艦隊これくしょん―七十年後の君へ―   作:謎のks

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 ○前回のあらすじ

 謎の艦娘傭兵団の一人「浜風」と交流を深めるエース。
 彼女はかつて雪風と共に戦場を駆け抜けた仲間だった。雪風は彼女との再会を喜ぶ、同じくその場に居合わせた初霜も、浜風と再び出会って涙した。
 エースはこれを雪風たち「坊ノ岬組」が再び集う予兆と受け取り、彼女たちがもう一度笑い合えるように奮闘すると誓う。
 しかし、浜風の忠告や「あの伝説の大戦艦」が実在するか不安を感じながらも…それでもエースは彼女たちのため、行動を開始するのだった。


第二十二話 護人(もりびと) 2-1

 ──Start our mission .

 

 

 

 

  "深海棲艦警戒を厳とせよ!"

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 深海棲艦との戦い、彼女たち艦娘にとって灰色の怪物との戦いは時と場所を選ばない。

 というのも、彼女たちが近海哨戒(パトロール)をするのは朝七時から一時間程度だが、当然いつ現れるかも分からない脅威なので、六人一組の哨戒班は当番で決められ、その哨戒班は緊急の出撃があるまで「戦闘服のまま待機」することになる。

 その間はアトラス&利子特製「超遠方領域広範囲可視可警備システム」(要するに衛星を利用した、どんなに遠くても深海棲艦を捉える機械警備)が警戒を担う、どうやらレーダーに映らないだけでカメラ映像にはしっかり映るようだ、実際に夜二十時に出撃があったため尚の事である。

 ある者はそのままの格好でマンションまで赴き小休止、ある者は下に戦闘服に着替えて上の普段着で隠す(主に学生組、すげーあっついんだけど? と北上氏)またある者は「コスプレです」と言わんばかりに、羞恥心を感じさせずそのまま日常に戻っていく。

 艦娘として歩むと決めたモノ故の非日常、しかしその警戒心の有無が彼女たちに迅速な行動を促してくれることは過言ではない。

 

 …話は打って変わり、そんな艦娘たちにも「人」としての悩みがある。

 

「…はぁ」

 

 いつものマンション、そのリビングでため息交じりに考え事に耽るのは長門こと「長戸愛理」。彼女は本日の哨戒班の一人であり、一時間の近海パトロールの後このマンションで大人しくしていた。

 長戸は今をときめく若手アクション俳優であり、様々なドラマや映画でその才能を遺憾なく発揮していた。そのため彼女が外に出ようものなら、彼女を取り囲むファンの波は後を絶たないという…ましてや今の彼女の格好は。

 

「…この薄手の戦闘服、かなり動きやすいけど……防御の役割は大丈夫なのかな?」

 

 袖なしの着物を大胆に改造したような服装…いわゆるヘソ出しルックとミニスカート、袖部分には上肢全体を被う長手袋、艤装装着時には首を守るプロテクト、菊紋章をあしらったベルト…と「まるでファンタジーやSF」に出てくるような特撮ヒーローの装いは、彼女の鍛え抜かれた四肢を大いにアピールしていた。しかもスカートが短いせいで少し動いただけで…”見える”。

 

「……うぅ///」

 

 普段から顔を見られる事を嫌がり、風邪マスクで口を隠している長戸。見えているという意識は彼女の頬に羞恥の象徴である桃熱を帯びさせることは造作もないことだった。

 ただでさえ恥ずかしがり屋の彼女が、立っているだけで目立つであろう衣装を纏ったまま外に出ることは…「死んでも嫌だ」と思わせるほど。

 しかし、ロングコートで隠せる分多少の外出なら我慢できるが(それこそ出撃時など)…普段から出歩くことは「蒸発して死ねる!」と豪語する彼女には自殺行為だった。しかしエースや利子から「絶対似合ってるよ!」「うむ!」と言われて悪い気はしていないが?

 

「……はぁ」

 

 だが、長々と語りはしたものの彼女の頭の中にある悩みごとは「それ」ではない。

 

「…父さん」

 

 

 ──数日前、彼女の父から電話があった。

 

 

 内容は、彼女が突然芸能界、並びに俳優活動を「無期限休止」したことについて…少し自分を見つめ直したいから、とそれっぽく言っても彼は納得しなかった。

 それもそのはず、長戸が俳優として歩む道を選んだのは、俳優として成功を収めている父の背中があったからだった。…「随分昔のことだから、分かる人にしか分からないだろうがな?」とは父の言葉。

 それでも、彼女が自分と同じ道を歩んでいくと聞かされた時は、飛び上がるほど喜んだし、長戸も嬉しかった…しかし、彼女自身の内にある「迷い」は、この時の彼女すら知る由もなく。

 俳優としての自分は、彼女の天性の才能も相まって多種多様の人物、人格を演じることが出来た…そう「演じる」のだ。

 演じれば演じるほど、彼女は「自分とは何か」に迷うようになっていった。それは彼女が一切の妥協を許さない性格だからこその悩みだった。

 自分は本当にこの道で良かったのか? ファンや周りの人は自分を見てくれているのか? そもそも自分とは何だ? …そんな纏まりのない考えを、延々と流し、ループして…そんな自分に段々と疲れて来ていた。

 いっそ黙ってどこかに行こうか? そんなことを思うようになった時だった……"彼ら"に出会えたのは。

 突然頭の中に夢として現れた「前世」の記憶、知らない誰かの憎しみ、後悔、和平への想い…彼女がこれまでとは別の意味で大きな悩みを抱えている時分、なんとなしに調べたネットサーチで知った「自分の仲間」。

 そこからは彼女自身も驚くほどのスピードで事が運んだ。サークル仲間との行動、彼らの温かな視線…それは彼女が求めていた「自然な自分を見てくれる人たち」。今まで自分の考えていたことは「些末」なことであったと恥じた。

 故に彼らが国と生死を賭けた戦いをすると言い出した時も、彼女に迷いはなかった…素敵な出逢いを施してもらい、自分を見つめ直すキッカケをくれた彼ら…自分は戦艦長門らしいが、そんな長門のように彼らを守る「力」になれたら…そう願っている長戸。

 だが父はそれを知らず「今すぐ戻って来いっ!」とまるで怒鳴りつけるように長戸をその道に引きずり戻そうとする。

 

「…分かってもらえないことは分かってる、でも……」

 

 父の背中に追いつこうとひたすら演技にのめり込んだ自分、自然な自分を認めてくれた仲間…どちらが正しいとは言えない、悪いのは自分であることも理解している。

 それでも…今この事柄から背を向けたらいけない気がする、彼女の中にいる何モノかがそう告げていた。

 

「………はぁ」

 

 自分の悪い癖、良くない考えをぐるぐると回し続け、真面目な性格が祟りそれに自問自答してしまう。彼女に今足りないのは──"覚悟"。

 

「…よぉ? しけたツラして、何悩んでるんだい?」

 

 そう後ろから声を掛けて来たのは「隼子」、サークルの仲間の一人でいつもお酒を飲んで飄々としている(飽くまで長戸視点)サークルの中でも年長者になる女性。彼女が自分に用事とは珍しい、と長戸は考えた。

 

「隼子さん? 私に何か用事が?」

「いや? 丁度酒買ってきたからよ、一緒にどうだい? 何ならアタシが悩み聞くぜ?」

 

 笑いながら隼子は手提げのビニール袋の中にある缶ビールを指差した。

 

「い、いえ昼間からお酒はちょっと…;」

「野暮なこと言ってるんじゃないよ? 偶には良いじゃねえかタマには? クハッ!」

「……私、お酒弱くて」

「ん? クハハッ、ソイツは配慮が無かった。…いいよそれでも? 麦茶でも飲みながら…アンタの悩み、アタシに聞かせてくれ?」

「隼子さん…」

 

 彼女の優しさを感じ取った長戸は、その言葉に甘えることにした。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 隼子がビール、長戸がミルクを飲み進めながら、長戸は彼女の秘めた悩みを隼子に打ち明けていく。

 

「ふーん? 親父さんがねえ…」

「はい、父さんが怒るのも仕方がないのですが…私のことを誰よりも応援してくれた、そんな父に応えたかった。…こんな親不孝なことしておいて、今更ではありますけどね?」

 

 目を細め申し訳なさそうに、力無く笑う長戸。

 

「でも私は、貴方たちを放っておいてまで自分の夢を叶えても、嬉しくない。…だから貴方たちと一緒に戦いたいって思いました、その気持ちは今も変わりません」

「………」

「それでも、父から帰って来いと言われると…自分がした事は間違いだったのかな? とどうしても悩んでしまって」

「まぁ、この場合はしゃあないわな? アタシらの戦いは誰に言っても理解されないだろうし?」

「あはは…仰る通りです。例え父に全て話しても言うことは変わらないでしょうし?」

「頑固なんだねえ? アンタの親父さん」

「ええ、だからこそ信念を持って物事に当たって…そんな父を誇りに思い、父のような人になりたかった…今思えば私の自信がなかっただけですが」

「ふーん? そう思うか」

 

 長戸の悩みを一通り聴き終えた隼子は顎に軽く手を当て、何かを思案している。程なく隼子は彼女らしい答えを掲示した。

 

「…じゃあさ? お前も持ってみたら、信念?」

「え?」

 

 隼子の短く単純な言葉に、思わず呆けて少し口が開いてしまう長戸。

 

「だってさ? 親父さんの背中追って来たんだろ? だったら…アンタなりの覚悟で親父さんの信念とぶつかっていかにゃ、この先もずっと後悔していくことになるぜ?」

「…私の、信念?」

「思いっきりやらにゃ向こうも納得しねえ…ソイツはお前が一番よく分かってんじゃねえのか?」

「…………」

 

 隼子の言葉通り、父を納得させるには全力を尽くしていかなければならない。それは長戸自身よく分かっている。

 

「聞かせてくんねえか? アンタの…長戸愛理の信念ってヤツを」

「……私は」

 

 長戸の膝に置かれた拳に力が入る、熱い思いが込み上げてくる。

 

「私は…仲間たちを守りたい、かけがえのない友達を。前世の「私」と…今の「私」の気持ちは、これからも変わらない」

「ソイツは何故だい? アタシらは前世からの仲かも知れないが、何故アンタはそこまでアタシらを守りたい?」

「…決まっています」

 

 長戸は立ち上がると、威風堂々とした雰囲気に変わる。

 

「助けたいから。エースさんや榛名さんたちのような正義は「私」にはない。──だが! 我らは今、この時代に集いし同胞(はらから)! なればこそ!! 理屈を越えた繋がりに準じて、私は愛おしい彼らを、この世のあらゆる悪鬼羅刹より護る!!!」

 

 理由などない、私はただ仲間を守りたいだけ。

 そう言おうとした長戸だったが…熱が入った彼女の「演技スイッチ」により、大仰な言い回しになってしまった。

 

「…っは! いいじゃないか! アタシは好きだよ? アンタのそういうとこ!」

「………はっ!? あ、はは…すいません」

「いやいや謝る必要ねーから?」

「すみません…」

「さっきの自信はどこいったんだい? クハッ、全く面白いねえ! こりゃ酒の肴にゃ丁度いい! クハハハ!!」

「っはは……そうか、こんな簡単なことだったんだ…!」

「…どうした?」

「隼子さん、ありがとうございます! 私………?」

 

 長戸は「答え」を見つけた様子だったが、そんな彼女の携帯電話に「エース」から着信が入る。

 

「エースさん? (ピッ) …もしもし?」

『あっ、長戸さん? また深海棲艦が出たみたいだ! さっき利子ちゃんから連絡があって』

「っ! …分かりました! すぐ行きます!」

 

 長戸は電話を切ると、バッグとロングコートを手に取る。

 

「行くのかい?」

「はい、私は「長門」として皆を守りたい、それが…私の「信念」ですっ!」

 

 そう威勢よく啖呵を切る長戸、彼女の勇ましい姿を見て隼子はニヤリと笑う。

 

「その意気だ。…っしゃ! 行っといで!!」

「はい! ありがとうございました!!」

 

 短いやり取りを交わし駆け出す長戸、その背中を見守る隼子。

 

「…頑張れよ!」

「っはい!」

 

 言葉は決して多くはないが、彼女たちの中には確かな絆の光が宿っていた。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──バタンッ

 

 玄関の扉が勢いよく閉まる音、それを耳に響かせながら楽しそうに笑う隼子。

 一人マンションの一室に取り残された彼女は、徐に携帯電話を取り出すと、そのまま何処かに電話を掛けた。

 

 ──ピッ

 

『…もしもし?』

「よぉ「天海(あまみ)」? ちっと頼みごとがあんだけど?」

 

 隼子は(おそらく知己の間柄の)電話の相手に対して、何事かを頼もうとしていた…しかし、重苦しいため息を吐くと、天海と呼ばれた女性は呆れたように話す。

 

『ジュンちゃん。貴女自分が何を言ってるか分かってる? 家を出て上京して、その上で今まで連絡もしないで、やっと連絡が来たと思えば、一方的に「頼みを聞いて」だなんて…はぁっ、もう…貴女は昔から…』

 

 電話の相手は隼子を詰るように現在の状況を綴る、隼子は申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「わ、悪かったよぉ。天海にはホンットに迷惑してるなぁってんで、一人前になるまで電話かけねぇ! …って意気込んじまってよ?」

『人として一人前になりたいなら、貴女の「お役目」を果たす事が先でしょうに。…貴方の家の人たち、凄く心配してたわよ? 特に貴女のお父様』

「っひぃ〜!? オヤジ怒ってた…?」

『えぇ、でも貴女の決めた道にどうこう言うつもりは無いって? だから…幾ら苦手でも連絡ぐらいは?』

 

 隼子はその言葉にウンウン頷く、そして…"本題"を切り出す。

 

「…なぁ、アタシらの「道具」コッチに送ってくんね?」

『…っ!?』

 

 その言下、電話の相手は驚天動地の様子で隼子を問い詰めた。

 

『ジュンちゃん! そっちで何があったの?! まさか…!』

「違えよ。まぁ…そっちの"バケモン"より厄介なヤツがな? 詳しくはここじゃ言えねぇけど」

『…そう。でも私に聞かなくても貴女の家に頼めば、それで解決するんじゃないの?』

「まぁそうなんだけど…やっぱオヤジの居る手前、頼み辛くってさぁ?」

 

 隼子は恥ずかしそうに頭を掻いた、それを聞いた相手は…又も呆れた様子で話す。

 

『…はぁっ、分かりました。枚数は適当で良い?』

「いんや、結構長引きそうだからな? 送れるだけ送ってくれ」

『もう、本当は駄目なんだよ。…今回だけだよ?』

「サンキュー天海、やっぱ持つべきものは友達──」

 

『──その代わり』

 

 電話の相手…天海の「交渉」を感知した隼子は固唾を呑んだ。

 

『…一旦こっちに「戻って来る」こと、それが出来るなら…力を貸してあげる』

「…まぁ、そう来るよなぁ?」

 

 今度は隼子がため息を吐くと、意を決してそれを承諾する。

 

「──分かった。どの道ソッチにも話したいことがあるしな?」

『…良いんだね?』

「あぁ、アイツらのためだ。この鷹野隼子が一肌も二肌も脱いでやるさぁ! クハハッ!!」

 

 何やら覚悟を決めた様子の隼子、それを聞いた天海は満足そうに笑っているようだ。

 

『ウフフ、貴女がそこまで惹かれるなんて…そっちに大切な人たちが出来たんだね?』

「まぁほっとけないっつうか、手を貸したくなるっつうか…な? …んじゃ頼んだぜ?」

『えぇ、それを送ったら…待ってるからね?』

「…あぁ」

 

 ──ピッ、ツーツー…

 

 天海との通話を終えた隼子は、人知れず天を仰いだ。

 

「…どうなるかねぇ? まっ、やるだけやってみらぁな!」

 

 誰も居ないマンションの一室で、鷹野隼子は一世一代の「大博打」に打って出ようとしていた…。

 




「護人(もりびと) 2-2」へ続く…。
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