艦隊これくしょん―七十年後の君へ―   作:謎のks

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 ○前回のあらすじ

 潮音は、任務でよく一緒に行動する北上がよく分からないでいた。
 何故一人だけ本名を名乗らないのか、仲間たちをどう見ているのか…それが気になった潮音は、いつものマンションにて北上と二人きりの時、その疑問を尋ねる。
 北上は過去の誤ちから「人間不信」となり、あの初めての出会いの時も、不信感から名前を言い出せなかったという。
 しかし、エースたちの優しい人柄、仲間たちの温かな眼差しは、確かに彼女に伝わっており、彼女なりの「戦う覚悟」も聞き出せた。
 その時潮音は、改めて彼女の名前を尋ねた。北上は気恥ずかしそうに…。

 ──上瑠(ほづる)、と名乗った。



第二十九話 朝陽

 夏の日差しが燦燦と照らす昼下がり。

 

 他愛もない会話に談笑しながら、穏やかなひと時を満喫する三人の女子がいた。

 

 初花、浜風、雪…彼女たちの共通点、それは坊ノ岬。前世でのあの最後の戦いを共に駆け抜けた盟友である。

 

「そう…浜風も雪ちゃんと同じなのね?」

 

 公園のベンチ、並んで座る三人、初花はどこか哀しそうに隣の浜風を見つめながら言う。

 浜風は自身の出自を知らない…孤児院で暮らす雪と同じだと。

 

「はい、私自身はそこまで気にしてはいないのですが…」

「私も! 院長も優しいし初花ちゃんたちもいるし!」

「うふふ、ありがとう。…でも、ちょっと羨ましいかも」

 

 二つ隣に座る雪の、その信頼の眼差しに初花は嬉しく思い、同時に憂いを帯びていた。その様子を不思議そうに見つめる二人。

 

「どういう意味、初花ちゃん?」

「あっ、ううん! でも…私は初花であり、初霜だから。艦娘としての使命を果たすには…初霜としていた方が良いのかな?」

「えっ?」

 

 初花の真面目とも天然とも取れるその発言に、二人はほぼ同時に驚く。

 

「…っあ、もちろん私は「霜野 初花」だよ! でも…私って記憶を垣間見ているだけで、本当の初霜じゃないと思うんだよね。だから…時々どっちが本当の私か分からなくなるより、二人みたいに…」

「兵器として迷わず戦えるなら、どれだけ楽だろうか…ですか?」

「え…?」

「もう、浜風っ!」

 

 初花の言葉に辛辣に返す浜風に、流石の雪も苦言を呈する。あまりの言い様にポカンと呆ける初花だが、しかし構わず浜風は続けた、あくまで真摯な態度で。

 

「初花、それが貴女なりの悩みであり、迷いであり、覚悟であることは重々承知しています。ですが…私はそれは違うと思います」

「浜風…?」

「なんであれ、人として生を受け、温かな家庭があることは素晴らしいことです。我々は…望んでこの道を歩んでいるわけではない。それこそ、貴女が羨ましいと思うこともあるぐらいに」

「…っ! そんな…やだ、私ったら…ごめんなさい、そういうつもりで言ったわけじゃ」

「いえ、私こそ出過ぎた真似でしたね? しかしもう一つお節介を。…自分が今を生きる「人間」であることを、どうか忘れないでください。貴女には帰るべき場所がある、それは…何物にも代え難いものでしょうからね」

 

 にこりと微笑む浜風は、どこか寂しそうだった…。

 その時初花は思い至る。例えば雪は、人としての過去の記憶を消されて「艦娘(艦艇)」の過去と「雪である現在」でしか、存在という立証が出来ない。過去の自分が何者であったのか分からない、まるで足場の安定しない暗闇の道を歩かされているようなもの、浜風も同様の心情だろう。その内なる影を…初花は理解出来なかったのだ。

 

「(浜風や雪ちゃんは「怖いんだ」。自分が何者か分からない得体の知れない恐怖があるんだ。…私は…軽はずみになんてことを)」

 

 自分と彼女たちには有るものと無い物。それは人間にとっては当たり前であり、兵器の側面しか持たない彼女たちには異質なもの。…家族、血の繋がりを持つ唯一の存在証明。

 もっと艦娘として強くなりたい、そうすれば…いつか会える仲間たちと肩を並べて戦える。だから(例えなりきりだとしても)初霜であるべきかもしれない、そう思っていた…が、やはり「今の自分」では、それは難しいと悟らされた。

 彼女たちの言葉に胸を締め付けられる。自分には…彼女たちと心を通わすことは無理なのか?

 

「…私は」

「もぅ浜風ってば、初花ちゃんはそういう意味で言ってるんじゃないよ! 真面目な初花ちゃんだから、ちょっと…言葉のアヤ? だったんだよ!」

「えぇ、すみません。やはり出過ぎた真似だったようです」

「うんうん。…っあ、そういえば。ねぇ初花ちゃん? 初花ちゃんにはお兄ちゃんお姉ちゃんって」

「ご、ごめん! …用事あったこと忘れてた。い、急がないと、それじゃ!」

「っあ、初花ちゃん!?」

 

 雪の問いかけに答えず、半ば強引に話を切り上げてその場から走り去っていく初花。

 

 その目には、悔しげに涙を滲ませていた…。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 霜野初花(しものいちか)…彼女にとって、艦娘たちのサークルは自らの「第二の家」といっても過言ではなかった。

 

 学業では成績も優秀で、品行方正、口調は丁寧敬語…と絵に描いたような優等生の彼女。だがこの輪に入っている間は、彼女を覆っている殻は砕け、素のままの状態な彼女を、彼らは受け入れてくれる。それが…彼女にとって一番の喜び。

 偶然にも、初花は「前世の記憶」と呼ばれる現象に遭遇した。彼女の記憶は、初春型四番艦「初霜」のもの。

 初めは戸惑い、それをどう受け入れるべきか悶々とする日々を送っていた…程なくその過去の因縁とも言える関係から、同じクラスだった「潮音」と知り合う。

 始まりは放課後、静かな教室を眺めながら考え事をしていると、隣でもじもじしていた潮音が、顔を真っ赤にしながら話しかけて来た。

 

「あ、あのっ! …い、良い天気の朝、ですね?」

「っえ?! …もう夕方だけど?」

「っはわ!? ごごごごめんなさい!」

「だ、大丈夫。…っふふ」

 

 流石に驚きを見せるが…同時に嬉しかった。

 彼女は同じクラスの一部の子供たちから「優等生」と揶揄されていた。もちろん孤立しているという意味ではなく、よくある「完璧への反発」という人間の本能ともいうべき精神故のもの。むしろ彼女は多くの老若男女より持て囃され、その中心として日々を過ごしていた。

 しかしそのためか彼女の周りには見えない壁が構築され、誰も彼女を対等な友人として接しようとするものは居なかった。どこかぎこちない関係、特別な存在…そんなところか。

 言ってしまえば事実的な孤独であったが、そこまで窮屈には感じなかった。コミュニケーションを否定されているようには感じなかったし、生来の暢気な一面もあり閉塞感はなかった。

 だがどこか空虚にも感じ「物足りない」と思っていたのも事実。そんな折の黄昏時の会話から見つかった共通の話題、それは「心からの友達が出来た」という初花にとっても喜ばしいもの。

 

 こうして初花は潮音と共に「艦の記憶」を調べるために動き始める…まるで物語の主人公のようだ、と初花は夢見心地に思った。

 

「一緒に頑張ろうね、潮音ちゃん」

「う、うんっ! …えへへ」

「うふふ…」

 

 潮音の飾らない柔らかな笑顔を、初花は今でも脳裏で思い出す。

 …そして艦の記憶を調べていく、その過程で潮音がネットサーフィンして見つけた「前世の記憶を語り合うサークル」の情報、ただそれだけではなく。

 

「なんかね、船の記憶って言ってて…」

「えっ!? じゃあその人たちも?」

「わ、分かんないけど…これって、お話聞いた方がいいよね?」

「そ、そうだね。…潮音ちゃん、どうしたの?」

「うん…知らない人とお話しするの慣れてないから、どうしようって…」

「そんなこと? 大丈夫だよ潮音ちゃん! あの時私に話しかけてきたみたいなものだよ、少しの間は緊張しちゃうかもだけど、きっと良い人たちだから、潮音ちゃんのことも受け入れてくれるよ!」

「初花ちゃん…う、うん!」

 

 そして初花たちはエースたちと出会い、艦娘の仲間たちと親睦を深めていく…。

 本当は少し怖いとも思ったが、初花が思った以上にエースたちの懐は温かく、何より自分に対等に接してくれる。この距離感は初花に足りないものを補って余りあった。

 

 そして…エースたちの出会いから始まり、そこからサークルを通して記憶の意味、それらに通じた因縁、そして最終的に「国を揺るがす大事件」に巻き込まれていく…しかし。

 

「放っておけない…潮音ちゃんのこともあるけど、エースさんたちを見捨てられるわけない!」

 

 彼女の年齢に比例しない達観した倫理観、そしてなにより「仲間への思い」が、彼女に運命に立ち向かう力を与え、エースたちにサークルを離れるように促されたときも、潮音と一緒に「最後まで」残り、遂には彼らと共に国を守りきった。

 …そうして、自らを「初霜」と前世の名に改めた後、艦娘として国を影から守る戦士となる。

 更にその後、彼女にとっても縁浅からぬ「坊ノ岬組」の存在が明らかになる。前日に予知夢を見ていたせいか「二重の意味」で感動が押し寄せる。

 

「雪ちゃん、浜風、磯風、矢矧さん…他の坊ノ岬の皆。そうか…私は、皆に会うために生まれ変わったんだ!」

 

 なんの根拠もないが、彼女にとっては「その使命感」だけで充分すぎるほど満ち足りていた。

 

「だから悔しいの、彼女たちの心を理解出来なかった自分自身が。私は…"初霜"にはなれないの…?」

 

 人でありながら、艦娘という生まれながらの戦士を望む初花。

 

 彼女が真の意味で自分を見つめる日は、果たして来るのか…?

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 夕方…初花は黄昏の光を背に帰路に着いた、浜風たちの言っていた帰るべき場所へ。

 高級住宅街の一角、6段ぐらいの階段を登って玄関先の門を開ける。

 そのまま石造りの道を歩いていく、横を一瞥すると綺麗に手入れされた庭が。

 少しして、洋風の玄関ドアにたどり着く。彼女の家だ、バッグから家の鍵を取り出すと、鍵の差込口に入れる。

 

 ガチャリ。

 

 いつものように鍵をしまった後、ドアノブに手をかける。

 

 ギイィ…。

 

 重い足取りで自らが開けた玄関をくぐり…ドアを閉める。

 

 バタンッ。

 

 …そして、まるで鳥籠に用意された巣に帰ると、一言。

 

「…ただ今戻りました」

 

 平和な日常への帰投、彼女にとって安らぎである場所…しかしどこか「違和感」を感じてしまう自分がいた。

 そんなことは露知らず、奥から優しげな柔らかい声が響くと、初花に近づいてくる人影が。

 

「お帰りなさぁい、初花ちゃん!」

「お母様、ただ今帰りました」

「はいお帰り〜。ごめんね、今洗い物してるから。うがいお手洗いは洗面所でお願いね♪」

「分かりました」

 

 初花の母は専業主婦だ。学校から帰って来た初花を玄関で出迎え、温かな笑顔で一日の疲れを癒す、初花のどこかズレた性格は、おっとりとした雰囲気のある母親譲りかもしれない。

 

 そんな穏やかな彼女の一日。だが…今回は少し様子が違う。

 

「っあ! そうだ初花ちゃん?」

「はい?」

「今日姪っ子が泊まりに来てるの、覚えてる? 従姉妹の「朝陽」ちゃん」

「…はぁ?」

 

 そういえば、随分昔のお正月の集まりでそんな娘がいたような…気がする。初花は真面目なので、覚えていないことに少しの罪悪感を感じていた。

 

「すみません、まだ子供の頃だったみたいで」

「うぅん、私も急な連絡でビックリしてるから。色々な所回ってる人たちだったから、夏休みの間ぐらい娘を日本でゆっくりさせてほしい! …なんてね?」

「あはは…あ、もう上に居ますか?」

「うんうん、空き部屋使ってもらってるから、ちゃんと挨拶してねぇ?」

「分かりました!」

 

 そう言いながら初花は、先ずは洗面台で手洗いうがいを済ませ、そのまま二階へ上がっていく。

 

「…っ! あの娘かな?」

 

 初花の目に映ったのは、壁にもたれかかり腕組み、欠伸をしながらぼうと眠たげにしている少女。

 黒髪に銀のメッシュ、片目を髪で隠し、頭の上で髪を束ねポニーテールにしている。一見クールな印象だが…?

 

「あの?」

「…んぉ? おぉーイチカじゃんお帰り〜! アタイのこと覚えてるかい?」

「あ、あはは…ごめんね?」

「うぇい!? まぁ〜アレだな、まだアンタか小っちゃい時だったからな」

「そうだったの? …ごめんなさい、気がつかなくて」

「ショげんなよ、別に怒っちゃいないぜ? …改めて「下田 朝陽(しもだ あさひ)」ってんだ、よろしくな!」

「よろしくね、朝陽ちゃん」

 

 朝陽の差し出した手を握り、確りと握手を交わす初花。

 

「ところで壁にもたれてかかって、何かあったの?」

「あぁ、荷物の整理してたんだ。朝からやってたから、眠くてねぇ…ふわぁ〜…むにゃ」

 

 眠たそうにまた欠伸をする朝陽。第一印象とは打って変わって、言葉の発音もハキハキとした気さくな人柄を感じ取る。面白そうな娘だなぁ、と初花は思った。

 

「…あ、荷物整理はもう終わり? 手伝おうか?」

「あんがとよ、でも大分片付いてっから、もう大丈夫だぜ」

 

 にしし、と無邪気に笑う朝陽。初花には兄弟姉妹は居ないが…姉が居たらこんな感じなのだろうか、と初花は心の中で喜んだ。

 

「ねぇ、お母様から夏休みの間は家にいるって聞いたけど…ご家族の方々となにか?」

「ん〜? そんな大したことじゃねえよ。…ウチは冒険野郎ばかりでね、アタイも子供の頃からあっちこっちの国を連れまわされてさ。一応計算とか? 一般常識は教えてもらったけど…やっぱり、同年代の子とゆっくり遊ばせたいって思って、アンタのとこでご厄介になれたら、だってさ」

 

 なるほど、道理であまり会わなかったわけだ。初花は独り言ちに納得していたが、同時に羨ましいとも思った。

 

「…外国を回ってるんだ、いいなぁ」

「あはっ、そんな言うほど快適ってワケでもないぜ? まっ、アタイはもう慣れたし、楽しいけどな!」

「そっか。…私も、そんな風に逞しかったらな…」

「ぁん?」

「ううん、なんでもない! …じゃあ私は部屋に戻るね、また話そうね」

「え、おう…」

 

 初花は朝陽に手を振って、そのまま自室へ入っていく。

 

「…んー」

 

 朝陽は彼女に対し「懐かしい気持ち」を抱いていた。

 もちろん幼いころに一回会ったから、ということもあるだろうが…それだけではない気がする、それは「数十年ぶりに会う友人」のような…喜びの度合いが大きい、大きすぎると内心違和感があった。

 

「最近見たあの「夢」となんか関係あんのかなぁ? …まっいいか」

 

 さっさと済ませてゆっくりしよう、そう思い意気揚々と自室へ向かう朝陽。

 

 ──彼女の持つ違和感が、初花にとってどのような変化を齎すのか…?




○ムードメーカーとは名ばかりの、ただただハイテンション。

ペトラ「ねぇねぇエース君、ニッポーの文化? を教えてほしいなぁ!」
エース「え、いいけど…(ニッポー? 日本だよな、またほんや君の故障か?)」
ペトラ「わーい!」
エース「えっと…まず挨拶は大事だよな」
ペトラ「ほぉ! アイン・サッツー!」
エース「そうだな、あとポピュラーなものが和食、寿司とか蕎麦とか?」
ペトラ「スッシー! ソ・ヴァーン!」
エース「…それから二月には節分って行事があって」
ペトラ「セッツ・ブーーン!!」
エース「いやいやいや、これ故障じゃねぇだろ! ペトラちゃん絶対わざと言ってるだろ!?」
ペトラ「ちゃんと言ってるよぉ、ちょぉっとアレンジしてるだけ、言いにくいし」
エース「最後のヤツが本音だな?!」
ペトラ「もうエース君は頑固だなぁ、いいでしょ面白いんだから?」
エース「面白いの問題?! …なんか、ペトラちゃんってドイツ人っぽくないよね? ドイツ人が真面目な印象だから余計に」
ペトラ「ぐっはぁ! 私のハートがブロークン!! まぁ誰からも言われてるからいいけど」
エース「良いんだ…;」
ペトラ「私って、真面目すぎてもいけないと思うんだよね。人生一度きりだし、楽しむとこは楽しまないと損じゃん? だから…あんまりまともにしないようにしてるってワケ」
エース「あっ、そういう人生観は真面目なんだ」
ペトラ「はっ! いけない!? ヒミッコーサマー! (ツインテを持ち上げる)」
エース「無理にボケなくていいから…ホントに日本のこと好きなんだね?」
ペトラ「うんうん、観光…じゃない使者として来たんだから、トーゼンだよ〜なはは〜!」
エース「(…色々大丈夫か、この娘)」

 ※エースはペトラの底なしの元気に、ある種の戦慄を覚えるのだった…(オチはない)。

ペトラ「アッリーヴェ、デルチ☆」
エース「それ国違うからあああ!?」
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