機動戦士ガンダムSEED~逆行のキラ~   作:試行錯誤

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大変お待たせしました。
これまた長くなっております。ごゆっくりどうぞ。


消えていく光 4

 

 

 ボアズに配属されてからの付き合いだが、指揮官同士として彼らの相性は良好だと言えた。

 堅実で指揮能力に優れるマッカラン、闘争心が強くパイロット特性に優れるクーザーの事だ。

 役割を分担するのが彼らのやり方であり、そしてお互いに好む所だった。

 

 その長所同士が組合わさった事による威力は、この戦域においても十分に発揮されていた。

 

 主目的は追悼慰霊団の捜索。

 両者ともその重要性は分かっているが、それだけでは歯応えが無いのも事実だった。

 おかげでそこに現れた連合部隊……つまりちょうどいい程度の敵……それに襲いかかる彼らの士気が高くなるのは当然であり。

 その為に容赦はなく、ザフトのモビルスーツ部隊は存分に暴れていると言えた。

 

 何せ役割として前線指揮官になるクーザーが最も昂っているのだ。

 味方艦からの支援砲撃を受けながらの前進を開始。

 逃げ遅れた敵艦、慌てて発進してきたモビルアーマー隊、それぞれに攻撃をかけ戦果を拡大。

 大した抵抗も感じずに相手を蹂躙。結果として連合の部隊は既に半壊だ。

 クーザーはこの結果に十分な満足を覚えていた。

 

 ただ正直な所を言えば、少し物足りないと感じている所がある。

 

 確かに順調だ。極めて順調に事態は推移している。この戦闘はもう勝ちが決定しているだろう。

 もしかすると一機の損害も出ないのでは? と言う位に圧倒的な形だ。現時点での損害は無しなのだ。

 手柄としては結構な部類にあると言える。

 勲章が貰えるかもしれない。

 

 だが、つまらないのだ。

 不謹慎だとは分かっていても、自分が乗るこのシグーではモビルアーマー相手はつまらない。連合の機動兵器は弱すぎる。

 

 実際、クーザーはあっさり2機のアーマーを落としたが、そこまでだった。味方の方が多い戦場だ。

 

 エース格が乗る機体のハイマニューバ、加えてアサルトシュラウドと呼称される新造の追加装備を付けたジン……それが2機ずつ。

 要塞攻略装備に至っては6機だ。

 これだけ揃って負ける方がおかしい。

 

 質で大きく勝っている為に苦戦するはずもなく、早い内から獲物の取り合いが始まっている状況であり。

 指揮官であるクーザーは、3機目や敵艦への攻撃を部下に譲っている状態だったのだ。

 

 そしてそんな状況の今ですら、手柄を求めてうろうろしている味方が目立っている。エース格の二人が通信で「退屈だ」と言ってきているのだ。

 発進が後回しになった者は明らかに不満を漏らしている。獲物がいない。

 誤射を怖れて味方同士での遠慮までおきる有り様である。

 

 つまらない。

 手応えをくれ。

 いっそアーマーの50機程でも現れない物か。綺麗に片付けてやるのに。

 ゼロタイプのアーマーは居ないのか。敵のエースは。退屈だ、退屈。

 

 クーザーは、ハイマニューバを操るエースやアサルトシュラウドに乗るベテランを交え、つい愚痴混じりの雑談を始めてしまう。

 戦闘中とは言え油断が過ぎる自覚はあった。

 しかし、それだけの油断をしてもまだ退屈なのがこの戦域だ。シグーは目立つ機体のはずだがアーマーは1機も突っ込んで来ない、防御に忙しいようだ。

 暇すぎる。やっていられない。

 

 何かないものかと周辺を探る中、新しい報告が来た。

 

《敵モビルスーツ! ジン! 各機警戒を!》

 

 索敵能力に優れる強攻偵察型からの報告を受け、クーザーは心をわずかに弾ませた。

《敵》のモビルスーツだ。鹵獲された物だろう。

 よほどの腕を持つナチュラルか、それとも裏切り者のコーディネーターか。

 結構な事だ、アーマーよりは面白い相手になるだろう。

 遊んでやる。

 

 しかし闘争心を刺激されたのも束の間、彼以上に退屈を持て余していた部下達が猛然と突撃を始めた。

 俺の分を残しておけ、等と叫ぶ訳にもいかないクーザーの前で集中攻撃が開始される。

 

 結果、1機のジンはあっという間に火の玉に変わった。

 もう1機も必死に逃げ回りながら苦し紛れの反撃を撃ってくるのだが、そんな射撃に当たる奴はいない。

 見ていればすぐにでも片付き……いや終わった。

 あっという間に機銃弾の集中攻撃を食らって爆散している。

 敵モビルスーツは全滅。

 

 クーザーは表向き部下達を褒めて見せるのだが、内心ではやはり面白くない。

 

 だから、退屈だと言っているだろうが。もう少し何か無いのか、こいつらは。

 ちょっとは粘って見せろ。

 いっそマッカランに頼んで残りの対艦攻撃だけでも任せてもらうか? これでは暇すぎて死んでしまう。

 

 残っている敵艦と言っても、ひたすら逃げるネルソン級とドレイク級が1隻ずつだ。後2隻しか残っていない。

 思い切りよく逃げられている事だけが面倒だが、しかし、それでも結局は決着が早いか遅いかの違いでしかない。

 

「これじゃ模擬戦の方がまだ手応えがあるぞ……」

 

 いよいよ本格的な愚痴が漏れ始めたクーザーだが、更なる索敵報告が彼の落胆を食い止めた。

 前方から接近してくる未確認の艦艇1隻を発見したと言うのだ。

 

「未確認? ……艦型の不明か、所属の不明かどっちだ」

 

《両方です。この形状は見た事が……いえ、照合データ来ました。優先撃破命令……足つきです! 通達のあったヘリオポリスの!》

 

 強攻偵察型が新手を捕捉。

 同じく捕捉していたであろう味方艦、そこから回って来たと思われる支援情報と合わせての詳細を上げてきた。

 まとめてデータを受け取ったクーザーはざっと目を通し、そして満面の笑みを浮かべる。新しい獲物だ。

 

「……足つきね、なるほど。こいつが、か」

 

 送られてきたデータを眺める限りは、確かにそういう形状に見えなくもない。

 デブリベルトに逃げ込んでいたとは聞いたが、この宙域に出て来てくれるとは。

 

 連合製のモビルスーツを搭載。その情報は大きい。

 部下達も興味が引かれたようで、クーザーに目標変更を申し出てくる。

 

《クルーゼ隊が敗退したとか言う、あれですか?》

 

《歯ごたえはありそうです》

 

《俺達に見つからなきゃ生き延びれたのにな……隊長、沈めちまっていいんでしょう?》

 

 当然だ。問答無用での撃沈命令が出ている相手だ。

 こんな所を航行させていていい相手ではない。

 何より……面白いではないか。

 

 クーザーは無意識に舌なめずりをする。少なくとも退屈しのぎには十分なってくれそうだ。

 艦艇潰しはモビルスーツ乗りの誇る所。ましてや敵の新鋭艦。

 これなら間違いなく勲章ものである。

 

「2隻の連合艦を追撃しつつ。前進する!

 ナチュラルどものモビルスーツが居るらしい……マッカラン隊、クーザー隊で歓迎してやるぞ! 付いてこい!」

 

 クーザーの嘲りを含んだ怒鳴るような指示が飛んだ。

 それを受けたザフトモビルスーツ部隊、彼らは一斉に動きを変える。

 それまでは、どこか適当に追い回していたモビルアーマーを用済みとばかりにあっさり始末。

 各機とも弾かれたように進路を足つきへ取り、スラスター出力を上げた。

 

 やはり味方は1機も欠けていない。連携も取れなかったアーマーなどその程度だ。

 つまりは連合など、その程度の連中。

 ナチュラルに同情はしない。身の程を思い知らせるのが自分達の任務だ。

 

 マッカランからもゴーサインが出た。

 ボアズ司令部もこの可能性を考慮していたのだろう、ならば戦果を持ち帰る事に問題はあるまい。

 

 クーザーは足つきに対して、自分を含めた16機のモビルスーツを振り分けた。

 残る6機は最初からいた2隻の敵艦への止めだ。

 それだけいれば、残る連合艦をへばりつくように守っている残存モビルアーマー隊に負ける事もあるまい。

 

 足つきへの攻撃に参加したいと文句を言ってきた部下には、さっさと連合の旧型を沈めてこいと焚き付ける。

 部隊の割り振りは指揮官の特権だ、連合のモビルスーツを仕留める武勲は譲れない。

 

「……ストライクとか言うんだってなァ!

 慰霊団と歌姫の仇だ、宇宙の塵にしてやるよっ!」

 

 

 

 

「来やがったか……!」

 

 アークエンジェルが敵との戦闘距離に入ろうかという辺り。

 甲板にガンバレルストライクを着地させていたフラガが、接触回線でマリュー、ナタルと短い意思確認をしていた所だった。

 敵部隊のスラスター光。改めてその数を見ると、やはりきつい物がある。

 

 ラウ・ル・クルーゼの隊ではない。フラガにはそれが分かる。あの伝わってくるような感覚が無いのだ。

 奴は近くに居ない。

 キラの話と違っているのは、まず間違いないだろう。

 とは言えそれは慰めにならない。現状は苦境と判断するのに十分すぎた。

 どうせなら、こっちを予言して欲しかった。

 

 味方の戦力は乏しい。

 せめて艦艇の火力を頼りたい所だが、射程に入るはずのアークエンジェルの火器、それがまだ動かない。

 

 いや、動いた。主砲のゴッドフリートが砲撃を開始、敵モビルスーツ部隊の陣形を散らしにかかった。

 しかし放たれたビームは二斉射のみ。それだけだ。威力もどこか抑えられている。

 副砲やミサイル群はまだ沈黙したままだ。

 

 その事にフラガは嫌な予感を覚えて確認をいれる。

 

「……バジルール少尉、確認なんだが、まだ派手に撃たないのは……」

 

《先程言った通り無駄弾を抑えます。

 近接防空に必要ですので、弾切れは許容できません。……エンジンの状態も万全ではありませんので》

 

 撃つのはなるべく引き付けてから。

 それも牽制ではなく、可能な限り当てる為に撃ちたいと言う事だった。

 もしくはここぞと言う時……緊急時の弾幕を展開する為。

 その為に打撃力を保持しておかねばならないと。

 

 ナタルはかなりシビアな弾薬運用をするつもりらしい。

 前方では既に半数以下になった友軍モビルアーマー隊が、身を盾として艦を守っている状況なのだが……。

 それを踏まえた上でも、ばら蒔くつもりは無いという事だろう。

 フラガは状況の厳しさを理解できてしまう分、反対できない。

 

 頭を切り替える。なら自分はどう戦うべきか。

 モビルスーツは任されたが、どうする。

 キラはまだ出てこない。敵との距離が詰まる方が早そうだ。

 トールとアサギは当然留守番だ、後部甲板上でエンジン部を守らせている。

 泣いても漏らしてもいいから、やられるなとキツく厳命した。

 側に居てやりたいが……キラがまだ出ていない以上は、やはり自分が前に出なくてはならない。

 どう動くか。

 

 乱戦に持ち込むか?

 アークエンジェルから離れ、単機で集団の中に飛び込んでの撹乱戦。幸いこの機体にはメビウス・ゼロと違って防御力がある。

 数度の被弾で致命傷、という事はあるまい。

 

 しかし自分がそれをやると、今度はアークエンジェルの防御が足りなくなるのも分かってしまう。

 トールとアサギの拙い射撃、対空機銃と対空ミサイルだけでは足りないであろう事が。

 

 それに、ガンバレルストライク単独で撹乱したとしても、まだ相手には余裕が残るとフラガには思えた。

 数が違うのだ。

 この機体も、まともに動いてくれる状態ではある。

 ただそれは、限界レベルでも思い通りに振り回せると言う事ではない。

 単騎での先行はリスクが大きい。

 

 前に出すぎるのは危険な感じがする。

 ならば次善の策だが、普通に防御戦闘をやるしかない。

 

 アークエンジェルの前方には出るが、ブリッジと新米達を気にかけ、お互いに援護が届く距離内で交戦する。

 堅実だが無難な策だ。

 苦境を覆さなくてはならない状況においてベストとは言えないが、仕方ない。

 

 フェイズシフト装甲を頼っての盾役をやる場面も出てくるだろう。

 助けに来た形になる以上、全滅される訳にいかないのだがこれでは先遣隊まで手が回らない。

 精々、敵を何割か引き剥がしてやれるだけだ。

 

 合流を目指すのに矛盾するような作戦だが、それでもできる限り、やるしかない。

 自分のモビルスーツ経験値と言う面での不安は、考えないようにした。

 

「まったく嫌になるぜ……。

 艦長! さっき言った通り、前に出て一当てしてくる。

 味方に食いついている奴等を剥がしてくるからな!」

 

 少しでもいいから援護をよろしくと言い残し、フラガはガンバレルストライクを離床させた。アークエンジェル前方に移動を開始する。

 まずは少しでも撹乱して、同時に敵の数を減らす。

 完全に防御態勢に押し込まれる前に、味方の負担を減らさねばならない。

 

 その内に守勢に回らされるはずだ。だからそれまでに敵を削っておきたいのだ。

 できれば半数以上。せめて3分の1。

 その位やってみせなくては勝ちが見えてこない。

 難しいのだが。

 

「難しい? ……俺らしくもねえな」

 

 負けると決まった訳ではない。

 自らを鼓舞するようにスラスター出力を上げたガンバレルストライク……前進したフラガ機は敵集団に向かってビームライフルを一発だけ撃った。

 対するザフトはこれでもかと言う位に激烈な反応を示してくる。

 散開しつつも急速に接近してくる動き。

 

 敵の大半から注目されている感覚……思わず牽制射撃をばら蒔きたくなったが堪えた。

 

 無駄弾を撃てば死ぬ。ナタルと同じだ。

 こっちはフェイズシフト装甲にもエネルギーが要るのだ。無くなっても補給する暇はない。

 敵の攻撃は避けるか、せめて盾で受けなければならない。

 

 フラガは自分の勘を頼りに激しい回避運動に入った。

 

 機銃や無反動砲はともかく、小型ミサイルや重粒子砲、レールガンらしき物まで飛んでくる。

 要塞攻略装備だ、大型ミサイルを持っている奴が見える。

 更に違う装備の奴も確認した。データに無いタイプ。

 レールガンとミサイル、増加装甲。スラスターの強化されたであろう動き。

 重そうだがよく動く、こいつも面倒そうな奴だ。

 

 フラガは呻き声を上げつつ己の技量任せに機体を振り回した。

 避けられる。少なくとも直撃はまだ無い。

 だが狙って撃ち返す余裕も無かった。

 

 それでも瞬間的に単調な動きをしたジンを察知、そいつにビームを撃ち込む。

 何とか2発で当たった。相手はそのまま爆発して消えてくれる。喜ぶ間もなく急速な回避運動へ。敵の動きと攻撃はさらに激しくなった。

 4基のガンバレル、それ自体の推力もつぎ込んでの回避運動を続行。

 

 ハイマニューバ、それと同等レベルに動いてくる追加装備持ち、更にシグーが猛進してくる。

 シグーを見たフラガは舌打ちを漏らした。指揮官機だ。指揮官機が前に来ている。

 自信を感じさせる動き、こいつも手強そうだ。 

 

 相手の士気を崩す為、落とすのに無理をする価値はある。しかし回避に忙しい。

 1対1なら負けない自信があるのに。

 

 多数のジンがフラガ機を包みに、あるいは無視してアークエンジェルに向かおうとする。

 それを邪魔したいが機体が微妙に遅い。反応がワンテンポ遅れるのだ。

 このレベルで振り回したデータがない事が、やはり調整不足に繋がっている。

 パーツ不足にデータ不足、調整不足だ。

 キラを相手に、全開での模擬戦を少しでもやっておくべきだったか。

 

 盾や機体の端々を機銃が叩いてきた。不愉快な音と衝撃。機体をミサイルが掠めていく。

 

「ちっ……!」

 

 くそったれ、マジで多い。

 キラを独房ではなく、格納庫に縛って寝かせておくべきだった。

 次はストライクのコックピットに監禁しといてやる。

 そんな馬鹿げた冗談を思い付くが、すぐにそれも考えられなくなる程、攻撃密度は更に上昇した。

 

 

 

「……ですから! 逃げ切れないと判断して合流に……! こちらは速度に不安を抱えていて……中佐、とにかく援護に全力を尽くします、一刻も早く合流を! 通信は以上……ナタル! このまま進んで先遣隊と合流するわ。

 ノイマン曹長! 回避運動、任せます!」

 

 マリューの声を聞きながら、CICを指揮するナタルは難しい戦闘に悩まされていた。

 敵の数とこちらの弾薬量、それが反比例しているかのように苦しい。

 

 緊急で通信を繋げたコープマンからの叱責と、そして諦めたかのように切り替えての連携の確認。

 援護し合う為の位置の乱雑な打ち合せ……信じられない事にその隣に座っているアルスター次官の喚く声、それらをマリューが説得して処理してくれている、その間に。

 ナタルは敵モビルスーツ部隊の潰し方に苦慮していたのだ。

 

 多く、散らばって接近してくる。

 それぞれの動きは複雑。しかも前に存在している味方に、こちらからの射線を被せ気味に寄ってくるのだ。

 誤射を誘っている動き。

 艦艇に挟まれた場合の近づき方を知っている相手だ。面倒な。

 

 距離を取るのが無難だと思える状況なのだが……。

 今からでも距離を取りたいとマリューに進言してみるか?

 しかし、ここまで来てしまえば、もうとにかく味方と援護し合える位置に付くしかない。

 一か八かのローエングリンなどは撃てないのだ。誤射が許されない。

 

 索敵班からの報告が上がってくる。

 フラガ機がアークエンジェルの射程圏内に引くよりも先に、突破してきた敵モビルスーツがいると。

 

「フラガ大尉の防御線を抜けてきます! ジン4、強行偵察型が1……! 更に追加装備型が1機!

 その後方から要塞攻略装備が2!」

 

「追加装備型ジンの装備はレールガン、ミサイル。増加装甲を確認! スラスター増強を見込む……!」

 

 8機だ。いきなり8機が向かってきた。

 ナタルは拳を握り締めながら、努めて平静を保つ。

 前衛のフラガ機のみで戦線を構築してもらえるとは思っていない。これは当たり前の状況だ。

 

「追加装備型を暫定的にアサルト型と呼称する。

 重粒子砲を持っている要塞攻略型と、同じ優先迎撃レベル設定をしろ。ハイマニューバも同様だ。

 バリアントの目標追尾を開始、コリントス及びヘルダートの装填は完了しているか?」

 

 ノーマルのジンは追尾目標としての優先順位を落とす……乱暴に言えば、ノーマルのジンは迎撃対応がその分後回しになるという意味だ。

 そっちについては無茶を承知で新兵の二人、ケーニヒとコードウェルに、かなりの部分を担当してもらうしかない。

 それを焦り気味のトノムラに突っ込まれる。

 

「少尉、ノーマルのジンはどう対応を? 迎撃火器が足りませんが……」

 

「エンジン部に展開しているケーニヒとコードウェルが対応する。後部イーゲルシュテルンと協力させて敵を迎撃しろと伝えろ」

 

「あいつらに任せっきりにするんですか!?」

 

「目眩ましにアンチビーム爆雷でもフレアでも何でもいいから使って援護しろ! してやれ!

 バリアントと対空ミサイル、前部及び側面のイーゲルシュテルンは脅威度の高い相手を常に警戒する……装填、発射のサイクルを途切れさせるな!

 一撃目を放つぞ、撃ち方用意!」

 

 薄氷どころでないのはナタル自身よく分かっている。

 

 やはり敵の展開は速い。

 副砲とミサイル発射管がこれからフル回転する事になる。

 主砲ゴッドフリートの隙間を埋めるように撃つ事になるが、どう考えても手数が足りない。

 確かに後方は危険だ。だが側面も危険なのだ。前方だって安心なんてできない。下部は言うまでもない。

 全方向に即時対応できる姿勢を整え続けなければ沈む。

 

 新兵二人に艦の火器と連携を取らせるのは不可能、こちらから合わせる余裕もない。

 敵の足を確実に止めるには対空機銃ではなく、ミサイル、副砲以上を使うしかないのだ。

 

 ならば後ろはある程度任せ、こちらは側面、下部、前方を重視して火線を敷くしかない。

 

 ナタルの号令と共に対モビルスーツ戦闘が開始される。

 初手は攻撃だった。

 

 先手を取りたい……こちらの火力を見てしばらくは警戒して欲しい……そんな願いを込めた弾幕だ。

 主砲と副砲、ミサイルに対空機銃まで連動させ、なけなしの弾をばら蒔く一回限りの《攻撃》だ。

 

 防御に回る前の、最初で最後の攻撃。

 ナタルが統制したそれは、見事に敵モビルスーツを撃破できた。

 

 戦果はジン2機の撃墜。

 艦艇が一度の攻撃で落とした対モビルスーツの戦果としては見事な物である。

 だが当のナタルの表情は、歯をこれでもかと食い縛っている憤怒の表情だった。

 

「もっと引き付けてから撃てれば……!」

 

 あと2、3機は落とせたのだろうに。

 

 ナタルは怒りを飲み込みながら、仕方ないとばかりに息をつく。

 仮に欲張っていれば、その代わりにこっちも死角に潜り込まれる事になった可能性が高いのだ。

 これで悪くない滑り出しだと、諦める他にない。

 

 前方に展開したフラガ機が奮闘しているのが見える。

 アークエンジェルに食い付こうとする敵を抑えつつ、敵の撹乱を試みているのだ。

 見える限りでは……いや、はっきりと分かる。分が悪い。

 

 当然だ。むしろ未だ致命傷を追っていないのが不思議な戦力差なのだ。

 アークエンジェルで援護をしたいが、こちらの防空圏内にも既に敵がいる。

 ザフト側はこちらの防空能力をある程度知っているかのような動きをしているのだ……知られているのか。

 

 当然の事だが、分断される形になりつつある。

 

 先遣隊も苦境だ。自分達の防空で精一杯だろう。

 向こうも周囲の敵は減ったとは言え、それでも6機に集られている。じりじりとだが押されているのは明らかだ。

 

 ノイマン曹長が大きく舵を切った。艦が揺れる。

 

 要塞攻略型が使う重粒子砲と、追加装備持ち……アサルト型の速度によるレールガンは危険な一撃だ。回避は彼に頼るしかない。

 飛んできたミサイルを対空機銃のイーゲルシュテルンで迎撃指示。

 下に回り込もうとするジンをバリアントで妨害、無反動砲の砲弾をイーゲルシュテルンで撃ち落とし、アンチビーム爆雷で重粒子砲の威力を軽減させる。

 対空ミサイルのコリントス、ヘルダートを次から次へ撃ちまくり、ほんの少しの間だけ敵を押し返した。

 

 敵の残りは先遣隊に6機、アークエンジェル側に13機。そして接近してくるナスカ級4隻だ。

 

 繋ぎっぱなしの通信機からは、新兵達の大声が聞こえてきていた。

 やられた訳ではない。

 二人とも慌てながら、悲鳴やら何やらを叫びながらも、それなりにちゃんと火線を敷いている。

 新兵が実戦の空気に発狂されても困るのだが、今はモビルスーツ2機の手数は貴重すぎた。

 せめて二人一組でと、背中合わせにさせたフラガは正しい。彼らが運動戦のできるレベルだったらと考えてしまうのは贅沢だろう。

 このまま砲台を続けさせるしかない。

 

 ナタルが二人に対して落ち着いて射撃を続けるように声をかけようとした、その瞬間にジンの無反動砲による一撃が艦の左舷側に直撃。

 更に突撃機銃の何発かがアークエンジェルの船体に突き刺さる。この被弾も左舷側。

 激しい揺れにクルー達から苦鳴が上がった。マリューがダメージコントロールを指示。更に振動。

 

 ナタルは迎撃の火線を立て直すが、左舷に食い付かれつつあった。

 

「手を止めるな! ミサイル発射菅ヘルダート! イーゲルシュテルン迎撃! バリアントの射撃速度上げ!」

 

 ナタルは副砲のバリアントを更に酷使させる命令を下す。砲身が焼けつきます、との声は黙らせた。

 敵の動きが速いのだ。仕方ない。

 

 弾薬の残量がみるみる減っていく。だと言うのにアークエンジェル近辺の敵は変わりがない。

 危険な位置に付こうとする相手を一時散らすのが精一杯だ。

 むしろフラガ機の撹乱から抜けてくる奴がじわじわと増えている。

 

 当のフラガ機は敵複数から集中攻撃をかけられており劣勢……見ているとガンバレルを囮にして不意に反撃を打っていた、激しい回避運動の最中に2機目を撃墜している。

 見事な物だが、それは相手の敵意を更に燃え上がらせる事を意味するのだ。

 

 アークエンジェルへの援護など期待できない。

 恐らくはエース格、そのレベルの相手に囲まれているのだ。

 どちらも手が回らなくなりつつある。

 

「……ヤマトはどうした!」

 

 ナタルは叫んだ。

 何故出ない。

 もうとっくに格納庫にいるはずだ。何をやっている。

 発進準備完了の報告が来ない。まだか。

 

 ナタルが苛立ちながらキラの現状を確認しようとした所で、ようやく、通信担当からストライクの発進準備が完了したと報告が上がってきた。

 ようやくかと、間髪入れずに出撃させようとしたナタルを遮るように、怒声がブリッジに響く。

 マリューの声だった。

 

「……負傷していた……!? ど、どういう事なの……!

 止血をして出撃って……片目のパイロットを出せる訳が無いでしょう!」

 

 艦内電話を耳に当て動揺を隠せないマリュー、その叫ぶような疑問の声が響いた。

 クルー達は揺れと閃光の中でも指示を聞き漏らすまいと何とか集中していた、しかしその結果、マリューの言葉を完全に聞き取ってしまう。

 マリューが誰の事を言っているのかも完全に察したのだ。

 

 キラが負傷。

 出撃前に。しかも目だ。

 この状況において、それの意味する所をクルー達は理解して、そして沈黙してしまう。手が止まってしまった。

 

 ジン要塞攻略装備型から放たれた小型ミサイル、突撃機銃の弾丸がアークエンジェルの右舷に突き刺さった。小さな爆発と振動が重なる。

 トールやアサギが必死で防御する声が通信から聞こえてくるが手数が足りる訳もない。

 彼らも自分達への攻撃を盾で防ぎながら射撃をしている状況なのだ。

 それでもクルー達は無言、無反応のまま。

 

 士気崩壊。

 そんな空気の中でナタルが叫べたのは、もはや将校としての意地としか言い様がない。

 

「ラミアス艦長! 問題ありません!

 ヤマトは特別にデザインされたコーディネーターです! 本人がそう言いました、勝ち目はあります!」

 

 だからそのまま出撃を、と。

 

 ナタルのその言葉はもちろん出任せだ。

 キラの詳細は不明……推測しかできない。

 ただ何か、かなり不味い事が起きたのはマリューの声から分かった。

 だから叫んだ。クルーを動かし続ける為に。

 事実、ナタルの叫びは破綻しつつあったブリッジクルー達の士気を、崖っぷちで食い止める事に成功する。

 

 いや、落ちた崖のふちに、偶然に手がかかったような際どさ。

 手を動かせと言うナタルの叱責に、クルー達は覇気が低いながらも何とか職務に戻った。……彼らの表情が自暴自棄気味な所までは構っていられない。

 

 ナタルは一時的に席から離れ、迎撃指揮を叫びながらマリューに近寄った。

 彼女にこれ以上は迂闊な事を口走らせない為だが、マリューは自分が不用意な事を叫んでしまったのを理解していた。申し訳なさそうにしている。

 

 ならば結構。責めている暇はない。

 ナタルは声を潜め手短にキラの負傷具合を確認した。

 

「艦長、連絡は誰から……? ヤマトの負傷はどの程度……2、3分粘れば応急処置が終わりますか?」

 

「医務官からよ。キラ君は左目が完全に見えなくなっているって……出撃なんてとてもさせられない……」

 

 マリューは悔やんでも悔やみきれないと言った表情だ。

 自分の判断で進んできて、そして勝ち目が無くなったのだ。

 把握できない状況が艦内で発生してしまった。それは言い訳にはならない。

 

 ナタルは「そうですか」と無感情に返しながら、とっくに計算を始めている。

 アークエンジェルはこれから敗走していかなくてはならない。

 先遣隊を見捨てて、最悪の流れではモビルスーツ4機を置き去りにしてでも、だ。

 

「……ヤマトはコーディネーターです。それも強化されたデザインの……そこに期待するしかありません」

 

「ナタル、貴女……本気で出撃させる気なの……!?」

 

 納得いかないのは分かるが、他にやりようがない。

 ナタル自身もどうにかなるとは思っていない。

 出来る訳もないだろうと思うような言葉を連ねて、渋るマリューを説得する。

 説得しながら戦域離脱のタイミングを計りだしたのだ。

 

 同じく戸惑いを見せる通信担当クルー、彼にはストライクの発進シークエンスを開始させる。

 

 ナタルはキラの状態を意図的に無視していた。

 本人の状態を確認もせず放り出すのはとんでもない暴挙だが、時間がない。

 本人が出ると言っているのだろう。出来ると。

 ならば希望通りにやらせる、やってもらう。

 囮にはなるはずだ。生き延びる為には何でも使うしかない。

 オペレーターの叫ぶような報告が上がってくる。

 

「バーナード大破! 轟沈です!」

 

 望遠モニターに新しく光球が映った。

 残っていた友軍艦艇2隻の内、バーナードと名付けられていたドレイク級が沈んだのだ。

 

 これで残るはモントゴメリとモビルアーマー数機のみ。

 もう5分は持つまい。

 数百の命を飲み込む光球を見ながら、ナタルはふと考え、そして思い付く。

 

 まさかこのザフト部隊、こいつらはラクス・クラインの《救援》ではないだろうな、と。

 

 宙域図を見れば、ユニウスセブンに向かうルートに見えなくもないのだ。

 他にこんな所をザフトが、足の速いナスカ級だけがうろつく理由が見当たらない。

 

 ナタルは席に戻りながら、そんな自分の考えを否定する。

 馬鹿な事を、ただの待ち伏せだ。

 運が悪かったか情報が漏れていたかのどちらかだと。

 

 だが更に考えてしまった。

 仮に、もし仮に今、ラクス・クラインが手元に居たとすれば。

 確かに自分は迷う事なく彼女を人質に使うだろうと。

 そんな思考が頭をよぎってしまい、ナタルは自己嫌悪に陥った。

 

 

 

 キラはストライクのコックピットに納まり、アークエンジェルの揺れを感じながら発進許可を待っていた。

 

 強引に装備したアグニとパンツァーアイゼン……それらをエールパックの火器管制に合わせる為に、可能な限りの細かな調整を施しつつ、だ。

 

 盾をアサギのジンに貸している以上、回避を重視しての短期戦に持ち込むしかないと感じていた。

 エール装備だけでは絶対に足りないと考え、せめて振り回せる装備をと選んだのだが……もっと早く弄っておくべきだったと言う後悔は尽きない。

 

 不意に意識が揺れ、そして痛みで明瞭になる。

 

 とにかく目が、目の奥が痛い。

 左目の奥で痛みが響いている。呼吸をしても、しなくても痛みがやってくる。

 頭部全体に痛みが響いているようだ。

 左の視界が無くなった事による《狭さ》も、予想より影響は大きい。

 

 不便さと痛みを存分に味わいながら電子系を弄っていると、また嫌な振動を感じた。

 何度目だろうか。回避運動によるものではない。もうアークエンジェルに攻撃が当たっている。

 なのに発進許可が来ない。

 

 マードックに準備完了と報告してもらったはずなのだが、マリュー、ナタルから許可が来ないのだ。

 早く出撃をしたい。

 かといって自分から催促の通信は送れなかった。

 正直、会話をまともにできる余裕がない。

 不自然さを見出だされて、状態を聞かれたら止められてしまう。

 

 アークエンジェルがまた揺れる。違った、揺れたのは意識だ。視界がぐらつく。

 さっきから妙な不快感が酷い。マリュー達への弁明に使える余力はどうにもなかった。

 

 そんなに長く戦えないかもしれない。

 

 だからもう、とにかく放り出してくれさえすれば、そう考えていたのだ。

 医務官にもマードックにも黙っていてくれと頼んだのだから大丈夫だと。後はどうにでもなれと。

 

 早く放り出してくれ。早く、何でもいいから早く。

 

 傷が痛むというよりは頭の中で神経がかきむしられるような衝撃、加えて波のように繰り返す圧迫感に近い痛み。

 その二つが思考を雑にしていた。

 もう痛みなのか不快感なのかはっきりしない。

 

 気分が悪い。

 

 気持ちが悪い。

 何故かは分からないが、自分を見る多くの人間の視線を感じる……ぶつけられる感情をキラは思い出していた。

 

 何故だ。何故そんなものをここで感じるのか。

 ここには自分一人だ。なのに大勢の人の殺意を感じる……また吐き気がする。こんな時に。何故だ。

 記憶に飲まれているのだろうか。

 

 大勢の他人の感情、体が震えてくるそれを思い出す……のとは違う気がする。

 思い出すのではなく、生々しく感じられてしまう。

 人が怖い。

 

 おかしい、何故だ。

 この思考は何だ。自分は精神的におかしくなっているのか。

 それとも追い詰められて、神経が過敏になっているのだろうか……駄目だ、弱気になるべきでない。

 とにかく今をしのがなくてはならない、何としてもだ。

 発進はまだか。

 

 もはや痛みよりも妙な不快感の方が酷い……それに苛まされながらも意識を繋ぎ止める事、ストライクを動かす事。

 キラはその二つに全てを費やしていた。

 

 強烈な頭痛と、ビシリとひび割れる感覚が走った。

 

 苦しむキラが息をつき天を仰いでいると、不意に《言葉が走って》きた。

 オーブ軍から協力してくれている通信担当兵の言葉……発進許可が出る、と。

 そう言われたように聞こえた、感じたのだ。

 

 今のは何だろうか。

 

 キラがその感覚に不自然さを感じる前に、またもアークエンジェルが激しく揺れる。嫌な一撃を食らったらしい。

 その震動の直後に今度はちゃんと声が聞こえてくる。

 

《ヤマト准尉……! 発進許可が出ました! 発進よろしいですか? ……ヤマト准尉? 聞こえていますか? 大丈夫ですか?》

 

「……大丈夫です。発進させてください」

 

 いけない。

 返事をしないと異常を察知されてしまう。出るまではとにかく平静を装わないと……しかし何か……おかしくはなかったか。

 自分の聞き間違いか何かか? 同じ事を二回言われた気がする。

 許可が出たと二回、聞こえた気がしたのだが……気のせいだろうか。

 

 酷い不快感の中でだが、確かに聞こえたと、思うのだが。

 

 また頭痛、ヒビが大きくなる感覚。

 今度はナタルの「構わん、出させろ!」と言う言葉が《走って》聞こえ……いや、感じられた。

 幻聴のような声。

 何だこれは。通信がぼやけて聞こえるのだろうか。

 

 キラは自分の認識が明らかにおかしいと怪しんだのだが、動ける以上は構っていられないと判断した。

 優先するべきはそれではない。幻聴くらいでと。

 

 何でもいい。やっと出れるのだ。

 たくさんの人が死んでいるが、まだ生きている人がいる。《感じる》限りではまだ間に合うはずだ。

 だから早く。早く出なくては。早く。

 

 ブリッジでは、ナタルは確かにストライクを出せと指示を下していたのだが、それは通信に乗ってきていない。

 キラに聞こえる訳がないのだ。

 聞こえるはずのないナタルの指示。

 それを不自然にも《正しく感じ取れた》事などキラは想像もしていない。

 

 不快感と痛みがキラに余計な思考をさせなかったと言える。

 恐ろしい程に鋭敏化している自分の感覚を不自然に思っていない。

 出られるのならば十分だとしか考えなかったのだ。

 精神をすり減らし限界まで追い詰められつつあったキラだが、それでも戦う意思に陰りはない。

 

 

 それに応えるかの如く、ついに《二つ》のSEEDが弾けた。

 

 

 混沌としていたキラの感覚認識が明瞭になる。痛みが消え、慣れ親しんだ感覚が戻ってきた。

 この感覚。

 

 大勢の人の殺意に晒されて以来、眠ったままだったあの感覚。

 未来で死んでいた自分の感覚が戻って来た。

 それに引きずり出されるように、この時代の眠っていた感覚も目を覚ます。

 

 自分自身で戸惑う程に認識力が上がったキラだが、それも一瞬。

 直後にストライクを打ち出すべくカタパルトが可動、強烈なGが襲ってきた。

 

 勘が働いた。

 狙われている。

 

 このままカタパルトから出れば、そこを狙い撃たれると言う勘が働いたのだ。

 見えないはずの内部から外の《殺気》をキラは感じ取る。アークエンジェルから出る瞬間に、対処する必要があると。

 

 激しかった痛みが消え、異常にクリアになり増大した感覚領域。伝わってくる殺気。

 それを何故なのかとキラは疑わない。

 必要とされる機体制御を、イメージ通りに開始しただけだ。

 

 カタパルトから出る瞬間、キラはストライクを捻った。 スラスター制御と機体動作で強引に捻らせるアクロバット機動を実行。

 重粒子砲による攻撃、機銃、ミサイルの奇襲を完全に回避する。

 回避運動を続けたまま間髪入れずに《殺気》を向けてきた相手にビームライフルとアグニを同時に放った。

 ビームライフルで1機のコックピットを撃ち抜き、アグニの一撃で2機のジンをまとめて撃ち抜いて無力化。

 

 ジン要塞攻略装備が3機爆散する。

 

 出撃してくる新手、そいつを先手を取って撃破してやろう……そう考えていた敵パイロットの意思が、一瞬の驚愕と共に弾け飛んだのもキラは感じ取った。

 頭を殴り付けられるような感覚。命を奪った手応え。

 ずっしりとした吐き気が込み上げる。これまでにない感覚だ。

 

 痛みとは違う苦しさを堪えキラは周囲を探る。

 前方のフラガ機と、後方トール機とアサギ機の苦境を見て取った。

 

 キラは迷う事なくフラガの援護に入る為に前進を開始。

 ただしストライクは後方に向かって無造作にビームライフルを3連射する。

 その高速射撃は3機のジン……トール機、アサギ機の経験不足を見抜き、近接攻撃で仕留めようと動いていたジン3機のコックピット、スラスター部をそれぞれぶち抜いて大破させた。

 

 これで二人は大丈夫だ。

 次はムウさんを……そう考えた所で左からぞっとする感覚。回避運動。

 ジンの追加装備持ちだ。ストライクの動きに慌てたようにレールガンを放って来ていた。

 

 デュエルが付けていたあの装備……アサルトシュラウドと言ったか? 等とキラは思い出しながら、その敵機からの連続射撃をぶれるように回避、相手の動きの一手先にビームを置いておく。

 武器を持った腕を飛ばしたが直撃は回避された。早い動きをする。危険な相手だ。

 

 ならばと、キラは自分の動きを修正にかかる。今度は4連射。1発2発1発の攻撃。

 追い込んで、崩してからの止めだ。

 ビームライフルの4連射に晒されたジン・アサルトシュラウドはまず回避コースを限定される。

 無理な姿勢制御に追い込まれ、最後には自分からビームの弾道に飛び込んでしまい、コックピットを撃ち抜かれて沈黙した。

 

 危険な数機の内の1機を無力化したキラは別の殺気を感知。後方からの無反動砲と機銃の射撃……それを回避する。

 左目は見えていない。だが、分かる。

 自分の感覚はそれを伝えて来てくれる。

 アークエンジェル近辺にいたジン強行偵察型と、左に回り込んで来ていたジンだ。

 

 攻撃を回避されて慌てたのか激しい回避運動に移るその2機を、ストライクはビームライフルとアグニで同時に撃ち抜いた。

 照準を使わない完全なマニュアル制御、それはキラの能力に従い、複数攻撃とまで言える射撃を可能にしていた。

 

 まとわりついていた別のジン要塞攻略装備は怯えたかのようにストライクから距離を取った。

 目標を変えアークエンジェルにミサイルを放つ動き。対艦攻撃を優先すると見える。

 キラはそれを当たり前のようにビームライフルで迎撃して弾薬の枯渇しつつあったアークエンジェルを防御。

 

 回避しながらの射撃を始めた敵機のコックピットへ、無造作にビームを送り込んでこれも撃破する。

 

 X105ストライク……キラはアークエンジェル近辺の脅威をほぼ完全に消し去り、今度こそフラガ機へ前進を開始した。

 

 キラはモニター越しに遠くを見る。

 

 フラガ機の周辺より更にその先。残る先遣隊艦艇モントゴメリの側を飛び回る6機のジン。

 残り少なくなったモビルアーマー隊を蹴散らし、艦艇に止めを刺そうとする彼らを妨害するために、ストライクはアグニを構える。

 センサー範囲外という現実、それはキラには関係がない。

 当たり前のように遠距離から牽制射撃を送り込み援護する。

 

 超高インパルスのビームはジンの対艦攻撃を邪魔したのみならず、回避の鈍かった2機を中破に追い込み、モビルアーマー隊を助けた。

 

 左の視界が無いはずなのに側面どころか後ろまで見える……いや感じる。この戦域全体の気配が何となくだが分かる。

 こんな感覚は《未来でも》無かった。

 

 これなら戦える。

 

 ザフトモビルスーツ部隊の動揺が伝わってきた。危険な動きをする者はむしろフラガの側に多い。

 ストライクの残りエネルギーは40%を切っている。

 

 大丈夫だ、やってみせる。変えて見せる。

 

 キラは油断なくフラガ機と先遣隊の援護に入った。

 

 

 






ちょっと半端な所で切ってますが、長すぎるのでここで次話へひっぱります。
次はさすがにもうちょい早く投稿したいなあ。
消えていく光は次で終りの予定です。

後、説明くさくなりすぎて本編内では入れられず、聞かれるであろう事を幾つかここで。

※SEED覚醒の条件
 追い詰められる事が覚醒の条件という設定を採用しました。
 逆行してきたキラ君は強すぎるので、死ぬかもなんて言う所が無かったのでここまで覚醒しなかった……と思ってくださいませ。

※二つですか?
 二つです。未来の分と今の分とです。感想で突っ込まれた時はドキンちゃんでした。

※無双じゃねーか!
 作者はそもそもキラ君大好きです、てゆーかいい加減ストレスマッターホルンでした。
 暴れさせました。
 どうせ、これからブルーコスモスやら何やらが待ってます、このくらいは強くないと世界をどうにかできません。


※ニュータ○プ?
 違うつもりです。
 多くの殺意に晒されたので、殺意に敏感になったと思ってください。(後で変えるかも?)
 今の所これが活きるのは戦闘限定です。
 殺人マシーンとか言わないでね。自分で書いててヤベエと思いました。

※ムウさん弱くない?
 キラを活躍させたいからちょっぴり今回は抑え目です。
 いや、でも理由は色々用意できたはずなので納得は行くはずかと。フラガ好きの人すいません。

 さて次を掻くぞ。
 

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