さて、唐突だが自分は軍艦と言う物を、全くと言っていいほどに知らない。
ーそうね、本当に何も知らないのだもの。最初はどうなることかと思ったわ。
扶桑さんの身体だって言うのに迷惑掛けっぱなしだ。こんなんじゃ元に戻ったときに困るよね、ごめん。
ー私も今の状況を結構楽しんでいるし、そんなに気にしなくてもいいですよ。
そもそも戻る方法が分かってないじゃないですか、と割と深刻な事柄を、何故か楽しそうに笑いながら言う彼女の声を聞きながら。
実際に自分が知っている知識を持ち出してみる。
それは昔のアニメの影響なのだろう。
『軍艦』と聞くとイコールで『宇宙戦艦』つまり軍隊の持つ船は全てが戦艦。と言う間違った知識しか知らなかった自分は、この世界で初めて駆逐艦や巡洋艦といった艦種を知ることになった。
今日の自分の予定は授業。内容は艦載機の取り扱いについて、だった。
航空母艦。つまり艦載機のエキスパートとも言える空母の方々からの講義を受ける事となったのだった。
そして、今。目の前に二人の女性がいる。
一人は大和撫子と言うかなんと言うか、過去の女性の理想像をそのままに形作られたかの様な奥ゆかしさと、会話や指導の合間に冗談を挟んだりで、茶目っ気もあり人を飽きさせない話題の引き出しの多さ。更には人を立てる事が自然と出来ている。
とても話上手で、お淑やかな女性『鳳翔』
身体の小ささや、それに伴う艦載機の搭載数の少なさから他の機動艦隊の面々にはどうやっても戦力的には劣ってしまう彼女。
だがしかし、鳳翔無くして今の機動艦隊はありえないものだ。
鳳翔さんの戦闘や訓練。弓を持っている凛々しい姿に憧れ、そして近付こうとして彼女に教えを乞い、努力した結果が今の機動部隊の姿なのだから。
訓練し、鍛練を重ね主力になった今でもあの人の弓の腕前には遠く及ばない。いつまでもたっても敵わない憧れの人。
と、普段の姿を見ていると。物静かで落ち着き払った印象を持っていた加賀さん。彼女がこちらの質問に対して色々な事を熱心に語ってくれた。
ー普段は口数も多くはないですし、表情もあまり変わらないから方だから、とても新鮮だったわ。
うん、そうだね。空母の皆の話が聞きたいって言ったとき、少し喰い気味で了承してもらった時、二人してちょっと面食らったね。
ー普段は言い争いをしてる様に見える瑞鶴さんの事も褒めていたり。新しい一面が見れたわ。
瑞鶴さんの事を認めているから、だからこその普段の言動なんだろうねって、二人で笑いあったね。
ー今まではあの口喧嘩を見掛ける度にハラハラしていたのだけれど、これからは違う印象で見守れそうだわ。それと、あの時の加賀さんが貴方が一人で笑ってるのを見て首を傾げていたわよ。
ありゃ、失敗したなぁ。扶桑さんとの会話が楽しくてつい・・・。
ーあらまぁ。
くすくすと上機嫌な扶桑さんの声を聞きながら加賀さんとの話を思い出す。
それから、なんとなくの感覚だけであれだけの腕前まで研鑽された飛龍だったり、それと同じような感覚派な瑞鶴。ガチガチの理論派で応用が効きづらいけれど、着実に腕前の上がる蒼龍と翔鶴。
ちなみに、前者には赤城さん、後者には加賀さんの指導する事が多いらしい。なんとなく納得。
それらの知識を得ると感覚派と理論派で捉え方が違う事もあり、瑞鶴と加賀の2人が言い争いになるのも、まあ当然の話なのかもしれない。
まあ、そんな感じで色んな話が出たけれど、1番興味深かったのは。最初期の赤城さんに関しての話だった。戦闘と訓練、鳳翔さん以外には興味がなかったらしい赤城さんの話。
その頃の彼女は戦闘に趣き、ただひたすらに敵を命を奪い、自分の身体を全くと言っていいほど省みず。鎮守府にいる時は訓練に訓練を重ね、やがて倒れる様に眠る。
あの食事中の幸せそうな顔を知っている身としては想像も出来ない話だった。
そんな生活を続けていると、それを見かねた鳳翔さんが『人の身体を持って生まれたからには、少しでも人の楽しみを知ってほしい。』
と、いつもより激しい訓練の後、慰労会の名目の元。普段であれば単身訓練に戻ってしまう赤城さんを、二航戦の2人が引きずるように連れ出し。
その時用意された鳳翔さんの料理と、『あーん』攻撃によって、味に目覚め。完全に食の虜になったらしい。それまではレーションや栄養価だけで凝り固まった固形物だけを食べていた時と比べると、それからの彼女は良く笑う様になった、と。
慰労会から数週間後『味と一緒にいけない気持ちにも目覚めそうになったわ。』とは赤城さんの弁。あらー。
「今では立派な食道楽となってしまったけれど。」
長々とこちらの想像以上に色んな話をしてくれた後に、そう締め括った加賀さんの顔はとても優しい表情をしていた。
うん、結構な勢いで話がそれてしまった。
先程。鳳翔さんの事を話上手な女性、と前置きしたが。的確なタイミングの相槌や合いの手を入れ、聞き上手でもあり、どちらかと言うと受け手側に回ることが多い彼女は今。
「ふふっ、くっ。ふふふっ・・・!」
なんかめっちゃ笑っていた。
初めて見る、彼女のそんな姿に呆気に取られていると。今日初めて指導してくれる事となった、背の小さい娘さんがそれを嗜める。
「そんなに笑わんでもええやんかー。」
頬を可愛らしく膨らませ、私は今拗ねています。と前面に押し出した表情と。特徴的な関西弁で。
今日の自分の予定は、山城の姉ならいつか必ず必要になるだろう。と言われて艦載機の勉強をする事だった。そんな自分の前に現れたのが食堂で美味しい食事を作ってくれる、お馴染みの鳳翔さんと、小柄な鳳翔さんよりも更に頭1つ分小さい。敷地内で擦れ違ったりで、顔だけは知っている少女。名を龍驤と言う。
「ごめんなさい。だって、扶桑さんの言った言葉がおかしくって、ふふふっ。」
「確かにウチの身体は小さいけどなぁ・・・。」
良く率先して自分の面倒を見てくれる最上ちゃんが、重巡洋艦から航空巡洋艦と言う艦種に改造された、と言う話と。
頭の中に出来た。
小さい子=駆逐艦。
この方程式によって、再び過ちを繰り返してしまった訳だ。扶桑さん、物を知らなくて本当にごめんなさい。
「あのなぁ、キミぃ!確かにウチは独特なシルエットしとるけどなぁ。流石に航空駆逐艦はないやろ。」
「航空、駆逐・・・ッ!」
ー航空駆逐艦。ふふっ・・・!
さっきからずっと話し掛けてこないなー、と思っていたら鳳翔さんだけでなく、扶桑さんにも笑われてしまった。やっぱりこの間違いは相当酷かったらしい。
「鳳翔かてそんなに大きい方やないやん!」
「それはそうですけど、ふふっ。」
「あーもぉー、えー加減にせぇよ!!」
それにしても不思議な光景だ。
いつもは艦隊の、皆のお母さん的な立ち位置のいる鳳翔さんが。気安く、そして対等に楽しんで会話をしている。
ー艦船時代の元一航戦として長い付き合いみたいだし、ずっと苦楽を共にした戦友であり友人、みたいな感じかしら?
本当に楽しそうに話してるよね、あの2人。なんかいいな。あーゆう関係ってさ。
ーあら?貴方には私がいるでしょう?
そうだね、本当に感謝してるよ、扶桑さん。貴女がいなかったら自分はダメになってた。素直にそう思うよ、本当にありがとう。
ーっ・・・。
何気無く出た言葉。伝えた瞬間恥ずかしくなってくるけれど。この前の夜中、偶然聞かれたのではなく。改めてお礼を言う。
無言のまま何故か軽い頭痛になって返ってきた。
あれ、もしかして照れ隠しですか?扶桑さ痛い!すみません調子に乗りました、ごめんなさい!
「久々に弓で勝負しよか!表に出んかい!!」
「あらあら、久し振りに血が滾ってきました。いいでしょう、受けてたちます。」
突如訪れた頭痛に微笑ましい気持ちになりながら、あちらを見やると。なんか扶桑さんと話してる間にあっちはあっちで盛り上がっていた。
「鳳翔さんと龍譲の弓勝負と聞いて!」
「これは見逃せませんね・・・。」
「あー、なんか面白いことにやってる!ズルい!」
「私達も混ざりたいなぁ、ねっ飛龍?」
ワラワラと・・・。
「えっ、龍譲さんって弓使えたの!?」
「もう瑞鶴ったら。」
「ヒャッハー!やっちまえ龍譲ー!!」
「お姉、見て!なんか珍しい事やってるよ。」
何処からともなく。
「あら、本当に珍しい。」
「隼鷹、まだ勤務中でしょ!お酒は駄目よ!」
「・・・。」
「雲龍姉様?どこに行ったのかと思ったらここにおいでだったのですね。」
「雲龍姉に天城姉みっけ!」
集まってくる空母フレンズ。
あの、艦載機の授業は・・・?
ー今回は諦めた方がよさそうね。
こうして、今日は自分1人だけ艦載機のなんたるかを理解していないまま鳳翔と龍譲。2人の勝負を見守り、それが終わったと思ったら。今度は瑞鶴が加賀に突っ掛かって新たな勝負が始まる。騒ぎが起こる。
こうして、今日もあっという間に夜になる。
今日も鎮守府は平和です。
関西弁とか、にわかなので間違ってるかもしれません。