大晦日の夜、友人との飲み会の帰りに、傷だらけの少女を拾った青年「エース」。
それは、夢の中で見た、傷つき戦い続けた少女と瓜二つだった…。
彼女を放っておけなかったエースは、友人の住居に彼女を匿うことに…。
第一話 兆し
「人は神ではない。誤りをする所に人間味がある」
─山本五十六─
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仮初の平穏を謳歌する、世界でも有数の治安維持国家「日本」。
世界に様々な暴動、虐殺、テロが相次ぐ中、ただ一国「不戦(たたかわず)」を貫いてきた。
──なぜか?
それは、かつての大戦の記憶が、人々の心に焼き付いているため。
人は戦うことで自身を、仲間を、家族を傷つける…だから手を繋ぐために、それを放棄しなければならない。
そんな絵空事を本気で考え、しかしてその思いは「七十年」の時を経た今でも続いている。
平和の思いは誓いとなり、激しく変動する時代でも、国民のその思いは変わらない。
──だが、ここに。
その思いを無残に終わらせんとする白き姫が、太平洋の真ん中…海の中心に「立っていた」。
『………』
彼女は何も発さず水平線の彼方を眺める、しばらくの後、音もなく海へ消えていった。
──これは「前兆」
世界が真の意味で「平和」とは何かを問われる…嵐の前の静けさだった。
・・・・・
──所変わり、ここはとあるマンション。
その最上階の一画、扉の前でインターフォンを押す青年の姿があった。
──ピンポーン
「…おぉーい! いないのか?」
青年の名、もといコードネームは「エース」
小学校時代に使っていた、他愛のない発想から生まれたあだ名をそのまま使っている。
…もちろん友人の前でのみ、だが。
──ガチャ
「はーい! あ、エースさん!」
扉を開けたのは、容姿端麗で慎ましやかそうな女性。しかし美しい顔とは裏腹に、服装は何故かサイズの合わない男性用のシャツとズボンを履いている。
「よう! 榛名! …よかった、もう大丈夫そうだな!」
「えへへ…でもまだ記憶は戻らないんです…」
「…そうか」
「すみません…私、ご迷惑ばかりかけて…」
「何言ってんだよ! 榛名が元気そうなら、それだけでいいんだからよ!」
「エースさん…」
「大丈夫さ、な! 榛名!」
「…はい! 榛名は大丈夫です!!」
エースは、彼女…「榛名」の言葉を聞くと朗らかに笑い、榛名もそれにつられて笑った。
・・・・・
──大晦日の夜、友人たちとの語らいの帰り道、ひょんなことから彼女を”拾った”。
友人の家に榛名を匿うことにしたエースは、目を覚ました彼女から事情を聴こうとしたが…。
『…記憶がない?』
『はい、私は”榛名”…という名前であることしか』
『ぶふぉ!?』
『な、なんだよフォックス?』
フォックスと呼ばれた、金髪やいかにもな派手な服装が無ければ、小学生に見間違えられかねない男は突然咳き込む。
『えぇ、お前が言ってたこと…その子が榛名っていうの? …当たってんじゃんって?』
『え? …あぁ』
エースは当たり前すぎて、すっかり失念していたという風な顔を見せる。
彼はどういうわけか、以前見た夢で榛名を”観た”気がするというのだ。それで彼女の名前を知り、更には本当に彼女に出会うとは…最早運命の相手、としか言えない状況である。
それも踏まえてフォックスは、榛名に対して出来る限りの質問をする。
『なぁ榛名ちゃん? こいつに会ったことは?』
『いや覚えてるわけないだろ!? 記憶がないってんだから!』
『なんとなくでいいんだよ! そしたら思い出すかもだろ?』
エースとしては病み上がりに等しい彼女には、あまり性急なことを聞くべきではないのでは? と考えるが…このままにしておくわけにもいかない。フォックスの意見も尤もだった。しかし…?
『え、えぇと…う~ん』
榛名は少し考え込むと、すみませんと謝る。
『…まあ、しゃーないわな。でエース、この子どうすんのよ?』
『ここに住まわすってのはナシ?』
『ばっか! は?! 記憶が戻るまでか??』
『嫌ってんなら、俺にも考えがあるぞ』
『えぇ………だあ! わーったよ!!』
『ふふん、話が早い。流石”頭脳担当”』
頭脳担当とは、彼らが小学生時代に結成した「レンジャーズ」という部隊(もちろん遊びで)の役割。
エースはリーダー担当、もう一人…「アトラス」は力持ち担当、といった具合。
『けぇ! オレは昔から無駄なことしたくないの!』
『へいへい…でどう? 榛名はそれでいい?』
『え、えと…ご迷惑では?』
『そんなこと言ったらぁ、夜の街にほっぽり出しちゃうぞ~う?』
『お前そんなことしたら絶交だかんな!?』
『お優しいエース様がそんなことするはずないじゃないですかぁ?』
『するわ!? 流石にっ!』
『…ふふっ』
二人の軽快な会話に、榛名が初めて見せた笑顔。
その様子に、エースはホッと胸を撫で下ろすのであった。
『──では、お願いします』
不束者ですが、と言葉を付け加え榛名は誠意あるお辞儀をして見せた。
・・・・・
「フォックスさん! エースさんが来ましたよ!」
榛名が嬉しそうにそう呼びかけるも、フォックスは目の前のPCのスクリーンに釘付けになりながら何かの作業をしていた。
「…おーう」
ふと気づき、タイピングの手を止め振り向くフォックス。
どこか疲れたような表情でエースを見つめる。目元には隈ができ、何時間もPCに向き合っていることが分かった。
「お前、何してんの?」
「いつもの」
「いや分かるけど、榛名が分かんねえだろ…」
「???」
「あぁ…あれぇだよぉ……情報収集ぅ的ぃなあ」
「…大丈夫かよ?」
「いや思いのほか時間取られてさあ…でもま、元は取れたからいいけど?」
ニヤリと不敵に笑うフォックス。エースは「こういう時の奴の言葉は嫌な予感しかしない」と言いたげに怪訝な顔もちになった。
──程なくしてフォックスは、エースと榛名、そしてアトラスを加えた4人でテーブルを囲み、話し合う形をとった。
「…で?話って?(ま、解ってるけど?)」
「おうよ!前に話した”ビジネス”の詳しい説明をだなぁ?」
「…びじねす?」
「ああ、榛名はいいんだよ気にしなくて!」
「んだなぁ」
「真面目に聞けよお前ら! …でだな。」
フォックスは自身のノートパソコンの画面を3人に見せる。
「…え??」
エースは素っ頓狂な声を出した。
それもそのはず、そこには──防衛省──と書かれたホームページ。
黒い背景の画面に謎の単語が整然と並べられている、異様な雰囲気がそこに在った。
「…これってもしかして」
「そ。国家機密情報、因みにこれはその”写し”な!」
「…はぁ」
思わず重い溜息が出るエース。
聞くと、フォックスは国家機密情報を得るため何重に張り巡らされたウォールを掻い潜り、秘密のデータベースサーバーから、この情報を取得したのだと言う。…普通は半信半疑だが、エースは彼のハッキング能力の高さを知っている。それでもここまでくると否定の一つも言いたくなるので、大げさに驚いてみせた。
「いやいや流石に冗談だろ!? お願いだから冗談だと言ってくれ…」
「んだなぁ」
「まあ聞けよ! …で、とりあえず一通り見ていってくれ」
そう促すフォックスに、渋々ではあるが言われるまま従う。
PCに映し出されたのは、カテゴリー別に分けられたページリンクが、短い単語で上からあいうえお順に並べられているものだった。…それらを一通り見ていくと、気になる言葉を見つける。
「”海の亡霊”…?」
「お、やっぱ気になる? …まあ見てみ?」
言われてエースは、そのワードをクリックする。
すると、表示されたのは、日記形式にまとめられた目を疑う信じがたい情報だった。
──その文面はこう記されていた。
・・・・・
──我々は、国境付近の哨戒中、奇妙な現象に出合った。
それは、夜でもないのに辺りが静寂と暗がりに包まれている…そう、空が「赤く」なっていた。
いや…空ではない海だ、海が赤くなりそして濁り腐った水の匂いが辺りに蔓延した。
何事かと思ったその時、機材がいきなり不調を訴えるように悲鳴を上げた…突然故障したのだ。
幸い動力に支障はなかったが、私はそれよりも目の前の「アレ」に目が止まった。
──人? 女性だ…女性が海に立っている……!
白づくめの彼女はこちらに気づくと、ニィと不気味に口角を歪ませた。
あの目は今でも忘れられない…あれは”脅威”だ!そう私に確信させた。
…法螺話だという者もいるだろう。だが私だけではなく、私の部下全員が目撃している。
あれが白昼夢ならどれだけよかったか…それほどに全身に鳥肌が立つ恐怖だった。
彼女の存在は公にはできない、だが、いずれにしても捨て置くわけにもいかない。
これを国家機密情報の一つとしてここに記す。…願わくば、この情報を信じてくれる大馬鹿者が現れることを祈って──
・・・・・
「……」
「この情報が確かなのかはまだ裏取れてねーけど、コイツがビジネスチャンスってことにゃ変わりねぇよな?」
一同が唖然としている中、フォックスはそんな空気をまるで読まない発言をする。
「ま、まてまて!ここは驚くというか…なんか言うことあるだろ!?」
「はあ? 何が??」
「フォックスさん…これ、本当のこと…ですか?」
榛名は真剣な面持ちで問いかける。対してフォックスは適当な態度で曖昧に回答する。
「んー? 何ともいえね。でもこんな馬鹿な話を書いて置いておくんだからさ、見たのは本当なんだろ? 多分」
「だ、だったら…」
エースの言い分を撥ね退けるように、フォックスは言葉を重ねた。
「俺だってこんなの最初から鵜呑みにゃしてねぇよ。でもよ、榛名ちゃんのこと考えたら、妙にしっくりくるっつうか?」
「どういうことだ?」
榛名と海の亡霊に何か関係があるのか? エースの疑問に自信ありげに回答するフォックス。
「良くあるだろ? 国が裏で何かを画策していて、その重要なキーマンが、どっからどう見ても普通の人間…この場合は榛名ちゃんな? そんでその計画が、この海の亡霊? をどうにかする作戦だとしたら…ってな」
「それは…テレビの見過ぎじゃないか?」
「おいおい、この世にはテレビより不可思議な事象なんて山ほどある。いろんなとこに「お邪魔」してる俺が言ってんだぜ?」
「お前なぁ…リアリストだと思ったら、そういうとこは信じてんのな」
「ケッ! バーカ。俺は信憑性のある情報なら宇宙人だって信じるぜ? 情報屋としてな!」
フォックスの根拠のない自信過剰はいつものことなので、エースは然程気にしてはいないが…ここで、榛名と出会った時の男たちを思い浮かべた。
もしも榛名の事が、この話に関係していることだとしたら…。
「あいつら、政府の…!?」
「おい、それこそ邪推だろ! …まだそう決まったわけじゃねぇだろ?」
フォックスは早計になりかけるエースを諫めた。そして…一呼吸置いて話を続けた。
「でだ、この国に何かが起ころうとしている…ってことはカクテーで、それを逆手にとるのよ!」
「…どうやって?」
こんな状況なのに、妙にイキイキしている狡猾な狐に、エースはもう何度目であろう不信感を募らせた。
「ヨーするに! こいつの詳細な情報とか、対策とかを提示してそれを交換条件に…」
「色々巻き上げようって?」
「おお!? そかあ、頭いいだなぁ?」
「……」
嫌な予感が的中し、顔をしかめながら結論を答えるエース。そんな狐の謀略を只々称賛するアトラス。そして険しい顔を崩さず、三人のやり取りを聞く榛名。
海の亡霊についての調査……あまり乗り気にはなれないエースだったが、もし榛名が海の亡霊となんらかの形で関わっているとしたら…この海の亡霊を調べていく内に、榛名の記憶の手掛かりが掴めるかも知れない…そう思い至る。
「(夢のこともあるしな…同じ海関連なら、何か分かるかも知れない)」
エースはそうやって(半ば無理矢理)あの日見た不思議な夢と結び付ける、無駄足だとしても動かないよりはマシだろう、と。
「分かった、その情報を集めるのを手伝えば良いんだな。…で? その情報は?」
「ふふふ…その辺は任せよ! オレが洗いざらいしてやっからよ! …ま、時間は欲しいけどん?」
「…はぁ、そうかよ」
「まぁお前も調べられるだけやっといてくれ。…でアトラス、「アレ」もとりあえず続けるよーに」
「んだ」
話がひと段落して束の間、フォックスとアトラスの「何やら意味深な会話」に、エースは反応する。
「いやまて、ホント待って!? 何するつもりだよ! お前とアトラスの組み合わせは洒落にならんから!!?」
「なんもしねぇよ? ねえアトラスくん??」
「………」
「そこは「んだなぁ」だろ!? やめろよ~一気に不安になるからっ!?」
「…っふふ」
そんな三人の、いつものやり取りを聞いて、榛名は元の柔らかな表情に戻っていった…。
「(…すまねぇな、エース。それでもお前なら…)」
その中で狐の胸中にあるのは、謀略か、それとも…?
・・・・・
──この四人が、いずれ来る大戦の中核になろうとは…この時はまだ、知る者は誰一人としていなかった。
〇昔はやんちゃでした。
榛名「あの…二人が組んだらどうなっちゃうんですか?」
エース「それ聞いちゃう?…実は小学校の時に…」
──小学校時代
「あっつ!?何だ!??水道水が熱湯になってる!?」
「いやああぁ!?ウォシュレットが勝手に!!」
「れ、冷房効きすぎだろう!?何度…げえー!マイナス3度ぉ!!??」
「た、大変だ!校舎のドアが閉め切られてる!?出られない!!」
しょた狐『わーはっは!この学校は我々がいただいたー!ぐみんどもよひれふせー!!』
しょたあと『んだなあ』
しょたえす『お前らナニやってんだあああああ!?』
榛名「それ全部アトラスさんが?」
エース「ああ…あいつ工学の才能半端ねえから、時々違う人間に感じる…。」
榛名「それは、”凄まじい”…ですね?」
アトラス「そうけ?」