※こちらは第二十二話の”後編”となります、前編をご覧になられていない方は「2-1」を先にご覧ください。
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──日本近海、深海棲艦邂逅ポイント。
榛名を旗艦とし、艦隊一行は一路「敵予想遭遇ポイント」へと赴く。突如として現れた「脅威」を対処するために。
「…居ました! アレです!!」
双眼鏡を携えた青子が指差す先には、新たな深海艦隊。その先頭には──異様な出で立ちの怪人──(おそらく)女性が立っていた。
『………』
凍りついたような白く生気のない肌。
漆黒の衣装と理知的な顔は、どこか人間染みていて。
──それでいて両手には大楯と見紛う艦砲を装着している。
彼女の情報は、既に日本政府が割り出していた…彼女は深海戦艦「ル級」。その両手の武装は如何なる砲撃爆撃を防ぎ、爆砲は如何なる鉄鋼をも砕き割る。
その破壊力から戦艦クラスと断定された、個体数はヲ級と同じく少ない方だが、脅威には違いない。下手を打てばあの「日本転覆未遂事件」より甚大な被害を齎し兼ねない相手だった。
しかし戦艦ル級…実力が計り知れない相手ではあるが、戦艦が「火力、装甲共に強力」であることは周知の事実であろう。であれば…彼女が艦隊先頭で、まるで一行の行く手を阻む壁のように聳え立つ限り、下手な攻撃は通じない──果たして彼女の攻略法とは?
「スピードで撹乱して後ろを取る、という方法がありますが?」
「なるほど…では私が!」
「いや榛名、君のスピードについていけるモノはあまりいない、この前の龍美を見ただろう? 君か孤立してヤツらの砲撃の餌食になる可能性がある」
青子と榛名の意気を日向が諌める。前回の矢矧たちとの戦いとは状況が違う、幸いか敵艦隊の編成は「戦艦(ル級)一隻、駆逐イ級五隻」であり目先の脅威としてはル級のみだが、単艦になるというなら話は別だった。
戦艦ル級の後ろにいる駆逐イ級が目を光らせている以上、日向の言う通り(艦隊の強化が不十分な今)その方法は得策ではない。
「ど、どうしよう…;」
「どうしようもなくない〜? 無理ぽ乙〜」
潮音、北上が諦め気味にぼやいている。榛名は状況打破のため、指揮官であるエースに指示を仰いだ。
「エースさん、何か作戦はありませんか?」
『そうだな…戦艦は砲撃の射程距離が長く、それでいて火力も他の巡洋艦と比べても段違いだ、下手に突っ込むと…どこから砲撃が飛んでくるか分からない』
戦艦の一番のアドバンテージは、強力な攻撃を行えるという先入観にも似た念頭にある、射程距離を間違えればそれこそ「一撃必殺」で屠られることは確かだ。それを理解しているのか、敵艦隊は榛名たち艦隊の周りをこれ見よがしに滑っていた。
対処法として有力なのは、空母の艦載機で上空からの「航空爆撃」がある。しかし…最初の戦いで不意打ちの爆撃を落としたばかり、相手もそこは流石に警戒している筈。
まともに戦闘機を動かせるのは、今のところ龍美(龍鳳)のみ、敵の対空警戒も厳となっていると予想する。なので今回は無難に「戦艦三隻(榛名、長門、日向)」を伴った編成となった。
「うぅむ、龍美以外にも空母が居れば話は単純なのだが?」
日向の言葉に一同は肯定的に頷く。エースもそれを踏まえて思案している様子。
『空母艦娘か…リカルドの言うことが本当なら、そんなに数がいないからなぁ…』
「どうしましょうか?」
『何にしても、あのままにしておくわけにはいかない。先ずは敵と距離を取って、榛名たちが攻撃を加えている隙に、潮音ちゃんたちの魚雷で…運よく戦艦の彼女に当たってくれることを祈るしか』
魚雷はあの戦いでも駆逐艦たちの主要兵装であり「大物喰らい」と呼ばれる所以でもある、海中を疾る鉄の槍はそれこそ「一撃必殺」に如何なる障害をも貫いてきた。
…しかし最初の戦いでも、魚雷は「計算し尽された着弾位置予測能力」が必要とされることは明白だった。今回の編成では魚雷を装備しているのは「潮音、北上、青葉」の三名、最初の戦いで四名の魚雷一斉発射にも関わらず当たったのは「一隻」のみ、もちろん魚雷の数にも限りがあるため、無闇矢鱈に撃つわけにもいかない。
かといって(極論だが)艦隊全員を駆逐艦にしても、戦艦ル級の砲撃の前に「全滅」も有り得る。だからこそ大事を考え戦艦三隻の編成となったのだが?
「本当は青子ちゃんの言う通り、駆逐隊を編成して相手を撹乱したいところだけど…今の潮音ちゃんたちに戦艦退治を任せるのは、俺には出来ない…ごめん」
「エースさん…」
本来であれば駆逐隊編成も戦艦撃破への術であるが…リカルドの本格的な訓練も始まらない以上、潮音たち駆逐艦娘の練度底上げもままならない状態、素人同然の潮音たちだけでどうにか出来る相手か? エースの親心のような気持ちを、潮音も理解していた。
今の自分たちの力で、果たして倒せるのか? 立ちはだかる強大な壁にエースたちが足踏みをしていると…?
「──エースさん、お願いがあります」
不意に長戸が口を開く、何事かと振り向く一同。
「私に…単艦での敵艦隊との交戦の許可を」
『…っ!?』
驚くべき発言。長戸は「戦艦長門」として、敵艦隊との戦いを望んだ。
『…長戸さん、それは一番危険な方法だよ? 潮音ちゃんも理解していると思うけど…艦隊行動で勝手に動くことは「自殺行為」なんだ。貴女はそれを分からない筈はない。なのに…急にどうして?』
エースは優しく宥めるように長戸を説き伏せようとする、最初の戦いで同じようなことを仕出かした潮音も、今回はエースに賛同して頷いていた。
…しかし長戸はその説得で引く気配を見せない、引き締まった顔で敵を見据えながら、凛とした口調で抗弁した。
「現状あの強固な壁を打ち破れるのは、今の艦隊では戦艦級しかいません…なら、その中で一番火力がある私が行くべきかと」
長門型戦艦は一時期「世界の楔」としても活躍するほどの戦闘能力を有していた。…尤もな意見ではある。だが…肝心なところが抜けていた。
『駄目だ。それだと単艦特攻の形を取ることになる、先程も言った通りその行動は貴女の命に関わる、許可は出来ない』
何度も言うように艦娘は「鋼鉄の肌」と「高い身体能力」を発現している、しかしそれ以外は「人間」とほぼ変わらない。艤装なしに海を渡れるわけでもなく、水中で息が長く続くかも怪しい、更に艤装は急に外せるように設計されてはいないようで、仮に甚大なダメージが入れば利子特製の「水上反発装置」は機能しなくなり、重力の法則に則って暗い海の底に消えるのだ。
艦娘も「超人」ではない、ということだ。如何に尋常ではない身体能力あれど疲労も重なる。長戸がやろうとしていることは、そういった当たり前の危険が伴うものだった。
『さっき日向さんの言った通り、艦隊から外れて単艦になれば、貴女が敵の集中砲火を受ける可能性が高い。…長丁場になるけど、ここは相手の隙を伺いながら慎重に戦おう』
「…長戸さん、ここはエースさんの指示に従いましょう」
命のやり取りをしている以上、危険な行動を指揮官であるエースが許すはずもない。榛名も諭すように長戸に促すが…?
──ズンッ!!!
「っ!!?」
突如鳴り響く轟音と熱気…榛名たち側から発射された必殺の一撃は、ル級の黒壁を掠める。──夾叉。
『……ッ!?』
驚き睨むル級の眼前に立つのは…護国の武人「長門」。
「戦艦長門…推して参る!」
「長戸さん!」
『一体何を…!?』
「エースよ! お前は見当違いをしている。私は「戦艦長門」…長門型の装甲を侮るなっ!」
『っ! 長戸さん…?』
エースは長戸の突然の変わりように違和感を覚える。
「…榛名さん、後はお願いします」
仁王立ちで佇む長戸が榛名にポツリとそう言うと、「長門」が単艦突撃の格好で前に進み出て、ル級に向かいもう一発砲撃……今度はル級の艦砲に着弾するも、当然ル級は反撃に出る。
『………ッ!!!』
「長戸さん!?」
『無茶はやめろ!』
叫ぶ榛名たちだが、彼女たちの声は長門とル級、二隻の艦砲射撃の轟音に掻き消される。
「…っふ!!」
長門は腕をクロスさせると、顔の前に構えて防御の姿勢。ル級の砲撃を受けるが──硝煙から出てきたのは。
「効かぬわ!!」
『…ッ!?』
ほぼ無傷の長門(艤装も掠り傷程度だ)、防御を固めたままもう一撃を放つ。
『(ズドォン!)…ッ!!?』
二発目命中、しかし黒壁も中々崩れない。長門はそれを確認すると…そのまま一気に距離を詰める。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
力任せの強行突破、ル級とイ級敵艦隊は驚きながらも反撃する。
──ズンッ、ズンッ、ズンッ!!!
敵の艦砲一斉掃射、そこかしこに乱れ建つ水柱、更に追撃と言わんばかりの「敵の雷撃」らしき海中の影も見える。しかし長門はそれらを「天性の肉体センス」で避ける、時には「拳で」砲弾そのものを弾き返して見せる。正に無敵無双の活躍。
戦艦級、長戸自身の戦闘能力、相手の意表を突いた行動…それらが重なり合った結果………ル級は遂に間合いを許してしまう。
『ッ!!?』
「…ごめん」
長門の近距離艦砲射撃、力の伝導が距離が近づいた分強力となり、より轟音と爆音が空間を震わす。
『──ッ!?』
三発目、より強力になった砲撃に思わず体勢を崩すル級。長門はその隙を逃さない。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ゼロ距離から腕を振りかぶり、握りしめた拳骨をそのまま相手の貌に叩き込む。体全体を捻り回転させ威力を倍増させる。
艦娘の力の補正も相まってか、黒壁の隙間から放った渾身の一撃は、ル級の顔面を捉え、ル級はそのまま海面に叩きつけられる。
「──今だ!!」
長門が振り向き様に榛名たちに向かって叫ぶ、ル級が転倒しているこの隙を「狙え」そう言っているようだ。
「っ! 砲撃用意!!」
榛名の号令、長門はバックステップの要領で敵を見据えながら後ろに滑り出す。
「撃てええええええっ!!!」
「全艦…砲撃開始!」
長門が叫ぶや否や、榛名たちは敵艦隊に向けて一斉砲撃…敵随伴の深海駆逐艦は、金切り声のような叫びを上げると、悉く砕け散っていった。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーッ!!?』
榛名と日向の砲撃威力も相まってか、深海駆逐艦を「三隻」撃破に成功。残りは「ル級と駆逐イ級二隻」となった。敵の数が減った以上、勝利は目に見えて明らかだった。
「や、やった…!」
『ッ! ……aaaaaaaaaaaaaaaa!!!』
しかし、怒りを狂声に変えてル級は再び立ち上がると、長門に向けて爆炎を発した凶弾を撃ち放つ。…生かしておくまいと、長門を道連れにするように。
『長戸さん、逃げろおぉーーーっ!!』
エースが必死の形相で叫ぶ、しかし…事は最早「風前の灯火」であった──
「…はっ!?」
──ズウゥン!!
「っ! 長戸さん!?」
ル級の砲撃は、長門の急所を突いた。…榛名の目に映ったのは、艤装にダメージを負い衣服も焼け破れてしまった長門…有り体に言えば「中破」の状態に晒されていた。
「…っく!」
矢張り砲撃を受けても五体満足であったが、ダメージの蓄積と疲労が重なり、膝から崩れそうになる。…それでも歯を食いしばり耐え抜き、立ち上がってみせる。
「まだ…こんなので……やられるものかっ!!」
長門型の装甲は伊達ではなかった。しかし瀕死の状態に追いやられていることも事実。ル級はしたり顔で嗤いながら、トドメの一撃で確実に仕留めようとする。
──ズドンッ!!
「っ!!?」
「──長戸さん!」
凶弾が放たれた直後、事前に艦隊を離れていた榛名は、長門の下へ駆け寄ると間一髪のところで彼女を救うことに成功する。
「はあぁ!!!」
榛名の必殺の回し蹴りが炸裂、ル級の凶弾にクリーンヒットし、速さと威力が増した砲弾をル級にリリースした。
『ッ…!!?』
しかして未だ致命傷は与えられず、ル級は忌々しげに榛名を睨みつける。
「榛名さん…」
「えへへ…本当は旗艦が艦隊を離れちゃ駄目なんですけど、日向さんが代わりにやっておくからって、甘えちゃいました?」
少し気恥ずかしそうな榛名を余所に、"長戸"は申し訳なさそうに顔を俯く。
「…すみませんでした。私…焦っていたのかもしれません、榛名さんたちを守れるくらい強い自分になりたくて、だから…」
「だから…あんな無茶をしちゃったんですね?」
榛名の回答に、長戸は黙ったまま肩を震わせていた。
「…怖いんです、皆を失うのが…私はどうなっても良い、でも…榛名さんや皆を守れないまま、何も出来ないで終わるのは…嫌なんです…っ!」
重い口からぽつほつと本音を零す長戸、護りたい…彼女のその思いに、榛名は大きく頷いて共感を示した。
「解ります。大切な人たちを守れないで終わるのは…凄く…悲しいですよね。だから…必要以上に頑張ろうって、どうしても思ってしまって」
「っ、榛名、さん……っ!」
「でも…長戸さん? 貴女が私たちを護りたいように、私たちも…貴女を「守りたい」そう願っているんですよ?」
「…っ!!」
泣き崩れそうになる長戸に向けて榛名が投げた想いは、彼女の胸に深く突き刺さる。
何という事はない、ただ皆も同じ気持ちだというだけだった。彼女の信念は…榛名たちも抱いていた願いだったのだ。
「今回は貴女の機転のお陰で、この場を突破する切っ掛けを得ることが出来ました。ありがとうございます、長戸さん。でも…あまり無茶は止めましょうね? きっとエースさんも…悲しむから」
「…っ、本当に…ごめんなさいっ!!」
深く頭を下げて、心からの謝罪を表す長戸。そうしてゆっくりと体勢を立て直すと、涙を手で拭い取る。
「…私、もう迷いません。榛名さんたちを護る、でも…一人で解決しようとすることは、もう絶対にしません。皆と一緒に、全て…必ず護ります!」
「…はいっ、約束ですよ?」
どこか吹っ切れた様子の長戸を見て、ニコリと笑う榛名であった。
──ズドォオン!!!
『aaaaaaaaaaaaaaaa!!!』
獣の咆哮が木霊する、気づけば辺りに水柱が乱立していた。先程の凶弾も夾叉である、このまま動かないままは不味い。
「長戸さん!」
「はいっ!」
榛名と長戸は一斉に海上を駆け出す、ル級は尚も砲撃を乱れ撃つ。
──ズゥンッ!!
幾度となく放たれる砲撃の嵐、榛名たちの前にしぶとく立ち塞がるル級。……榛名と長戸はル級の周りを旋回しながらも、腰に携えた主砲をル級に照準を合わせる、そして──同時に鉄火を放つ。
「「ってえぇーーーーー!!!」」
二人の戦艦級の主砲が、ル級の黒壁を捉える、そして…豪快な崩壊音と共に怪人を穿つ。
『aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaーーーッ!?』
着弾、刹那に広がる爆炎と鳴り響く断末魔。
「…どうだ!?」
『……a…ア………ッ!』
敵の黒壁は無様にも半壊し、砲身も拉げて使い物にならなくなった。
中破──ル級は忌々しげに長門たちを睨むと、そのまま身を翻し戦場を離脱した。イ級二隻もその後に続く。
『…敵の撤退を確認、作戦終了。…っふぅ、良かったぁ〜!』
エースは短く戦闘終結を告げると、息を吐きながら脱力する。
「…ふぅ」
「…長戸、少し良いか?」
榛名たちと合流を果たした日向たち、旗艦代理の日向は榛名が言えなかったことを代わりに長戸に問うた。
「何故あんな真似をした? 確かにこの勝利は君のお陰だろう。だが…あんな無茶をしていたら、いつまたあの状況が起こり得るか分からんのだ、それを理解しているのだろうな?」
「……はい、私は焦っていました。そのせいで艦隊に危険を及ぼした…私は」
「違うっ!」
長戸の謝罪の言葉に、日向は怒りを露わすように長戸の胸倉を掴んだ。
「そんなことをしてまで「一人で背負い込むな」と言っている! ここに居る皆は…誰もお前が傷つくことを望んでなどいないっ!!」
「日向さん…」
日向は彼女の激情を湛えた思いを長戸にぶつける、対する長戸は──
「それでも、皆を護りたかったから」
「っ!」
長戸から出た静かな回答は、彼女の信念を表すようにどこまでも透き通っていた。
「私の中で前世の"長門"が叫んでいるんです。…今度こそ、どんな結果が待ち受けていようと、貴女たちを守りたい「守らなくてはならない」と」
「長戸さん…」
「勝手を仕出かしてすみません、ですが…私も、本当の私を見てくれる貴方たちを、必ず護りたいと願っているのです」
長門は微笑んだ、力を尽くした果てに結果を得た、全力を出した後に来る脱力の笑顔。
そんな彼女を見ていると、次第に怒りが薄れていった日向は…長戸の胸倉を掴んだ手を離した。
「…ふっ、もうあんな真似はしてくれるな? お前の気持ちは皆も分かっているだろうから」
「あ…ごめんなさい、日向さん……」
「いや…私こそすまなかったな?」
「いや〜日向姐さんは熱血すなぁ?」
「き、北上さん…;」
北上が茶化し、潮音が諫める様子に艦隊には自然と笑顔が溢れた。
『…長戸さん』
「…? エースさん?」
『貴女の気持ちを考えられなかった俺の責任でもある。…ごめんね? それから…ありがとう』
エースもまた、長戸の敢闘を讃え温かな笑みを浮かべる。
「っ! …はいっ!」
長戸は、これからも全力で走り続けるだろう……彼女のかけがえのない仲間たちを、守るために。
──Mission complete .
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『…そうか、それがお前の気持ちか』
「うん…」
『解った。お前の好きにやりなさい、だが…疲れたらいつでも戻っておいで』
「ありがとう父さん。…それじゃあ」
──ピッ
「ふぅ…っよし!」
長戸の足取りは軽い、その希望はいつか彼女の未来を護る力に変わると信じて…。
〇バイト
榛名「そういえばエースさん、ばいと? はどうされたのですか? 最近はゆったりとしているというか…?」
エース「あー分かる? 実はバイト辞めたんだよ、こんな状況だし?」
榛名「えっ!? …ですが確かに致し方ありませんね?」
エース「うん…いやぁ色々隠しながら事情を説明するのは骨が折れたよ~はは」
榛名「お、お疲れ様です…。でも一体どのようなバイトを?」
エース「えっと? 朝から昼頃までコンビニだろ? 夜にホテルの清掃と…榛名たちと出会うまでは、昼から夕方まで工場で荷物整理してたかな」
榛名「そんなに…お体は大事になさって下さいね?」
エース「はは、ありがと榛名。俺基本的に身体動かすの好きだからさ? 何か皆の役に立つことをって思ってね?」
榛名「うふふ、エースさんらしいです♪」
エース「そうかな? でも辞めて良かったよ、だって──」
エース「榛名の笑顔が、いっぱい見られるようになったからさ」
榛名「…っ!」
エース「……ん? っはぁ!!? ご、ごめ、い、今のなし、ナシッ!!」
榛名「あの……その…わ、私洗い物してきますっ!」ダッ
エース「あっ!? …ぅう、しくったぁ…なあぁ! 俺何であんなことを……っ!」
???「こうしてバイトを辞めて自分を偽ることも止めたエース」
???「ここから二人の距離は急接近! どうなる恋の羅針盤!!?」
エース「やめんかオノレらぁ! というか何時から居た!?」
フォックス「ふふふ…俺らは「エースと榛名の恋路を見守る会」もとい」
龍美「「二人の羅針盤を乱す会」だよ!」
エース「なんじゃそりゃ!? いや羅針盤乱したらダメだろ?!!」
フォックス「ってかいつくっつくんだよお前ら〜?」
龍美「ワシは早く孫の顔を拝みたいのじゃがなぁ~」ぷるぷる
エース「いや、ホントに俺、今のそういうんじゃないから!?」
フォックス「今更言い訳すんなよ~なー?」
龍美「ねー?」
エース「こんな時だけ仲良くすんなああああああ!!!」
・・・・・
榛名「……(っす)」
榛名「胸の鼓動…まだ早いまま……どうして?」
※彼女がヒトの気持ちを理解するのは、少しだけ遠い未来──