機動戦士ガンダムSEED~逆行のキラ~   作:試行錯誤

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ヘリオポリス脱出 中編2 出撃

 

「キラ! お前、どこ連れてかれんだよ!」

 

 走っていたキラを止めたのはトールだった。

 

 キラに張り付いている保安部の兵と共に、格納庫へ向かっていた所に声をかけたのである。

 居住区を駆け足で移動していればそれは目立つ。

 

 保安部の者達も学生相手ということで強引な事はしていないが、余裕はあまりなさそうだった。

 キラは困ったように笑いながらも、兵士達への怒りを隠さないトールにゆっくりと話を始める。

 

「トール、落ち着いて。そんな態度だとこの人達だって困っちゃうよ? 格納庫に行くんだ。モビルスーツに乗るんだよ」

 

「はあ? ……何でお前がそんな事をすんだよ!?」

 

「やられちゃったらどうする訳?」

 

「そうよ、何でキラが」

 

 口々に止めろと言ってくれる友人たちの心配は素直に嬉しかった。

 だが時間がない。

 キラは彼らにうまく答える事もできない。口下手な自分に苦笑する。

 

「……やるべきだから、かな?」

 

 うまく言えない、と笑うと、付き添いの者たちから急げと急かされた。

 

「皆、居住区は安全だから怖がらないでね! すぐ帰ってくるから!」

 

 サイ達は、笑顔で戦争に行くと言うキラを見て先程から感じていた違和感を強めた。

 確かにキラだが、別人のようだと思ってしまったのだ。

 友人や周りの者を気遣ったための態度と気付くには、少し、余裕がなかった。

 

 

 格納庫へ到着したキラはノーマルスーツの着用を許されずにストライクに乗り込んだ。

 さすがに整備班の中には、着せるべきでは? という声はある。

 しかし艦長命令とあれば反抗はできない。 

 それに、彼らにも仕事は山ほどあった。搬入した荷物の固定をしなければならかったのだ。

 戦闘中に崩れたりすれば危険だ、キラの事だけに構っている余裕は本気でなかった。

 

 加えてキラが、ストライクがこれから装備するオプションに、慣れた様子でエールパックを要求した事。

 さらにエールパックの説明を、不要と返事をした事もあって、疑いが強まる面もあった事が彼らからの擁護を控えめにさせてしまっていた。

 

 見知った顔が多い整備班員達からの知らない視線に、キラは強く戸惑った。

 その原因を、自分にあると気付いて渋い顔をする。

 

 失敗した。

 向こうは自分の事を知らないのだから、変な事をしていたら怪しまれるのは当然なのだ、と。

 

 自分のバカさ具合に呆れながら、ストライクのコックピットでエールパックの調整を施していた。

 

 最初から攻守のバランスがいいエールパックを装備していこうと思っていたが、独房に入れられていて調整する時間がなかったのは痛かった。

 

 エールパックはビームライフルとビームサーベル、対ビームシールドを使うベーシックな装備構成になっている。

 

 性能バランスの良さからキラもよく選択していたが、その分、調整にデリケートな物を要求する手間のかかるオプションだった。

 コロニーの中でビームライフルがずれるなど考えたくもないが、必要とあれば撃つとキラは割りきった。

 

 残るオプションはエネルギー消費の激しいランチャー、対多数に向かないソードの二つしかない。

 調整済みのランチャーの一部武装と、ソードを組み合わせるか? と考えたが、なら最初からエールの調整に、と判断したのだ。

 

 自分はできない事ばっかりだな、とキラは自嘲をする。

 

 出撃前の短い間、記憶にある数字を打ち込みつつ修正を加えていると、キラの元に整備班長のマードックがこっそり声をかけてきた。

 

「おい、ボウズ……これ、持っていけ……サバイバルパックだ。少しだが水とメシと、あと酸素マスクが入ってる。役に立つかわかんねーが。

 悪いがスーツは持ってこれなかった」

 

「……ありがとうございます。……でも、大丈夫なんですか? これ、怒られますよ」

 

「うるせーな。ガキが一丁前な口をきくんじゃねえ。……お前さん、ザフトなのか?」

 

 キラは笑う。はっきりしすぎですよ、と言いそうになった。

 知らないマードックだが、知っているマードックだった。ここはやっぱりアークエンジェルなんだと、そう感じた。

 今から思えば、この人の面倒見のよさに何度助けられたか。

 

「……違いますよ。ザフトじゃありません。疑われるような事をしちゃったのは……いえ。

 信用は行動で積み重ねますから、頑張ってきます。これ、ありがとうございました。ハッチ、閉めますよ」

 

「おう……あー、ボウズ、死ぬなよ。逃げ回ってりゃいいんだ」

 

「はい」

 

 ストライク発進の命令が格納庫に響き渡る。

 ブリッジからの情報がキラに伝わってきた、ナタルからの連絡だった。

 アークエンジェルはまだ動けないため、ストライクに敵機の迎撃をお願いするとの事だった。

 理由も聞かずにさらりと受け持ったキラだが、それも疑われる理由になっているようだ。

 仕方ないとはいえ、嫌われた物だ。

 

 それでも言っておく事がある。

 

「ナタ……バジルール少尉、お願いがあるんですが」

 

《何だ?》

 

「僕がアークエンジェルを防御します。ザフト機を近づけませんから、あまり、ヘリオポリスを傷つけないでくれませんか? せめて主砲とミサイルは止めて欲しいんです」

 

《……保証はできないが考慮はしよう。出撃急げ》

 

 ナタルは警戒心の出ている表情だったが、一応、話は聞いてくれた。キラは少し安堵する、話が分からない人ではないのだ。

 ストライクをカタパルトに乗せる。

 

 敵の戦力が判明した。

 大型ミサイルや重粒子砲を装備したジンが3機。

 そしてX303、イージス。

 

 記憶通りなら、親友のアスラン・ザラが乗っている機体だった。

 キラは目をつぶり深呼吸を一度する。自分は戦えるか? ……大丈夫だ、行ける。

 

「キラ・ヤマト、ストライク。行きます!」

 

 エールパックを装備したストライクはカタパルトから打ち出され、飛び上がった。そのままフェイズシフト装甲を起動。

 灰色だった機体外装色が白、そして青と少しの赤で染まった。

 

 キラはストライクをアークエンジェルから少し距離を置かせた位置へ滞空させる……ビームライフルを構えた。

 クルーゼの後退していった場所から4機のモビルスーツが侵入……接近してくるのが見える。

 

 ジンは落とす。

 そしてアスランとは話し合いで終わらせる気だった。

 いざとなれば引きずり出してでも、アークエンジェルに連れ帰るつもりだった。

 知らない人間と友を区別する、命の選別。キラが否定した男のやり方だ。

 

 傲慢だ。

 横暴にも程があるやり方だとの自覚はある。

 

 キラは自分をそう評した男の事を思い出した。

 それで構わない。守りたい物を守るために戦う、やるべきと思ったら撃つ。

 終わった後は、世界が判断を下すのを受け入れるだけだ。

 そんな風に自分の心を固くするキラだが、しかし。

 

「……アスランが前衛?」

 

 記憶と違う。

 キラの記憶ではイージスは後衛にいて、戦線に参加してくるのに時間があったのだが。

 厄介な。

 

 それでも順番は変わらない。まずは危険な装備を持つジンを狙う。

 敵が分散した。イージスはストライクへ、ジン3機は散開しつつアークエンジェルへ向かう機動を見せる。

 チャンスだ。

 

「そこだっ!」

 

 キラの射撃能力であれば、重装備で動きが鈍いジンはあっさりと捕捉できる。ビームライフルでの狙撃。トリガ一を引く。

 直撃コースだ、まずは一機……次の瞬間に赤い機体が射線に割って入ってきた。

 構えられた盾でビームが弾かれる。

 

「……えっ!?」

 

 ビームが完全に防御され弾けた。守られた後ろのジンは無事。

 数は減っていない。 

 理由は明白、何が起きたのかをキラの目ははっきり捉えていた。

 イージスが、X303が対ビームシールドでジンに向かうビームを防御してみせたのだ。

 

 速い動きだった。

 ストライクの構えるライフルの銃口を把握して、高速の機動で割って入る……前進する動きをしながら、散開していたジンを守ってみせるのだ。

 

 イージスの技量に戸惑いを覚えるキラにノイズ混じりの通信が届く。

 

《……マト! 聞こえるか! キラ・ヤマト! それに乗っているのはお前か! コーディネーターなら答えろ!

 お前は……核を撃ったナチュラルに何故、協力している!! 答えろ!》

 

 地獄の底から放たれるような親友の声が聞こえてきた。

 


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