機動戦士ガンダムSEED~逆行のキラ~   作:試行錯誤

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その名はガンダム 中編

 

 ザフト製モビルスーツ・ジンを操るミゲル・アイマンは、ストライクの無様な動きを見て口を歪めていた。

 

「生意気なんだよ……! ナチュラルがモビルスーツなど!」

 

 ザフト特殊部隊による、連合の試作モビルスーツ強奪計画。

 目の前で相対する機体……地球連合の人間が動かす白い1機は奪取失敗かと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 射撃は下手くそ、動きはうすのろ。まるで話にならなかった。

 

 所詮はナチュラルだ。

 優れた存在である自分達……遺伝子を操作して生まれたコーディネーター達に、勝てる訳がない。

 

「……真似して作ったモビルスーツ擬きの人形など」

 

 こいつのコックピットを潰して、機体を引きずっていけば任務達成。楽な仕事だ。

 

 今なら、先に離脱させたアスラン達に追いつけるだろう。

 手柄を見せびらかすのも悪くない。

 ミゲルはジンを無造作にストライクへ接近させていく。

 ジンが持つ重斬刀で貫けば、それで終わりだと笑ったのだ。

 

 

「っ!」

 

 マリューは無警戒に飛び込んでくるジンの動きに凍った。

 自分の技量ではしのげない状況を把握してしまったのだ。

 それとは反対にキラは弾かれたように身体を乗り出してコンソールを弄る。

 

「やらせないっ!」

 

 マリューの操縦をキャンセルしてモーションセレクトから強制的にしゃがむ挙動を選択実行。

 ストライクを前傾させつつ、さらに前進する機動へ繋げてそのまま実行させる。

 数十トンの重量を持つモビルスーツによる体当たりだ。

 

 ストライクがジンに激突……空気が震えるほどの轟音とともにジンは弾き返される。

 それはジンの中に納まるミゲルに驚愕の叫びをあげさせた。

 

「うわあっ!」

 

 巨大な質量で叩き返されたジン……パイロットであるミゲルにも当然とばかりに強烈なGがかかる。

 思わず息が詰まった。

 

 何とかジンを操って損傷は避けるが、転倒させてしまった。

 ミゲルの頬が染まる。これでもエースと呼ばれる男だ。

 それが転ばされたのだ。こんな相手に。

 今の行動にプライドを酷く傷つけられ、怒りが湧いていた。

 

 

 怒ったのはマリューも同じだった。

 緊急時だからとコックピットに避難させたが、民間人が勝手に触っていい物ではない。

 ましてや今は戦闘中だ。下手な事をされれば命に関わる。引っ込んでいてもらわねば困るのだ。

 

「君っ!」

 

「ここにはまだ人が居るんです! モビルスーツに乗ってるんだったら、何とかする責任があるでしょう! コロニーの中なんですよ!」

 

 キラは、制そうとしてきたマリューに向かって声をあげつつ、確認のために機体状況を呼び出した。

 

「……っ」

 

 各種異常を示す表示。やはりだ。

 夢か幻か現実か、それでもかつての状況と同じ、エラーばかりの画面。

 

 操縦系統の表示が真っ赤だ。

 スラスターの出力制御から、動作パターンの間接連動プログラムの不具合まで。

 運動時に発生する慣性を計算、制御する式から、火器管制の類まで。

 他にも多岐にわたりエラーの嵐である。

 

 ダメージによる物とは思えない異常だらけだ。むしろ記憶にあるよりも酷いのではないかと思える。

 オペレーションシステムを呼び出してみれば数値がでたらめ。

 一部未設定の部分まであるのだからこれで軍事用なのかと呆れ返る。

 どう見ても前より酷い。

 よくもこれで何とかしようと思ったと、マリューを尊敬できる程だ。

 

「……相変わらず……無茶苦茶だ、こんなOSで動かそうだなんて」

 

「ま、まだ全て終わってないのよ!」

 

 仕方ないでしょう、と反論してくるマリューにキラは、知っていますと、口の中だけで返事をした。

 残念だがマリューに任せていても状況は打開できない。

 自分がジンを止めるしかない。

 

「僕がやります、どいて下さい」

 

 妙に迫力のある視線で、早く。と急かされればマリューは気圧され、席を譲ってしまった。

 

 キラは席を変わるや否や、メンテナンス用のキーボードを引っ張り出し猛然と叩き出した。更には同時に通信まで弄り始める。

 

 何をする気かと怒鳴ろうとしたマリューだが、声は出なかった。

 目の前の少年の動きがそれをさせなかったのだ。

 知っている、等と言うレベルの手際ではない。慣れが感じられる程の手際の良さ。

 

(……この子……)

 

 キラはモニターに映っている友人達の姿と、正面で間合いを測っているジンの距離を見て、こんなに近かったかと苛立った。

 通信機のマイクをアナウンスモードに切り替える。

 ジンに呼びかけるつもりだった。

 

《ザフトのモビルスーツ! 止まってください、ここはコロニーの中です。多くの民間人が居ます。避難が終わってない方もいるんです。

 聞こえるはずです、止まってください。ここは中立のヘリオポリスですよ!》

 

 ジンを操るミゲルは、聞こえてきたその声に怒りを覚えた。

 なんだこいつは? 止まれ、だと?

 目の前のモビルスーツはどうやら自分に命令をするつもりらしい。

 ふざけた話だ。

 

「民間人だと? ……盾にして逃げようってのか。

 ふざけるなよ! その中立のコロニーで造っていたんだろうが! モビルスーツをよ!」

 

 ミゲルは怒りとともにスラスターを吹かして急速接近をかける。

 さっきのは偶然だ。もう油断はしない。

 

「だったら敵だろうが!」 

 

 自分の動きにナチュラルがついてこれる訳がないのだ。

 

 

 

「……止まれって言ってるだろう! ここは!」

 

「あ、貴方ね! 相手は」

 

 ザフトがそんなもので止まる訳がない、そう言いかけたマリューをキラは「コロニーの中なんですよ!」と黙らせる。

 マリューだってそれは分かっている、しかしジンの動きに躊躇がないのは明白だ。

 

 キラが歯噛みする間にもジンは近づいてくる。

 

 ここで制圧するしかないのか?

 しなければならない。キラは迷いながらも引き金に指をかけた。

 

 

 ストライクは接近してくるジンにイーゲルシュテルンで牽制射撃を開始。頭部、胸部への攻撃が全弾命中する。

 修正された火器管制による射撃はジンのセンサー部分に障害を、コックピットを叩く金属音はミゲルに驚愕をもたらした。

 

「何ぃ……っ!?」

 

 射撃精度が上がっている。ミゲルの戸惑いからジンの速度が鈍った。

 それに対してストライクは完璧なタイミングでカウンターパンチを叩き込む。動きは鋭い。

 

「うぉああっっ!?」

 

 殴り飛ばされたジンは、今度は体勢を立て直す間もなくビルに激突する、ミゲルの叫びとともに半ばまでめり込んでしまった。

 

 最も驚愕しているのはストライクに同乗しているマリューだ。目の前の少年が、見事な操作を見せてジンを押し返したのだ。

 あげくの果てにその少年は何をやっているのかと思えば、なんとOSを書き換えている。

 

(何者なの……?)

 

 恐ろしいスピードで修正されていくそれは、でたらめな物ではなく、技術士官であるマリューから見て極めて適切と思える物だった。

 

 OSを弄りながらも、キラは妙に手間取ると思っていた。

 使い慣れていた機体のはずなのに……そう考えたところで、このストライクには蓄積されたデータがないのに気付く。

 戦闘データがない一番始めの状態なのだ。

 

 熟成された機体での設定と、ほぼ真っ白な機体での差違がキラを手間取らせていた。

 結局面倒な確認と手順を一つ一つたどらねばならなかったのだ。

 

 キラからすれば遅く、マリューからすれば異次元の速さに思えたそれもあと少しで終わる……という時にストライクに衝撃がきた。

 ジンのライフルによる攻撃。

 遠慮なく撃ち込まれるそれにストライクが大きく揺れた。マリューの苦鳴が漏れる。

 

 ストライクに備わるフェイズシフト装甲は、ビーム以外の攻撃によるダメージを低減する装備だ。

 だが決して皆無にする物ではない。

 受けるダメージを減らせても、衝撃まで減らせる物ではないのだ。

 装甲で弾かれた弾丸が、建物に飛び込んで破壊を撒き散らしていく。

 

「サイ達が足元に……!」

 

 撃たせ続ける訳にはいかない。

 キラはスラスターを吹かしてストライクを空中へ飛ばした。地上で撃たれていては、いつ流れ弾がサイ達に当たるか分からないのだ。

 

 場所を移すためのジャンプにジンも即座に追撃してくる。腕の良いパイロットだった。

 ストライクを細かく動かしているのに弾を当ててくる。

 

 周りへの被害を抑えるためには、とにかく止めるしかない。そして……できれば殺したくない。

 コロニーへのダメージを考えると、自爆もさせたくないのだが。

 となれば制圧するしかない。

 しかし。どうやって。

 

 キラの記憶にあるのは、ジンを行動不能に追い込まれて、機体を自爆させたパイロットの動き。

 今から考えれば自分のやり方は徹底さを欠いていた。

 ならば同じ失敗はできない。

 

 やるのならば、機体を停止させた上で相手に降伏勧告、即刻ジンから離れさせる必要がある。

 

(……もしかすると引きずり出さなきゃならないのか!?)

 

 殺さない。死なせない。

 止めるのは機体のみ。自爆もさせない。

 できるだろうか?

 

 キラは開けた場所に目星をつけ、そこへ着地する前に武装を確認する。

 ストライクに搭載されているのは頭部バルカンのイーゲルシュテルン、腰に収納されている2本の対装甲コンバットナイフ・アーマーシュナイダー。

 この二つのみだった。

 記憶通りだ。

 オプションパックがないストライクには、この程度の武装しか内蔵されていない。

 

 記憶と違うのはストライクのバッテリー残量だ。

 記憶にあるよりも少なく、つまり稼働時間はそんなにない。

 

「……これだけかっ!」

 

 殺さずに止めるには不安が残る。

 それがキラにかつての自分と同じ言葉を放たせた。

 

 ストライクとジンがほぼ同時に着地する。

 ライフルを構えるジンにキラは突っ込む決意をした。

 

「……貴方はっ! 場所が分かっているのか!」

 

 ストライクはスラスターと機体制御の併用でジンの射撃をかわしながら、あっという間にアーマーシュナイダーの間合いに入っていった。

 ジンが後退を選ぶ間はない。すでに必殺の位置。

 

 キラと同じ視点でそれを見せられたマリューが、痛みを忘れて絶句する速業だった。

 

 仰天したのはミゲル・アイマンも同じ。

 滑らかかつ鋭すぎるストライクの動きを見て、一瞬で敗北するイメージが湧いたのだ。

 

「っこの!」

 

 トリガーを引きつつも、背筋が凍っている。

 半ば無意識のうちに自爆シーケンスを作動させて、脱出行動に入っていた。

 

 アーマーシュナイダーがジンの頭を貫くのと、ミゲルがジンから離れ始めるのは、ほぼ同時だった。

 

「……くそっ!」

 

 機体を捨ててしまった。しかも、恐怖に駆られて。

 二本目のナイフをジンに突き刺す直前で止まり、こちらを見ているモビルスーツをミゲルは苦々しく見て、離脱していった。

 

 

「……なんで……」

 

 キラはジンを止めてから降伏勧告するつもりだった。

 コックピットをこじ開ける用意もしていたのだ。だったのだが、ザフトのパイロットはなぜか近づいた所で脱出してしまっていた。

 アーマーシュナイダーを叩き込む前に、離脱を始めていたようなタイミングだ。

 

 記憶と違う展開に面食らってしまう。

 

 立ち直ったのはマリューが先だった。

 

「……いけないっ! ジンから離れて!」

 

 キラはマリューの警告に反応して全力でストライクを後退させる。その2秒後にジンが自爆。辺りを吹き飛ばした。

 爆圧がストライクを激震させる中、マリューが意識を失うのを見てキラは確信していた。

 

 自分は過去に戻ってきてしまったのだと。

 


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