千葉にいる少女の葛藤です。
スイスイネタが浮かんだのと、ちょうどキリが良かったので入れてみました。
突然浮かんだ話ではなく元々どこかに入れる予定でしたので、そんな気まぐれに投稿したわけではないですよ?
ではどうぞ!
病院の一室。ベットこそ質素な仕上がりだが、美味しい食事と衛生的な設備が売りである。荒廃前は当たり前だったが、この当時では珍しいものである。ここは千葉管理下で設けられている病院。数多くの怪我人が収容される中、一人の少女が、この病室で寝込んでいた。
「ヤッホー♪ マユミ、怪我の調子を見に来た優しい優しいアヤちゃんだよ!」
「アヤ、来てくれたんだ!」
白いサイドテールが特徴的なアヤは、マユミという緑髪の少女に元気印の効いた挨拶で笑顔をふるまく。マユミと彼女はヒーロー適正試験からの仲だ。
「ほら、お見舞いにレーション買ってきたよ」
「わぁ、ありがとうアヤ」
アヤに負けずと整った笑顔を見せる。しかし、アヤはなぜか不機嫌そうな表情をした。
「えっ……なんか悪いこと言っちゃった?」
「うーん、マユミって欲がないなぁと思ってさ~。だってレーションよレーション。味なんかいつも同じで飽きない? 私なら飽きるなぁ」
携帯食料であるレーションは、軟らかいチョコレートビスケットのようなものだ。運ぶ際にあまり枠を取らないので数多くのヒーローが必ず携帯している。しかし、その味は一種類のみ。確かに飽きてしまうのが現時点最大の難点というところだ。マユミは推理したようにゆっくりと言い出す。
「じゃあ、私のためにもっと良い物持って来てくれたの?」
「そうだよ? へへへっ……じゃーん! スカッシャサンドウエハース!」
「ええっ!? それって……噂のウエハースチョコじゃない。どうしたの?」
千葉名産のチョコレートである。周りを覆うカカオチョコをカプリとかじれば、その固い形態とうって変わって歯ざわりは軟らかく、中はサクッとしていて食感も楽しめる一品だ。何でも、中のチョコには砂のように散りばめた細かいウエハースが入っていて、その製法がこのチョコの人気に火をつけたらしい。今では千葉で知らない者はいない。
「すぐになくなっちゃう商品だから、朝早くから並んでやっと手に入れたの! すっごい苦労したんだからっ」
と、アヤは両手を大きく広げて苦労さを物理的に表現する。腕で円を描いても彼女の身体はその円内でも三割程度しかない。それほどちっちゃいながら千葉のことは何でも知っている。最近の話に疎いマユミにとって、アヤの存在はとても大きかった。
「そんなに苦労したんだ……ありがとう。私みたいな少しくらいの怪我でダウンしちゃう人にそこまでしてくれるなんて、アヤぐらいかな?」
「んふふ~♪ そうかもね。でも、私以外も優しい人は多いっ……」
「そんなわけない」
マユミは冷たくハッキリと、アヤの台詞を途絶するように言った。
※
『なぁに? もう終わりなの? 優等生ってぇ、か弱いのねぇ……』
『ほらほら、立ちなよ。なんなら立ちあがれるようにしてあげようかぁ?』
胸倉を掴まれたマユミは、声も出ずに理不尽な如く殴られ続ける。昨日もこんな感じだ。ヒーローに憧れてなったはいいものの、このセカイで弱い奴は悲惨な目に遭う。世の鉄則。マユミはそれを受け入れたくなかった。ヒーローはこんな弱いものいじめなんてする存在じゃない。強く意思を持って成った初めての力、これをどう扱うべきかを知っている。けれども、当時の彼女は能力を二年経っても未だに使えずにいた。
『あーあ。せっかくの顔が台無しじゃん』
『でもさ、あやめ。こいつ元から不細工だから大丈夫だよ』
『あ、そっか。あははははははは!!』
そう、あの時はもうだめかと思った。もう一撃喰らったら、精神の居場所がなくなってしまうような、そんな気持ちだった。しかし、笑う二人の間から光が差す。その子は、ずっと私を見て蔑んだ目を続けていたが、耐えられなくなったのだ。
『もうやめてよ!』
反論の言葉を発した。その子は、私の前でボコボコになった。
『はははっ、あ~あ。あたし達にたてつくなんて愚かなことしちゃってさ』
『当然の報いよね。あっはははははははは!!』
いじめっ子の二人は倒れた奴を放置してどこかへ行ってしまった。
『どうして……』
マユミはその子に向かって問うと、ゼィゼィと息を荒げる口を緩ませる。
『だって――あなたは悪く……ないもん。アヤね? 正義の味方になりたかったから、強そうなあの二人いたの。でもね。暴力だけが正義じゃないって……今知ったの。あなたが気づかせてくれた。そしたら、勝手に二人に挑んでいたの。えへへ』
その言葉は、マユミの精神を地獄から蜘蛛の糸を垂らして引っ張ってくれた。
※
「……」
マユミは、千葉から裏切ることを考えている。一人だけでではない。できればアヤと一緒に。裏切りの話は、何度かアヤにしたことがある。しかし、『裏切ってまで今の状況を変えたりはしたくない』と、あっさり否定されてしまった。
「マユミ……」
アヤが優しく声を掛け、手で頭を撫でる。
「きっと大丈夫だよマユミ。みんなマユミの実力をわかってくれる時がくるよ。ね?」
前文の通り、アヤは私より背が小さい。小さな手、小さい身体で、マユミを精一杯包んでくれている。その心意気を認めることもできた。実際のところ、今のマユミが嫌悪されているのは、実力がないせいだ。そんな問題、手柄を立ててしまえばみんな認めてくれる。例えば――埼玉、神奈川の重要な機密情報を聞き出すとか。
「さっ、マユミ。あんまり握り締めてると溶けちゃうよ?」
「えっ? あ……あぁぁ!」
親友からもらった物を大切にしすぎたチョコは、その暖かさでグニャっと曲がっていた。
「う、うぅぅ……」
「あははは……はい! 私のと半分こしよ?」
「うん……」
マユミはチョコを頬張ると、甘くてサクサクした食感が口いっぱいに広がった。今のままで良いのかもしれない。アヤの存在が私にとっての希望だから――。そのあと、マユミとアヤはどちらかが飽きるまでお喋りを楽しんだ。チョコの甘みと同時に、マユミの甘いひとときが胸を満足感でいっぱいにしてくれた。
ここは重要な起点ですね。
ちなみにスカッシュサンドウエハースは、
・原作に登場するわけもない
・作者が単にウエハースチョコが好きなだけ
・リアルにも存在しない
と三拍子そろったどうでもいい好き勝手に設定した食べ物です。
甘い物ならなんでもよかったのですが、やっぱりk(好物がバレるため自主規制)ですよね。美味しいです。
原作にはチョコレートといえば、手作りチョコしかなくてがっかり。なんでk(二度目自主規制)はないのか~。
そんなこんなで六話が終了です。
原作を知らない方も読んでいただいているのかな? と思いながら、心からのお礼を申し上げます。
そして、またもしこの更新を見ていただけるなら本当に嬉しいです。また、原作をここから好きになってくれた~なんて聞くと、もっと嬉しいです。
では、次の更新で!