艦隊これくしょん―七十年後の君へ―   作:謎のks

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 ○前回のあらすじ

 TW機関主席研究員「関 四郎」は、世界に混沌をもたらす為自身が造り上げた「化身」を、海の亡霊に滅ぼされた国に遣わせる。
 そんな化身を護衛しているとは露知らず、海上自衛隊より護衛艦「まいかぜ」が亡国に向けて海の上を横断していた…そこへ現れたのは「水上を滑る少女たち」。
 更に通信より謎の声が響く…これ以上進むならば、自分たちは貴方がたを止めなくてはならないと。
 まいかぜ艦長は遺憾ながらも目の前を遮る彼女たちに対し「強硬措置」を取る…海の上でぶつかる両者、通信から響く声は彼女たちを…。


 ── "艦娘"…と呼んだ。


 ※お伝え忘れ:榛名たちの格好は「無改装」時の衣装に準じます、ご了承下さい。



第十五話 艦娘(ひと)

「……ほほぉ?」

 

 興味深げにスクリーンを見つめる関四郎。

 彼は自身の偉大な計画の為、化身を忍ばせた護衛艦を亡国へと向かわせる…全てはそこから端を発するだろう戦争世界を創り上げること。

 しかし、それをよもや自分が見逃した彼女たちに防がれるとは…身体にフィットした武装は砲塔や機銃などが見える…一部は弓矢を構えていた(空母だろうか? 面白い発想だ。と嘲笑)。

 正に「生きた船」と化した彼女たち…しかしあのふざけたネーミングは頂けない。

 

「"艦娘"ねぇ〜? 悪くないデスが…お遊びも大概にしろよ? 餓鬼

 

 鋭く、低く唸るように…誰に言うでなく彼は呪詛を唱える。

 

「フム…計画変更、と」

 

 関四郎は懐から何かを取り出す。携帯型端末だ、画面を操作するとニヤリと嗤う。

 

「ンフフ…」

 

 ソファにただ座っていた春野首相は、呆然とスクリーンに映る光景を眺めていた。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「っく…まさかこれ程とは」

 

 まいかぜ艦長はいきなり現れた海の上を滑る彼女たち「艦娘」に威嚇射撃を敢行する。

 勿論当てるつもりは毛頭無い。少し砲撃の軌道をずらして、遠くの爆破音を聞けば、彼女たちも戦意を失い退散するだろうと踏んでいた。だが…?

 

「…見事に砲撃を避けている、しかも引く気は無いと言わんばかりに、我々の周りをぐるぐると…!」

 

 着弾地点は完璧だ、だがそこから一秒も間もなく移動している…例え本気で当てようとしても、彼女たちは悉く避け切ると断言出来る。それだけの俊敏性と機動性を兼ね備える…これが「艦娘」か。

 

「ネーミングのセンスはアレだが、如何せん侮れぬ…!」

 

 だが、彼女たちはこちらに仕掛ける気はないようだ。何か手に大砲のような装備を持ち、そこから火が吹く光景が見えたが、あちらも軌道を変えて撃っているようだ…このままではイタチごっこだ。

 

「ふむ…」

 

 何事かは解らないが、向こうも目的を持って動いているようだ…なら、それを聞いてからでも遅くないか? そう彼が思案していた…その時。

 

『ひいぃ! か、艦長ぉ!?』

 

 突然、通信越しにCICから悲鳴が響いて来る。

 

「どうした!」

『い、今外から物音が…! 奴らが侵入したんじゃ!?』

「何?! そんなことが…!?」

 

 その時、監視カメラのモニターを見た艦長は目を凝らした。そこには「こちら側(護衛艦)」から海に飛び出した二人の「子供」…ローブを着ているので性別は分からないが?

 

「あれか…!」

 

 艦長は全て理解した、直感から来るものだが、彼らが言おうとしていたことは「アレ」だと。

 そしてそれが正解であると言わんばかりに、海の上では艦娘と謎のローブの子供が対峙していた。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「…っ!」

 

 榛名を旗艦とした「艦隊」は、ローブの少女たち…二人の「化身」と相対する。足にはロングブーツ型の機械が備え付けてあった(あちらの水上反発装置だろうか?)。

 

「エースさん、見えました!」

 

 通信からエースたちに呼びかける榛名、エースは直ぐ様に応答する。

 

『ああ、見えたよ! 厄介だな…!』

 

 エースたちは、事前に利子が飛ばした「偵察機型モニターカメラ搭載艦載機」…早い話が「ドローン型撮影機」だが、そこから眼下に見える艦娘と化身を捉えていた…。

 

「…うむ、ここからじゃな?」

 

 利子は一人ごちに呟く。榛名と彼女、そして龍美、潮音、初花、雪の六人体制で動いている。これはエースが発案した事だ。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「こういう機動性を活かした部隊は、多過ぎても少な過ぎても駄目なんだ。七人以上は移動に不備があるだろうし、五人以下は何があるかも分からないから「六人」が丁度良いと思う」

 

 海自艦との遭遇前、エースはその指揮系統の才能を発揮して、艦娘たちの陣頭指揮を執っていた。先程の回避運動と砲撃も彼のナビゲートの賜物である。

 

「成る程…流石ですねエースさん、榛名感心しました!」

 

 榛名の素直な賞賛に、エースはどこか破顔していた。

 

「いやぁ…親父から色々な話聞いているうちに、さ?」

「けっ、少数精鋭ってか? まぁそんなことだよな」

「お前はもうちょっと褒めろし!」

「きっしょ!」

「うるせー!」

 

 エースとフォックスのいつものやり取りに、その場に居る全員もつられて笑う。

 

「…で、問題は編成…実際に海自艦を止める人たちだけど、俺としては日向さん辺りに」

「…あの、エースさん」

 

 エースに向けて声をかける者…潮音だ。

 彼女は意を決した様子で、エースに対し具申した。

 

「その…海自の人たちを止めるの、やっぱり私も…行かせてもらえませんか?」

「潮音ちゃん…気持ちは分かるけど、君たちはまだ若いんだ、それでも別の作戦もあるから出てもらうけど…この作戦は危険が伴う、君は…」

 

 エースは当然の配慮を口にし、潮音たちをなるだけ危険に晒さないようにしようとした── だが。

 

「…私も、皆のお役に立ちたいんです。例え化け物って呼ばれても…私たちは人間なんだって、皆を守りたいだけなんだって、胸を張って言いたいんです! だから…お願いします!」

 

 潮音は必死に頭を下げて懇願した、ここまで言っても引き下がらない潮音を見たのは初めてだった。

 

「エースさん、私も潮音ちゃんと一緒に戦いたいです。お願いします」

「…わた、し…も。お…ね…がい、しま、す…!」

 

 潮音と共に名乗りを上げた初花と雪、彼女たちの一心に頼み込む姿に、エースは頭を悩ませた。

 彼女たちを行かせてやりたい気持ちはある、しかし…この作戦は事前の練習も無しのぶっつけ本番だ、万が一失敗しようものなら、それこそ目も当てられない。

 そんなエースを見かねたフォックスが、彼女たちに対して補足する。

 

「ま、威嚇するだけだから大丈夫だろ? 旗艦は榛名ちゃんになるだろうから、榛名ちゃんのスピードについていけるんなら問題はねぇはずだ」

 

 榛名は「高速戦艦」という異名を持つ戦艦の砲撃力とそれ以上のスピードを併せ持つ、彼女はエースの指示に従い動く手筈なので、彼女に追随出来るなら文句もないだろう、とフォックスはエースを言い伏せた。

 

「…はぁ、分かったよ。でも…絶対に榛名たちから離れちゃ駄目だよ?」

「っ! はいっ、ありがとうございますエースさん、フォックスさんも」

「けっ、まぁ頑張んな? 但し…あの「化身」が出てきた時にゃ絶対に近づくな? 近づかれたら終わりだと思え」

 

 フォックスは励ましが脅しかよく分からない言葉を彼女たちに投げかける。それでも潮音たちは元気よく返事をした。

 

「…あ、龍美も榛名たちと一緒な? 貴重な航空戦力だ、多少遅くても何とかなるだろ?」

「うえぇ!!? 何それ聞いてない~?!」

 

 フォックスの言葉に、ただただ仰天する龍美であった…。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「………」

 

 化身の少女は敵意を露わにして立ち塞がる…いや、言い方を変えれば彼女たちからは「何も感じない」。心の色も気配も人として当たり前の感覚が彼女たちには無い、突然障害物が現れたような感覚だった。

 

「…っ! もう…やめ、て!」

 

 雪が叫ぶ、しかしやはり応答がない。ローブを被った奥から、まるで銃口を標的に向けるかのような冷たい視線で艦隊一行を見据える化身二人組。

 

「…どうして?」

「潮音ちゃん?」

 

 潮音は涙を目に湛えると、込み上げる怒りと共に言葉を投げつける。

 

「どうしてこんな酷いことするんですか! 雪ちゃんは泣いています! あの娘たちだって、こんなこと本当はしたくないと思ってるっ、それなのに…! そんなことになってるのに、本当に戦争をするつもりなんですか!? 誰かが傷ついているのに! そんなことする必要があるんですか!!」

 

 …榛名たちは黙るしか無かった、答えを持つ人物がこの場に居ない以上、下手に慰めても彼女の気は治らないだろう…そう考えていると?

 

『──何故だと思いマスか?』

 

「…!?」

 

 何と、榛名たちの目の前にホログラムが出現する…それは先日の「関 四郎」その人であった。

 

「貴方は…っ!」

『ンフフ〜中々面白い事言いマスね? その無知と蛮勇を評価して、こうして答えを出しに来て差し上げマシタよ?』

「…ッ!」

 

 潮音はキッと彼を睨みつける。「おぉ怖い!」と挑発気味に嗤うと関四郎は先程の疑問に回答する。

 

『…そもそも前提から間違っていマス。アレは私の「所有物」どう扱おうが私の勝手デス』

「そんなの屁理屈です! 彼女たちはモノなんかじゃない! 子供でも分かる嘘つかないで!」

『屁理屈ぅ? フハハハ! 目に見えるモノ、それだけが真実とは限りまセンよ? お嬢サン?』

 

 したり顔で嗤う関四郎、彼は彼自身の倫理観を元に戦争を語る。

 

『オカシイのは貴方がたデス。人間は生まれた時から戦うことを定められている…命がけの戦い、生死を分ける戦争、大いにケッコー! それは人として当たり前なのデス』

「っ! どうしてそんな事!!」

『何故なら人は戦うことで文明を切り開いて来た。それは大昔のこの国でもそうだった…あぁ、昔のこの国は殺戮、陵辱、略奪! 何でもアリの無法国家だった。それを発展の為と他国の文化を受け入れたのがケチのつけ始め!』

「…まどろっこしい能書きは止めい。結局お主は何を言いたいんじゃ?」

 

 利子が問うと、関四郎はホログラム越しに嗤い、欲望に歪む。

 

『平和など要らない、秩序などクソクラエ! 私は…世界に日本のあるべき姿を見せつける! そして今度はヤツらを! 混沌の戦争世界に引きずり込んであげマス! 戦勝国と息巻くヤツらも、平和を愛する無様なサルも! みぃーーーーーーッんなまとめて! 殺し合いを始めるのデス…そうして屍の上に築き上げた国こそ、世界の有るべき姿なのデス! …フフ、フ! フハハハハ、ハハハハハハハ!!!』

 

 …エースは邪悪に嗤う彼には「道徳」など無いと悟った。絶対に分かり合うことのない「敵」と理解した。

 

『この国はあの戦いから狂ってしまった。戦いを是とする国家は戦勝国から牙を抜かれ「不戦の誓い」だなどと下らないことさせられて…ハッ! 馬鹿馬鹿しい。そんなことだから今時の子供たちは「世界イコール平和」などと勘違いを起こす。世界は今も戦いで溢れているのに! それはこの国の底力を恐れた者たちの陰謀デス、私はもう一度世界を地獄に染め上げる。かつて世界がそうであったように! 論理もクソもないシンプルな世界に! …一体何が不満だとでも?』

 

 つらつらと心の込もらない言葉で関四郎は日本、果ては世界の在り方を説く。

 

 

 

「『──ふざけるな! (ふざけないで!)」』

 

 

 

 その横暴な物言いは、遂に彼らの魂に火を付けた。

 

『…ナニ?』

「誰かを傷つけて平気な世界なんて…そんなこと誰も望んでいません! 貴方は間違っている、"彼ら"はそんなこと望んでいない! 守りたい者を、愛する人たちを、守るために戦ったの!」

『ハッ! 先人たちの"思い"デスか? それこそ下らない! 兵器が人を語るんじゃあナイデスよ!』

 

 艦娘を所詮兵器と宣う関四郎に、榛名は拳を握りしめながら力強く言い放つ。

 

「違う…私は「榛名」、そう呼んでくれた人が居ます。今までも…そしてこれからも! 私の名前を呼んでくれる人たちを「守りたい」! この手が届くまで、この手が伸ばせる限界まで! 私は榛名としてこの国を守り続けたい!!」

 

 榛名の熱い魂の叫び、エースも続いた。

 

『お前には心が無い、何もかもが空っぽだ! お前は戦いを愉しんでいるだけだ! そんなヤツが国を語ることが、俺は許せない!!』

『…っ!』

 

 スクリーンに映る艦娘、そして響く声に春野首相は目を見開いた。

 

『ならば君はどうしたいのデス? まさかこの世から戦いを無くすと? そんな途方も無い徒労をすると?』

 

 外道は嗤う、悪魔は歌う、世界の在り方を、世界の真実を。それでも、青年の中に光る思いは陰らない。

 

『この世から戦いは無くならないさ、でも「話し合う」ことは出来る! それが今の世界の在り方だ。長い時間を掛けて世界は変わろうとしている…! なら俺はその手助けがしたい! 例え光が届かない影があっても、俺はそこに行って話し合う! それも戦いだ「命を奪わない戦い」だ! 文句あるかバカヤロー!!!』

『……ッ!!』

 

 その時、彼の言葉を聞いた首相の目には涙が光っていた…。

 

『…目障りデスねえ? いい加減子供のお遊びはオシマイにしないと』

 

 関四郎の言葉に反応したか、化身の少女たちはゆっくりと戦闘態勢に入る…。

 

『教えてあげまショウ…戦争は終わらない、戦いに終止符など無いという事を…!』

『っ! 榛名来るぞ!』

「はいっ、皆さん…戦闘のご用意を!」

 

 エースの言葉に、榛名以下艦隊のメンバーに緊張が走った──

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──同時刻、榛名たちより遥か南方。

 

『………』

 

 白の装束

 

 白く輝く髪

 

 まるで亡者のような白い肌。

 

 そして、憎しみを表す黒き瞳で一点を見つめる女性。

 

『……---』

 

 声にならない怨嗟を呟く女性は、同じく海に立つ灰色の肌の女性を呼び寄せた。

 

『…---?』

『---、--。----』

『---……』

 

 空間に不気味に木霊する音、何かを命じているようだ。そうして聞き入れたモノは、そのまま前へとゆっくりと海を滑っていく──

 

『…フフ』

 

 白き女王は邪悪に歪む、いつかの戦いを思い出し、更なる戦いを構想していく──

 

 

 ──それは、過去と未来の戦いの始まり。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「主砲、砲撃開始!」

 

 榛名の声に反応し、腰に装着した艤装の砲塔部分が動き出す。目標を定め…砲弾射出。

 

 

──ズドォンッ!

 

 

 威嚇射撃、ローブの少女たちの目前に建つ水柱…しかし。

 

「……ッ!」

 

 ローブの少女の一人が水柱を突き破って、こちらに急速接近する。

 

『おい、エース不味いぞ!』

『分かってる! 榛名、ローブより右に回避だ!』

「はいっ。皆さん、両舷全速っ! 回避です!!」

 

 大声で艦隊に号令をかける榛名、榛名の指示に従って右側へ全速で滑走する艦隊。

 しかし当然ローブの少女も追いかける、艦隊の後方を追随するローブの少女。

 

「……!」

 

 もう片方の少女も黙っていない、艦隊前方に待ち構えるように躍り出る。挟み撃ちの形を取られる艦隊。

 

「エースさん!」

『まだだ、そのまま前方の相手に近づけて、合図したら避けるんだ! …で、良いんだよね、利子ちゃん?』

「うむ、皆まで言うな。吾輩に任せておけい!」

 

 どうやら策があるようだ、そのまま前方の少女に接近する艦隊、後方の少女も最後尾の龍美にじりじりと距離を詰めていた。

 

「ひいぃ~~~っ!!?」

『頑張って龍美ちゃん、もう少し…っ!』

 

 エースは艦隊の面々を励ましつつ、機を窺う──

 

『──今だっ!』

 

 エースは榛名に号令を下す、榛名たちは…「二手に分かれた」。

 

「潮音さん、龍美さん、こっちです!」

「初花、雪、こっちじゃ!!」

 

 それぞれ榛名と利子の二人を基幹とし、左右に分かれ二組となった艦隊。

 鮮やかな避け様に対応が遅れ、二人のローブの少女はそのまま鉢合わせの形となる…が、衝突はせず事前に脚で水を切り、お互いに海上で急停止する。

 

「フフン、抜かったな。まだ終わらぬわ!」

 

 利子は事前に飛ばしておいた艦載機をローブの少女たちの頭上に移動させ、そのまま艦載機真下に取り付けた「何か」を落とさせる。

 ふわりと宙を舞うそれは…合成繊維で編まれた特製の”漁網”。ローブの少女たちは為す術なく網に囚われる。

 

「よし、あんな小手先で捕まるとは思わん。今のうちに距離を取るぞ!」

 

 このまま捕えられればそれ幸いだが、利子の言う通り化身の少女たちは網をブチブチと「破り」始めていた。

 

「…ひぃ! そんなのアリ!?」

『急いでその場から離れて! 化身たちもこっちについて来るはず…!』

 

 エースの思惑通りか、ローブの少女たちは完全に網を破ると、そのまま艦隊を追随する。

 狙いは完全に艦隊のようだ、榛名は通信でエースたちに指示を仰ぐ。

 

「敵性体二名、網を破りこちらに接近中です!」

『よし、そのまま奴らを亡国から遠ざけろ! 長戸たちが港で待ってる手筈だ、挟み撃ちで一気に捕まえるぞっ!!』

 

 フォックスの怒声に似た命令に、榛名たちは力強く頷いた。進路を「日本」へと舵を切り化身たちをかの国から遠ざける。

 

『艦長…どういうことでしょう…?』

 

 遠目から様子を窺うまいかぜ隊員は、現場の光景が理解出来ていなかった。

 海の上を立つ、滑る、駆ける少女たち…それだけでも頭でも到底理解出来ないものだ。しかし突然「男の影」が浮かび上がったと思ったら、自分たちの艦から謎の人影が姿を現し、それらが戦い始めた。

 

 ──異常な光景、それが常人の感想だ。

 

 しかし、艦長は冷静に黙して彼女たちの戦いを見つめていた。華やかな衣装を身に纏った、明らかに隊列を組んだ彼女たち──艦娘と言っていたが、アレは単縦陣のつもりか?──砲撃でローブの人物たちを牽制している、アレらは対立し敵意を持って対峙していることは明白だった。

 普通ならばどちらかに加担すべきなのだろう、我々の強大な「抑止力」を用いてこの場をどうにかすべきなのだろう。だが…我々は「海上自衛隊」国の命令無しに動くことは許されない…となれば。

 

「(予定通りかの亡国を目指すか…だが)」

 

 艦長は頭に先程の彼の言葉を響かせた…「戦いを止めたい名も無き者」それは恐らく目の前の戦いがそうであろう…。

 

「…我々は、一体何を見ているのだろうな?」

 

 …その瞬間、彼の言葉を反芻していた艦長は現実に引き戻される。

 

 

 ──広大な海域に轟き響く「爆音」によって。

 

 

「っ!? な、なんだ…?!」

 

 艦長は窓越しに音のする方を見やる、そこにはある「飛行物体」が艦長の視線の前を過った。

 

「なっ!? こ、これは…」

 

 その飛来物は、形容しがたいこの世のモノとは思えない形をしていた。有体に言えば「SF映画の宇宙人のUFO」のような正体不明の不気味さがあった。

 

「…っ!?」

 

 そしてその奥…南方の水平線の彼方から、目の前の艦娘たちと同様に「海の上を滑り」近づいてくるこれまた形容しがたい何モノかが──

 

「CIC! 奴らは何だ!? どうなっている、反応はあるのだろう!!?」

「…あ、ありません。レーダーに異常なし、しかし…「()()()()()()()()」!」

「な、何だと…!?」

 

 艦長、いやまいかぜ隊員全員が「絶句」する。それは背中に悪寒を這わせ、アレらが「脅威である」と本能的に理解するには十分過ぎた、簡潔に言い換えれば。

 

『…ば、化け物!』

「……っく!」

 

 艦長は望遠鏡を手に南方を確認する。目の前で戦いを繰り広げる艦娘たちと同じく「6体」、まだ朧気に見えているが、確かに化け物と認識出来た。だが…それだけではない。

 

「あれは何だ…?!」

 

 艦長は、肌が灰色の女性(頭にはUFOの化物のような帽子を被っている?)を守るように展開された「黒い鯨」を見る…いや。

 

「鯨じゃない…そんな可愛らしいモノじゃない! アレは"化け物"だ! そうとしか言いようが無い!」

 

 漆黒の鯨から悍ましく剥き出しになった歯が見えた、鳴き声も聞こえる、この世のものとは思えない竦み上がる声。

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーッ!!!』

 

 

 まいかぜの隊員たちが恐怖に震える中、榛名とエースたちもその影を捉えた。

 

「っ! エースさん! アレは…!?」

『ああ…見えてるよ。一体何なんだアレは!?』

 

 エースたちにとっても予想だにしない出来事。榛名たちは迫り来る百鬼夜行の群を見据える、そして…化身側で群を見ていた悪魔は滅びのカウントダウンを叫んだ。

 

『フハハハハ! 遂にっ! 遂に現れたか!! やはり化身同士の戦いは看過出来ないか「亡霊」ヨォ!!』

「っ! 亡霊!?」

『あれが…海の亡霊……?!』

 

 関四郎の言葉に驚きを禁じ得ないエースたち、確かに死んだような灰色の肌の女性、その前には鯨の化け物、情報の通りであった。

 

『あんなモノが…! 一体日本はどうなっちまうんだ…!?』

 

 エースたち、そして化身含めた国の衝突、その戦いに現れた第三群…正に「三つ巴」の戦い。果たして…ここから事態はどう動くか…?

 




〇思い出の味

榛名「あの…十郎太さん?」
十郎太「お? 何じゃ榛名ちゃん? ワシの事は「お義父さん」でも良いぞ!」
榛名「はあ…? あ、それより聞きたいことが」
十郎太「ん? 何じゃ??」
榛名「あの…子供のころのエースさんって、どんなお子さんでしたか?」
十郎太「おお…そこ聞いちまうか」
榛名「えっ、何かいけないことを?」
十郎太「いや、ガキの頃のあやつは今とは違い変わっとったからの? 聞いたら幻滅するぞ?」
榛名「構いません。エースさんはとても優しいお方で、私もあの人みたいになるにはどうすればいいか、あの人の子供のころを知ることで理解したいんです!」
十郎太「(あ、そういうことね…)んーでは、噛砕いて言わせてもらうぞ?」
榛名「お願いします!」
十郎太「うむ。…まず奴は自分を「正義のヒーロー」と勘違いしておった、自分が生まれたことには意味があると思っとったんじゃろうなあ?」
榛名「成る程…それは「レンジャーズ」というモノですか?」
十郎太「お! よう知っとるの! そう、あやつは仲のいい連中を集め「ヒーローチーム」を作った、そして困った人に手を差し伸べておった」
榛名「そうですか…ふふ、今とあまりお変わりないようですね?」
十郎太「いやいやそこは子供よ。相手が誰だろうと「不正を感じたら」どこまでも突っ込みおっての…小学校の先生、町内会の会長、果ては暴力団ともやりあったの?」
榛名「え!? す、すごい…」
十郎太「すごいものか、お陰で母さんは相手方に謝りっぱなし、暴力団相手の時は、ワシも死ぬかと思ったわい…一体幾ら怒鳴りつけたことか」
榛名「…エースさんって、結構無茶するタイプだったんですね?」
十郎太「ああ、正義感は人一倍強かった。だからこそ…君みたいな正体不明な娘も、あやつは放っておけなかったんじゃろうなぁ」
榛名「そう…ふふ」
十郎太「(ふむ…ここは布石を打っておくかの?)…じゃがそんなあやつにも弱点があったの?」
榛名「弱点?」
十郎太「おう、母さんが作る「アイスクリン」があやつは大好物でのう? 悪戯ややらかした時に母さんが「もうアイスクリン作らない」と言った時には大泣きしてのう…見ていて胸が痛んだわい」
榛名「そんな事が…アイスクリンか…」
十郎太「なあ榛名ちゃん、もしあやつを良く思ってくれとるんじゃったら、あやつにアイスクリンを作ってやってくれんかのう?」
榛名「っ! …はい! 榛名でよろしければ、エースさんの為に作らせて頂きます!」
十郎太「おう、頼んだぞ(…進一、上手くやるんじゃぞ?)」


エース「…何か、母さんのアイスクリン食べたくなってきたなぁ…今度送ってもらうか?」

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