お偉いさん達のする、嫌な話が嫌いな人はブラウザバックでよろしくお願いしますです。
『10億の人間を無差別に死に追いやったプラントに、条約違反などと非難される謂れはない。
加えて対象の少年は、プラント側のスパイの可能性が指摘されている。
貴方方は既に条約で禁止されている存在であり、存在その物が条約上の違反である。
抗議の意思がおありなら、国際裁判でもやればよろしい。
人類史上に例を見ない程の兵器、ニュートロンジャマーにより亡くなられた方々と、その遺族、親類縁者に対しての、謝罪と賠償は如何されるのか?』
薄暗い部屋にて、椅子にかける金髪の男。彼は手元のモニターを見て頷いた。
妙に間延びする口調で話し出す。
「……我々の統一見解はこんな物でしょう。連中だって探られたくない所はあるはずです。
それにしても困りますねぇ。この程度の話で慌てられては」
柔らかい言い方ではあるが、どことなく人を見下した感じの話し方だった。
それに対応するのは地球連合軍の高級将校……ウィリアム・サザーランドと言う男だった。
年齢で比べても階級章を見ても、かなり上の者のはずだが、目の前の金髪の男には丁寧な対応を取っていた。
「理事……お手数をおかけして申し訳ありません。
ところでへリオポリスの件なのですが。
アスハが、知らなかった、と言うのは本当でしょうか? こちらとしては、関係を持っていないと主張するために、民間人の救助を蹴った形になりますが……抗議が来ております」
理事と呼ばれた男は、何の問題もないとばかりに答える。
「何を言っているんです? オーブは連合加盟国ではないでしょう、中立国です。
勝手に宣言しただけ、とは言えどね。
我々はそれを尊重しただけですよ。手を出さない、だから手を出すな。でしょう?
中立を謳っておいて、都合の悪い時だけ助けてくれは通用しません。見返りを渡すのが人の道と言うものです」
「だとしても、他国の民間人を徴用したと言うのは……外聞はよくはありませんが……」
「向こうが攻めてくるんだからしょうがないでしょう……自分の身を守っただけ、正当防衛ですよ。
それとも、条約違反だから黙って死ねと? それこそひどい話じゃあないか」
金髪の男はくだらないとでもいうように手を降る。サザーランドに向かって、他には意見はないのかと先を促した。
ぞんざいな態度だが、サザーランドはそれを当たり前と受け入れる。
理事と呼ばれた男は忙しかった。いつでも手が空いている訳ではない、この機会に疑問を片付けさせてやる……そういう態度だった。
「しかし、理事。世論は馬鹿には出来ません、余計な大義名分をコーディネーターどもに与えるのは……」
「勝って黙らせればいいじゃあないですか。
勝った方が正しい、文句なんて言わせておけばいいんです、死ぬ前に好きなだけね。
そもそも、あの連中に何故遠慮がいるんです? 存在自体が非合法な連中に。
非合法な連中が、非合法な事をやってくるんですよ?
何ならまた、大量破壊兵器をばら巻かれるぞ、と言えば皆すぐに怒りますよ。騒ぐ理由はなんでもいいんですよ、要は」
「軍内では未成年の戦闘行為には恥を覚える者も居ます。 根拠が欲しいのです。他の者を納得させる為の。
それにオーブと今、事を構えるのは得策ではないかと。万が一プラント側に付かれればいかがします。
カーペンタリアのザフトと、オーブが組むような事があれば、厄介な戦略拠点を与える事になります……」
金髪の男は心底、面倒そうにため息をついた。その程度の事についても、解決策を見出だせないのかと言いたげだ。
解釈の問題だと彼は答える。
「緊急避難ですよ、緊急避難。それ以外に必要ありますか? 言ったでしょう。……誰でしたっけ、そのコーディネーター。16歳?
16歳のコーディネーターなんて、どこにでもいるし、どこででも死んでいる。
彼はそれが嫌だから、出来る事をやって、自分の身を守っただけ。何の問題があるんです」
金髪の男は、心底楽しげに足を組み替えて言葉を続けた。
「オーブに義理立てする必要……あります?
中立とか言っておいて、ヘリオポリスではやる事やってるじゃありませんか。
必要なのはモルゲンレーテと、マスドライバーですよ。
敵対するなら結構、現時点での攻略は可能です。
むしろ、今の内に潰れてくれた方がよくありません?」
「……しかし」
「では、感情に訴える言い方をしましょうか。
18歳以下には戦争をさせるな、ただし殺されるのに年齢制限はありません、無差別には殺します。老若男女殺します。殺されて下さい、でも戦わないでください。
これこそ差別じゃないか、彼らが嫌いな。……これなら、どうです?」
サザーランドはこの方面ではある程度納得した姿勢を見せた、と言うよりも、別に彼は民間人の徴用自体に文句はない。
いや、興味がなかった。
あるのは、処理が面倒な事で対処を誤ると《自分達の》立場が危うくなるから、上手く処理したい。それだけだった。
だから、その為に頭を働かせていた。目の前の男についていれば自分の利益は確保できる。
問題は、彼らが対処をしている相手の数が多いと言う事だ。正直今すぐの排除は難しい。
しかしそれを言えば無能の烙印を押されてしまう。
だからサザーランドは、相手の機嫌を損ねない形で、ある程度は抑えてもらいたかったのだ。
「しかし理事とて、今の時代コーディネーターとは無縁ではいられますまい。
忌々しい事ではありますが、既に排除は困難なレベルで人類社会に溶け込んでおります」
「益虫だって増えれば煩わしくもなる。ちょうどいいくらいに駆除すればいいんですよ、駆除すれば。どうせ作り物なんだから。
ところで、この案いいですねぇ。作り物で作り物を殺す……素晴らしいアイデアじゃないですか」
若い男は手元のモニターを操作して、幾つかのデータを呼び出した。
これまでの話題はもう飽きた。
だから、話を変える……そういう態度だ。
これまでは幾つかの反論や、問題点を並べていたサザーランドはこの話題には一転、あっさり同意した。
「……はい」
「しかし、よくない点がありますね。
ふざけた話ですよねぇ。
一応は、連合初のモビルスーツが、コーディネーターに乗られてるなんて……都合が悪くありません?」
サザーランドは、相手の言葉の裏を読む。
彼はそういう事ができるから、連合の軍服に袖を通しながらここに居て、そういう話をしているのだ。
「では……この、アークエンジェルとストライクには、沈んでもらった方が理事のご希望に?」
既に汚点のついた艦だ。乗っている人間に惜しい者もいない。
サザーランドは、ご希望とあれば始末する、と言ってのけた。
金髪の男は、愉快そうに笑った。
「酷い言い方をしますねえ? 味方になんて事を言うんです……一応は友軍なんですよ?」
「失礼しました……では、戦場に絶対はありませんからな、補給や増援が……遅くなる事もあるかもしれません、連絡や通信が不通であったり……ですな」
自分の望む会話と答えが出たのか、金髪の男は満足げだった。
「そうそう、それですよ。世の中、絶対はないんですよ。
いやあ残念ですねぇ。せっかくの新鋭艦ですけど。不幸にも、やられちゃったものは仕方ないですからねぇ」
ブルーコスモスの盟主……ムルタ・アズラエルは満足そうに笑った。
青き清浄なる世界のために。
プラント首都、アプリリウス。
評議会がある一画にて、二人の男が静かに意見を交わしていた。落ち着いた雰囲気の男と、険のある男だった。
口を開いたのは落ち着きのある男、プラント評議会・現議長、シーゲル・クラインだ。
「……パトリック。あまり相手を追い詰めすぎると和平が難しくなる。
ヘリオポリスの件……やりすぎではないのか? カーペンタリア基地に近いオーブを怒らせては、取り返しがつかなくなる」
そういったシーゲルの懸念を、仮にも議長からの懸念を、険のある男は切って捨てた。
「追い詰める? 数で劣るのは我々だぞ、クライン。追い詰められない内に叩くのだ。
連合とオーブは、共同で対ザフト戦を行ってきた。
ならば敵だ。
オーブが敵対するなら結構、あの国を今の内に攻略できる。それこそカーペンタリアに近い国が、連合にぶれてからでは遅いだろうが。
大義名分はあればあるだけよい。そもそも貴様が投入を決定したニュートロンジャマーはどうなんだ?」
「言うな 、あれは間違いだった」
クラインと呼ばれた男は顔を背ける。痛い所を突かれた。
パトリックと呼ばれた男は別に勝ち誇るでもなく、ただ、言葉を連ねていく。
「そうだな、莫大な成果と、同時に対プラントの大義名分を与えた、大抵の事は黙殺される流れになった、我らを討つためには」
「パトリック、私は」
「今さら悔いているなどと言うなよ、結局の所ナチュラルは我らを屈服させたいのだ。理屈など関係ない。
力の有るか無しか、それが世界で道理を通す唯一無二の条件だ。
プラントは苦戦しつつある。このままでは。
だから勝つために手を打つのだ、あらゆる手を」
目に危険な光を宿すパトリックを、クラインは押し止めようと口を開いた。
「地球には多くのコーディネーターがいる。オーブもだ。 彼らは自分で地球に籍をおいている。同じ同胞が敵対してくるやり方は異常だと思わんのか」
別の角度から説得を試みるクラインを、パトリックは鼻で笑った。
「だからいいのではないか、無理矢理に他国の者を徴用する、ナチュラルに協力していても、国際条約すら適用してもらえない。
これでナチュラルに協力する者達も、少しは目が覚めるだろう。コーディネーターの味方は結局コーディネーターしかいないと」
危険な論調だった。連合に対するプラントの独立戦争を、種族戦争としての一面に重きを置いている発言だった。
クラインは危機感を強めて、パトリックを抑えにかかる。
「お前は、彼らを追い込んでテロ活動でもさせる気なのか。地球のコーディネーターは民間人が大半だぞ、迫害が増えている、どうする気なんだ」
「勝つためだ! 敗者には何も言う資格がない。我々はそれをよく分かっているだろうが!」
苛立たしげにパトリックが叫ぶ。それでもクラインは粘り強く言葉を連ねた。
「連合は反発を強めるぞ、面子を蹴り飛ばされれば向こうも引っ込みがつかなくなる。納めるところは納めろ、こちらだって政治的な失点は無いではないのだ。
突かれれば痛い面もある。
反戦主義もゼロではなくなってきた。これ以上の戦火拡大は意味がない、交渉を続ければきっと」
「今さら引っ込んでもらっては困る。
地球は混乱してくれればいいのだ。政治的な失点?
勝てばいいのだ。……こうなればナチュラルに協力するコーディネーターがいたのも悪くはなかったな。わざわざ送り込む手間が省けた」
ついには民間人を、非正規戦の戦力と数える素振りを見せたパトリックを、クラインが怒鳴りつけた。
「……パトリック! 我々は独立をしたいのだ!
自治権のためだぞ! 絶滅戦争をやるためではない!
プラントだけでは食っていけん。出生率の問題はどうなる! 第三世代の出生率は分かっているだろう! その第三世代まで今では戦死者がいるんだぞ!」
「そのために勝つのだろうが! 奴等に殺されないために! 生きていくために! 何の為のザフトだ? 戦って身を守る為だろうが!」
パトリックは全く意見を変える気がないようだった。
いや、他人の意見を聞く気がないように見える。
彼が、長年の友であるはずの、クラインを見る目は冷たい。
「……腑抜けたなシーゲル、忘れたのか?
こちらが黙って下を向けば、奴等はとことん図に乗るぞ。それが嫌なら戦うしかない」
年齢を重ね、心に落ち着きが出てきたと自覚できるクラインには、パトリックの言葉は激しすぎた。
若い頃の情熱そのまま、それ以上に。
「お前……は、止まる気がないのか?」
やっと絞りだしたクラインの言葉を、パトリックは受け止めた。受け止めた上で否定した。
「妻……同胞が叫んでいるのだ。仇を取れとな。聞こえんのか、貴様には? ……ナチュラルは叩くぞ、徹底的にな。
戦わねば守れない。ならば戦うしかないだろうが」
クラインは愕然とする。
自分達プラントの武力を統括する国防委員長は、これ程に死者が出ている戦争を、まだ終わらせる気がないと言い切ったのだ。
次のプラント評議会、議長と目される男が。
(なんたる事だ……一体いつから、ここまで……パトリック……)
このままではいけない……クラインは策を考え始める。
問題は、彼の、パトリック・ザラの意見には、賛同する者はひたすら多いという事だった。