おいでよ獣狩りの町 あの田舎町ヤーナムがオバロ世界にインしました 作:溶けない氷
絶望した!心が折れそうだ!
戻ってきた君はただしく、そして幸運だ!
「シャァァァァァ!」
蛮声と共に繰り出された鋤の一撃を前衛に立ったガガーランが受け止めようとする。
普通であれば戦闘用の槌と農具でしかない鋤では相手にはならない。
あくまでも普通であれば
(こいつ!早い!)
まともに喰らえば、跳ね飛ばされると判断したガガーランは武技“不落要塞”を発動し更に軸をずらし少々の掠るリスクを冒してでも衝撃を最大限まで逃がすことを選択。
飛びかかってきた獣のスピードと前衛と接触するまでの一瞬の出来事だということを考えれば
超一流の戦士の判断だった。だが・・・・
鋤がガガーランのメイスに当たるとその衝撃を受け流したにもかかわらず体勢を崩される。
イビルアイがクリスタルダガーで
ティアとティナがそれぞれ爆炎陣<大瀑布の術>でこちらに向かってくる敵を迎撃し、足止めする。
ラキュースが敵が足を止めた隙に骨にひびが入ったガガーランの治療を行う。
アダマンタイト級の名は伊達ではない、一流の連携だった。
「つぅ!ただの突きが・・・なんて馬鹿力だ!」
「動かないで!骨にひびが入ってる」
ダメージそのものは大したことはない筈だが、腕の怪我はそのまま戦闘力に響く。
速やかに治療魔法で癒しつつ周囲の警戒をする。
そしてイビルアイの連続クリスタルダガーを受け、怯んだ獣と二人の忍者の水蒸気爆発を受けた群衆は・・・
「嘘でしょ・・・」
「なんて奴らだ、まだ生きてるなんて・・」
確かにダメージは負っている、火傷をして皮膚は焼けただれて皮はずり向け、
腕にも腹にも穴が開いている
普通の獣ならとっくに致命傷になっているはず。
それでも動く、動いて襲い掛かってくる。
「ラキュース!こいつらただのビーストマンじゃない!
難度は下手したら100越えだ!」
100以上の難度とはレベルにして35から40ほどだろう。
一体ずつならレベル50にも相当するイビルアイでも時間はかかるが倒せないこともない。
一体ずつならばの話だが?獣は群れて襲ってくるものだ。
現に目の前の大通りからは30匹以上の獣が喚声を聞きつけてこちらに走ってきている。
そして敵は前からだけではない・・・
「くっ!右の通りからも来る!数およそ20!」
イビルアイの暗視が薄暗く、そして燃え盛る炎が照らし出す右の小道から足音を捉える。
戦闘の音を聞きつけて他の獣が駆けつけつつあるのだ。
手に手に鋤や桑、包丁に見慣れない武器を持った獣が襲い掛かってくる恐怖は歴戦の薔薇といえども中々であった。
包囲されれば最早勝負はつく、薔薇の敗北という形で。
ラキュースは即座に決断する。
「撤退!速やかに街の外まで応戦しつつ後退!」
幸いにして退路は確保できている、霧の向こうまで走ればそこから先は森。
隠れつつ後退するのは可能。
だが・・・・
「か、壁が・・・入り口は?そんな!?入り口が消えた!?」
チュートリアルが始まると、クリアするまでは通常マップには戻れない。
運営の仕様である、仕方ないね。
とはいっても蒼の薔薇はプレーヤーではないのだから死んだらほとんどそれっきりである。
復活しようにも死体があのように真っ黒焦げに焼かれ、蘇生魔法の使えるラキュースまでもが殺されてしまってはそれまでである。
「リーダー、このままじゃ持たない」
ティアとティナ、それにイビルアイの足止めも圧倒的な数と耐久力を持った群衆の前には焼け石に水だった。
唯一イビルアイのファイアボールでようやく獣が一匹倒れたが、あとからあとから湧いてくる獣相手にこれではどうにもならない。
次の瞬間、轟音が響き・・・ラキュースの太ももに激痛が走った。
「ああ!」
「ラキュース!?やられた!?しまった、魔法使いがいたのか?」
違う、ただのマスケット銃だ。だが、この世界には銃火器はまだ存在しない。
「イビルアイ、あなたは飛行で逃げて。
こんな連中がいるなんて王国の危機よ、だから・・・」
脚に治療を施しながら、ラキュースはイビルアイの力ならば高い城壁を超えて逃げおおせることもできると考え、全員が全滅しようともこの危機の情報を伝えることを優先させようとした。
「生憎だがな、さっきからフライが使えん。おまけにメッセージも使えんときた。
どうやら最後までお前たちに付き合うのが私の運命らしい」
ここで一緒に死ぬのなら、それも悪くないと思ってしまったイビルアイだった。
遂に壁際まで追い詰められた蒼の薔薇の面々は壁を背に防御態勢を取る一方向からの攻撃に備えるこの場では最善の選択だが、今となってはこれ以外に選択の余地がないほど追い詰められた。
(まさか・・・こんな場所で死ぬなんてね・・・)
(鬼リーダーにつきあったのが運のつき・・悪くない)
(暗殺稼業よりは・・・こんな風に終わるのも覚悟のうち・・・)
(へっ、来いよ。一匹でも多く地獄への道連れだ)
(皆・・・すまん。だがお前達を死なせはしない・・)
壁際に彼女たちを追い詰めた群衆が武器を手にじりじりと迫ってくる。
その時・・・・
「数を頼んで、女子供を大の男がいたぶる。
所詮は獣、礼儀がなっていないな」
瞬時、一閃。
一瞬にして世界が断ち切られたかの如く、前の前の獣人たちが文字通り上半身と下半身を生き別れにずり落ちていった。
「鐘は・・・ふむ鳴っていないか、だが獲物は早い者勝ち・・・
恨むなよ」
いつの間にか、5人の前に女性が立っていた。
漆黒の奇妙な皮鎧、なぜか剣でも槍でもなく杖。
左手には奇妙な鉄の筒を持っている。
そして・・・美しかった。同性の5人もかなり整った顔立ちだがこの突如として現れた女性のそれは別次元の者だった。
髪は闇夜の色を流し込んだ絹のごとし、白磁のごとき肌は闇夜に浮かび上がるよう。
そしてその黒い瞳は吸い込まれるような深い黒だった。
5人を後ろに無造作に振り返ることもなく群衆の方に歩いていく。
「ま、待って、そいつらは危険よ・・・」
ラキュースが警句を発するが、次の瞬間には狩人に刃を突き立てようとした獣は悉く・・・
悉く、細切れになって道に散らばることになった。
「つまらん、これでは大根を切るのと変わらんではないか。
パリィもステップも必要ない、ポチポチげーでは萎えるわー」
圧倒的強者
いずれも伝説級とすら言える獣人をこうもあっさりと打ち倒す。
イビルアイはあの入り口で見た文字と嘗て共に冒険した者たち、
そして眼前の圧倒的な力を持った狩人
「ぷ、ぷれいやー・・・・」
目の前に降り立った狩人は正に神話の存在なのか・・・
「かー萎えるわー!周回カンスト勢に今更チュートリアルとかいらねーっつーの!
闇霊だせや、こらぁ!」
・・・・えらくくだけた神話だが