修正が入るかもしれませんが、その時はご了承ください。
「消えなさいっ!」
その攻撃を見て、ユージは表情一つ変えない。ただのさっきと同じで、サイズが小さくなった光球体。触れれば爆発だが、彼からすればただの黄色い風の塊だ。
「一度見た技が通じるほど、俺は馬鹿ではないことくらいわかっているだろう!」
重力により集められた風がだんだんと制御される。そして、爆発不能になった光球体をグルカナイフで払った。緑の風が拡散し、上空のアイオリアへ向けてユージは足の力だけで高く飛び上がった。狙うは喉元。ガードもこれほど近ければ間に合わない。
「とどめだ……」
光る刃が喉仏を切り裂く。パックリと切り取られた部分が宙を舞った。
(なんだ……この奇妙な違和感。っ! これは……)
モヤモヤと殺した身体が形を歪ませて消えていく。アイオリアではない。それどころか、ユージが切り裂いたのはヒーローでもなかった。下を見下ろす。『残念』と、彼の耳へアイオリアの声が、また、アイオリアの地面で悠々と見上げる姿が聴覚、視覚に同時に入り込んできた。
「一度見た技は通用しない……そんなの馬鹿の一つ覚えじゃない。つまり光と闇の能力で作った光の錯覚は交わせないわけだ」
アイオリアは勝利を確信しながら笑い、告げる。
「さようなら――」
能力を使いきった身体へ、針山へそのままダイブしたように光の鋭い針が、ユージをドスリドスリと刺していく。その光景はまさに地獄絵図だった。ショットガンで撃ち抜かれた反動にも似た歪な動きをしながら、身体中を蜂の巣にされていく。仕舞いには刺さる力の均衡性が崩れたのか、まだ地面から数メートルというところからその生きているかどうかわからない身体がドサリと落下する。アイオリアが完全な確信を得たのはその数秒後。
勝った。
「……っふふふ、あっははははははははは!!! あっはははははははっは!! っはははははは!! 笑いが止まらないっ! だから言ったじゃない、他人のために命を削った結果がこれよ! っあはははははは……ゴホッゴホッ! ゲホッ!」
もう彼女は止められない。
彼女に敵う奴は誰もいない。
「……………………確かに、俺、は……」
「……えっ」
「少し他人に対して甘いみたいだな……」
倒れていたはずの身体がゆっくりと起き上がって俯く。夢でも見ているのだろうか。さっき確かに生気一つ残らず蜂の巣にしたはずだ。だが、屍は立ち上がる。酷い目をしていた。まるで使命を果たすまで絶対に獲物から目を離さない獣の瞳のようでそうでない。そう、一言で言い表すなら、彷徨う修羅。いや、もしかしたら本当に修羅なのかもしれない。ユージは死んだ。生きているはずがないのだ。
「あなた……何者よ」
何かが変わった。アイオリアが持つ能力よりずっと恐ろしい何かが。そのユージらしき姿は一歩一歩と間に、加速してアイオリアに迫る。身体を張りすぎたか、アイオリアは動けない。
「いや……来ないで、来ないでぇ」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
※
これはリョータもマユミも知らない話。
雄治という青年がいた。彼はとても気が弱く、臆病だった。だから何をするにも一人か両親と一緒。今日はたまたま孤独にブランコを漕いでいた。俯きながら彼は落ち込む。
――なんで、僕は弱いのか。
これで何度目の自問だろう。一人の時には、自分の弱さばかり思いつめてしまう。そんないつもはネガティブな彼だが、今回に限ってなりたい自分について考えていた。彼の考えはこうだ。毎日普通の生活を送っているけど、人の危機には颯爽と現れて問題を解決すると、何も言わずに去っていく。
そう、ヒーロー。
「ヒーローに……なりたい」
雄治は呆然と空を眺めていると。
「あっぷ……あっぷ……リョー……タぁ!」
「えっ?」
水を含みながらの叫びと、ワタワタ水をぎこちなく掻く音。雄治は声を頼りに駆けつけると、下を見下ろす。
少女が溺れているではないか。どうやらグラグラ吊り橋を渡ろうとしてバランスを崩したのだろう。岸にいる少年が叫ぶ。
「待ってろ、今助けるからな!」
その子も小さい。冷静な判断で大人の人を探しに行ったのか。しかし、あの吊り橋のクッション用に作られた池は異様に深い。入ればあんな小さな子どもは足がもうすぐに攣ってしまう。
「ど……どうしよう」
ふとしばらく傍観していると、ついには溺れている小さな少女の顔が池に沈んでしまった。雄治の身長なら、あの池で足を着くはずだ。だけど、お節介かもしれない。
「う~ん……よし!」
覚悟を決めた。雄治は池に足から飛び込む。確かに足は着くが、思ったより深い。肩まで浸かってしまった。それでも、必死になって爪先立ちになりながら岸へ運んだ。服はずぶ濡れ。靴は気持ち悪いほど靴下と密着した変な違和感でせっかく助けたのに全然清々しくなんてない。
「僕……何やってんだろ」
何にも利益なんてない。人間関係で表すと、赤の他人という言葉にさらに赤を付け足さなければならないほど見知らぬ少女だ。彼女だってお節介だったはずだ。リョータって子が助けてくれると思ったはずなのに。まさかこんな見知らぬ男の子に助けられるなんて。
「マユミぃーっ!!」
「はっ……」
声に反応して驚いた雄治は、身体を反射的に木陰へ隠す。
「いたっ! 岸に上がってる!」
「本当!? はぁ、良かったぁ……」
さっきのリョータという子と、二人の母親だろうか。あのマユミという子が気がつくと、ホッとしたように足をペタリと落とした。飛び込む気でいたのか、かなり薄手で安心の涙を着ていたらしい服で拭っている。
(とても大事にされているんだ、あの子)
雄治には危険に晒されたからといって、涙を流してまで心配してくれる人はいない。その時には既に自分で思っていた。助けなくちゃ良かったと。あのまま溺死して死んでいればこんな嫉妬することなんてなかったんだ。彼女はのんきにリョータへ話しかけている。
「リョータ……私、不思議な夢を見たよ?」
「不思議な夢?」
「うん、池の深いところまで沈んでもう駄目だぁって思ったとき、私のことを引き上げてここまで連れて来てくれたの……」
さっき起きたことと同じだ。マユミは次のように続ける。
「その人――まるでヒーローみたいだった。きっと岸に引き上げてくれたのも、夢に出てきたあの人だよ! ねぇ、リョータ。私、ここまで引き上げてくれた人を探したい。そして、お礼を言うの!」
木陰から隠れるようにして少女を見つめる雄治。彼女の目は、大きく見開いて豊かで優しい感情をそのまま出している。だから、あんな一言まで言ってしまうのか。なぜだろう。雄治は悔しかった。これではまるで、誉められるのも怖いみたいだ。
彼は弱くなんかなかった。ただ、やっても無駄と先送りに現状を考えてしまうだけだったのだ。
木陰の向こうで、リョータの声が響く。
「……わかった! じゃあ、明日もここに来て探そう!」
「うん♪」
だが、二人の願い、はたまた雄治が彼らに会うことはもうなかった。