東京永年戦争   作:人世一夜

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本編開始です。
長く作りました。だいたいこれくらいを目安に更新をします。
……がんばります。


罪悪
赤い下っ端と黄色い先輩


 

「はぁ……」

 

「どうした新入り? 元気がないようだが……」

 

「なんでもねぇ」

 

 ゴトゴトと音を立てる車内で、固形レーションをかじりながら赤い髪が窓に(なび)く。今、新入りである彼――リョータと、その先輩に当たるバンを運転している黄色い髪のユージは、神奈川領渋谷区に向かい移動中。荒れ果てたアスファルトをバンが飛び越える。

 

「おわっ……」

 

 弾みで浮いたリョータは、バンの天井に頭をぶつけた。

 

「いってぇ」

 

「相変わらず腰が軽いな」

 

「……っうるせぇ」

 

 生意気さに呆れた表情のユージ。リョータは神奈川に所属してそろそろ二年になる。しかし、その容姿はほとんど変わっていない。もちろん性格もまったく進歩を見せない。ひたすらに気の重い顔を常にさせ、憂鬱だと身体で伝える窓際族のように風景を眺めるだけだ。

 

「もうすぐ目的地に着くぞ。適当に準備しておけ」

 

「……」

 

 返事も返さないリョータが空いている助手席から取ったのは、長身の長いショットガン。ポンプアクション式で、弾は手作業で込めなければならない。しかし、今回二人で行う作戦には十分支障を出さない武器だ。

 

「前はマガジン一個に大量の弾丸が自動装填されるやつだったんだが、あいにく敵物資から拝借した代物だったらしくてな。まっ戦争中だ。武器を流通させてる商人もほとんど機能していない。贅沢は言うなよ……」

 

 リョータは、グリップの少し上にある鉄製の部分に手を当てた。弾はここから納入する。あとは人差し指と親指で摘める小さい取っ手を手前に引き、いつも常備しているバッグから手馴れた指の動作でショットガンのシェル弾丸を一発ずつ詰めていく。

 

「慣れたものだ。二年前はハンドガンのマガジン交換でさえ、もたついていたというのにな」

 

「……ユージは、こんな俺をどう思う?」

 

 運転席でバックミラーに俯くユージの顔つきが見える。バンは右に曲がりだし、真っ直ぐな道に出た。するとユージは、ポケットから細長い既にいくつか噛んで空っぽになりそうガムの紙ケースを出し、一枚ガムを歯で噛み取り出して口に含ませた。クチャクチャと音を立てて軟らかくなったガムの塊を口で平たく潰したあと、舌を突き出して薄く伸ばし、息を吹き込む。その風船が割れると、ユージはその間を利用して考えたことを口から吐き出した。

 

「哀れだ。今はヒーローであれば子供もクソもなく戦争に参加することになっちまう。お前も本当は、こんな結末望んでいなかったんだろ? 哀れも哀れ。いずれにせよ、戦うことには変わりなかったろうに、お前はそのことまで考えることなく今ここにいるわけだ。夢見すぎたバカだろお前は……」

 

 再びガムをクチャクチャとさせるユージは、前を注意しながらバックミラーに写るリョータをチラリと見つめる。完全に背もたれへ寄りかかっていた。はぁ、とため息をつき、上を向いたまま深呼吸をしている。そして、ユージが写っているであろうバックミラーを見ることなどなく、そのまま、

 

「そうか」

 

 納得するように何度も頷いた。

 

(こいつは、相当まいってるな……)

 

 誤りで済む事ではないこと、ユージにもわかっていた。しかし、彼らヒーローに過去を遡る力はない。そこが痛いところだ。なんでもできる者がヒーローではない。その格言に辿り着いた時、全ては遅すぎたのだ。

 

 

 

 

 

 しばらく黙ったままバンを走らせること数分。狭くも広くもない道路で止まった。道路といっても、もう荒れ果ててアスファルトが剥げている箇所が目立つ。リョータとユージはバンから下りると、それぞれ辺りを見回した。リョータは軽く場所を把握すると、ショットガンの点検をした。汚れや傷からして何度も使い込まれているものらしい。弾詰まりを起こさないようにしっかりと装填されていることを確認する。

 

「そういえばさぁ……」

 

「ん?」

 

「ユージは何も準備していない見たいですけど大丈夫なのか?」

 

「……リョータ、何を言っているんだ?」

 

 何も用意をしないユージは、キョトンと首を傾げる。

 

「俺は後衛でバックアップ。そう言ったばかりだろう? お前はそのショットガンを使って、ここら辺一帯に潜伏している標的を各個撃破する担当だ」

 

 つまり、自ら敵に突っ込んでショットガンを片手に複数人相手にしろということだ。神奈川での下っ端扱いはいつもこんなものである。弱き者が先に殺られるように仕向けられているのだ。ユージは睨む。下目使いを使って急かすような悪い目つきだ。

 

「わかったよ……」

 

 渋々武器を握り締めて前に進みながらリョータは、バッグを肩に掛ける。

 

「そうだ。ちょっとまて……」

 

「チッ……なんスか」

 

「思えば、お前の単独は初めてだったな」

 

「はぁ?」

 

 急に、しかも思い出したようにユージは言ったが、確かにこれがリョータの初めて迎える単独襲撃作戦だった。また長い忠告か。辺りの静やかな演出がリョータにそれを感じさせる。しかし、声が飛んでくることはなかった。ユージが近づいてくる。そうかと思わさせられた。耳元でたこができるほどの重要な話か。

 

 

 トン。

 

 

「……っ!」

 

「安心しろ。死なないようにバックアップするつもりだ。相手は俺たちと同じだ。油断するなよ?」

 

 セカイが止まったように見えた。しかし、その時リョータは確かに黄色の髪と黄色のマフラーが特徴であるユージに肩を叩かれていた。仄かに感じる手の温もり。自分のように熱すぎることもなく、はたまた外の風より冷たくもない。ちょうどいい、人が持つ独特な暖かさだ。

 

「っ、くっだらねぇ!」

 

「ははは……そういうな。お前が神奈川の上下関係を気にくわないのはよく知っている。だからこそだ。――俺を信頼しろ。どんな攻撃も防いでやる。それが俺にいまできる『古くからあるしきたりの緩和』だ。違うか?」

 

 ユージの一言はごもっともだ。だが、いつも理屈は並べたように聞こえてしまう。決して迷惑ではないはずなのだが。リョータにとってその言葉はいらだちしか起こさなかった。

 

「俺はお前ら熟練者のバカ賢い奴の理想なんてわかんねぇよ!」

 

 リョータはその苦しい現場から逃げるよう道路を走った。

 

「おいっ……!」

 

 その時、それ以上の心は開くことがないことをユージは悟る。

 

(全く……よくあんなコミュ障ぎりぎりの奴が神奈川に入れたもんだ)

 

 ああは言われたものの、ユージとリョータの力の差はほとんどない。神奈川は、千葉や埼玉のように素質がある奴らばかりを絞り、使えないクズを見捨てたりはしない。それどころか、ヒーローを自ら作り出す技術も勢力にない。彼らは捨てられたフリーの集まりなのだ。そう、だからこそ戦闘を苦手としているので、このような潜伏兵を一掃するゲリラ戦を何度もしている。

 今の神奈川には、それしか生き残る術がなかった。

 

 




ここまで書きましたが、次は視点が変わります。
戦闘はその視点を終えてからですハイ。
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