おいでよ獣狩りの町 あの田舎町ヤーナムがオバロ世界にインしました 作:溶けない氷
プレーヤー「もっと遊びたい!」
上位者「OK」
狩は尊い。
血を嗜むべし、即ちその遺志を嗜むこと。
獲物の遺志を己が物とし、その足跡を咀嚼すべし。
血、悪夢、その物よりも狩りという行為そのものを狩人は耽溺すべし。
一心不乱にして繚乱なる殺戮。
獣との一体感すら感じる狩りこそ、獣狩りの愉しむべき狩。
その世界最後の日まで愉しむべし。
・・・・・・
今もウェアウルフの鋭い爪がヤーナムの狩人を襲う。
バックステップでギリギリの差で回避、返す刀で一撃の元に獣を狩る。
このヤーナムでどれだけの刻を過ごし、どれだけの獣を狩り狩られたのだろうか?
覚えてはおるまい、君も狩人ならばわかるはずだ。
わかってくれるはずだ、わからない?啓蒙がまだ低いようだね。
「セイヤッ!」
仕込み杖を振るうのは黒髪の乙女、名をAngelica・Blutigという
ユグドラシルにおいてその体裁は異様であった。
全身を目立たぬ狩人の装束で包み、右手に仕込み杖を左手に短銃を持つ乙女。
名前からして“血まみれ天使”とは・・・
実際にはただの厨二病である。
まず顔形、それは通常の人間である
だがあろうことか顔貌の作りは人形のそれと瓜二つであった。
いや、考えればアバターなのだから彼女もまた人形の一種だろう。
白亜の如き顔貌に夜より深い濡鴉の黒髪。
大昔のお人形を模した顔は彼女のアバターであった。
今やアバターではなく彼女そのものであるが
事の始まりはユグドラシル最終日。
ブラッドボーンとは大昔のゲーム、それもまだコントローラーという原始的な入力機器で画面上のキャラクターを動かす初期の物であった。
とはいえ、版権が失効しかつそれなりにデータが精緻であったことからユグドラシルに今風にアレンジを加えて実装することは難しくなかった。
結果としてダンジョン都市ヤーナムがユグドラシルに出現し、そして有名になった。
ユグドラシル3大魔境として。
『カンストプレイヤーをアヘアヘ言わせたい』by運営
難易度は決まった。
Lv100でようやくスタートラインに立てると言われた難易度。
Lv100だろうがさっくり死ぬ。
このヤーナムの獣の攻撃力は絶大、前衛タンク職と雖も2、3撃で沈む敵は珍しくもない。
ゆえにこの少女の狩人が重視しているのは回避、危険な攻撃も当たらなければどうということはない。
今も目にも止まらぬ爪の攻撃を認識することすらできない体捌きで紙一重の差で躱す。
瞬時、仕込み杖の一閃が獣の腕を切りとばし喉を抉りとる。
それでもまだ戦意の衰えない獣の心臓を次の一撃で貫き、そのまま体の中で杖を鞭へと変形させ内臓をことごとく破壊する。
ここまでやってようやく獣は動きを止め、命を削りきることができるのだ。
狩りをしている時は、誰にも邪魔されず、
自由で・・・・なんというか救われていないといけないのよ。
独りで静かで豊かでないと。
少女は目の前で動きを止め、血を取り込んだ獣をじっと眺めこう呟いた。
「今日で狩も終いね」
ユグドラシルの運営終了、この現実の前には所詮は作り物の世界は抗えない。
「しっかし、ヤーナムの狩人としては不本意な結果よねぇ・・・」
彼女はもはや過疎が進み、人影まばらなヤーナムを離れ彼女の唯一安全な狩人の夢へと入る。
普通ならば他の狩人と顔を合わせるだろう。
と言っても彼らに連帯感は無い、もともとがソロ向きに作られたこのダンジョン。更に人口の減少でもはや教会にいるのは彼女一人になった。
他の上位狩人も次々と引退していく中で自然と彼女が狩人のランキング1位に上り詰めて言った。
「あーあ、次の暇つぶし探さなきゃなー」
地球が汚染され尽くされ、一部の富める人々がアーコロジーに
大多数は野ざらしの世界は少女にとっては退屈極まりないものだった。
世界は狩られる価値も無くしてしまったのだろうか?
「もっと存分に狩り、殺したい。」
(それが望みか?)
「え?誰?」
突如として聞こえてきた声に辺りを見渡すがもはや狩人の夢は消えつつある。
ぶっちゃけると皆ログアウトしてチャットもメッセージも知っている人間にはもう届かない。
「あなたじゃないよね・・・」
目の前に立つのは人形、ただのNPC。
(汝の望みは永遠に続く獣狩の夜で良いのだな?
血に飢えた獣狩りの狩人にして、獣よ)
だがそれでも声は聞こえてくる、嗚呼遂に終焉の悲しみからか
はたまた啓蒙が高まりすぎたのか、彼女は正気を失っている!
『うん、そうだよ。もっと狩ってもっと殺したい。
ヤーナムだけじゃない、ユグドラシルよりも、退屈な世界よりもっと広い世界を見て心いくまで血に酔いたいんだ』
それに応えるのは果たして上位者なのか
(よかろう、間も無く日が変わる
そして汝の世界も変わるだろう
夢は現に、現は幻に
永遠に覚めない悪夢の中で、そなたの啓蒙を高めるが良かろう)
彼女の望みに応えたのが誰であれ、もはや関係ないはずだった。
午前0時
間も無くユグドラシルは終わる
『あーもう、独り言とか嫌になるね』
5
『まぁ自分なりに楽しめたし、それで良しとしますか』
4・・3・・・2・・
『もう戻ってこられないのが、残念だけどね』
・・・1・・・
そして世界は変わった
「Welcome Home ,Good Hunter」
『あれ?』
彼女に語りかけてきたのは瓜二つの容貌を持った人形。