ちょっと遅くなった気がしますが、意外と速い?
更新は楽しいですが、かなり眠い時間にやっているので少し効率が悪いです。
「失礼します。お薬を届けにきたよ」
「あ、エリナ先輩。お疲れ様です」
アヤが帰った後、静まり返った部屋に女性の高い声が掛けられる。エリナはマユミの上司であり、えみるの黄色い参謀と呼ばれている。ぺこりと頭を下げて挨拶を返したマユミは、その銀色のトレイで運ばれてきたカプセルの薬粒を2つ摘むと、ちょうど枕横の棚の上にある水の入ったポットからコップに水を注ぐ。そして、2つの薬粒を口に放り込み、水を含んでゴクリと飲み込んだ。エリナはその一部始終をまじまじと見つめる。気になったマユミは、
「どうかされました?」
「……いえ、気分はどうかしら?」
「はい、もうバッチリですよ♪ 体調も良いし、すぐにでも復帰できます!」
マユミは精一杯笑顔を見せる。そういう嘘をついた。まだ、とは言えない。千葉は一度使えないと判断したヒーローをことごとく切り捨てる。勢力を追い出されたくなかったのだ。アヤが千葉に居るから。
エリナは、とても快調そうなマユミの姿を見て、ホッとしたように言った。
「良かった。アヤが心配していたわよ? 元気がないって」
「……そうですか」
やっぱりアヤにバレていた。マユミは言葉を続ける。
「私は元気~……ですけど、確かアヤは違う部隊の所属でしたよね? エリナ先輩ってアヤと知り合いでしたっけ?」
「えぇ、今も昔もここでよく会っていたから……」
目を背けながら答えるエリナ。やや言葉に違和感を感じたが、黙したような切り方で一旦会話は終了した。
窓からマユミは景色を見渡す。ほとんど変わってしまった。かつてのビルよりもっと大きなビルが建ち並び、暗い影を作っている。この辺りには、建設ビルが集中している。また、千葉の中でも本部に近い場所で、元は県庁のあった千葉市付近だ。本部には兵が集められている。そのため、兵が密集しているのだ。まさか独りで突っ込んでくるような馬鹿はいない。
「変わっちゃいましたねぇ……」
マユミは昔を懐かしむとともに、虚しさを感じながら哀傷する。
「えぇ……何でも、清水公園辺りも開発が進んでいるらしいわ」
「清水公園!?」
マユミは瞳を揺らしながら声を上げた。おとなしそうな顔を真っ赤に染めて。
「どうかしたの? ずいぶんと驚いているわね」
「いえ……ちょっと過去に思い出があって」
清水公園は、現在では考えられない子供のために作られた場所だ。年中遊びに来る子供で賑わい、春になれば桜の花を見に人だかりができる。唯一残っていた公園だった。これはマユミが後から聞いた話だが、あれほど子供と遊び場で溢れていた清水公園の面影は進んだ開発のせいでほとんどなくなってしまったらしい。
「昔、私がまだ小さかった頃、ちょうどその公園に足を運んだんです。それで早速アスレチックに行ったのですが、当時から身体の弱かった私は運動なんか一つもやったことがなかったのでバランスを崩して池に転落してしまったんです」
「それで……?」
「はい、小さかった私は、池にはまって溺れてしまいました。その時、誰だかは忘れてしまったのですが、私を助けてくれたんです」
それが彼女の思い出。マユミはいつになく熱弁するように続けた。
「そして、いつしかその人が私の憧れになりました。ヒーローになろうと思ったのはその事件が原因なんですよ?」
「なるほどねぇあなたの過去にそんなことがあったの……それで、その助けてくれた人の行方は? 探してみたんじゃないの?」
「それはいっぱい探しましたよ? でも、住所も電話も通じないし、家はもう開発で取り壊されているし、諦めました……」
俯くマユミの姿に、エリナは何も言うことができなかった。ぎゅっと両手を絡めるマユミ。その裏心には、千葉への怒りを感じているに違いない。しかし、怒りは爆発せずに萎んでしまう。もし、今ここで怒ったとしよう。性質の悪い千葉のヒーローが立ち聞きしていたらどうなる。すぐさま指導者のところに突き出され、その場で直々のギロチンが待っている。エリナはその固まった両手を優しく解く。そして、覆い被せるように自分の両手を添えた。
今はいいだろう。しかし、彼女の負はこんなものではないはずだ。ヒーローという意味を履き違える千葉への怒り。次々と開発を進めていくことで失われていく情景への痛み。性質の悪いヒーローを野放しにしたことで生まれた、親しい者以外への憎しみ。
一触即発。触れてしまえばそれだけ彼女の惨い最後見ることになる。少なくとも、えみるの元でエリナ自身の身が働いている限りずっとその機会があるのだ。エリナはマユミのことを思いながら、自分の身分が嫌になった。信頼され、ここまで千葉に従ってきたが、やはり千葉のやり方は間違っているのだ。しかし、信頼を裏切るということは、相応に処刑方法も残虐で死んでもなお残るのではないかとおもうようなものになる。
ここまで考えを運ぶと、エリナはやはり自分が大切なんだと思った。
「いつか、会ってみたいですけど……やっぱり戦争に巻き込まれて、死んじゃったのでしょうか?」
「そんなことない。きっとどこかで生きている。見つかるわよ。今は完全にノーヒントかもしれないけど、きっとそう……」
マユミはエリナに抱きしめられた。暖かい人間の温もりを感じる。同時に睡魔が襲ってきた。
「すみません……エリナ…………先輩」
「いいのよ。ゆっくり探しましょ? あなたの《憧れ》を、ね」
後はゆっくりとマユミの視界からエリナが消えていくだけだった。真っ暗になる直前でエリナの声がまた聞こえる。その声にマユミはたくさんの癒しをもらった気がした。
「おやすみマユミ――」
マユミを助けた人……
一体誰?
もうすぐマユミとリョータが対面します!
われながらいい調子で書けているので、これを大切にしたいですね。
それではまたの更新で!