艦隊これくしょん―七十年後の君へ―   作:謎のks

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 ○前回のあらすじ

 マンション地下深くに建てられた「艦娘艤装保管庫」へ足を運ぶエースたち。それは、リオーネとペトラの艤装のお披露目会のためであった。
 利子が意気揚々と紹介する中、エースはどこかぎこちないペトラに話しかける。
 彼女は、かつての大戦で自分の祖国が大きな傷を背負ったことを伝え、その傷とどう向き合うべきか悩んでいると告げた。
 エースは「自分たちがやらなければならないことをすべきだ」と諭し、一緒に向き合おうと手を差し伸べた。
 ペトラはそれを受け入れて、艦娘として戦うと誓った。

 ──その時、リカルドから電話が鳴った。

「いよいよお前さんらに、戦い方を教える日が来たってワケよ」

 それは、迫り来る戦いの鐘が鳴り響いた瞬間だった。


第三十一話 覚悟 2-1

 西暦2015年 7月──

 

 小高い森の奥、湖が広がる山間の場所。

 

 艦娘たちは皆動きやすい格好(いわゆるジャージ)で湖の前に集合していた。

 

「よぉし、全員いるか?」

 

 眼帯の男リカルドが艦娘たちに呼びかけるも、全員が息も切れて疲労困憊状態、座るなり地面に倒れるなりしていた。

 それもそのはず、先程までこの湖と森の入り口を跨いだ「急斜面」を、行ったり来たりと走り何往復してようやく小休止したところなのだ、往復は実に数十回にも渡る。

 

「や、やっと終わった…!」

「お疲れしおっち〜…って、なんでこの腕輪着けながらなの? ちょーしんディーんだけど?」

 

 潮音を労いながら、腕輪を顔に翳しイラつき気味に見やる北上。

 この腕輪は利子作成の「チカラナクナールくん」という、艦娘の溢れんばかりの力を抑える制御装置である。

 本来なら、艦娘の力でどのように遠い距離でも軽やかに走り切れるのだが、極力腕輪により力をセーブした状態で運動を繰り返した結果、疲労だけ残った彼女たちがいる…ということ。

 

「おぅ、今回は初めだから力を少し残したが、慣れたら力抜きで往復するぞ」

「ま、マジぃ〜!? おっさん勘弁して…」

「ウハハハ! まだまだこんなモンじゃねぇぞ、今から疲れてると後で後悔するぜ」

「き、北上さん…頑張、りまし、しょう……っふ」

「しおっちガチ疲れじゃん? 大丈夫…?」

「だ、だいじょ、ぶ……っぅふ…!」

 

 潮音は息を乱しながらも、その目に闘志を燃やしていた。彼女もまた艦娘の使命を背負った戦士となっていた、リカルドはそんな潮音を見て大いに労った。

 

「その意気だシオン、お前さんは中々肝が据わってるな!」

「あ、ありがとうございます…っ!」

「まぁあまり無理はするなよ、お前らはガッツはあるがまだ子供だ。それに見合った訓練を積んだ方が効率が良い、そういうわけだからキタカミ、シオンをよく見てやってやれ」

「うぇ、アタシっすかぁ!?」

「口答えするなっ! 訓練はもう始まっているんだぜ? 返事は「イェッサー」しか認めんっ、復唱!!」

「さ、サーイェッサー!」

 

 リカルドの気迫に押し負け北上は怯えたように敬礼する。北上の迅速な行動に、満足気に口角を上げるリカルド。

 

「そうだ、それでいい。お前らのお互いを助け合う心が、部隊に一体感を齎すことが出来る、それを忘れるな」

「は、はいっ!」

 

 リカルドの激励に、艦娘たちの士気も上がる。

 湖の前に艦娘たちを整列させたリカルドは、彼女たちに今回の目的(訓練)について説明する。

 

「まずお前さんらには、カンムスとして戦うにあたり「基礎体力」の向上を目指してもらう。腕輪をつけた往復運動はその一環だ」

「ねぇねぇ、だとしてもこの腕輪って意味ある? わざわざこんな事しても戦いになったら絶対外すっしょ? 腕輪付けないでやった方が良いんじゃ…?」

「良い質問だキタカミ。お前さんらのカンムスの力は「前世の魂」がお前さんらに力を貸し与えているに過ぎない、だから元の身体を鍛えておけば、それだけカンムスの力を効率よく引き出すことが出来る、その腕輪はカンムスの力を打ち消すことが出来ると Bad boy から聞いたんでな? 初めからカンムスの力に頼ってばかりだと碌な体力もつかねぇ」

「それって…筋肉ムキムキになるまで訓練やるってこと? いやぁーきついっすね~」

「き、北上さん!?」

 

 潮音が北上を窘めたが、リカルドはそれを予期していたかのように動じない。

 

「Oh, 俺としては腕輪無しに「100Kg」の重りをつけてランニング、も考えたが?」

「…っ!?」

「まっ、俺直属の部下であるヤハギたちなら未だしも、今のお前らは素人同然、Boyからの契約もある以上、あまり無茶もさせられんでな?」

 

 …リカルドの言葉にホッと胸を撫でおろす一行であったが、もし…契約が「無かったら」どうなっていたのか?

 

「…あの、リカルドさん? その口ぶりだと「矢矧」さんたちには…厳しいトレーニングを課していたとお見受けしますが?」

 

 妙子は思わず誰もが気になっていたことを質問する。

 

「んん~? 気になるかミス・タエコ。そうさな…一時期は「砂漠に一週間放置」やら「無人島で何の装備も無しにサバイバル」…なんてのもやったか?」

「ひいぃ~っ!?」

 

 誰とも言えないその悲鳴は、これからの訓練の壮絶さを物語るには十分すぎた。

 

「ウハハ! 心配すんな、もちろん初めからそんなシゴキをするつもりはねぇ。お前さんらに求められるのは臨機応変な対応力、そしてそれに見合った体力だ。何事も先ずは基礎から、段階的に訓練を積んでいかにゃあな?」

「では聞くが、これからどのように鍛えていくというのだ、教官殿?」

 

 菊月が嫌味を込めたようにリカルドに疑問をぶつける。ニヤリと不敵に笑うリカルドは菊月の質問に回答する。

 

「お前さんらの真ん前に広がるこの湖、ここで実戦を想定した艦隊運動の演習を行う!」

「えんしゅう…それはどのような訓練でしょうか!」

 

 雪が大声で質問、横の初花はどこか恥ずかしそうだった。

 

「お前さんらの今までの艦隊運動は、あのBoyの判断ありきだった、それはそれでいい。だが…一部の者はもう分かっていると思うが、そういった遠目の指揮官頼りじゃあ、危機管理や柔軟な思考がどうしても出来ない」

「む…」

「確かに…仰る通りですね」

 

 菊月の押し黙った声と妙子の賛同に、艦娘たちもリカルドの意見に納得したようだ。

 

「俺としては現場のことは現場の奴らが判断した方が効率もいいし、行動に移るのも早い。当たり前のことだがな」

「なるほど! 我々の戦いは我々が指揮した方が早い、ということですね!」

 

 青子の言葉に大きく頷くリカルド。

 

「おうよ! 結局は戦場で頼りになるのは自分自身だ。自らの目で見て、聞いて判断し、その結果を情報として部隊に共有しながら行動する、これこそが組織的行動の理想図ってヤツよ」

「なるほど…!」

「ぴゃー? じゃあ榛名ちゃんと日向ちゃんが居ないのは何で?」

 

 長戸が感嘆を零す横で、酒匂がこの場に居ない二人を指摘する。

 

「あの二人は冷静に状況を判断出来ていて、素の戦闘能力もある方だ。ゆくゆくは二人にも訓練に加わってもらうが、先ずは戦闘経験のほとんどねぇお前さんらの訓練を集中的にやっていきたい」

「なるほど、では私たちの訓練の主目的は、榛名さんたちのような「戦闘経験」と「それに見合った判断力」を培うこと…ですね!」

 

 初花の簡潔なまとめに、リカルドも満足そうに頷いた。

 

「そういうこった、二人はヤハギたちと一緒に哨戒任務に就いてもらっている。後はお前さんらがあのレベルに到達できれば、当面の問題は解消されるってワケだ」

 

 リカルドは両手を広げ艦娘たちに訓練内容について話し終える、大体の艦娘が理解を示したが…一人だけ納得のいかない表情をしている者が。

 

「…あのぉ、私一応空母だし…」

 

 龍美である、片手を上げて自ら主張抗議する彼女は、訓練もあまり乗り気ではないようだ。

 

「クウボだろうが関係ない、お前さんヤハギたちと対峙した時も動きがぎこちなかったろ、自覚があるだろうからお前さんも強制参加だ」

「…利子ちゃんは来てないのに、なんで私だけ」

「おいおい拗ねるな? トシコの嬢ちゃんは艤装製作で忙しいんだろ?」

 

 リカルドの言葉に、龍美以外の艦娘たちは頷いた。

 

「忙しくて来れないっていうのは分かるけど…なんだかなぁ?」

「まぁさっきも言ったが、事情があって訓練に参加していないヤツも居るが、後から折を見て合流させるつもりだ。その前にまずはハナタレから根性鍛え直さねぇとな?」

「うえぇ…鬼教官」

「ウハハ、後で感謝するだろうぜ、こういうことはよ!」

「絶対しませーん!」

 

 リカルドと龍美のやり取りに、艦娘たちの雰囲気も和らぎ、笑顔が咲き誇る。

 …ふと、リカルドは強面を引き締めると、低くゆっくりと龍美に尋ねた。

 

「…どうだ嬢ちゃん、戦いは怖いか?」

「うぇ? …そりゃ怖いよ、でもやらないと…榛名たちを守れないし」

「…そうか」

 

 どこか安堵したような優し気な笑みを浮かべるリカルド。その後も艦娘たちに聞いて回る。

 

「ミス・タエコ、アンタはどうだ? 戦いは怖いか?」

「は、はい。でも私は逃げたくありません」

「それは艦娘としてか?」

「いえ、仲間を置いて自分だけ逃げるなんて、艦娘以前に「人として」どうかと思います」

「…そうか」

 

 またも安堵した笑み、リカルドの真意が読み取れないまま、質問は続いていく。

 

 戦いは怖いか? その質問に多種多様な答えが返るも、意味は一貫しているようにも思える。

 

「私…強くなりたい。守りたい人をまもれるように、私らしく生きられるように…!」

「アタシは皆みたいな覚悟とか? 普通にないけど…そんな皆をさ、ほっとけないんだよね?」

「んー、この先にまだ見ぬ謎があるなら、私はそれを見たいんですよねぇ、まー野次馬と言われればそれまでですが?」

「私は…雪風としてじゃなくて、”雪”として生きたいです! だから…怖くても、過去に決着をつけたいです!」

 

「私は「艦娘として」戦いたいです、そのためならどんな困難だって越えて見せます!」

 

「ふん…必ず生き残ってやる、奴らを踏み越えてでもな」

「ぴゃ~、酒匂も頑張るぅ! お姉ちゃんのためにも絶対生き残るんだから!」

 

「私は全てを護りたい…「前世」からそれだけは変わらないと思っています」

 

 潮音、北上、青子、雪、初花、菊月、酒匂、長戸。…それぞれの覚悟を宿した言葉をひとしきり聞き終えると、リカルドはどこか不機嫌そうに”眉を顰めていた”。

 

「…お前さんらの気持ちは分かった、だがひとつだけ残念な知らせがある」

「え…?」

 

「イチカ、ナガト、お前らは駄目だ。今すぐ戦いから身を引け」

 

「…っ!?」

「な…?!」

 

 リカルドの口からまさかの「戦力外通告」。指摘された二人は、頭が真っ白になったように身を固くしていた。

 

「ま、待ってください! どうしてそのようなこと?! 私たちがなにか粗相を…?」

「そうじゃない、単純に「早死に」したくなけりゃ今すぐ引き返せと言ってるんだぜ?」

「な!? そう言われても納得がいきません!」

「長戸さんの言う通りです! 私は艦娘にならなくてはならないんです、いつか再会する皆に相応しい戦士に…私はっ!」

 

 

「甘ったれるんじゃねぇ、このマセ餓鬼がぁ!!」

 

 

「「…!?」」

 

 リカルドの激昂に、二人は沈黙せざるを得なかった。

 

「お前らには「覚悟」が足りねぇと言ってるんだぜ、戦う意味をもう一度考えて出直してこい! そうでないうちは、二度とこの場所を訪れることを許さんっ!!」

「そ、そんな…!」

「聞こえなかったか? 今すぐ出て行けと言ってるんだ、行け!!

「っ! ……」

 

 リカルドの怒号に流される形で、二人は他の艦娘たちを背にその場を後にした。

 

「…っ」

「う…ぅっ!」

 

 肩を震わせながら涙を滲ませているであろう二人を、他のメンバーは見ているしか出来なかった。

 

「…行ったか」

「リカルドさん、何故二人にあのようなことを!」

 

 納得がいかない様子の妙子はリカルドに進み出て意見具申する。

 

「二人は私なぞよりよっぽど立派な覚悟を持っています、その二人を抜いた訓練なんて、私は納得できません!」

「…アンタは仲間思いだな、ミス・タエコ」

「質問に答えて下さいリカルドさん! どんな理由があれこんな理不尽なこと…」

「なぁ、覚悟には「種類がある」と、俺は思うんだがよ」

 

 懐から取り出した煙草に火をつけながら、不意にリカルドが言葉を紡ぐと、妙子と艦娘たちはその言葉に耳を傾ける。

 

「何事にも種類があるってことだな、その中でも俺が注目したのは「生きる覚悟」と「死ぬ覚悟」だ」

「…っ!」

「確かにあの二人にも覚悟はある。この理不尽な戦争を最後まで「戦い抜く」覚悟ってヤツがな。だが…アイツらの目には自分以外を「どんなことをしてでも守り抜く」そんな”死にたがり”みてぇな思いも見えた気がしてな? 果たしてそれで良いのか? そう思ってな…」

「…何が言いたい?」

 

 菊月の言葉と同時に、煙草の煙を吹かしたリカルドは空を見上げながら続ける。

 

「この戦いは死に場所を求めるための戦いじゃねぇ、寧ろ逆だ「全員生き残らなけりゃ」話にならねぇのさ。お前さんらのリーダーも言ってるだろ「皆で一緒に乗り越える」ってな。甘い理想論のように聞こえるだろうが、この場合はこれで正解なのさ」

「それでは…あの二人に「人として」生きる意味を見出せ、と言いたいのですね?」

「あぁそういうことだ、アオコ。ま、その辺はあのBoyが何とかするだろ、気にしても仕方ない」

「し、しかし…!」

 

 妙子の絶えない曖昧な疑問の投げかけに、リカルドは無理やり話を断ち切る形で背を向けた。

 

「さぁ、お前さんらの艤装も向こうに用意してある。取りに行ってこい」

「…はい」

「行こうタエさん、おっさんの言うこと間違ってないし、長戸さんたちなら大丈夫っしょ」

 

 潮音と北上が立ち上がる、程なく他の者たちもそれに倣うように、ゆっくり立ち上がっては訓練の準備を進めにいく。

 …最後に残された妙子も、渋々といった具合に自らの艤装を取りに行く。

 

「ミス・タエコ」

 

 不意にリカルドに呼び止められる妙子、何事かとリカルドの方に身体を向けた。

 

「人間ってのは切羽詰まった考え方ほど早死にするものだ、出来れば俺は…お前さんらに「生き残る術」ってヤツを、これから学んでいって欲しいと願ってる。…だが、俺はアイツらみたいな真面目なヤツも、嫌いじゃないぜ。…仲間思いなアンタを含めてな?」

「リカルドさん…」

「大丈夫だ。アイツらなら…きっと乗り切れるさ?」

「っ! …はい!」

 

 低く、ゆっくりと。まるで自分自身に言い聞かせるように発した言葉。

 その真摯な後ろ姿を見て、妙子はリカルドの人となりを、改めて認識し喜んだのだった…。




「覚悟 2-2」へ続く…。
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