元奴隷少女の平和な日常。   作:鉄夜

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第1話

彼らが少女に会ったのは、高校の入学式だった。

 

「新田シルヴィです。

よろしくお願いします。」

 

式が終わった後の教室で、ほかの生徒に向かって笑顔を浮かべてそう自己紹介した彼女は、嫌でも人目を集めた。

 

美しい黒髪をポニーテールに結びんだ彼女の容姿はその魅力的な銀色の瞳も相まって可愛らしいものといえる。

 

ただ、その顔には目を覆いたくなるような火傷のあとがあった。

 

顔だけではない。

 

制服の袖から覗かせている手にもそれは見て取れた。

 

そんな彼女から、誰もが最初は距離をとった。

 

しかし、そんなコンプレックスを感じさせない笑顔と明るさを持った彼女に人が集まっていった。

 

その中でも、

工藤アカネ、斉藤マコト、立花タケルの3人は彼女の親友とも言えるだろう。

 

シルヴィは友人達と学園生活を満喫していた。

 

そしてそれは、アカネの一言から始まった。

 

#####

 

「気になる・・・」

 

トレイドマークのサイドテールの茶髪を揺らしながら、アカネは腕を組んでそう唸った。

 

「・・・なにが?」

 

幼なじみの彼女の性格をよく知っているタケルが顔を顰めて聞く。

 

アカネが唐突にこういうことを言い出すと、ろくなことが無いのだ。

 

「シルヴィの事だよ!

二人は気になんないの?あの火傷の痕の事!」

 

「そりゃ気にならねぇことはねぇけど・・・

俺達が気にしても仕方ないだろ。」

 

マコトが缶ジュースを飲みながら言うと、

アカネは使えを叩いて怒鳴る。

 

「なにいってんの!

友達の事だよ!?気になるに決まってんじゃん。」

 

「・・・確かに気になるね。」

 

タケルもアカネに同調して頷く。

 

「入学して2ヶ月経ったけど、そのへんのこと話してくれないしね。」

 

「話さねぇってことは、話したくねぇってこったろ。

俺達が関わっていいことじゃねぇよ」

 

「・・・話したくないんじゃなくて、話せないんじゃないかな。」

 

真剣な表情でアカネはそう言った。

 

変に正義感の強い彼女がこうなったら面倒なことをマコトとタケルは知っていた。

 

しかし今回ばかりはスルーすることは出来なかった。

 

「どういう意味だよ。」

 

「例えば親に虐待されて脅されてるとか・・・。

ほら、シルヴィの親って確か医者でしょ?

病院ならそういう薬品とかあるかもだし!」

 

「落ち着けアカネ。

流石に飛躍しすぎだ。」

 

「でも!このままじゃシルヴィが!」

 

「私がどうかしましたか?」

 

「うにゃ!?」

 

背後から急に話しかけられアカネが変な声を出して振り返ると、シルヴィが不思議そうに首を傾げていた。

 

「いや・・・あの・・・えっと・・・。」

 

アカネがすがるような目でタケルを見る。

 

こういう時、アカネが彼を頼るのはいつもの事だ。

 

「シルヴィの好きなタイプってどんな男かなって話をしてたんだよ。」

 

「そ・・・そうそう!

シルヴィあんまりそういうこと話さないし気になってさ!」

 

「私の好きなタイプですか・・・そうですねぇ。」

 

シルヴィが顎に手を当てて考える。

 

こちらの会話が聞こえたのか、周りの男達が耳を傾けている気がする。

 

しかしシルヴィは数秒間を置くと、顔が赤くなる。

 

「ど・・・どうしたのシルヴィ。」

 

「い・・・いえ・・・その・・・。

初恋の人が・・・ですね・・・////」

 

『初恋!?』

 

「食いつくな有象無象!」

 

シルヴィの漏らした言葉に男達が反応し、

アカネが怒鳴る

 

「し・・・失礼します!」

 

顔を耳まで真っ赤にしたシルヴィは廊下に飛び出していった。

 

「・・・気になる。」

 

厄介事に巻き込まれそうな雰囲気に、

マコトはため息を吐き、タケルはなれた様子で笑った。

 

#####

 

放課後、3人はある建物の前にいた。

 

二階建てのアパートのような建物には、

 

『新田病院』と書かれた看板がかけられていた。

 

人の気配がないところを見ると、今日は休診日のようだ。

 

「へぇ、ここがシルヴィの家か。」

 

呑気に建物を見上げながらそういったタケルの横で、マコトは不安そうにアカネに聞く。

 

「なぁアカネ、マジでやんの? 」

 

「当然!何かあってからじゃ遅いからね!」

 

「・・・考えすぎだと思うけどなぁ。」

 

3人は入口の扉から中をのぞき込む。

 

「誰も居ないみたいだよ?」

 

「よし、忍び込もう!」

 

「落ち着けって!流石にそれはまずいだろ!」

 

「手段は選んでられないってマコト!

もし中でシルヴィちゃんがなんかされてたr」

 

「そこで何をしてるんですかー?」

 

「にゃ!?」

 

背後から急に話しかけられ、アカネは再び変な悲鳴をあげて振り返る。

 

そこには青と緑のきれいなオッドアイの女性がいた。

 

・・・オッドアイだけならまだ良かったのだが、その見た目は派手だった。

 

まずツートンカラーの髪の毛、耳にはたくさんのピアスが付けられており、

服はあちこちにベルトのようなものが付けられている。

極めつけは腰につけられたチェーン。

 

一般人が話し掛けられれば誰もがこう思うだろう。

 

(((ヤバイ奴に絡まれた!)))

 

それはこの3人も例外ではなかった。

 

アカネに至っては涙目で今にも大声で泣き出しそうである。

 

女性は怯えているアカネに顔を近づける。

 

「なーんか忍び込むとか穏やかじゃないこと言ってましたけどー。

ウチになにか御用ですかー?」

 

「いえ・・・あの・・・あの・・・私達シルヴィに・・・その・・・。」

 

シルヴィの名前を出すと、女性は笑顔を浮かべる。

 

「なーんだ、シルヴィちゃんのお友達ですかー。

それならどうぞ中に入ってください。」

 

「え・・・でも・・・」

 

「遠慮しないで下さい。

さぁ、どうぞどうぞー。」

 

女性はアカネの手を取ると、フラフラとした足取りで建物の中に入っていく。

 

マコトとタケルも後に続けて入っていく。

 

「ヤマトさーん。

お客さんですよー。」

 

「あぁ?客?」

 

奥から出てきた男の顔は、別に怖いという訳では無い。

むしろ整っていると言える。

 

しかし、捲りあげた白衣の袖から覗かせている鍛えげられた腕と、

180cmのタケルよりもさらに10センチは高いであろう身長は、威圧感を与えるには十分だった。

 

「今日は休診日だぞネフィ。」

 

「いや患者さんじゃなくてシルヴィちゃんのお友達ですよー。

ていうかヤマトさん休みなのになんで白衣着てるんですかー?」

 

「急患は受け入れてるからな、もしもの時為だ。」

 

「急患来るほど知名度ないじゃないですかー。」

 

「うるせぇよ。

おい、お前ら。」

 

「はいぃ」

 

急に話しかけられ、アカネは体をビクッと震わせて反応する。

 

「すまねぇがシルヴィは今買い物に行っててな。

もうすぐ帰ってくると思うからそこら辺で座って待っててくれ。」

 

そう言って踵を返そうとするヤマトを

 

「あ・・・あの!」

 

アカネは呼び止める。

 

「なんだ?」

 

「あの・・・シルヴィちゃんの事について聞きたいことがあるんですけど。」

 

「おいアカネ。」

 

マコトが止めようとするが、アカネは震えるこぶしを固く握ってヤマトを精一杯睨む

 

「あの火傷の痕は何ですか!?

あなた何かしてるんじゃないですか!?

も・・・もしそうなら・・・」

 

そこまで言ったところで、ヤマトに鋭く睨まれ、アカネは言葉を詰まらす。

 

「・・・あれは俺がやったんじゃない。

神に誓ってもいい。」

 

「じゃあなんd」

 

「知ってどうする。」

 

アカネの声にかぶせるように言った言葉は、

怒気をはらんでいた。

 

「てめぇらが知ったことで意味なんてねぇだろうが。

なんも知らねぇ赤の他人のガキが興味本位で首を突っ込むな。」

 

その言葉は、今までも似たようなことがあったのだということを3人に悟らせるのに十分な効果を持っていた。

 

「・・・じゃない」

 

それでもアカネは勇気を振り絞って声を出す。

 

「赤の他人じゃないし、興味本位でもない!

私達はシルヴィの友達です!

友達が自分の知らないところで辛い目にあってるなら助けたいって思っちゃダメなんですか!?」

 

そう言ったアカネの前に、ヤマトは歩み寄る。

 

「友達だから・・・ねぇ。」

 

ヤマトはニヤリと笑う。

 

「悪くない答えだ、小娘。」

 

「え?」

 

「お前らも同じか?」

 

ヤマトが後ろの二人にも聞く。

 

「聞かれるまでもねぇよ。」

 

「何かあるならほっとけないよねぇ。」

 

そういった2人にヤマトは満足そうに微笑む。

 

「そうか。

だがどちらにせよ俺から話すことは出来ない。

そう言うのは本人から直接聞け。

なぁ、シルヴィ。」

 

3人が後ろを振り返ると複雑な表情を浮かべたシルヴィが居た。

手には食材の入った手提げ袋を持っている。

 

「お父さん・・・」

 

「友達なら、話しておいた方がいいんじゃないか。」

 

「・・・そうですね。」

 

シルヴィは近くの椅子に座る。

 

「・・・アカネちゃん、ヤマトくん、タケルくん。

今まで話せませんでしたが・・・。」

 

シルヴィは深呼吸をすると、意を決して言った。

 

「私は昔、奴隷だったんです」

 

#####

 

それからシルヴィは全てを話した。

 

火傷のあとはヤマトに会う前に飼われていた主人に付けられたものであること。

 

その後主人が死に、商人に引き渡された自分をヤマトが引き取り、その後養子として迎え入れたこと。

 

全てを包み隠さず話した。

 

「あの高校はお父さんの知人が経営していて、事情を話して入学試験を受けさせてもらえることになったんです。

そこから必死に勉強をして、日本語も覚えました。

そして試験に合格して、今に至ります。」

 

あまりに壮絶な過去に、アカネ達は黙ってしまう。

 

「いままで黙っていてすいませんでした!

でも・・・もしかしたら軽蔑されちゃうんじゃないかと思って・・・不安で・・・。」

 

「シルヴィ!」

 

声を震わすシルヴィに、アカネは泣きながら抱きついた。

 

「アカネ・・・ちゃん?」

 

「話してくれてありがとう!

嫌ったりなんかしないよ!

どんな過去があってもシルヴィは大切な友達だもん!」

 

「だな、だからお前も、何かあったら俺らを頼れ。」

 

「こう見えて俺たち、ちょっとは役に立つかもよ。」

 

3人がそう言うとシルヴィは嬉しそうに微笑む。

 

「みなさん・・・ありがとうございます。」

 

「うぅ・・・うわぁぁぁぁぁぁん!」

 

「「お前が泣くのかよ。」」

 

大声で泣き出したアカネに、マコトとタケルがツッコみ、

シルヴィはハンカチを取り出してアカネの涙を拭いてあげていた。

 

その様子をヤマトは、穏やかな表情で見ていた。

 

#####

 

ネフィが仕切り直すように手を叩いて言う。

 

「さて、一件落着したところで晩御飯にしましょうかー。

皆さんも食べて帰りませんかー?」

 

「え?いいんですか?」

 

マコトが聞くと、ネフィは笑顔で答える。

 

「もちろん、その方が賑やかで楽しいですしねー。」

 

「あ!ネフィさん、お手伝いします!」

 

「シルヴィちゃんはお友達と待っててくださいねー。

こっちはヤマトさんに手伝ってもらうから大丈夫ですよー。」

 

「俺かよ、まぁいいけど。」

 

アカネ達は案内されるまま食卓に座る。

 

食卓から見えるキッチンで料理するネフィとヤマトを見ながら、アカネが呟く。

 

「ねぇ、シルヴィの初恋の人ってお父さんだったりする?」

 

「な!?」

 

顔を真っ赤にしたシルヴィをみて、アカネは意地悪そうに笑みを作る。

 

「そっかー、そうだよねー。

ヤマトさんカッコイイし頼りになるもんねぇ。

わかるわかる。」

 

「た・・・確かにお父さんの事を好きだと思っていたことはあります。

でも・・・違ったんです。」

 

「違った?」

 

アカネが首を傾げると、シルヴィは言う。

 

「私はお父さんが好きです。

でもそれは異性としてではなく、父親としてだと気づいたんです。

・・・だから。」

 

シルヴィは料理をしているヤマトとネフィに視線を向ける。

 

「もう、薄切りにしてくださいって言ってるじゃないですかー。」

 

「うるせぇなぁ、普段あんまり料理しないんだから仕方ねぇだろうがよ。」

 

「これからはちょくちょくしごかないとだめですかねー。」

 

「勘弁しろよ。」

 

シルヴィはそんなふたりを見て微笑むと

 

「あの2人のことも、祝福できるんだと思います。」

 

「・・・そっか。」

 

会話をしている2人にマコトとタケルが近づく。

 

「二人で何の話してんだ?」

 

「えへへー、ないしょ。

ね、シルヴィ。」

 

「はい、内緒です。」

 

そう言って笑い合う女子2人に、男たちは首をかしげた。

 

少しすると、料理が運ばれてきた。

 

各々が席に座り、食事を始める。

 

「んー!おいしい!」

 

「アカネ、口に食べかすいっぱいついてるよ?」

 

「ったく、子供かよ。」

 

「だって美味しいんだもん!」

 

「うるせぇぞ小娘、すこしは静かにできねぇのか?」

 

「小娘じゃなくてアカネだよ、ヤマトさん!」

 

「このガキ・・・さっきまで怯えてやがったくせに。」

 

「えへへ、もう慣れたもんねぇ。」

 

賑やかに会話しているヤマトと友人達を、

シルヴィは微笑みながら見ている。

 

「シルヴィちゃん。」

 

声をかけられたシルヴィは、ネフィの方を向く。

 

「いい友達ができましたね。」

 

その言葉にシルヴィは、

 

「はい!」

 

満面の笑みで答えた。

 

#####

 

アカネ達が家に帰り、シルヴィが寝静まったあと、ヤマトはネフィと外へ散歩に出ていた。

 

「よかったですねー、シルヴィちゃんのお友達いい子達でー。」

 

「まぁ、あいつなら上手くやるだろうし、

心配はしてなかったさ。」

 

「本当ですかー?入学式の時なんてソワソワしてたじゃないですかー。」

 

「う・・・うるせぇよ。」

 

「アハハ。」

 

ネフィは大きく背伸びをする。

 

「こっちに引っ越すってなった時はどうなる事かと思いましたけど、何とかなりそうですねー。」

 

「俺はお前が看護師の資格持ってたことに驚いたけどな。

看護大学行ってまで資格とったなら普通病院に就職するだろ?

なんでレストラン経営してたんだお前。」

 

「んー、なんとなくですかねー。」

 

「・・・変な女。」

 

「む、お言葉ですかヤマトさん。

その変な女に惚れたのはどこの誰ですかねー。」

 

「それはお互い様だろ。」

 

「私はゲテモノも全然イケますしー。」

 

「なんだとこの野郎。」

 

「アハハハハ。」

 

「・・・ったく。」

 

ヤマトはネフィの昔より短くなった髪を撫でる。

 

「髪まで切っちまいやがって。」

 

日本に引っ越すと言った時、一緒について行って病院で働くと言い出したネフィを当時は三つ編みに結んでいた長い髪を理由に諦めさせようとした。

 

しかしネフィは、果物ナイフを取り出すと目の前で髪の毛を切り落とし、

 

「これで文句ないですよねー。」

 

と渾身のドヤ顔をキメてみせた。

 

これには流石のヤマトも両手をあげて降参し、

今では新田病院のナースとして働いている。

 

「あれ?やっぱり長い方が好きでしたかー?」

 

「そういう訳じゃねぇよ。

ここまでして着いてくる必要があったのか?」

 

「シルヴィちゃんと離れるのは寂しいですし、

離れてる間に先生が浮気しないとも限らないですしねー。」

 

「信用ねぇなぁオイ。」

 

「正直シルヴィちゃんに手を出す所まで想像してました。」

 

「ださねぇよ!」

 

自分をからかって笑うネフィの頭をワシワシと撫でてヤマトは言う。

 

「じゃあ俺も、お前がどっかいっちまわねぇようにするか。」

 

「え?」

 

ヤマトはポケットから箱を取り出してネフィの目の前で開ける。

 

「これって・・・。」

 

「あー、あれだ。

こういうのは正直苦手だから、簡潔に言うぞ。」

 

ヤマトはネフィの目をまっすぐ見て言う。

 

「新田ネフィにならねぇか?」

 

ネフィは目に涙を浮かべる。

 

「・・・はい。

大好きです!ヤマトさん!」

 

飛びついてきたネフィの体を、ヤマトは優しく抱きしめた。

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