艦隊これくしょん―七十年後の君へ―   作:謎のks

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 ○前回のあらすじ

 戦う意味をもう一度考えろ──そうリカルドから伝えられた長戸と初花。
 長戸が思い悩んでいると、エースが彼女の下に現れた。エースは長戸が強化訓練をさせてもらえないのは、長戸が「戦艦長門」の記憶に呑まれかけているからだと諭した。
 誰かのために自分を犠牲にする──それはエースにとって「寂しい」ことだと、心を込めた言葉を長戸に送る。…長戸は頬を「桃色」に染めながらも、それを受け入れた。

 一方、初花は事態を察した「朝陽」によって全ての事情を彼女に伝える。

「アタイにはアンタは「そういうヤツになりたい」ってだけに見える。言っとくけどアタイらはどう足掻いても「ちっちぇガキ」でしかないし、カンムスってのにも「ハツシモ」ってのにもなれねぇのさ?」

 そう、初花は「初霜」という戦士に憧れ、その強すぎる輝きにより己を見失いかけていたのだ。
 初花は──それでも仲間たちを守りたい気持ちは変わらなかった。朝陽は彼女の決意を受け入れて、それでも「仲間を頼れ、自分も生きたいと考えろ」と初花を宥めた。
 初花はそれを受けて「霜野 初花」として生きたいと願うようになった。

 ──二人の新たな覚悟を見て、リカルドは彼女たちにも強化訓練を施すのだった…。


※──このお話を、75年前に戦った「戦士」たちに捧げます──




第三十四話 継承 2-1

 ──あの日の光景は、一度として忘れたことはない。

 

「…っ、ひっぐ…お父様…!」

 

 涙を滝のように流して咽び泣いている「彼女」が見えた、顔を俯せていたが大粒の涙が布団の上で染みていくのが見えた。

 

 私は…そんな彼女と、布団に入る人物をただ呆と見ているしか出来なかった。

 

「──…っ。…月子、日向…こっちへ来なさい…」

 

 そんな時、布団に伏せる男性…父が私たち姉妹を呼び寄せる。彼は息も絶え絶えになりながらも、私たちに伝えることを伝えるべく口を開く。

 

「…良いか? 剣は道具でしかない、弓矢もまた同じ。本当に大切なのは…そこに己の思いを込めているか、だ」

 

 父の言葉に、黙って頷く私たち。

 

「月子、日向。これからお前たち姉妹には酷な事を言ってしまう。脆弱な父を…許してほしい」

「お父様……っ!」

「…父さん…っ」

 

 父の魂が「消える」。

 理解出来る…理屈ではないことだが「心」は理解していた。この人はもう…長くない。

 

「月子。お前は弓の腕は随一だ、活発だが誰よりも平静に状況を見ることが出来る。いつか…母さんの夢である弓道場を、お前に開いてほしい」

「…うんっ」

「…日向。お前の剣の腕は一流だ、幼くしてその技量と気迫…お前には、私の跡を継いで剣道場の師範になってもらいたい。今は道半ばであろうと、お前なら…っ! ごほっ!!」

「父さんっ!!」

 

 話の途中で、口を手で押さえて息苦しそうに咳をする父を見て、もう喋らないでほしいと心内で願う…が、ここでそれを言ってしまえば、父の思いを踏みにじるような気がして。

 

「──剣はただの力ではない、弓は勝つためだけに在るのではない。己の思いを高め、磨き、それを誰かのために振るえる者こそ…真の強者(つわもの)だ……心剣非負(しんけんまけにあらず)。それを…忘れるな?」

 

「──はいっ!」

 

 私たちは涙に濡れながらも、父の最期の言葉を胸に刻みつけた。

 

「…ありがとう、母さんを頼んだよ。お前たちみたいなしっかり者の姉妹を持てて…嬉しい……ぞ…──」

 

 そうして、安らかな寝顔と共に父は…あの世へと旅立った。

 

 

 ──私たちは、魂の抜け殻を見つめ、確かな「死」を感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 長戸たちがリカルドの艦娘強化訓練に参加して、数日後。

 大半の艦娘が訓練に駆り出される中、榛名と日向は哨戒任務に就いて日夜近海を警戒していた。それと言うのは彼女たちの総合的な強さは「訓練の指標」になる程、ゆくゆくは彼女たちも訓練に参加し艦隊全体の意思共有を図るが、それまでは近海哨戒に徹していた。

 …さて、その哨戒任務終了後、彼女たちは人気の無い浜辺で艤装等を外していた。

 

「お疲れ様、榛名」

「エースさん、ご苦労様です」

 

 エースは彼女たちの艤装を預かるため、軽トラックを借りて榛名たちの帰りを待っていた。

 エースが軽トラックに艤装を乗せシートを被せた後、政府が用意した港のコンテナに擬装した「艤装庫」まで運び、保管する。それを毎日繰り返していた。

 本当はこんな面倒なことをせずにいられれば良いのだが、政府から「深海棲艦対策本部」の拠点を贈与されるまでには、矢張り手続き等で時間が掛かるようだ。どの道手間は掛かるが少しの辛抱と思えば良かった。

 この日の哨戒隊は榛名と日向、多い時は六人分の艤装を運ばないといけないので、艦娘の誰かに手伝ってもらわなければならないが…二人分ぐらいなら一人でも安心だ、そう一人安堵するエース。

 

 そして──榛名たちの隣には矢矧、浜風、磯風の三人の姿があった。

 

「よっ、浜風! 矢矧に磯風も?」

「エースさん、お疲れ様です」

「ご苦労様。…態々艤装を運ぶなんて、大変ね?」

 

 矢矧は先日の冷たい態度から一変し、好意的にエースに話しかけて来た。榛名は何処か驚いた様子で目を見開いていたが、問われたエースは気に留めない様子で回答した。

 

「はは、まぁね? でもここにずっと置いておくわけにもいかないし、それに…こんな俺でも、君たちの役に立ちたくてさ?」

「そう? …その様子だと、どんなに言ってもついて来る気ね?」

「あぁ。俺が提督になるのは、君たちを「兵器」にさせないため。君たちの「人としての思い」を守りたい…そう思ったんだ。だから…こんなこと言った後だけど君の思いには、答えられそうにない、ゴメン」

「…っふふ、仕方ないわね? じゃあ勝手にしなさい。それでも…サポートはさせてもらうけど、ね?」

「ありがとう、矢矧ちゃん? 君が守ってくれるなら、百人力だ。っへへ!」

 

 エースの素直な笑顔に、矢矧もまた静かに微笑む。…そんな二人の間に割って入る者が。

 

「やれやれ、矢矧も甘くなったものだ。最近は顔が綻ぶことが多いが…そういうことか?」

「っちょ!? 磯風っ! 私は別に…こっちに来るなって言っても彼はついて来るだろうから、だから…ぅう!」

 

 上手い返しが思い浮かばず、ヤキモキした感情が噴き出し唸る矢矧。彼女と磯風とのやり取りを、エースと浜風はニヤニヤしながら見ていた。

 

「初めて会ったときは、それはそれは冷たい態度取られてさぁ…それが今じゃ親身になってくれて、俺は感無量だよぉ」

「ですねぇ? 矢矧は頑張る人を見捨てる程腐ってはいませんもの…ねぇ?」

「…二人とも、後で私と砂浜での鬼ごっこする? 裸足で。この時期だから地獄のように熱いでしょうけど###」

「ひぃ!? 勘弁してくれ…;」

「すいませんでした…」

「ほぉ? 二人がやらぬなら私が」

「貴女は少し黙って磯風、話が抉れ始めたから」

 

 矢矧の気迫に負けたエースと浜風、磯風の「天然発言」によりその場は和やかな雰囲気に包まれた。

 リカルドの部下である艦娘三人組、初めこそエースに対し用心深い態度を取っていたが、エースの人柄を理解して今では友好的な関係を築いていた。そんなエースを見て榛名は不思議そうに首を傾げた。

 

「エースさん…いつの間にお三方とそこまで親密に?」

「ん? まぁ色々あってさ…ね?」

「はぁ…?」

「はは、良いではないか榛名。彼が傑物であるのは今に始まったことではなし」

「日向さん…そう、ですよね? あはは…はぁ」

 

 榛名はそう言いながら困ったような表情を浮かべると、すぐ寂しそうに頭を俯いて悄気返る。

 

 榛名とエースが最初に出会ったのは昨年の大晦日、現在は7月なので実に半年以上も行動を共にしていた。それだけの時間故か榛名にとってエースの存在は「大きなもの」となりつつあった。

 そんな彼が自分が見ていない間に、何処か遠くへ行ってしまうような気がして、榛名はここ最近はもやもやしている自分に気づいていた。

 だが…その気持ちが何を表すのか、榛名としてはまだ理解出来ていなかった。様々な人物に相談もしたが…「恋」と言われても、彼女には合点のいかないものだった。今もこの気持ちについて余計に考えを巡らせている程だ。

 

「(…成る程)」

 

 彼女の心情を日向も理解出来た──というより、彼女とエースの関係性はどう見ても「恋人」のそれなので、周りは嫌でも気付くのだが。

 日向にとっては榛名とは数ヶ月前に顔を合わせた程度だが、お互い真面目な性格であり「前世」からの付き合いもあるので、仲は良くやっているつもりだった。

 そんな日向は…少しだけ「お節介」を焼いた──

 

「さぁエース君、早く艤装を片付けてしまおう。誰かに見られては不味いだろう?」

「あっ、はーい。…じゃあ俺たちはこれで」

「えぇ、気をつけてね?」

 

 矢矧たちに見送られながら、エースは榛名と日向の艤装をトラックに積む準備を始めた。因みに矢矧たちの艤装は脚に着ける「水上反発装置」のみなので持ち運びが可能、彼女たちは各自で艤装を管理していた。

 

「(…そういえば、矢矧ちゃんたちの艤装って誰が作ったんだ?)」

 

 エースは当然の疑問を思い起こす、アトラスと利子作以外で艤装を見たのは「関四郎と化身たちとの戦い」で化身少女たちが履いていたものが最初だった。…そう言えば彼女たちの艤装もそれにどこか似ていた。エースは頭を悩ませるが…?

 

「(…まぁいいか? 今度リカルドに聞いてみるか)」

 

 この場で話すことでもない、とエースはそのまま艤装の運び出しを始めるのであった…。

 一方、日向は榛名に声を掛けようとしていた。彼女は先ほどから考えごとをしているよう様子なので、調子を伺った。

 

「……榛名?」

「っ! は、はい。どうされましたか、日向さん?」

「いや、どうも何も…さっきから呆けているようだからな、何か問題ごとか?」

「い、いえ! 何でもないんです…すみません……ありがとうございます」

 

 榛名は自身を心配してくれた日向にお礼を述べると、笑顔を浮かべる。…が、観察眼の鋭い日向からすれば「無理をしてる作り笑い」であることを見抜くのは造作もなかった。

 確か──エースも彼女に密かな好意を抱いていて、それに気づいていた周りの仲間たちが、現在彼らを「恋仲」にするため暗躍している最中だと聞いていた。両思いだというのに中々一歩を踏み出せないとは…まるで恋愛ドラマだな、と心の何処かで一笑する日向。

 

「(…ふむ、やってみるか)」

 

 日向は興が乗ったのか、自身も彼女たちの恋愛劇を進めるために「一役買おう」と思いつき、榛名に話を振った。

 

「榛名、これは思いつきの発言だが…もうすぐ夏だから()()()()()()()()()()()()()?」

 

「…えっ? それはどういった意味でしょう?」

「うむ、私の双子の姉が「伊勢」であることは、前に話したな?」

「は、はい。存じてます」

「そう、だから…「呉空襲」時に共に護国を守らんとした同志が、どのような人物になったのか…気にならないか?」

 

 榛名には前世の軍艦としての記憶はあるが「現代の人としての記憶」はないので、そうやって伊勢(月子)に興味を惹かせる作戦。

 月子は自分よりも「恋愛観」に優れた者、榛名を月子と引き合わせることが出来れば──榛名の中の「気持ち」を確かなものとすることが可能…かも知れない。

 

「はぁ…確かに気にはなりますが、ご迷惑では?」

「なに、私の姉なら喜んで君を歓迎すると断言しよう。先ずはお互いの近況を、腹を割って話し合おうじゃないか。私もそろそろ顔を見せに帰ろうと考えていたからな」

「成る程…? そういうことでしたら、榛名も喜んでお付き合いします!」

「あぁ、ありがとう。それと…エース君にも声を掛けないとな?」

「っ!? ひ、日向さん…? 何故エースさんを?」

「ん? 彼にも用事があるからだが…何か問題が?」

「い、いえ…」

「まぁ見ていろ、全て私に任せてくれよ?」

「は、はぁ…?」

 

 そう言って日向はほくそ笑むと、彼女たちの仲を取り持つために、一人奮起するのだった。

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──翌日、日向からエースに連絡があった。

 

「実は今後の展開について相談したいことがあるんだ、伊勢崎道場に顔を出してもらえないか?」

「相談? 良いけど…伊勢崎道場で良いんだね?」

「そうだ。月子も君たちに会いたがっているからな。久しぶりに近況を報告がてら…な?」

「そう? ならアトラスたちにも声を掛けてみようか、フォックスは…あの時は居なかったけど、一応確認だけしてみる?」

「…いや、今回は君と榛名を招待したい。呉空襲防衛時の戦艦メンバーで顔合わせをしたいと考えている、君も同席してほしい。タイミングを見計らって内容を話すよ」

「…? まぁ日向さんたちがそれで良いなら」

 

 内心何処か引っかかる点はあるものの、エースは日向の提案を受け入れた。

 彼女たち──かつての呉防空時のメンバーが集まり、何を話すのか…不謹慎とは思うが、そういう興味もあった。

 何より榛名と二人きりになるかもしれない──そういった邪な思いがエースの頭を走る、最近は忙しくてあまり彼女とじっくり話せていなかったので、この機会にたくさん話そう。そう考えながら顔を綻ばせるエース。

 

 彼にとって、榛名は「高嶺の花」のような存在で、ただ話が出来るだけでも嬉しいのだ。

 

 …と、榛名には向こうから連絡を入れているというが、一応自分からも事情を説明するため声を掛けてみる。

 

「…ていうワケみたいだから、一緒に伊勢さんに会いに行こうって思うんだけど…大丈夫そう?」

「は、はいっ! 榛名は大丈夫ですっ!! 不束者ですが…よろしくお願いしますっ!」

「お、おう…よろしく///」

 

 何処か発声が力んでいる気がしたが、エースとしては榛名と一緒に出掛けられる時点で有頂天に達した気分になっていたので、身体も熱く頭も上手く回らないので、そこまで考える余裕はなかった。

 

 

 

 

 

 

 ──更に数日後、約束通り榛名と待ち合わせ、日向たちの道場へと足を運んだ。日向は道着と袴姿でエースたちを迎え入れた。

 

 

「お邪魔致します!」

「やぁ榛名、いらっしゃい。エース君も?」

「こんにちは日向さん。…あれ? 月子さんは?」

「あぁ、月子なら道場で子供たちに剣を教えてる。一緒に来てくれ」

「分かったよ。行こうか榛名?」

「はいっ! …日向さんのお姉さんですよね? 榛名初めてお会いしますので、少し緊張してます」

「はは、月子は私とは真逆の性格だからな? 驚くぞ?」

 

 日向が何処か嬉しそうにしていると、エースは改めて疑問を尋ねた。

 

「日向さんと月子さんって、双子…なんですか? 歳もそんなに離れてなさそうだったし?」

「ん? そうだな、月子の方が先に生まれて半年後に私が誕生した…まぁそう言われたら双子のようなものかな?」

「そうなのですね? どんな人なのか楽しみです!」

 

 榛名の楽しそうな笑顔を見て、エースと日向は頬を綻ばせるのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「いちっ! にっ! いちっ! にっ!」

 

 道場の中に入ると、日向の言う通り月子は子供たちに剣道の指南をしていた。道着姿の十人程の男の子、女の子が竹刀を握り締め一心不乱に素振りをしていた。

 

「そうそう、左足を軸にして右足を滑らせながら竹刀を上に、左足を戻す時に振り下ろす感じで。あぁ君、肩に力入ってるよ? 肩の力を抜いて脇も締めて、左手首のスナップを効かせるように振ってみ? …そうそぅ、上手いうまい〜♪」

 

 月子は親身になって教え子たちを指導して回っていた。彼女自身の「気さくな人柄」が場を和気藹々とさせていた。

 

「月子! 遊びに来たぞ?」

「っあ、日向〜久しぶり〜! 来てくれたんだ?」

「あぁ、ちゃんと師範を務めてるか様子を…」

「あっ! ひなたししょうだぁ!!」

「わーい、ししょう〜!」

 

 日向の言葉の途中、素振りをしていた子供たちが日向の下に駆け寄って来た。

 

「やぁ皆、月子師範の言うことをちゃんと聞いてるかな?」

「はーいっ!」

 

 微笑む日向の問いに、元気よく返事をする子供たち。

 

「ししょう、いつかえってくるの?」

「ボクたちししょうが教えてくれるほーがいい!」

「がーんっ! ちょっと皆ぁ、アタシの立場無くなるからそゆこと言わないでよ!」

 

 子供たちの素直な意見に、月子は立場がなくなるのでそう言い聞かせるが…?

 

「しはんはぁ…教えかたがヘタクソなの!」

「うん、ししょうは「ていねー」に教えてくれるんだけど、しはんは「おおざっぱ」? なんだ!」

「ぐっさぁあああ!? …はぁ、そりゃあ日向に比べたらだけどさぁ」

 

 がっくりと肩を落とす月子を見て、慌てて駆け寄る子供たち。

 

「ごめんねしはん、わざとじゃないんだよ?」

「わたしはしはんの教えかた、すきだよ!」

「うん! でもときどきキホンテキなことをシツコク言ってくるけどね!」

「ぁあ〜言ったなぁ! コイツぅ!」

「きゃあ〜ははは!」

 

 良くも悪くも素直な子供たちを前に、月子もまた童心に返ったように燥(はしゃ)いで子供たちを追いかけ回していた。

 

「…わぁ、あれが月子さん…ですよね?」

「うん。明るい人だよな」

「はい、すごく…「ぱわふる」な人です!」

「ちょっ、榛名!?」

 

 榛名の思わぬ一言に驚くエースだが、不意にそんな榛名に話しかけて来る月子。

 

「あら、貴女が榛名ちゃん?」

「は、はいっ! 日向さんからお噂を聞いております。宜しくお願いします、月子さん」

「こちらこそよろしくぅ! …ふーん、そっかぁエース君こういう娘が」

「…はい?」

「だああああ!? 月子さん余計なこと言わないでぇ!!?」

「んふふ♪ 相変わらず可愛いわねぇ?」

 

 月子とのやり取りをしていると、今度は子供たちが尋ねて来た。

 

「おにいさんたち、あたらしい「にゅーもんしゃ」のひと?」

「っえ、いや僕たちは見学に来ただけだから」

「けんどーおもしろいからやってみなよぉ! ぼーぐがすごいおかねかかるみたいだけどね!」

「剣道ですか…良いですね! 榛名も是非学びたいです!」

「うん! でもねけんどーはねぇ、レイギをオモンじて、オゴソカーにならないとなんだよ?」

「おぉ、オゴソカ…!」

「もぅ皆、榛名ちゃんとそこのお兄さんはアタシのお友達なの、入門の話はまた今度させてもらうけど♪」

「逞しいなぁ…;」

 

 エースは榛名と月子のノリの良さに唯々感心するばかりであった。

 

「さぁ皆、今回は久しぶりに私が稽古をしよう。君たちがどのくらい強くなったか見せてくれ」

「わーい! ししょうのけいこだぁ!!」

 

 久しぶりの日向の稽古に喜ぶ子供たち、エースはそれを見て…ふと思い至る。

 

「(日向さん、子供たちにこんなに慕われて…俺が、日向さんの日常を壊しちゃったのかな…?)」

 

 艦娘を導く決意をしたエースであったが、自分の行動に迷いがないわけではない。

 彼は日向を始めとしたサークルメンバーに、大きな責任を背負わせてしまったことを何処かで悔やんでいた、勿論本人たちの意志であることは確かであるが…それでも、日向の自然な姿を見るとどうしても胸が痛んだ。

 

「…エースさん?」

「ん…? ぁあごめん、何でもないよ?」

「そう、ですか…」

 

 そんな彼を隣で見ているしか出来ない、そう思っている榛名は…哀しそうに表情を曇らせる。

 

「…月子」

「ん、何? えっ、耳?」

 

 日向に耳を貸してほしいと頼まれた月子は、言われたように耳を傾けた。…ひそひそと何事かを相談する日向に、耳を離して合点がいったように肯く月子。

 

「………ふーん、そっか。それ電話でも言ってたことだよね、日向がそんなこと言ってくるなんて?」

 

 月子の暴露に日向は慌てて声を潜めるよう促す。

 

「しっ。…こういうことは月子が一番だろう?…直接聞いたわけではないが、どうやら周りもどうにかしようとしている様子、まぁそれとなく良い雰囲気になれば、それで円満だろう」

「んふふ、りょーかい。月子お姉さんにお任せー♪」

 

 道着の袖を捲りながら握り拳を掲げてみせた月子、日向は頼もしい姉に信頼の眼差しを送るのだった。




「継承 2-2」へ続く…。
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