更新がおそくなりましたね。
少し多めに更新ですのでゆっくり見ていってください。
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第一次ヒーロー大戦の最盛期。黒澤大悟とユージは戦場とはまた違う風景の場所を歩いていた。そこは少ない建物の散乱した瓦礫と土砂。ただ被災の傷跡が残る文京区だ。文京区といえば、紅葉やきれいな水、山などが見所の内だが、少し前にはそんなきれいな自然は広がっていなかった。人口の増加問題などでニュータウン開発が進行し、山一つが住宅団地と化していたのだ。しかし、もちろん、被災の影響で今は散乱した住宅団地のほとんどが壊れて何も残していない。
「ここもずいぶん変わってしまったな」
大悟が独り言のように言葉を投げる。
「まぁ、この有り様だ。恐らく生き残っている者なんていないだろう」
大悟の予想は全く持ってその通りとしか言い様がなかった。ユージは思う。これでいいのだ。このまま誰も出てこなければ死なずに済む。二人の仕事は被災地の生き残りを抹殺すること。ユージはおかしくなりそうだった。このとき初めて自分の憧れに恐怖を抱くようになった。ヒーローとは、誰かを殺し称えられ、誰かが悲しむのを見てみぬフリをする者。悪をただちに潰すというのは現実でのヒーローの重要な要素じゃない。現実的なヒーローで重要なのはどの人間を始末するべきかせざるべきかの判断。
――そんなズレた考えは、ヒーローのやることじゃない。
ヒーローは、絶対の正義だ。ユージの持論だが、ヒーローとは真っ直ぐで、善悪の判断がハッキリしていて、何より人間を殺すことなんてしない。だからこそ、この罪をひたすら積み重ねていく自分が嫌で仕方なかった。歩きながらそれでもターゲットを探して辺りを見回すが、どうやら誰もいないようだ。
「よし、ユージ。今日はここまでにするぞ」
(やっと、終わった……)
と、一息ついた瞬間。――ガラッ。
瓦礫が異様な音を立てる。風なんてなかった。自然に崩れたのなら砂煙の一つ上がってもいいはずだ。その状況から今の音は不自然。大悟の目つきが鋭くなる。
「そこの瓦礫からか」
察して早々、瓦礫を持ち上げる大悟。だが、誰もいない。
「……気のせいか」
「ッ! 大悟、頭上だ」
小柄な肉体が直射日光を背に何かを振りかぶって大悟を殴りに掛かった。大悟は、すかさず振り向いてそのデコボコとした形状を受け止める。ただの金属バッドだ。
「ふん!」
大悟は容赦なく右足の蹴りを浴びせる。鮮やかに空を切った。瓦礫に身体をぶつけながらその小さな身体は沈み込む。
「なっ……」
ユージは目を見開いて驚く。不意打ちを仕掛けた小さな身体の正体は、まだ十歳にも満たない子ども。それも赤く染まった髪の毛と服装からして、この子は――ジャンクDNAを身に宿したヒーローだ。しかし、なぜこんなところにいる? 子どものヒーローは確かに珍しいが、それ以前に彼がなぜここにいる。同じヒーロー同士なら千葉か埼玉のどちらかの勢力にいるはずだ。
「なるほどな……」
事情を知るかのように大悟は頷く。
「そいつは追い剥ぎだ。今みたいに不意打ちをかまして人やヒーローから所持物品を奪っているふとどき者さ。恐らく、俺達の持つ携帯食料を嗅ぎつけてきたんだろう。全く……ヒーローが悪行を起こしているとは、シュールというか、戦時中らしいというか」
大悟は近づく。大悟は少年に手を掛ける。ドクリと心臓の鼓動がその手刀で少年の身体を貫こうとする時間を遅く感じさせた。また、尊い命が犠牲になる。その生命が燃え尽きるまで、ユージは目を離すことができなかった。背ければ自分のやっていることに対しての反論を述べることになってしまう。決して誰もユージを責めないだろう。しかし、自信が許せなかった。『何を今更……』。
――今まで殺した命はどうなる?
間違いに気づいたからといって、掌を返していいわけがない。人間を殺した前科がある以上、ユージには何も口出しすることができないのだ。
迫る。迫る。大悟の手刀が少年の腹に。
「ちくしょぉ……」
「ッ!」
呻くような声に大悟の手が止まった。
「まだ意識があったか……」
そう大悟が呟くと、金属バッドを持つ手を震えさせながら少年の言葉は最後になろうとしていた。
「オレは……嫌だ。死にたくねぇ。死にたくねぇよぉ……」
「戯言を……悪行を犯した罰だ。責めて天国へいけるように、祈れ」
「――ま、待ってくれ!」
咄嗟にユージは声を出す。
「よく考えろ、こいつはヒーローだ。俺達の
大悟は鋭い目つきをユージに向ける。そして、答えた。
「ほう? では、人としてもヒーローとしても風上に置けない追い剥ぎヒーローを、お前はこの俺に目を瞑れと?」
大悟に罪人を逃す目はない。彼と出会った時が人生の審判。
「確かに、追い剥ぎは許すことができない行いだ。だが、この少年にだって少年なりの物の価値観がある。俺たちにとっては罪と表現してもいい事でも、彼にとってそれは生きるために必要だからその行為にまで達したんだ。だが、俺たちはどうだ? 何の躊躇いもなく人を殺して何も感じることはない。俺たちは……ヒーローとして必要のない人殺しを趣味の如くやってきた。まるで生き甲斐のようにな。だが、俺たちの生きる甲斐は本当に人の命を狩り取ることなのか? 違う。最初から生き甲斐なんて俺たちにはない。俺たちもこの小さなヒーローのように、自分を守るためにジャンクDNAをこの身に取り込んだんだ!」
大悟は黙り込む。ユージはその時間が恐ろしく感じた。話に辻褄の合わないものはないはずだ。少年はずっと胸倉を捕まれたまま震えている。ついに金属バッドがカチカチと震える手から落ちると、同時に掴んでいた胸倉を急に離した。
「なるほど、お前の言い分は良くわかった……」
冷酷に、ただ涼しげな怒りを露わにする大悟は、続けざまに言い放つ。
「ならば、こいつはお前に任せる。殺すも生かすも自由にしろ。その代わり、もう二度と帰ってくるな。もし、帰って来たならば、お前も罪人に加担したとして殺す」
背を向けてユージをその場に放置する大悟は、少し自分の容姿を整えるような仕草をして去っていった。これでここには二人ぼっち。少年は呆然とするユージに声を掛ける。
「いいのか、お兄さん? あの黒くて怖い奴、お兄さんを置いて行っちゃったぜ?」
「……いいや、置いて行ったのではない。見逃してくれたのさ、俺はあいつと長い付き合いだからわかる」
これで、もう後が引けなくなった。仕事から手を引いたは良いものの、思ったより清々しい気分にはならなかった。もう大悟と会うことができなくなったからだろうか。そんなふうにユージは思う。
「それよりお兄さん」
「なんだ?」
少年は二カッと歯を見せる。
「――ありがとな」
「…………そう、か」
不思議だった。なぜかあの公園での出来事を思い浮かべてしまう。その時聞き忘れた言葉が、今返ってきたように思えた。彼の自意識に過ぎないが、彼はこの少年との出会いで、やっと自分の変えることができたと確信した。本当かどうかはわからない。だが、確実に言えることがある。ユージはやっと数年待ち続けた『ありがとう』をその耳にちゃんと聞き届いていた。
その後、少年は自分をリョータと名乗った。そして、第一次ヒーロー大戦は神奈川の戦力加入で東京永年戦争へと変更され、また、その神奈川の端っこでリョータと共に活躍するユージの姿は、とても生き生きとした表情をしていた。
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少し、書いていてウルッと来てしまいました。
ごめんなさい。そして、感動要因がわからない人には本当に申し訳ありません。
さて、後1~2話で完結したいと思います。
先にお礼を述べさせていただきます。ここまで読んでいただいた皆様、本当にありがとうございました。
それでは、残り少ない更新をどうぞゆっくり待っていてください。