日曜日。
「おはようございますネフィさん。」
シルヴィは朝ごはんを作るネフィに挨拶をする。
「おはようございますシルヴィちゃん。」
「お父さんはまだ起きてきてないんですか?」
「あー、ヤマトさんなら今電話中ですよ。」
「ひょっとして・・・またですか?」
「はい、またですねー。」
「あはは。」
ネフィの返答に、シルヴィは苦笑いをする。
「そろそろ終わる頃でしょうし様子を見てきたらどうですかー?」
「そうですね、ちょっと行ってきます。」
そう言ってシルヴィはヤマトのところへ向かおうとしたが、ふと視線を楽しそうに料理をするネフィに向ける。
彼女の左手の薬指には綺麗に輝く指輪が付けられていた。
シルヴィはそれをみて嬉しそうに微笑むと、
ヤマトの部屋へと向かった。
部屋の前につくと、シルヴィは扉をノックする。
「お父さん、失礼します。」
シルヴィは静かに扉を開く。
中ではヤマトが電話をしていた。
「おいおい、何度も言わせるな。
あんたも医者なら分かってんだろ?
その手術は難しいなんてもんじゃない。
ほんの少し手元が狂っただけで終わりだ。
それをあんたらは俺にやれって言ってんだぜ?
それに加えてこちとら病院を1日休みにするんだぜ?
その額じゃ割に合わん。」
ヤマトは一般的な知名度は低いものの、医学の世界では様々な病院から患者の手術を依頼されるほどの腕だ。
今回も手術の依頼のようで、ヤマトは報酬の交渉の真っ最中だった。
「よく考えろよ?
アンタのとこには優秀な医者が揃ってるはずだろう?
なのにあんたらは俺を頼った。
俺しか直せるやつがいないからだ、そうだろ?
ならそれ相応の額を払うのが筋ってもんじゃねぇか?」
そのヤクザのような語り口に、シルヴィは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「OK、アンタとはいい商売ができそうだ。
それでいつやるかなんだが、急ぎってわけじゃないんだろ?
なら来週の日曜なんでどうだ?
・・・土曜はダメだ、先約がある。」
カレンダーを見ると来週の土曜日の所はまるで囲まれ、
「式場予約」と書かれていた。
「よし、決まりだ。
じゃあ来週な?」
ヤマトは受話器を戻した。
「お父さん。」
「おう、おはようシルヴィ。」
「おはようございます。
また手術の依頼ですか?」
「おう、来週の日曜日にやることになった。」
「それはいいですけど・・・あまり意地悪をしては大事なお客様が減りますよ?」
「結構稼いでる所だからなぁ。
稼げるところからはきっちり搾り取らねぇとな。」
「もう、フフフ。」
飄々としたヤマトの態度に、シルヴィから笑みがこぼれる。
「もうすぐ朝ごはんができるそうです。
行きましょう、お父さん。」
「わざわざ呼びに来てくれたのか。
ありがとうな、シルヴィ。」
そういうとヤマトはシルヴィの頭を優しく撫でる。
何年経っても変わらないこの手の感触が、
シルヴィはたまらなく好きだった。
「よし、行くか。」
「はい。」
シルヴィとヤマトが二人で食卓に向かうと、
ちょうどネフィが食事を並べているところであった。
「おはよう、ネフィ。」
「おはようございますヤマトさん。
それで今回はいくらふんだくるんですかー?」
ヤマトは自慢げに指を三本立てる。
「これはまたえげつない。。」
「取れるところからはしっかり取らねぇとな。」
そう言うとヤマトは食卓の椅子に座る。
シルヴィとネフィも席に着き、両手を合わせる。
「「「いただきます。」」」
3人は食事を始める。
「ネフィ。
今日は予防接種何件入ってる?」
「5件ですねー。
全員子供です。」
「子供かー、苦手なんだよなー。
こっちは何もしてねぇのに姿見た瞬間泣き出すし。」
「ヤマトさんは無駄にでかいから子供が怖がるんですよー。
もう少し小さくなれませんかー?
30センチくらい。」
「骨削れってか?」
ちなみにそういうネフィはと言うと、
さすがに勤務中はいつもの服装は控えている。
服は当然ナース服に着替え、耳のピアスも外し、
メイクも軽くする程度だ。
とはいえ髪の色は譲れないらしくそこだけは変えていない。
「せめてもう少し笑顔で対応できませんかねー。
それだけで随分と印象違うと思いますよー?」
「笑顔かー、作り笑いって苦手なんだよなー。
・・・こうか?」
ヤマトは精一杯の作り笑顔を二人に向ける。
その結果、ネフィは微妙な表情をし、
シルヴィはどう言ったものかと困った表情をする。
「なんか子供がさらに泣きだしそうですねー。」
「おい、そこまで言うか?」
「えっと・・・お父さんにはお父さんの良さがあると思いますよ?」
「シルヴィ精一杯のフォローをしてくれるのは有難いが今はそれが心に突き刺さる。」
「とりあえず午前診までに笑顔の練習ですね。」
「マジかよ・・・。」
ネフィの申し出に、ヤマトはうなだれる。
「まぁ、いいか。
それよりシルヴィ、お前は今日オーレリアのところに行くんだろ?」
「はい。」
オーレリアというのは、シルヴィが普段服を買いに行く店の店長のことだ。
とはいっても今回はシルヴィの服を買いに行くわけではない。
きっかけは昨晩スマートフォンのメッセージアプリに届いたタケルのメールだった。
『アカネのお母さんに娘の女子力どうにかしてくれって頼まれたんだけどこれどうしたらいい?』
という言葉とともに送られてきたアカネのジャージにスウェット姿て菓子を貪る写真を見て、オーレリアの店を紹介することにしたのである。
「アイツの着せ替え人形がまた増えるな。」
ニヤニヤとしながらそう言ったヤマトに、
シルヴィは苦笑いを浮かべた。
#####
というわけでシルヴィは今、友人3人を連れてその店に向かっていた。
「ごめんねシルヴィ、休日に呼び出しちゃって。」
「いえ、いいんです。
流石にあれはその・・・緊急事態ですし。」
そう言ってシルヴィは、ジャージにスウェット姿でついてきている茜を見た。
「むー、お母さんもタケルもお節介すぎるんだよー。
私はそういうのいいって言ったのに。」
「そりゃお前、家できるだけならまだいいけど外でもそれだろ?
流石にまずいって。」
「そうは言うけどマコト。
別に私がお洒落しても誰も興味ないと思うけどなー。」
「・・・そんなことないと思いますけど。」
そう、シルヴィの言うとうりである。
実際アカネは、クラスでシルヴィと二分する程男子に人気である。
シルヴィが綺麗系の美少女だとすれば、
身長が低く子供っぽい性格の彼女は、
かわいい系の美少女なのだ。
そんな2人が普段一緒にいて、ほかの男子に言い寄られないのは、側でガーディアン二人が目を光らせているからである。
「アカネ、わがまま言っちゃダメだよ?
2人ともアカネのために来てくれたんだから。」
「ご・・・ごめんなさい、タケル。」
「お前本当にタケルのいうことは聞くよな。」
「仲がよろしいんですね。」
シルヴィがそう言うと、タケルは笑って言う。
「小さい頃から一緒にいるしね、
俺にとっては妹みたいなもんだよ。」
「もう!同い歳でしょ!タケル!」
「あはは、ごめんごめん。」
そう言って笑ったタケルに、
頭を撫でられたアカネは、嬉しそうに目を細めていた。
そんな彼女に、シルヴィは親近感を感じていた。
#####
「このお店です。」
数分後、シルヴィたちは目的の店に着いた。
「うー、ねぇ、やっぱり止めない。」
「やめない、ほら行くよアカネ。」
タケルに手を引かれるアカネを連れて、4人は店の中に入る。
「こんにちは、オーレリアさん。」
シルヴィが声をかけると、店主と思しき女性はこちらを向く。
オーレリアと呼ばれたその女性は、
魔女を彷彿とさせるような不思議な雰囲気を醸し出していた。
どれくらい不思議かと言うと、警戒したアカネが咄嗟にタケルの後ろに隠れるほどだ。
「あらシルヴィ、いらっしゃい。
今日はお友達もご一緒かしら?」
「はい!
あ、みなさん、こちらオーレリアさんといってこちらに引っ越してくる前からお世話になっている方です。
オーレリアさん、
こちらはマコトさん、タケルさん、アカネちゃんと言って、私のお友達です。」
「オーレリアと申します、以後お見知りおきを。」
オーレリアはシルヴィ以外の3人に礼儀正しく一礼をする。
「引っ越してくる前からって・・・わざわざ日本まで付いてきたのか?。」
「ええそうよ、だって・・・。」
オーレリアはシルヴィを抱き寄せる。
「せっかくこんなに可愛い着せ替え人・・・じゃなかった。
お客様ができたのに勿体ないじゃない。」
((今思いっきり着せ替え人形っていいかけたな。))
と、男子ふたりは思ったが、あえて口には出さなかった。
「それでシルヴィ、今日は何の用?」
「実は友達のコーディネートをお願いしに来たんです。」
「コーディネート?」
シルヴィはことの詳細をオーレリアに話した。
「なるほど、話はわかったわ。
でも本人がその調子だとねぇ・・・。」
オーレリアの視線の先にはタケルの後ろに隠れながらこちらの様子を伺うアカネの姿があった。
「すいません、この子ちょっと怖がりなん
です。
ほらアカネ、いつまでも隠れてたら失礼だよ?」
そう言ってタケルはアカネを前に出す。
その姿を見た瞬間、オーレリアの目が獲物を狩る猛禽類の目になったのを、男達は見逃さなかった。
「へぇ、アナタが・・・ねぇ。」
オーレリアがにじり寄るとアカネは後ろに後ずさっていき、最終的に壁際まで追い詰められる。
「あ・・・あの!
やっぱり今日は遠慮しておこうかなって!
私こういうのガラじゃないし!
そもそもにあわn」
そこまで言ったところで、アカネの持たれている壁にオーレリアがドンと手を置く。
「大丈夫よ?
私がちゃんと可愛くしてあげるから・・・ね?」
「・・・はい。」
オーレリアは涙目のアカネの手を引いていき、
試着室に放り込む。
「そこで大人しくててね?」
「え?でm」
「お・と・な・し・く・・・ね?」
「・・・あい。」
それを見た男達は感嘆の声を上げていた。
「見事にゴリ推したな・・・。」
「すごい手際だったねぇ。」
そんな男達の言葉は一切気にせず、
オーレリアはシルヴィの方を向く。
「さてシルヴィ、お友達の服なんだし折角だから一緒に選びましょうか。」
「いいんですか!?」
「ええ、もちろん。」
シルヴィは嬉しそうにオーレリアについていく。
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アカネに服を選びながらオーレリアとシルヴィは楽しげに会話をする。
「それにしても驚いたわ。
まさかシルヴィがイケメンを2人も侍らすなんて。」
「は・・・侍らすって。
そんなんじゃないですよ。」
確かにそのタケルとマコトは女子人気が高い。
最近ではアカネとシルヴィを守るようにそばにいる姿がさらに絵になり、人気は上がる一方だ。
「いい友達みたいでよかったわ。
傷跡のこともあるし、心配してたんだけどね。」
「はい、3人ともとてもいい人たちですよ。
・・・オーレリアさん。」
「なに?シルヴィ。」
「私今とても幸せです。
父さんやネフィさん、友達もとても優しくしてくれて毎日がとても充実しています。
・・・だからこそ怖いんです」
「怖い?」
シルヴィは不安そうに俯く。
「この幸せが壊れたらどうしようって考えると・・・それだけて凄く・・・怖いんです。」
そんなシルヴィをオーレリアは後ろから優しく抱きしめる。
「オーレリアさん?」
「本当に変わったわね、シルヴィ。」
その声はとても穏やかなものだった。
「初めてあった時のあなたは、目が虚ろでまるで人形のようだった。
でも・・・今の貴方の目はとても美しく輝いているわ。
きっと・・・あの人とネフィに大切なことを色々教わったのね。」
オーレリアは、シルヴィの頭を撫でて続ける。
「いいこと?シルヴィ。
そう感じられることはとても幸せなことなのよ。
そう思えるくらいに、今が大切だってことなんだから。
だから・・・今を大切に生きなさい。
貴方ならもっと幸せになれるわ。」
「・・・はい。」
それだけを言うと、オーレリアはシルヴィから離れる。
「さて、それじゃあアカネちゃんの服を選びましょうか。」
そう言って行こうとするオーレリアを引き止めるようにシルヴィは彼女の服の裾を摘む。
「シルヴィ?」
「あの・・・えっと・・・」
シルヴィは恥ずかしそうに顔を赤くすると、
「オーレリアさんからも、たくさん教えてもらいました!」
そう言って急ぎ足でオーレリアの横を通って行った。
「フフ、誰に似たのかしらねぇ。」
その背中をオーレリアは微笑んでみていた。
#####
数分後、アカネの着替えが完了し、
マコトとタケルは試着室の前に集められた。
「それではご対めーん♪」
そう言ってオーレリアが試着室のカーテンを開くと、そこには顔を赤くしているアカネがいた。
アカネは赤を基調にした落ち着いた服を着ていて、髪の毛はサイドテールをポニーテールに結び直し、大きめのリボンで結んでいる。
「へぇ、服はシルヴィが着てるのの色違いかぁ。」
「はい。
アカネちゃんになら似合うと思いましたので。」
「なかなか様になってんじゃねぇかアカネ。
馬子にも衣装だな。」
「ぶん殴るよマコト!」
マコトの無礼な発言に怒るアカネに、タケルが言う。
「いいじゃんアカネ。
すごく似合ってるよ。」
「うぅ・・・でもやっぱり私にはこういうの似合わないんじゃ・・・」
「そんなことないって、かわいいかわいい。」
「・・・ねぇ、タケル。
タケルはこういう私の方が・・・好き?」
「うーん、そうだな。」
タケルはすこし考えてから、アカネに微笑みかける。
「俺はいつものアカネでもいいけど。
今のアカネも、すごく可愛いよ。」
「・・・そっか、ならこれからはちょっと頑張ってみようかな。
・・・ねぇ、タケル。」
「ん?なに?アカネ。」
「頭・・・撫でて。」
「うん、いいよ。」
そう言ってタケルが撫でてやると、やはりアカネは嬉しそうに目を細める。
その様子を懐かしいものを見る目で見ていたシルヴィに、オーレリアが話しかける。
「シルヴィ、せっかくだしあなたも服を買って行ったら?」
「うーん・・・そうですね、そうします。」
「あ、そうだ。
坊や、シルヴィに服を選んであげなさいよ。」
「俺かよ・・・うーんそうだなぁ。」
マコトは周りの服を見渡すと、黒色のワンピースを手に取った。
「これなんていいんじゃねぇか?」
「なんでそれにしたの?」
「うーん、これといった理由はねーんだけど・・・」
マコトは少し間を開けると微笑んで言う。
「シルヴィには、黒が一番似合うからな。」
マコトの言葉に、シルヴィは驚いた顔をした後、頬を赤く染める。
「どうした?シルヴィ。」
「いえその・・・昔お父さんにも同じことを言われて。」
「な!?」
シルヴィの言葉に、マコトは恥ずかしそうに頬を染めて顔を逸らし、気まずそうに後頭部をかいた。
(これはこれは・・・面白いことになりそうね。)
その様子をオーレリアは、ニヤニヤとしている口を奥義で隠しながら見ていた。
#####
「お父さん、ただいま帰りました。
・・・何があったんですか?」
「おかえりシルヴィ。
まぁその・・・色々あってな。」
顔に絆創膏をたくさん貼って椅子の上でうなだれるヤマトの代わりに、ネフィが言う。
「注射を嫌がった子供に思いっきりひっかかれたんですよー。
それですっかり拗ねちゃって。」
「笑顔の練習はどうなったんですか?」
「あー・・・えっと・・・」
ネフィは気まずそうに頬をかく。
「人には得手不得手があるものですよ、シルヴィちゃん。」
「・・・あはは」
シルヴィはネフィの言葉に全てを察して苦笑いになるが、ふと何かを思いついたようにヤマトに近寄っていう。
「お父さん、ちょっと頭を下げてもらっていいですか?」
「ん?こうか?」
ヤマトが言われた通りにすると、
シルヴィはヤマトの頭を優しく撫でる。
「えっと・・・シルヴィ、なにやってんだ?」
「いつも私達のために頑張ってくれているお礼です。」
「・・・さいですか。」
その様子を見ていたネフィが楽しそうにいう。
「何だか可愛いことになってますねー。」
「ネフィさんもどうぞ!」
「いいんですか?それではお言葉に甘えて。」
ネフィもシルヴィと一緒になってヤマトの髪をなで始める。
「お前ら、何が楽しいんだ。」
口では文句を言いながらも無抵抗なヤマトの頭を、シルヴィとネフィは満足するまで撫で続けた。