エースたちは、国を乗っ取り戦争の切っ掛けを作ろうと画策する「関 四郎」の野望を打ち砕くため、化身を積んだ護衛艦と対峙する。
関四郎はエースたちと榛名たち…艦娘たちを嘲笑う、そして自らの理念に基づいた「戦争世界」を説き、犠牲の上に成り立つ発展こそが世界のあるべき姿だと宣う。
エースと榛名は激昂する。榛名は誰かが傷つく世界は誰も望まないと、エースは犠牲ではなく「対話」による和平こそ世界が今目指す在り方だと叫ぶ。
どうあっても平行線の両者、ならば後はぶつかるだけと言わんばかりに彼らは戦闘を開始する。
…しかし、彼らの目の前に、予想外の来訪者が。
エースたちの前に姿を見せた「海の亡霊」。それは想像以上に「この世のモノとは思えない」容姿だった。
「…あれが、海の亡霊」
榛名は無意識にその名を口にしていた。
黒い鯨のような怪物の後ろに「インベーダーのような」不可思議な怪人──どうやら女性のようだ──眼は虚ろ、肌は灰色、頭にはUFOの形をした化け物が、それでいて格好は人間と大差は無い。白いレオタードに黒いマントを羽織り、手には先の光った杖。まるで「異世界からの侵略者」のようだ。
『…一体なんなんだ、アレは?』
エースは彼女(?)がこの場に現れた理由が分からないでいた。傍らに居る鯨の化け物は、彼女の周りを囲むように展開し、中心の彼女は両手で杖を支えにしながら海面を威風堂々と歩くような早さで滑っていた。
この円を描いたような陣形は「輪形陣」といって、万事に対応できる防御を重きに置いた陣形…主に「戦艦や空母」を被弾から守る時に用いる。まさかとは思うが中央に佇む女性、アレは「戦艦、もしくは空母」なのか?
『何にしても、アレを放っては置けない…!』
情報が確かなら彼女たちには「国を滅ぼす」ほどの未知の力がある、エースと榛名たちは、新たなる脅威である亡霊たちに気を取られていたが…。
『──ヒヒ、ヒヒフハハハハ! ハハハハハハハハハハハ!!』
関四郎、そして目前の化身を失念していた。狂気染みた嗤い声を聞き慌てて態勢を整える艦隊、しかし…?
『まさか亡霊が現れるとは…ふぅむ、計画の妨げがこうも増えると…止むを得ないデスねぇ。お前たち、今すぐ亡霊へ掛かりなサイ!』
関四郎は制御装置を使い、化身たちに対して優先的に亡霊への攻撃を命じる。
「っ!? 貴方…まさか、彼女たちをあの怪物たちに特攻させるつもり?!」
『言った筈デスよ? アレは所有物、どう扱おうと私の勝手だとね? フハハハハ! さーーあぁ! 楽しい愉しいタノシイ殺戮ショーの始まりデスよおおおぉぉぉ!!!』
榛名の回答に暴論を叩きつけると、関四郎は高らかに大虐殺の始まりを叫んだ。
どちらにしろ化身の少女たちを放ってはおけない、エースと榛名たちは彼女たちを助けようと行動を始めようとするが──
──ガシッ
瞬間、高みの見物だった関四郎の身体に「衝撃」がぶつかってくる。
「んな!?」
一瞬の隙を突き、関四郎の腕に握られた化身の制御装置らしき機械を奪おうと、突撃して来た影…それは。
「…っく! やらせはせん!!」
春野首相──囚われの指導者がまさかの肉弾戦を繰り広げる、必死にしがみつき関四郎から制御装置を振り落とそうとする。
「もうお前の好きにはさせん…あんな少女たちをモノ扱いするお前だけは…っ!」
「…っぐ!? こぉの、クソ雑魚があああああ!!?」
激昂する関四郎、怒り任せに腕を上げて、しがみつく首相を振り払う。首相は壁に叩きつけられ、力無く床に伏せる…しかし。
「っ!? しまった!!?」
腕を振った反動で床に激しく打ち付けられた、制御装置から稲妻が走る…どう控えめに見ても「壊れた」と言えるだろう。
「ぎいぃ!! 貴っっ様ーーー!!!」
「…ふ、これで化身を操る術は無くなったな…?」
首相は思わず皮肉笑いを浮かべる、化身は制御装置によって動いている「意志の無いモノ」と思われる。つまり、散々化身に振り回されて来た彼が自ら勝ち取った「勝利」…化身無き今、関四郎は窮地に立たされた…ように見えたが?
「…フ、フハハハ! 馬鹿デスか貴方? その程度で勝った気になるとは?」
「っ、負け惜しみを。貴様は化身を使い国家転覆を狙っていた筈、何者かは分からないが艦娘という勢力がいる以上、お前は敗北したんだ!」
「確かに化身は今や棒立ちでショウが…私の目的はあくまで「恒久的戦争世界」デス、海の亡霊が現れた以上、きっかけはどうあれ世界が混沌に呑まれるなら、私にはドーッでもいいんデスよ!」
「っぐ!? 貴様…!」
「フハハハ! 結局どう転ぼうが私の愉しみは尽きない、という事デスねえぇぇ〜?」
脅威の一つである化身は無力化された、しかしそれは同時に「如何にして亡霊を退けるか」という難題を齎した。
「さぁ御覧なさい? 坊ちゃん嬢ちゃんおとっつぁん!! …これが「戦争」デスよ? フフハ、フハハハハ!!!」
関四郎は自らの置かれた状況など御構い無しに、スクリーンに映し出される「惨劇」を待ち侘びる──
・・・・・
まいかぜ艦長は、目の前の天変地異に恐れ慄きながらも冷静に対処しようとしていた。
「…アレは明らかに我々に対し敵意を放っているな?」
そう言いながら亡霊群を見据えると、向こう側に変化が。
『──…ッ!』
何事かを呟くと、灰色の女性の頭部…インベーダーの口から大量に何かが「吐き出される」…空中に浮かび上がるその飛行物体一つひとつが、先程目の前を通り過ぎた「あの」飛行物体だ。
「っ! 何だ!?」
飛行物体は列を作り護衛艦まいかぜへと近づいていく…その光景はまるで「編隊を組んだ戦闘機群」のように感じた──程なく、飛行物体から何かが落とされる…。
──ズンッ!
平和な世界には不釣り合いの、エースたちには聞き馴染みが無い…重い「不協和音」が空間に響いた。それが「爆発」だと気づくのに、その場の全員に数秒の思考停止があった。
「っ!? ぐおおおぉ!!?」
まいかぜに落とされた凶弾は、艦体にダメージとその余波の「揺らぎ」をもたらした。艦長は「こうして誰にも気づかれず攻撃を加えていたのか」とどこか納得していた。
「ひいぃぃぃ!!? か、艦長!」
「狼狽えるな! …仕方がない、向こうが仕掛けるのなら、こちらも防衛措置を取るまで!!」
艦長は各隊員に「対空ミサイル」の発射用意を告げる。
「目標定めーっ! 照準位置は私の言う通りに!」
まいかぜ艦長主導の下、亡霊から放たれた飛行物体群にミサイルの照準を合わせる。そして敵が近づくまでジッと狙いを定める。
「…目標よし、"シースパロー"発射準備完了!」
「よし、シースパロー発射…ってえぇーー!!」
敵群、射程圏内。同時に空を裂く音、烈火の炎と共に一発のミサイルが射出された。
「シースパローミサイル…これなら!」
旋回し接近する敵飛行物体──そこへ真っ直ぐ突き進む、空を裂く弾道弾。
──ボガンッ!
「や、やった…っ!」
ミサイルは見事命中。爆音が空間を支配し、硝煙が視界を遮る…しかし。
──ズンッ!
「ぐぁっ!? …な、何…?!」
又もや艦体にダメージ、今度は浸水の被害が出たと報告が入った。幸い被害規模は軽微…しかし艦長が「戦慄」していたのはそのことではない。
「や、奴らには当たった筈だ…しかし、あの飛行物体に「傷一つ」つかないだと…!!?」
艦橋より見える限り、謎の飛行物体群にはミサイルによる「破損後」などどこにも見当たらなかった。
この世界における最先端技術である対空ミサイルを以ってしても、かの亡霊の攻撃を防ぐことが叶わない、この状況が意味することは──
「艦長、このままでは本艦は…「轟沈」します!!」
…分かりきっている事を改めて言われると、怒りが込み上げてくる。しかしそれを抑え、艦長は最早使い物にならないレーダーシステムに代わり轟沈予測を立てる。
「(保ってあと10分が限界か…)…っくそ!」
護衛艦まいかぜは、今まさに風前の灯。
艦長は目前の「怪物」の脅威を再認識した…レーダーにも映らない、ミサイルも効かない、恐らくどんな現代兵器を持っても奴らには、一切の傷を付けることが出来ない。
「…ここまでか」
”防衛兵器”という強力な壁が排除された時、無力な人間に何が出来ようか…?
艦長は無念を抱きながら、各隊員に退艦命令を下そうとした──
・・・・・
「っ! 護衛艦が…!?」
エースたちはパソコンに映し出された映像──利子の艦載機の映像──を見て現状を把握する。
対峙していた化身は突然動かなくなり、亡霊から吐き出された謎の飛行物体が、護衛艦まいかぜを攻撃している…護衛艦からミサイルが射出されたが、それすら亡霊の艦載機らしきもの? には傷一つつけられていない…混沌を極める「戦場」。
「…これが、戦争」
ポツリ、とエースは無意識にそう呟く。
海の亡霊が過去の大戦で死んでいった英霊たちの怨念であるなら、彼女(?)たちは何を目的に現代に蘇ったのか? その答えが「これ」なのかも知れない。
正しく亡霊の如く、他の攻撃を一切受け付けずに対象に「怨嗟」を振り撒く…このままでは、日本だけでなく「世界」も危うい。
「…どうするつもりだ? エース」
フォックスは、まるで覚悟を問うようにエースに問いかける。
「俺たちの目的は、化身と暴走する国を止める事…今、化身は棒立ち、護衛艦は成す術なく攻撃されている…護衛艦には今頃退艦命令が出てるだろうが、それこそ俺たちには関係ない…このまま、あの棒立ちになった化身を回収してこの場を立ち去ることも出来るが?」
「っ! フォックスお前…あの人たちを見捨てろって言うのか?!」
「馬鹿。亡霊は未知の存在だ、何が起きるか分からねぇだろ? もし俺の考えどおりなら、お前は奴らを「助けたい」って思ってる筈だろう?」
「…っ!」
「だがそいつは…榛名ちゃんたちに奴らと「戦え」って言ってるもんだぜ? 確かに戦う術はあるだろう。だが…榛名ちゃんはともかく他のヤツらは、化身としての能力はまだ完全に身に付いていない。良くて"半覚醒"って所だ、それを亡霊にぶつけるのは「自殺行為」だと思うね?」
「…そう、だけど…っ!」
エースは、この場をどうにか出来るのは「自分たち」しかないと考えた。亡霊の真実を知り得て、艦娘としての能力も把握…亡霊を打倒出来るのは艦娘しか居ない、恐らくそれを知っているのは自分たちだけだろう…だからこそ。
「助けたい…でも、俺は……っ!」
──その時、通信を通して榛名の声が響いた。
『──やりましょう、エースさん』
「っ!? 榛名! でも俺は…あの時見た夢のようになるなら、お前には戦ってほしくない、だから…」
エースは不安だった、もし仮にこの戦いを凌げたとしても…これからも戦い続けるとして、その先にあるのが「あの結末」だとしたら…言い様のない恐怖がエースを襲った。
そんな彼を勇気づけるように、榛名は凛とした声を発した。
『大丈夫。榛名が皆さんを必ず御守りします…私はその為にここに居る、だから…絶対に沈みません。貴方が心配することは何もありません』
「榛名…」
『エース君、私も頑張ってみる! …怖いけど』
『案ずるな! 吾輩も居る! 大船に乗ったつもりでおれぃ!』
龍美も利子も勇ましく返答する…しかしまだ迷いが晴れないエース。声を殺しながらどう行動すべきか悩む、今…彼女たちの運命の「天秤」は指揮官である彼に委ねられている。
そんな彼らに、時の流れは無惨にも現実を突きつける。
──ズンッ!!
「…!?」
榛名たちの目の前で巨大な爆炎と水柱が現れる…その刹那、爆発の衝撃に力無く吹き飛ばされる「化身の少女」の姿が。
『っ!! …エース、さ、ん…! 行かせて…下さ、い……!!』
『このままじゃ、彼女たちもやられちゃいます!』
『エースさん、ご下命を。私たちは…やれます!』
雪、潮音、初花も叫ぶ。
「………」
迷いに迷った、しかしこれしか方法がないのだとすれば…そう思い至ったエースは、覚悟を湛えた顔付きで榛名たちに思いを告げる。
「…俺、皆のことをすごく大切に思ってる。口では簡単に言えるけど、その証を立ててやれない…守ってやれる保証が無い。…無力な馬鹿野郎だ、俺は。君たちをこんなことに巻き込んだのは、俺なのに…っ!」
『…エースさん、貴方だけのせいではありません。貴方があの時助けてくれたこと、榛名は感謝しています』
「でも…アイツらを倒せるのは、俺たちしか居ないなら…! 放っておいたら、日本や他の国に害があるというのなら…! 俺はアイツらを、今すぐ倒さなくちゃいけないと思うっ!」
『エース君…うん、リーダーの言うことだもんね!』
『うむ…吾輩も最後まで付き合うぞ、エースよ!』
「これから…この戦いが始まりだとしたら、これから俺が言うことは「理不尽」に聞こえるかもしれない。もう後戻りは出来ない、それでも聞き入れてくれるなら…!」
『私…何でもします、皆を守りたいから!』
『この国と世界を、守るために』
『…ともだ、ち…を、たすけ、たい…です!』
エースが答えを出す前に、艦隊は各々の言葉でそれに賛同する。
もう言葉は要らない。だが…初陣を告げるように、晩成の指揮官は高らかに宣誓する。
「頼む皆! 力を貸してくれ!! 指揮は俺が取る、だから…倒そう! 亡霊をっ!!」
『──了解!』
ここに、艦娘たちの「亡霊攻略戦」が始まる。果たして…彼らに勝機はあるのか?
──To be continued
「初陣 2-2」へ続く…。