数年後。時は第一次ヒーロー大戦。埼玉と千葉の2勢力が東京を掻い潜り、毎日のように激しい戦闘が行われていた。そんな中で、密かに仕事をこなす者達がいる。彼らの仕事は一般人狩り。この当時はヒーロー達が大量に東京を闊歩した時期だ。ヒーローの身体は超機密最優先事項。それゆえに関連がない一般人は一目見るだけで抹殺される。
そして、ユージはその一般人狩りを仕事とするヒーロー。彼はあれから何千人という人間を殺した。まるで――あの時の心がどこかへ消えていってしまったように。
※
アイオリアは目を開いたまま驚き、瞳を揺らす。試しに首を動かしてみると、悪かった天気が晴天になり、大量の日差しが眩しいほどに降り注いでいた。手は震えて止まらない。首を腕で拘束されているからだろうか。アイオリアは思慮する。絞め殺されるんだ。あれほど挑発したからにはその末路がわかっていた。この男に殺される。
私は彼に何を言ったのだろう。この気に及んで言えないが、全く覚えていない。さらに言うならば、あれほど暴言を吐くほどの余裕と溢れて止められないほどにあった力も、今は落ち着いている。
そして、沈黙は破られた。
「そうだ……これでいい」
血反吐を吐くと同時に、腹から胸に掛けて膨れ広がる赤い体液。まるでそれは、アイオリアを殺そうとして、反射的にアイオリアが出した光の槍がそれを阻んだような光景。ドスリと刺され、走る勢いを殺されながらもユージはしっかりとアイオリアを腕の中に収めていた。アイオリアはわかっていた。このような光景になってしまった理由を。
「なんで……わざと当たりにいったのよ」
返事は返ってこなかった。暫時、ユージは顔を上げると希望に霞んだ目を精一杯開いて答えた。
「――怖かったからだ」
ゴホッ、と咳き込みながら続ける。
「俺は、昔からヒーローというものに憧れていた。ジャンクDNAを身体に取り込み、ヒーローになろうと思ったのもそれが理由だった……だが、現実は違った。現実的なヒーローとは、≪誰かを殺し、誰かが悲しむ中で誰かが称えられる≫。俺はその答えにたどり着いたときから、自分という存在が恐怖の対象でしかなかった。そしていつしか、自分を殺したいという衝動に駆り立てられるようになった……」
「……」
「その結果がこれさ……」
アイオリアの血の気が引いていく。突き刺さった光の槍が同時に消えていった。いつもの緑の髪へと変化をもたらし、元の姿に戻った。なぜだろう、マユミは、涙が溢れて止まらない。
「私も……怖かったんです。仲間に嫌われること、今の自分、全部怖かった。だけど、誰にも言えなくて、ずっと抱え込んで。私って、馬鹿ですよね? だからって他人を殺そうだなんて。私は……私は……なんて恐ろしいことを」
千葉の都市。四分の一が吹き飛び、今は光と闇の爆破や、重力で出来上がったクレーターだけが各箇所に広がっている。まるで東京を襲ったあの時と同じ光景を見ているように、ユージは感じた。あの罪がある者もない者も襲った震災。人々は神が下した試練とでも当時呼んでいたような気がした。その生き残りを抹殺するのが彼の仕事だったが、今は違う。彼は助けることができたのだ。彼の力で死ぬはずだった人を、たった一人だが助けることができた。
「あ゛あぁ~っ!! っあ゛あ~!!」
(……泣いて、いるのか)
前にも女性を泣かせてしまったことがあったような気がする。だが、もう過ぎてしまったことだ。ユージはそんな事を頭に過ぎりながら立ち上がり、目の前を向く。
「感動ですね~♪」
ニコニコと童顔を微笑ませながら、えみるは瞬間的に血相を変えた。
「まさか、逃げられるなんて思ってませんよねぇ? オイッ!」
「リョータは生きてる。いけ……お前の大切な人を連れて」
「っ! で、でもっ……ユージさんが」
「いけぇっ!!」
叫びは、それだけの覚悟と理解せざるを得ない。逃げるしかなかった。能力切れで鈍い身体を無理やり動かし、リョータのところまで近づく。
「チッ、逃がさないですよっ!」
そこに容赦ないえみるの発した光と闇の攻撃が襲う。
ドンッ。あっけなく命中して煙を上げた。すると、煙からミサイルのように一人が飛び出す。
「っ何……!」
軽快にジャンプし、煙を切るようにして一人のソリッダーの姿が映った。彼はマユミとリョータを担ぎ上げて去っていく。その一瞬で、かなり距離を置かれてしまった。もう光の攻撃は届かない。
「残念だったな……」
「くっ……まぁ、いいわ。どうせすぐに捕まえてあげるし。それよりもいいのかしら? 一人になっちゃって」
「愚問だな、俺は元々リョータを助けるのが目的だ。それが成就しただけで満足だ」
「ふ~ん……本当に満足なんですねぇ。では、最後に言いたいこととかないですか? どうせ死ぬんですから、言いたいこと、なんでも聞いてあげますよ?」
「言いたいこと、か」
思い浮かべると、あった。この世の別れにふさわしい一言が一つ。
マユミ、戻ってよかった。
あれ?
前に後書きが書いてない時がありましたね。
ちょっと疲れていたのかもしれません。
すみませんでした。
では、また次の更新をお楽しみに。