艦隊これくしょん―七十年後の君へ―   作:謎のks

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 ○前回のあらすじ

 エースたちの目の前に現れた海の亡霊、素性の分からない彼女たちは、混沌とした戦場を更に乱れさせた。
 対峙する化身は動かなくなり、護衛艦「まいかぜ」の防衛措置も全くの無傷、誰しもが「絶望」の淵に立たされた。
 エースは艦娘たちと共に亡霊を倒すため立ち上がる。こうして始まった艦娘たちの亡霊攻略戦…傷を負いながらも戦いの結果は、艦娘たちの「勝利」に終わった。
 エースの指揮系統能力、榛名の正確無比な防空射撃、そして各々の役割を迅速に、的確にこなした故の勝利であった。
 こうして化身…艦娘を巡る国との戦いに終止符が打たれた。

 それは同時に、何れ訪れる亡霊との戦争の幕開けでもあった…。



第十七話 後刻

 海の亡霊との戦いより後日。エースたちは、春野首相より首相官邸へ招集された。

 首相執務室のソファにて緊張の面持ちで首相を待つエース、その右隣には榛名。しかし格好はあの時の衣装…特殊繊維の「艦娘用戦闘衣装」だった。

 頭には電探をイメージしたカチューシャ、服装のデザインは「巫女服」をアレンジした清楚かつ可愛らしい装いとなった。

 そして、左隣にはフォックスとアトラス、この四人が呼び出しを受けたメンバーだが、言ってしまえばごく少人数であり秘密裏に進めたいという向こう側の意思が見て取れた。

 …その時、執務室の扉が重く開かれ、中に春野首相と十郎太が入る。

 

「…あ! お、お待ちしていました!」

「あぁ、済まない。待たせてしまったようだ」

「進一! その言い方は失礼じゃぞ!」

「えっ!? ご、いえすみませんでした…;」

「ははは、話しやすい口調で構わないよ? 君たちは私の…いや、我が国の恩人なのだから」

 

 春野首相は朗らかに笑う、高木から聞いた話では発見され当初は憔悴しており、とても一国の総理大臣とは思えないほどだったという。

 

「(無事に回復したみたいで良かった…)」

 

 首相と十郎太はエースたちの向かい側に座り、今までの経緯とこれからを話し合う。

 

「先ずは、我が国を未曾有の危機より救ってくれたこと、感謝します。私は日本国現首相、春野晋五です」

 

 深々と頭を下げて、謝意を示した首相。エースたちも慌てて頭を下げる。

 

「…君たちには、言葉では言い表わせない大恩を払わせてしまった、その罪を今すぐにでも償いたいが…最初に私の話を聞いてほしい」

 

 エースたちは頷き、言うとおりに首相の発言に耳を傾けている。

 

「ありがとう。…まずあの男、君たちの前に現れた関四郎は、七十年前から発足された"対亡霊対策研究機関"の局長…国が選別した天才、主席研究員だ」

「主席研究員…”化身計画”ってやつの中心人物ってことですか?」

 

 エースの言葉に、首を横に振る春野首相。

 

「それはあの男の勝手な行動の名称だな。本来は化身…いや、艦娘かな? 彼女たちに成り代わる兵器を、いずれ来る亡霊たちに備えて完成させること。それが彼に与えられた当初の目的だった。しかし…何にしても艦娘に関しては分からないことだらけだった」

「それってどういう意味ですか?」

「そのままの意味だ。最初の亡霊襲撃時に力を貸してくれた艦娘たち、彼女たちはその後忽然と姿を消した。…我々は彼女たちの何も知らなかった、艦娘の力の由来も、その能力も、存在そのものが人智では理解できない事ばかりだった」

 

 あの戦いが終焉を迎えて幾ばくかの月日が流れ、最初に亡霊たちが現れて、次に導かれるように「名も無き戦士」たちが集まったと言う。しかし…亡霊たちとの戦いも終わった後、彼らのその後の行方は国も認識出来なかったようだ。

 

「本当はすぐにでも居所を調査するところだが、あの頃は…何もかもが失われていた時代で、それどころではなかったのだろうな? とにかく私は、政権に携わるようになってから、藁にも縋る思いで艦娘の能力解明を急がせた…それが、あの男の暴挙を許す切っ掛けを作ってしまったのだろう」

「…飼い犬に噛まれたってか?」

「フォックス!」

 

 皮肉を言うフォックスを諫めようとするエースだが、首相はそれを肯定した。

 

「いや、寧ろ罵って欲しい。あの男を機関に入れるように指示したのは、当時首相補佐官を務めていた私だったのだから」

「っ!? そんな…」

「あの…春野首相、あの人は何者なのですか?」

 

 榛名が尋ねると、首相は影を落とした表情で振り返り始める。

 

「あの男は一介の心理学者で、しかし多彩な分野に精通して、精神医学においても博学多識だった…特に魂、精神に関する知識は、独自の論文を発表して学会を驚かせたものだ」

「その才能に目を付けてヤツを機関に入れた…っは、馬鹿だねぇ?」

「おいフォックス…」

「そうだな。…私は焦っていたのだろう。七十年前から観測され続けた亡霊、彼女たちはここ数年で活発な活動を見せて来た、私の代でそんな脅威が現れるとは…正直気が気では無かった。艦娘などという確証のないもの、その代わりを如何にして作るか…それを知る為には、艦娘のメカニズムと亡霊との関わりの解明がどうしても必要だった」

 

 フォックスの悪態を認めながら、首相は声を絞り出すように、自身の考えの浅はかさを語る。

 

「春野首相…」

「私の不徳の致すところにより、君たちのような若者を巻き込んでしまった…本当に申し訳ない」

 

 首相はエースたちに向かい再び頭を下げ謝罪する。その光景を見たエースたちは、各々の反応を示した。

 

「頭を上げて下さい春野首相、僕たちは…自分たちのやるべきことをやっただけですから?」

「はい、榛名も気にしておりません。それに…この騒動は誰のせいでもない、そう思われます」

「んだ、首相さんが気にすることじゃねぇだ」

「…ふんっ」

「…ありがとう」

 

 エース、榛名、アトラス、フォックスの言葉を聞き、春野首相は感謝を述べると、海の亡霊について改めて説明する。

 

「日本…いや、世界はあの戦いで多くの犠牲を出した、そしてその代償は、未だ支払われていない…それが亡霊に形取り、我々に代価を支払えと迫っているのだろう」

「…代価?」

「ああ、あの時代は本当に苦しい時代だった…いつ終わるとも分からない戦い、世界中に恐怖と絶望が蔓延していた。それでもその時代の人々は強く生きた「いつか平和な時代が来る」と信じて…ところが、それを享受しているのは、今の時代でも限られた国だけだ」

「…そうですね、ずっと日本にいる俺たちでも分かる。世界の戦いは…まだ終わっていない」

「そうだ。だから彼女たちは無理やりにでも終わらせようとしているのだ…あの時代の人々が思い描いた「永遠の平和」を、"人の時代"を終わらせることによって」

「っ! それは…」

「そう、矛盾している…人が築いた歴史を、人の思いが壊そうとしているのだ、これを「呪い」と呼ばず何と言うだろうか?」

 

 あの時代のことは、正直当事者でないエースたちは何を言われてもピンと来ないだろう、それでも…亡霊たちがただ闇雲に人を襲っているわけではない、ということは流石に理解出来ていた。

 

「亡霊たちは戦いを止めるために、戦争や紛争を続ける国を襲ってる…じゃあ、艦娘たちは? 彼女たちが人に生まれ変わってまでやりたかったことって…?」

「──「愛する人たち」を、呪いから守るため」

「っ! 榛名…」

 

 エースたちには到底理解出来ない事柄を、榛名は確信を持って表した。

 

「私たちはあの戦いで生き残った…生き残って「しまった」。だから、あの時の戦いのせいで多くの人々が傷つくのを、黙って見ていられなかった。…榛名は、そう思います」

「…そうだな、全くその通りだろう。この目で見るまで信じられなかったが…やはり、君は「そう」なんだね?」

 

 首相の言葉に、肯定の意味を込めて頷く榛名。

 

「…あの男によって君の人生は狂わされてしまったのだろう…私もあそこで何があったかは知らないが、全ては私の責任、君の煮るなり焼くなり好きにしてほしい」

「っ! そんな、私はそんなこと…」

「んじゃあ、俺がその権利をぶんどっても良いんだな?」

 

 フォックスの再三の皮肉めいた言葉に、頬に冷や汗を感じるエース。彼も首相…この国に対し並々ならぬ因縁がある。

 

「…まずは俺の情報を整理させてもらう。アンタがアイツを機関の主席研究員に任命し、化身のメカニズムの解明とそれに代わる兵器を造らせる…これがアンタらの本来の計画」

「…ああ」

「よし、そして何を思ったかアイツは「化身を造ってしまえば良い」などと宣い、実際に造り上げた…それはアンタは知っていたのか?」

「いや、あの男は秘密裏に事を運んでいた。私がそれを知ったのはだいぶ後だった」

「…二年前、か?」

「そうだな…最初は冗談のつもりかと勘繰ったが、実際に見せつけられてな…今もアイツが横で幼気(いたいけ)な少女を「モノ」と嗤っていたのが、頭から離れない」

 

 首相がトラウマを刻まれた様子でいると、エースは素朴な疑問を投げかけた。

 

「あの、じゃああの黒服たちは?」

「彼らは一部のSPが買収されたようだ、元はあの男を要人として秘密裏に守っていた集団だが、大方ヤツに唆されたのだろう。…勿論全員牢屋行きだが?」

「あぁ…」

「まぁ、彼らは何も知らされていなかったのだろう…飽くまでも仕事をこなしただけ、悪いのは全て私だ」

「…ふん、嘘はついてねぇな? で、アンタはアイツから自分の娘が「本来の化身」の一人だと告げられ、彼女を渡すように詰め寄られる」

「……っ、そうだ」

「影二君、言いたいことは分かるが」

「黙っててくれおやっさん、俺はコイツと話してるんだ」

「…っ!」

 

 フォックスの積年の恨みに近い、負の込もる低く重い言葉に押し黙る一同。

 

「…娘に手を出さない条件として、自分の命令に絶対服従しろ、そう言われたアンタは、ヤツの下した命令の下政府やマスコミを裏で操作、結果「化身」や「亡霊」を利用した「計画」を嗅ぎ回る者を「粛清」し、その日が来るまで邪魔が入らないようにした。と…こんなとこか?」

 

 フォックスの言葉に、黙って頷く春野首相。彼は首相の全てを受け入れるような態度に、明らかな苛立ちを見せる。

 

「なあ、アンタにとって娘が大事ってのはさ、こんな俺でも分かんだよ。…でも、アンタと同じで父親だった二人の人間が犠牲になったんだぞ? …この落とし前、つける覚悟はあるんだろうな? …あ”ぁ?」

 

 フォックスはその顔に憤りを湛えて、一国の首相を睨み、唸るように声を響かせる。流石に不味いと感じたエースは、その間に割って入ろうとする。

 

「おいフォックス、お前いい加減に…っ!」

「──懸けよう」

 

 エースの言葉を制止するように、首相は静かに一言発すると、真っ直ぐフォックスを見つめ返す。…その真摯な瞳は、一国の指導者に相応しい貫禄があった。

 

「機関の責任、君たちの父親の命を奪った罪、そして…亡霊。その全てを、私の人生を賭してでも償う」

「…二言は無いな?」

「勿論だ。総理大臣として、一人の男として盟約しよう」

 

 首相の覚悟を込めた言葉に、フォックスは皮肉を込めた笑いを浮かべると、怒りを奥に仕舞うようにいつものような軽い調子に戻る。

 

「うし! んじゃあ恨み言は無しにしてやる、その代わり俺の言う事聞いてもらうぜ? あぁ心配すんな、あの糞野郎みてぇことはしねぇからな」

「おい!? お前この期に及んでまだ何かやらかすのか!!?」

「当たり前だろ? 化身問題は解決したけど、まだ亡霊が残っている。奴らをのさばらせてたら俺の悠々自適なニート生活に支障が出るからな!」

「んだなあ?」

「…はぁ、すいません。コイツらいつもこんな調子なんで、後で俺からきっっちり言い聞かせますんで」

「いや、望むところさ? それに…国を救った君たちが亡霊の対策を共に考案してくれる、ならば私は傀儡にでも何にでもなろう」

「いぃ!? 総理、ご冗談を…!?」

 

 隣の十郎太が流石に面食らった顔になる、首相が大笑いすると、エースたちもつられて笑いだす…その場の雰囲気が和らいだ所で、首相は改めて話を切り出す。

 

「ところで…君達の、艦娘が着けていた…ん? 武装かね? これを造ったのは?」

 

 問われたエースたち三人は迷わず巨体の「んだなあ」を指し示す。

 

「おぉ君か…あれは素晴らしい発想だ、まさか艦娘の特性を利用して人間サイズの軍艦を仕立て上げるとは」

「ん? オラだけのアイデアじゃねぇです。オラの仲間が一緒に考えてくれて」

「そうかそうか…TW機関は近く解体しようと考えている、その代わりの「対亡霊武装技術研究」を是非君たちに依頼したい」

「えっ!? 凄いじゃないかアトラス!」

「榛名、感激です!」

「ま、妥当だわな?」

 

 三人がアトラスの大出世に大いに賑わっていると、当のアトラスは──

 

 

「えぇ、めんどくせ」

 

 

 と一蹴した。あまりのあっけらかんとした態度に、思わずスッこけるエースたち。

 

 

「ちょっっとアトラス君、そりゃああんまりじゃないですかい!!?」

「オラは気ままに機械を弄繰り回せたらそれで充分なんです、でもそれは、アレでしょ? こき使われるヤツでしょ??」

「無論だ」

「んーーーー……だぁ」

 

 アトラスはガックシと肩を落とす、本当は嫌だけど「やるべきこと」だと本人も理解できているようだ。

 

「…ハイ、ワカリマシタ、ガンバリマス」

「なんて考えていることが筒抜けな棒読み具合だ…;」

「心配はいらん。君たちにだけ負担を掛けさせるわけではない、こちらから幾人か人材を派遣しよう、少しは休める時間が出来るはずだ」

「ぅおっしゃらーい!」

「こらこら!?」

「ははは…で、本題はここからなのだが」

 

 首相の低いトーンに、エースたちはすぐさま気持ちを切り替える。

 

「先程も言ったように「TW機関」は近く解体する、しかし亡霊という脅威は捨て置けない。そこで私は新たに「対亡霊対策本部」を設けようと考えている、こうして艦娘が実在することを理解出来たからな? 具体的には先程言及した「対亡霊武装技術研究」と併合して、亡霊の観測及び侵略侵攻の阻止なども考えている」

「成る程…(アトラスはそこに新しく配属されるのか…)」

 

「…そこで君たち「四人」には、その対策本部の"中核"になってほしい」

 

「あ、はい! 俺たちに出来ることな、ら──」

 

 

 ──え?

 

 

 首相の驚きの一言に、思わず固まるエースたち。聞き間違いでないか慎重に尋ねてみる。

 

「あの、つかぬ事お伺いしますが…つまり僕らに艦娘たちを率いて亡霊と戦う、政府の新設機関に入れ。と…?」

「単刀直入に言えば、そうなるな?」

「…全員?」

「ああ。君たち四人と残りの艦娘の諸君にも、是非に」

 

「アト)な」

「狐)ん」

「榛)で」

「エス)すとおぉーーっ!!?」

 

 アトラスの昇進(?)に沸いたエースたちだったが、まさかの全員が政府直属の組織への入団勧告、その事実に思いおもいに驚いてみせるが、春野首相は「当然」と言わんばかりの穀然とした態度で捕捉する。

 

「何も驚く話では無い。君たちには正直なところ感服しているのだよ? 我々が難題としていた亡霊をいとも簡単に撃退せしめたのだからな? 君たちなら適任だ。勿論我々もバックアップする、だから…」

「待って下さい」

 

 エースは真剣な面持ちを作り、春野首相に問いかける。

 

「亡霊と戦うということは、他の艦娘…彼女たちに「死ぬ覚悟をしろ」って言っているようなものです、そんなこと僕たちだけの一存では…」

『──その心配はないぞ!』

 

 何処からともなく声が響く、エースが胸元を見ると、いつの間にか付けられた「ピンバッチ」から通信の声がする。

 

「利子ちゃん!?」

『むふふ! こぉんなこともあろうかと! 盗撮カメラと通信ピンバッチを作っておいたのじゃ! …エースよ、吾輩たちはお前についていくぞ! 面白そうだからな!』

『もう抜け駆けはナシだからね! エース君もフォックス君も!』

『ぴゃあ! 酒匂も頑張るー!』

『私でお役に立てることがあるなら!』

『たえさんカッタイよ〜? ま、アタシもおんなじ気持ちだけどさー?』

『エース君、私は君の用心棒だ。それはこれからも変わらない』

『面白そうね? 私も仲間に入れてね?』

「高木さん、貴女は刑事が…」

『それなんだけど…実は警察を辞めるよう上からお達しがあってね? あんまりにも勝手に動くから要らないって! 酷いわよね? ということで再就職先の確保、手伝って頂戴ね♪』

「えぇ…;」

 

 エースは仲間たちの覚悟…暖かな絆と決意を受け取る、春野首相に向き直ると、首相は改めて問う。

 

「君たちに勝手を言っている事は重々承知している…その上で、どうか国の為に戦ってはくれないだろうか?」

「…僕たちに何が出来るか分かりませんが、それでも…あの亡霊たちを放っておけません。だから…宜しくお願いします!」

「っ! …ありがとう! こちらこそよろしく頼む」

 

 首相が伸ばした手をエースは握り返し握手の形になる、こうしてエースたちは、国と共に「亡霊」に立ち向かう。

 

「ふむ…亡霊か、彼女たちの呼称も改めて付け直さなければ」

「え、それは…」

「良いんじゃね? オッサンは何かアイデアあるのかよ?」

「影二君! 失礼じゃぞと言うておるじゃろ!!」

「(おやっさん、普段のアンタにゃ言われたかねぇよ…)」

「ははは、そうだな…噂では彼女たちのルーツは艦娘と似通っているという、艦娘が善なら彼女たちは「悪」。水底に沈んでしまった艦の積もり重なった憎悪が悪霊になった…深海に棲まいし艦、即ち「深海棲艦」…というのはどうだろうか?」

「ええ、長くね? もっと良いのないの?」

「何だよフォックス、良いじゃんか! 特に「深海」ってのがメチャカッコいいです!」

 

 新たな脅威の名は「深海棲艦」。エースは目をキラキラさせながら首相のネーミングセンスを称えた。

 

「…マジかよ」

「んだなあ…」

「ま、まあまあ…あはは」

 

 ──こうしてこの世界、この時代における「艦娘」と「深海棲艦」との長く険しい戦いが幕を開けた。

 

「…という事で、エース君かな? 君には新設機関の局長…艦娘たちを率いる「提督」になって欲しい」

「あ、はいそれは…え? 提督?! それって海軍の「将」クラスの人たちがなるんじゃ、肩書きだけだとしてもそれは…?」

「いやいや、君にはそれ以上の信念がある。君の平和に対する熱い思いがあれば、周りも文句は言わないだろうさ?」

「え…み、皆?」

「ムリムリ、お前が適任だわ」

「んだなあ?」

「榛名もそう思います! …これから頑張りましょう、エースさん…いえ「提督」♪」

 

「ええええええええええええええええええええええええ!?」

 

 この先の未来の海を守る為、エースたちの戦いもまた、始まる。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「…そうか、何よりだ。…うむ、シンゴによろしく伝えてくれ? ではな…」

 

 アメリカ、ホワイトハウス。ブラウン大統領は電話で日本にいるジュロータ(十郎太)から事情を聞いていた。電話を切ると、大統領は思考を巡らせる。

 

「…そうか、TW機関が。…ふむ、我々も凍結を考えるべきか」

「──そいつは止めた方がいいですぜ?」

 

 大統領の目の前、ソファの向かい側に大の字で踏ん反り座る厳つい男。

 

「日本はあくまでもアメリカを本拠とする機関の「支部」向こうの影響はピーナッツみてぇに小さい、だが…いざこの国の「機関」が停止すれば、アメリカの工業生産力、経済力、市民の生活諸々にリスクがありましょう」

「分かっている、だが…」

「…ふぅーっ。そして、機関から枝分かれした組織も、この国だけでも数百、例え機関が完全に停止しても、そいつらが機関の代替わりになるだけでさぁ? アンタの言いたい事も尤もだ、が?」

 

 葉巻の煙を荒々しく吐き出しながら、男はリアリズムを語る。

 

「そうだな? だが私もいずれはこの席を離れる、そうなる前に平和への足掛けでも出来ないものか?」

「そうですなぁ? ま、出来ればたらればだが?」

「ええい、五月蝿い。少しは大統領を敬え」

「Ha 、"俺たち"にそんなこと言うのはお門違いってヤツですぜ?」

「…まぁいい、今回の依頼だが」

 

 大統領は男に何事かを依頼する、男は鋭い眼光を放ち、静かに任務内容を聞く。

 

「以上だ、質問は?」

「…詰まるところ「好きにして良い」ということですかい?」

「あぁ、だが条件として君の部下も必ず連れて行く事、そうでなければ意味が無い」

「Yessir 、直ちに任務を遂行する、通信終了」

 

 手をひらひらと振り冗談交じりに言うと、大統領は溜息交じりに咳を一つ。

 

「はぁ…うぉっほん!」

「Hahaha、そう目くじら立てなさんな? …んじゃ、早速行って来ますぜ?」

 

 男は立ち上がると、大統領に背を向けそのまま外に出る。

 

「…あまりやり過ぎるなよ?」

「…Roger」

 

 ニヤリと不敵に笑う男、大統領の言葉が届いているか怪しかった。ドアが閉まり、重くため息を吐くと、大統領が言葉を紡ぎながら情報を整理する。

 

「…我々側も何とか目星は付いたが…やはり少ない、今のところ2、3人。増えても4〜5人か? …この呪いの元凶は枢軸(すうじく)国か?」

 

 枢軸国はあの戦いにおける連合国と対を成す存在…。

 

「うむ、掛け合ってみるか…何にしても急がねば」

 

 果たして、大統領の真意は? そして謎の男は何処へ向かうのか…?

 

 

 ──Chapter 「1」 Concluded.

 

 




○まだ見ぬ仲間

エース「春野首相、一つ質問をしていいですか?」
春野「ん? どうしたのかね?」
エース「いえ、貴方の娘さんってどんな感じの子なのかな? と思いまして」
榛名「思い切って聞いてみてしまいました!」
アトラス「んだなあ?」
春野「…やらんぞ?」
エース「違いますよ!? 純粋に興味として…」
春野「冗談だ。…そうだな? 娘はどこか浮世離れしている、というか」
フォックス「おっさんが甘やかしてたんじゃねぇの?」
春野「そんなつもりはなかったのだがな…いや、甘やかされた、というよりアレがあの子の素のままだと思う」
エース「どんな娘か想像つかないけど、首相の娘ってだけで俺たちとは住む世界が違うんだろうな…?」
春野「…ふむ、気になるなら連れてこようか? あの子も同年代の友達が欲しいだろう」
エース「えっ!? なんかすみません…」
春野「ははは! いや気にするな。私に出来ることなら…」
榛名「…あの、お話を変えさせていただきますね? あの化身…ローブの彼女たちは、その後如何ですか?」
春野「ふむ、やはり気になるか? 安心したまえ。彼女たちはこちらで責任を持って預からせてもらってる、あぁ、機関の奴らには絶対に手出しはさせんよ?」
榛名「…ありがとうございます!」
春野「何、私は君たちに救われたのだ、他にも知りたいことがあれば、私の分かる範囲で答えよう」
フォックス「じゃあよ? 榛名や俺たちの仲間以外の艦娘って、どれだけいるんだ? これだけは個人の調査じゃ限界があるからよ」
春野「ふむ…一説では艦娘は「生存艦」が人に転生したと言われている、君たちの仲間も大方はそうだろう?」
エース「はい、でも菊月ちゃんの件もあるし、それだけじゃない気がする」
春野「なら、私より詳しい人を知っているので、その方に聞いてみるとしよう」
エース「お願いします、亡霊…深海棲艦との戦いが本格化する前に、彼女たちの所在を知りたくて、あ! 戦わせるとかじゃなくて彼女たちはそれだけでアイツらに狙われるかもって?」
春野「分かっているよ? しかし状況が変われば彼女たちも戦力の視野に数えるべきだ、勿論私の娘もな?」
エース「えっ!? そんな…」
フォックス「いいのかよ、大事な一人娘だろ?」
春野「良い訳はない、だが…君たちなら彼女を危険に晒すことは無いと、私は信じることにした」
エース「春野首相………っ、はい! ご期待に応えられるように頑張ります!」
春野「うむ…あぁ、その、やはり最初はお茶を入れたりとか、料理を作ったりとか…なるべく戦いから遠ざけるのが好ましい…な?」
フォックス「(あ…)」
榛名「(この人…)」
エース「(”親バカ”だ…)」
アトラス「(んだなあ?)」
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