これは異様だ。光球体は――捻じ曲がっている。
「な、なんでよ……どうして私の攻撃が消えていくの?」
何度も何度も強度のある泡のように揺れ、収束。そしてあの恐ろしいほど巨大だった力が、小さくなり消滅していく。完全に何もなくなったところにユージだけが立っていた。
「どうやらお前は、自分の力を過信しすぎたようだな。今の攻撃、確かに光を集めたように見えるが、ほとんど風の塊だったぞ?」
「なっ……」
「あら、そうなんですか?」
えみるが興味津々な顔を変えた。ユージはコクリと頷き、続ける。
「なら避けるのが簡単でな。風向きを変え、集まった空気の流れを乱してやればいい。俺にはそれができるからな。すると、先ほどのように空気の塊が分散し、消えてなくなるということだ」
冷静だが、咄嗟の判断だったのだろうか。息の乱れと汗がそれを物語っている。恐らく能力も大部分を使ってしまったはずだ。アイオリアは自分の腕に感じる感覚を確かめる。いける。あと特大のを一発撃てるくらいの余裕はある。
「ずいぶんとカミングアウトしてくれたみたいだけど、もうあなたに能力を発動できる力なんてほとんど残ってないんじゃない?」
「……あぁ、そうだな」
アハハ、と笑い声が漏れる。とんだ見栄っ張りヒーローだ。自分の能力残量さえ考えずに飛び込んでくるなんて、まるで死ぬためにきたのか。アイオリアは、どう殺すか悩む。せっかく挑んできた強敵だ。印象的な死に様がふさわしい。体中穴だらけにするか。それとも淡白に首を刎ねるか。そんなワクワクとしていた時だった。
アイオリアの光と闇は完全に覚醒できたわけではないようですね。
それにしても、ユージもいきなりピンチですね。
大丈夫なんでしょうか?
それは次回の更新で。