おいでよ獣狩りの町 あの田舎町ヤーナムがオバロ世界にインしました 作:溶けない氷
王都の冒険者組合では一つの話題で持ちきりだった。
貴族街で起きた、大量殺人事件とスラムで起きた建物丸ごとの殺戮事件。
前者では貴族街で明らかに暗黒街の住人とみられる多くの殺し屋があるものは五体をバラバラにされて道の上に投げ出され、ひどいものでは何人かがぐちゃぐちゃに入り混じったゴアバック状態で発見されたがおそらくは10人ほどだろうと推定された。
後者の事件ではスラムにあった割には非常に堅牢な建物で何の前触れもなく血が出口という出口から流れて来た。
現場に駆けつけた衛兵によれば中はあらゆるところに人体と人体だったものの一部が張り付き
それが人間だったと理解するのは難しかったとだけ言える。
この建物は八本指の拠点であり、金庫兼幹部のいわば居城といったところだった。
にもかかわらず詰めていたガードマンのゴロツキ200人以上は一晩のうちに皆殺しにされ
金庫は文字どおり空になっていた。
誰もがわかっているが、何も言わない。
『いやー王都も物騒になったものねぇ、連続大量殺戮なんて時は正に世紀末』
冒険者組合では人間の所業とは思えないが、彼らが王国はおろか帝国にも広く根を伸ばしている金品が強奪されていたことと犯罪組織八本指の拠点であることが明白であったため犯罪者同士の金品を巡っての仁義なき抗争ということで目撃者もおらず、捜査は進展していない。
しかし、ある人たちから見れば誰が何をどうやったかは明白であった。
すなわち
「何やっとんじゃ、こらぁぁぁぁ!」
黒粉農場を焼き尽くして八本指の資金源の一つを絶った蒼の薔薇の苦労もよそに
当人は六腕を皆殺しにし、ゼロの脳を文字どおりかち割って情報を吸い出し
八本指の金庫を襲撃して中のけだものは悉く狩尽くし、聖杯を拝領するには遠く及ばなくとも
血と内臓と金品を拝領し、し尽くした。
構うことはない、啓蒙高きものが低いものの資源を無駄なく有効活用するのは常識だ。
それが例え血肉であったとしても、いや血肉だからこそ。
それにしても連中の遺志のなんと薄っぺらかった事か、なんと薄弱な事か。
六腕のうち、最強とされていたあのゼロですらその遺志は薄っぺらい事この上なかった。
犯罪者ならば、いや極悪人だろうと聖人だろうと関係ない。
要は単なる戦闘力の問題ではない、血質と啓蒙なのだ。
いくら狩ってもまるで水のようにこの身に止まらずに流れて行くだけ。
特に啓蒙、そう啓蒙なのだ。夜の世界で忌まわしいと感じられた啓蒙が
思考の次元も低い啓蒙なき者達が蔓延る夜明けの世界でなんと痛切に切望されている事か目覚めてわかるとは。
深宇宙の神秘、冒涜的叡智に触れる事なくしてどうして人が高みに登ることを期待できようか?
なるほど、ウィレーム学長のおっしゃる通り血によらない方法で高みに登ることも可能だろう。
だが少なくともこの王国では誰かが高みに登ろうという運動をまるで見えてこない。
ソウルの業を極め、その呪われた仄暗い深淵を覗くのもよし。
あるいは科学によってコジマの業を振るい世界を望むままに改変するのもよし。
どちらを選んでも人類に未来がない気がするのはなぜだろうか?
数少ない啓蒙をあげようという機運は僅かに帝国にあるという魔法学園か。
法国についてはまだよくわからない。
だからなのか?自らの幼年期を世界の啓蒙運動で過ごすのも悪くはない。
啓蒙がぐるぐる上がって?すっごーい!!ことになったら
世界が悪夢に沈むかもしれないが、それはそれで新しいものが見えてくるのでよしとしよう。
危険を冒さずして、どうして何かを得ることなどできようか?
未だに影響力がある貴族やフロント商店、中堅の構成員は無数にあるが、資金・上級人材を大量に失った彼らがもはや王国に悪影響をもたらすことはないだろう。
更に言えばアンゲリカはこの襲撃で金貨にして5000万枚以上の金品を強奪している。
正直アンゲリカにとっては端金だが、血を見れたついでの小遣いがわりだと割り切ればそう悪くもあるまい。
しばらくはこれでのんびりするもよし、今セクハラしているラキュースの一行にフラフラとついて行くのもいいだろう。
ラキュースは宿でアンゲリカを見るなりライダーキックを繰り出してきたが、遅い。
ひょいと避け、後ろに回り込むと鎧の隙間から手を差し込み、羽交い締めにしつつ胸と股間を弄る。
「や、やめ!あ、そんなとこ!あ、や!」
「よかった、まだ処女みたいね。ね、いろいろ考えたけど、ご褒美はあなたの処女でいいわ。
忘れられない夜にしてあげるから!」
犯人はここにいる。
更に八本指討伐の報酬をラキュースの身体で払わせようとする始末。
「アンジェ、私ならいつでもバッチこい。というかもうイキそう」
そこには変態という名の淑女がいた。
「うん、それじゃぁまずはラキュースを脱がそうか!」
ラキュースとアンゲリカのレベル差は圧倒的であり、がっしりと掴まれた手は万力のようにテコでも動かず無理に動いたら大事なものを突き破ってしまいそうだ。
「だから!なんで!そうなるのよ!」
「処女と人間性を(私に)捧げよ!(キリッ」
「するか!それと人前で処女処女言うな!」
ただでさえ王都から農場まで往復した上に夜通しでイビルアイの魔法で農場を焼くだの
捉えられていた農奴扱いの人々を救出しいの、護衛役の連中と戦ったのでくたくたに疲れているところにこの騒ぎである。
イビルアイとガガーランは向こうのカフェでなんとも言えない顔をしながら
「あ、ホットレモンティー。チビにはホットミルク」
と我関せずといった表情でウェイターに注文をしていた。
ティナは相変わらずのショタを探していた。
これが王都の冒険者組合の前の大通りで繰り広げられた痴情のもつれであった。
このアダマンタイト級冒険者達が
時折このような痴態を晒すのを
見て見ぬ振りをする情が
王都の市民や冒険者にも存在した。